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素浪人わたり放浪奇(四) 雨葉村の妖怪寺〜役者絵と、水と油の恋心【一の巻】|リライト版

一の巻 化け猫との再会

 俺は素浪人のわたり。二ヶ月ほど前に白鷺森にやってきた。今では刀を筆に持ち替え、旅をしながら物書きでなんとか飯を食っている。
 これまでさまざまな森を旅してきた。矢福やふく森から始まって、印ノ森、はたまたからす森と、この流浪の旅も十年ほどになるだろうか。

 白鷺森に来てから調子がいい。今日はお天道様も機嫌がいいじゃないか。俺はご機嫌で朝飯を食う前に神社に来ていた。早朝の神社は静かで空気が一際澄んでいる。
 賽銭を投げ込むと、お社に向かって手を合わせた。
「俺は元気でやってる。物書きの仕事もまあまあ順調で、また妖怪の記事を書いてくれと頼まれたよ」
返事の返ってこないお社の鏡には、俺の姿が映っているだけだった。


 苔むす境内の石畳を歩きながら、仕事を引き受けるかどうか考えていた。
「いやぁ、また妖怪の記事かよ。どうしたもんだか」
思わず笑みが溢れちまった。
 フォロー外しの妖怪座敷わらしの記事の続編『からす森のくれくれ妖怪』を瓦版に掲載したんだが、これがまたまた大盛況。版元はぜひ次回作も書いて欲しいと連絡をよこしてきたのだ。
「ーーどうするもこうするも書いてよ」
急に娘の声がして、振り返ると浅黄色の着物の若い娘が立っていた。可愛い娘じゃねぇか。俺はついそう思っちまった。
「お前は誰だ?」
慌てて口に手拭いを巻こうとした、そのとき、娘はニコッと笑って赤い鳥居をくぐった。すると若い娘は白い猫に変身した。
「お前、あのときの猫か?鴉森の出口で会った」
「それが初めてじゃないわ。忘れちゃったの?あたしのこと」
「猫の知り合いなんていねぇよ」
突っぱねると白い猫は続けた。
「寺子屋のあった紫陽花寺よ。境内にはちょうど紫陽花が綺麗に咲いていた頃だったわ。あのときは相方と一緒だったわよね」
俺は記憶をたぐり寄せた。ーーあの先生に飼われていた猫か。
 エレキテルで動く南蛮渡来の細工箱を習った、紫陽花寺の寺子屋の。
「あんたの相方、私にこっそり煮干しをくれてたの。いい人だった」
あいつらしい。俺は思わず顔を緩ませた。猫はそのことに気がついて、ぐっと擦り寄ってきた。
「あのときの話を書いてよ。絶対面白いと思うわ」
「いやさ、でもな……..」
まんざらでもない顔で腕組みした。
「じゃないと……噛み付くわよ!」
鋭い爪を立てて俺に噛みつこうと両手を上げる。背丈は俺より優に高い。白い猫は化け猫に変身した。
「うああ。待ってくれよ。助けてやったのに…….」
身構えた後、肘に手をつくと大きくため息をついた。
「ーー仕方ねぇ。一丁書いてやるか」
観念して神社を後にした。後ろには猫に戻った化け猫が尻尾を高く上げてついてきている。

「猫は恩返ししないのかよ……..」
俺は小さな声でつぶやいた。





雨葉村の妖怪寺〜役者絵と、水と油の恋心【二の巻】へつづく


 昨年、創作大賞エンタメ原作部門に応募した作品をリライトしてお届けします。少年漫画や少女漫画の原作を想定して書いた作品です。
 別アカウントにありましたが、整理するためにこちらに引っ越しすることにしました。大人になって初めて書いた小説ですが、読んでいただければ幸いです。


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