バプテスト信仰告白 第3章『神の聖定について』 第7項 予定論教理の慎重な取り扱いと実践的適用
THE BAPTIST CONFESSION OF FAITH
With Scripture Proofs Adopted by the Ministers and Messengers of the general assembly which met in London in 1689
Chapter 3: Of God's Decree
7._____ The doctrine of the high mystery of predestination is to be handled with special prudence and care, that men attending the will of God revealed in his Word, and yielding obedience thereunto, may, from the certainty of theireffectual vocation, be assured of their eternal election; so shall this doctrine afford matter of praise, reverence, and admiration of God, and of humility, diligence, and abundant consolation to all that sincerely obey the gospel. ( 1 Thessalonians 1:4, 5; 2 Peter 1:10; Ephesians 1:6; Romans 11:33; Romans 11:5, 6, 20; Luke 10:20 )
予定という高い奥義の教理は、特別な慎重さと注意深さをもって取り扱われるべきである。それは、人々が神の言葉において啓示された神の意志に注意を払い、それに従順に従うことによって、彼らの有効召命¹の確実性から、彼らの永遠の選びの確証を得ることができるためである。そうすることで、この教理は、神への賛美、崇敬、驚嘆の材料となり、また福音に真心から従うすべての者にとって謙遜、勤勉、豊かな慰めの材料となるであろう。
1. 緒論
本章の主題: 予定論教理の慎重な取り扱いと実践的適用について
歴史的背景: 1689年の第2ロンドン信仰告白は、バプテスト教会の神学的立場を明確化するために作成された。特に第3章は改革派神学の予定論を継承しつつ、その適切な理解と適用について詳述している。17世紀の宗教改革後期において、予定論を巡る論争が激化する中で、バランスの取れた視点を提示する必要があった。
現代的意義: 現代においても予定論は誤解や極端な解釈を招きやすい教理である。本項目は、この高度な神学的概念を信仰者の実践的生活にどのように適用すべきかを示す重要な指針となっている。
救いは神の計画の中にある
― 第2ロンドン信仰告白 第3章第7項の教えから ―
私たちの人生は、偶然や運命の流れによって左右されているのではありません。神は世界が創られる前から、ご自身の愛と知恵に基づいてすべてをご計画されていました。その中には、救いに至る道も含まれています。このような教えを、神学では「予定論」と呼びます。
予定論は、私たちの理性では到底すべてを理解し尽くせない深い真理です。聖書の中でも「奥義(おくぎ)」と呼ばれるような、神の秘密の計画の一部です。しかし、神はその奥義の一部を私たちに啓示し、信仰をもって受け取るようにと導いてくださっています。
この予定論について、17世紀の改革派バプテストたちは、「第2ロンドン信仰告白」という文書の中で丁寧に説明しました。とくに第3章第7項では、予定論をどのように扱うべきか、そしてそれがどのように私たちの生活に希望と力を与えるかが語られています。
彼らはまず、予定論が「高い奥義」であることを強調しています。つまり、これは人間の理性や経験では完全に理解することができない、神のご計画の深みを含む教えであるということです。そのため、思い上がったり、軽率に論じたりするのではなく、特別な慎重さと注意深さをもって受け止めるべきだと述べています。
では、なぜ神はこのような奥義を啓示してくださったのでしょうか?それは、私たちが聖書を通して神の御心を知り、それに従うことによって、私たち自身の救いに確信を持つことができるようになるためです。具体的には、「有効召命(しょうめい)」と呼ばれる神の働き、つまり聖霊によって私たちの心が開かれ、キリストに従いたいと願うようになる内的な導きが、自分のうちに確かにあることを知ったとき、私たちは「永遠の選び」、すなわち神が私たちをあらかじめ救いに選んでくださっていたという事実を信じることができるようになるのです。
こうした理解が与えられるとき、予定論は私たちに傲慢さを与えるのではなく、むしろ神への賛美と敬意、深い驚きと感謝を生み出します。そして、神の恵みによって救われたという確信は、謙遜と熱心さ、そして何よりも深い慰めを与えてくれるのです。とくに困難なとき、試練の中にあるとき、あるいは自分の弱さを痛感するときに、神の選びが変わらないものであることを知ることは、どれほどの慰めとなるでしょうか。
この教えは、聖書全体に基づいています。パウロは「神に愛されている兄弟たち、あなたがたが選ばれていることを私たちは知っています」と述べ、ペテロは「召命と選びを確かなものとしなさい」と勧めました。イエスご自身も、「父がわたしに与えてくださる者はみな、わたしのところに来ます」と語られました。これらの言葉は、神の選びと招きが確実であることを教えています。
さらに、ローマ人への手紙8章29〜30節にある「救いの黄金連鎖」は、神があらかじめ知っておられた者を選び、召し、義とし、そして最終的には栄光にまで導いてくださるという、救いのプロセスが途切れることなくつながっていることを示しています。これは、救いが私たちの努力や善行にかかっているのではなく、神の永遠の愛と計画に根ざしていることを意味します。
とはいえ、予定論は誤解されやすい教理でもあります。たとえば、「人はどう努力しても救われるかどうかは決まっているのだから、無意味ではないか」と考えてしまう人もいます。しかし実際には、この教えは私たちに責任と励ましを与えます。神の選びを確信する者は、福音を忠実に伝え、聖い生活を追い求め、神を深く愛し、隣人に仕える者へと変えられていきます。むしろ、予定論を信じるからこそ、私たちは伝道に対して希望と勇気を持つことができるのです。なぜなら、神が必ずご自身の民を救ってくださると信じているからです。
このように予定論は、現代社会においても大きな意味を持ちます。不安に満ちた社会、承認欲求に支配されたSNS時代、成果や能力で人間の価値が測られるような風潮の中で、私たちが本当に拠りどころとすべきなのは、神の変わらない愛と確かな選びであることをこの教理は教えてくれます。
神が私を選ばれた。たとえ人々が私を拒んでも、神は私を見捨てない。たとえ私が弱さを覚え、失敗しても、神の選びは取り消されることがない。こうした確信は、平安と自由、そして揺るがぬ希望を与えてくれます。
チャールズ・スポルジョンもこの確信の中で生きました。彼は「もし私が神を選んだのだとすれば、明日にはその選びを変えるかもしれない。しかし神が私を選ばれたのならば、神は私を決して見捨てない」と語っています。
予定論は、私たちにとって知的な議論のためのものではありません。それは神を賛美し、信頼し、日々の歩みにおいて希望を持ち続けるための「生きた教理」なのです。
2. 原文と日本語訳
原文(英語):
The doctrine of the high mystery of predestination is to be handled with special prudence and care, that men attending the will of God revealed in his Word, and yielding obedience thereunto, may, from the certainty of their effectual vocation, be assured of their eternal election; so shall this doctrine afford matter of praise, reverence, and admiration of God, and of humility, diligence, and abundant consolation to all that sincerely obey the gospel.
日本語訳:
予定という高い奥義の教理は、特別な慎重さと注意深さをもって取り扱われるべきである。それは、人々が神の言葉において啓示された神の意志に注意を払い、それに従順に従うことによって、彼らの有効召命¹の確実性から、彼らの永遠の選びの確証を得ることができるためである。そうすることで、この教理は、神への賛美、崇敬、驚嘆の材料となり、また福音に真心から従うすべての者にとって謙遜、勤勉、豊かな慰めの材料となるであろう。
キーワード解説:
高い奥義(high mystery): 人間の理性では完全に理解し得ない神の深い真理
有効召命(effectual vocation)¹: 聖霊の不可抗的な働きによる確実な回心への召し
永遠の選び(eternal election): 創世前からの神の主権的選択
3. 神学的背景
教理的分類: 改革派神学における救済論(Soteriology)の一部として、特に「神の主権」と「予定論」の範疇に属する
【図表1】教派別予定論の比較

4. 聖書的根拠
引用聖句一覧:
1テサロニケ1:4-5「神に愛されている兄弟たち、あなたがたが選ばれていることを私たちは知っています」
2ペテロ1:10「兄弟たち、ますます励んで、あなたがたの召命と選びを確実なものとしなさい」
エペソ1:6「それは、神がその愛する方によって私たちに与えてくださった恵みの栄光がほめたたえられるためです」
ローマ11:33「ああ、神の知恵と知識の富の深さよ。神の判断は何と知り尽くしがたく、その道は何と辿りがたいことでしょう」
ローマ11:5-6, 20「同じように今も、恵みの選びによって残された者がいます」
ルカ10:20「あなたがたの名が天に書き記されていることを喜びなさい」
補強的聖句:
ヨハネ6:37「父がわたしに与えてくださる者はみな、わたしのところに来ます。わたしのところに来る者を、わたしは決して外に追い出したりはしません」
ヨハネ6:44「わたしを遣わした父が引き寄せてくださらなければ、だれもわたしのところに来ることはできません」
ローマ8:29-30「神は、あらかじめ知っておられる人々を、御子のかたちと同じ姿にあらかじめ定められました。それは、御子が多くの兄弟たちの中で長子となられるためです。神は、あらかじめ定められた人々をお召しになり、お召しになった人々を義と認め、義と認められた人々に栄光をお与えになりました」
解説:
これらの聖句は予定論が単なる理論ではなく、信仰者の確信、喜び、謙遜、そして実践的生活と密接に関連していることを示している。特にローマ8:29-30の「⁵救済の黄金連鎖」は、神の予知から栄化までの確実な過程を示し、ヨハネ6章は⁶父なる神の引き寄せの働きを明示している。
5. 誤解されやすい点
【図表2】誤解と正しい理解の対比表

6. 現代的適用
【図表3】予定論の実践的適用のフロー

不安社会における平安: 現代社会は「不安の時代」と呼ばれる。経済不安、将来への恐れ、人間関係の複雑さが人々を苦しめている。予定論は、私たちの人生が偶然や運命に左右されるのではなく、愛なる神の確実な計画の中にあることを教える。この理解は、不確実な時代にあって揺るがない平安を提供する。
承認欲求からの解放: SNS時代の現代人は常に他者からの承認を求め、「いいね」の数や他者との比較に一喜一憂している。しかし、予定論は私たちの価値が神の永遠の愛に基づくことを示す。私たちは人間の評価ではなく、神の選びによって愛された存在である。
パフォーマンス主義からの自由: 現代社会は成果主義、能力主義が支配的で、人々は常に「何かを達成しなければならない」というプレッシャーに苦しんでいる。予定論は、救いが私たちの業績や能力ではなく、神の恵みのみに基づくことを明確にし、この重荷から解放してくれる。
霊的慰め:
救いが神の不変の愛に基づくことによる永続的な平安
困難や試練の中での希望の確信
自己の弱さや失敗にもかかわらず保持される救いの確証
他者との比較や競争からの解放
実生活への関係:
伝道への動機:神が選ばれた人々への福音宣教の責任
聖化への励み:選びの証拠としての聖い生活への追求
他者への愛:神の恵みを受けた者としての謙遜な奉仕
祈りの生活:神の主権への信頼に基づく祈り
7. 実践的事例と証し
歴史的証言
チャールズ・スポルジョン(1834-1892)の証し: 「バプテストの王子」と呼ばれたスポルジョンは、若い頃に救いの確証について深く悩んだ。しかし、神の選びの教理を理解したとき、彼はこう述べた:「私が神を選んだのではない。神が私を選ばれたのだ。もし私が神を選んだとすれば、私は明日には神を捨てるかもしれない。しかし、神が私を選ばれたのであれば、神は決して私を捨てることはない。」この確信は、彼の38年間の牧会と宣教への情熱の源泉となった。
現代の牧会的事例
重篤な病気に直面した信徒の証し: ある教会の長老(60代男性)が末期がんの診断を受けたとき、彼は深い絶望に陥った。しかし、牧師との対話の中で予定論の慰めを再発見した。「私の人生がいつ終わるかは神の御手の中にある。私の救いは私の行いや感情に左右されない。神が永遠の昔から私を愛し、選んでくださったからだ。」この確信により、彼は残された時間を感謝と奉仕に費やし、多くの人々の信仰を励ました。
就職活動で挫折した大学生の体験: 新卒採用で50社以上に落ち続けた大学生(22歳女性)は、自分の価値を見失い、うつ状態に陥った。しかし、教会の学生会で予定論を学ぶ中で転機が訪れた。「私の価値は就職先や社会的評価で決まるのではない。神が私を愛し、選んでくださったという事実が変わることはない。」この理解により、彼女は平安を取り戻し、最終的に自分に合った職場を見つけることができた。
SNSでの誹謗中傷に苦しんだ青年の回復: クリスチャンとして発信していた青年(25歳男性)がSNSで激しい攻撃を受け、深く傷ついた。しかし、予定論の理解が彼を支えた。「人々がどう思おうと、神が私を愛してくださっているという事実は変わらない。私の承認は神から来る。」この確信により、彼は批判を恐れずに証しを続けることができるようになった。
宣教現場での体験
困難な宣教地での励まし: アジアの農村部で働く宣教師夫妻は、3年間の働きで一人の回心者も見ることができず、挫折感に苛まれていた。しかし、予定論の理解が彼らを支えた。「神が選ばれた人々は必ず救われる。私たちの役割は忠実に種を蒔くことだ。収穫の時期は神が決められる。」この信念により、彼らは忍耐強く働き続け、4年目に大きなリバイバルを見ることができた。
牧会者の実践的洞察
選びの確証を求める信徒への対応: ある牧師は、救いの確証について悩む青年にこうアドバイスした:「あなたが救いを求めていること自体が、神があなたを選んでおられる証拠です。石の心の人は救いを求めません。神があなたの心を肉の心に変えてくださったから、あなたは神を慕い求めているのです。この求める心を大切にし、御言葉に従って歩み続けなさい。」この青年は後に献身し、現在は牧師として働いている。
8. 小結とポイント
ポイント1: 予定論は慎重に取り扱うべき高い奥義であり、思弁的議論よりも実践的適用に焦点を当てるべきである
ポイント2: 有効召命による回心と従順な生活を通して、信仰者は選びの確証を得ることができる
ポイント3: 正しく理解された予定論は、神への賛美、謙遜、慰め、そして勤勉な信仰生活を促進する
ポイント4: 現代の不安文化や承認欲求社会において、予定論は真の平安と自己価値の源泉を提供する
9. 補足
歴史人物:
ジョン・カルヴァン(1509-1564): 予定論の体系的発展者
ジェームズ・アルミニウス(1560-1609): カルヴァン主義予定論への反対者
ウィリアム・ケアリー(1761-1834): 予定論を信じつつ宣教に献身したバプテスト宣教師
10. 黙想と応答
問いかけ:
私は自分の救いについてどのような確証を持っているか?
予定論の理解は私の信仰生活にどのような実践的影響を与えているか?
神の主権的選びへの感謝は、私の日常生活での謙遜と奉仕にどう表れているか?
現代社会の不安や承認欲求から、神の選びによる平安をどのように得ているか?
伝道や社会奉仕への動機は、予定論の理解とどのように調和しているか?
祈りのテーマ:
神の主権的恵みへの感謝と賛美
選びの確証のための霊的成長
予定論の正しい理解と適用のための知恵
現代社会の不安からの解放と真の平安
神の栄光のための謙遜な奉仕の心
福音宣教への情熱と愛
11. 参考文献
古典的文献
Calvin, John. Institutes of the Christian Religion, Book 3, Chapters 21–24. Translated by Ford Lewis Battles. Louisville: Westminster John Knox Press, 1960.
Westminster Confession of Faith, Chapter 3. "Of God's Eternal Decree."
The Second London Baptist Confession of Faith (1689), Chapter 3. "Of God's Decree."
組織神学
Berkhof, Louis. Systematic Theology. Grand Rapids: Eerdmans, 1996.
Grudem, Wayne. Systematic Theology: An Introduction to Biblical Doctrine. Grand Rapids: Zondervan, 1994.
Hodge, Charles. Systematic Theology. Vol. 2. Grand Rapids: Eerdmans, 1997.
予定論専門書
Helm, Paul. The Providence of God: Contours of Christian Theology. Downers Grove: InterVarsity Press, 1994.
Sproul, R.C. Chosen by God. Wheaton: Tyndale House, 1986.
Warfield, Benjamin Breckinridge. The Plan of Salvation. Grand Rapids: Eerdmans, 1973.
バプテスト神学
Waldron, Samuel E. A Modern Exposition of the 1689 Baptist Confession of Faith. Webster: Evangelical Press, 1989.
White, James R. The Potter's Freedom: A Defense of the Reformation and the Rebuttal of Norman Geisler's Chosen But Free. Amityville: Calvary Press, 2000.
現代的適用
Packer, J.I. Evangelism and the Sovereignty of God. Downers Grove: InterVarsity Press, 2012.
Peterson, Robert A. Election and Free Will: God's Gracious Choice and Our Responsibility. Phillipsburg: P&R Publishing, 2007.
脚注
¹ 有効召命(effectual calling): 一般的召命(福音の外的宣教)に対して、聖霊が選ばれた者の心に直接働きかけて確実に応答させる内的な召し。改革派神学では、この召命は不可抗的(irresistible)であり、必ず救いに導くとされる。
² 二重予定論(double predestination): 神が永遠の昔から、ある人々を栄光のために選び(選択、election)、他の人々を正当な刑罰のために定められた(遺棄、reprobation)とする教理。カルヴァンとその後継者たちが主張。
³ 単重予定論(single predestination): 選びのみを神の積極的な行為とし、棄却については神の消極的許可として理解する立場。ルター派やアウグスブルク信仰告白で見られる。
⁴ 予知説(prescience theory): 神が人間の将来の信仰を予知して、それに基づいて選びを決定するという理論。アルミニウス派やウェスレアン神学で採用される。改革派はこれを「条件的選び」として退ける。
⁵ 救済の黄金連鎖(golden chain of salvation): ローマ8:29-30に描かれた、神の永遠の予知から最終的な栄化までの途切れることのない救済過程。各段階は神の主権的な働きによって確実に実現される。

⁶父なる神の引き寄せの働き:霊的に死んでいた人間の心に、神ご自身が愛と力をもって働きかけ、御子イエス・キリストへの信仰へと導く、主権的で確実な救いの招き
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