学園潜入捜査編|エピソード蔦(Tsuta) Vol.2 ~危険な匂い~
学園内の汚職事件—
その真相を追う中で、蔦はいくつもの違和感に辿り着いていた。
支出報告書、外部業者の記録、
関係者リストの一部だけ不自然に欠けている箇所。
一つひとつは小さい。
だが、それらを並べたとき偶然では済まされない実態が浮かび上がる。
不自然だった。
ここまで深層に繋がるのは出来すぎている。
まるで誰かが、これに辿り着くように並べたみたいに。

薄暗い室内—
パソコンの光だけが、静かに顔を照らしている。
蔦は理事長室に忍び込んでいた。
本来なら、生徒どころか教員でさえ簡単には立ち入れない場所だ。
ここまで辿りついた価値はあった。
蔦は表示された画面を見つめたままキーボード上の指を止めた。
そこに並んでいたのは学園と複数の外部団体を結ぶ記録。
そして、その中に紛れるように置かれた見覚えのある名前。
velvet。
メディアの人間なら誰もが一度は耳にする名だ。
だが、それは記者になって一度も関わることのなかった縁遠い世界の話だった。
裏社会、いろいろな噂、証拠の掴めない黒い影。
そんなものが、まさかこの学園と繋がっているなんて…
蔦は全く想定していなかった。
しばらく思考が停止しかけた…
これはもう、記事にできる話ではない。
汚職事件の真相を追っていたはずが—
いつのまにか、とんでもない所へ踏み込んでいた。
ここから先は明らかに普通ではない。
蔦は小さく息を吐いた。
ここまでだ…
少なくとも一人で追うには危険すぎる。
それでも妙だった。
velvetに辿り着くまでの流れが出来すぎている。
偶然の積み重ねにしてはあまりにも簡単に…
まるで誰かが自分に見つけさせた?ように…
翌日—
蔦は熟考していた。
「やっぱり気持ち悪いな…」
この件からは手を引こうか…

同じ日の午後—
蔦の目の前に見覚えのない女が現れた。
明らかに学園の人間ではない。
女は静かな目で蔦を見ていた。
「……誰?」
蔦がそう問うと、女は短く息を吐いた。
「名前なんて、どうでもいいわ」
その声に感情はほとんどなかった。
女の纏う空気だけで十分だった。
それ以上は確かめる必要もない。

そう。
蔦の前に現れたのはvelvet幹部の一人、彩だった。
彩は蔦に鋭い視線を向けて、はっきりと言った。
「これ以上は踏み込まない方がいい」
蔦は目を細めた。
「…それは忠告?」
「そう受け取ってもらって構わない」
「理由は?」
一拍の沈黙。
彩はわずかに視線を落とし、すぐに蔦を見返した。
「あなたがこれ以上知る必要はない」
蔦はその言葉に作り笑いすら返さなかった。
この女が、ただの脅しでここに来ていないことくらい分かる。
つまり自分が感じた危機感は間違っていなかった。
蔦は、ゆっくりと
「…そう」
それだけ呟いた。
彩は、それ以上何も言わなかった。
忠告—
それ以上でも、それ以下でもない。
「もうこの件は引くべきだ」
蔦は自分に言い聞かせるように何度も繰り返した。
だが、その忠告だけでは拭えない違和感が蔦の胸の奥に残り続けていた。
つづく—
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