素浪人わたり放浪奇(五) 雨葉村の妖怪寺〜役者絵と、水と油の恋心【二の巻】|リライト版
二の巻 相方との出会い
宿の部屋で背負い籠から懐中筆と紙を取った。
化け猫は小娘の姿で俺の布団でぐっすり寝てやがる。「あぁ、眠くなっちゃった。お天道様が出てる間は眠いのよね」とか言ってよ。
犬猫を部屋へ入れるのは勘弁してくれと宿の番頭から言われ、人間に化けてから部屋についてきたのだ。
すやすやと眠る化け猫の横で、梟森の雨葉村で出会した妖怪の話を書き始めた。
「早く書き上げて、市場に行かねぇと…」
紆余曲折あって刀を筆に持ち替えたが、まだ刀で生計を立てていたころの話だ。相方と一緒に死闘を繰り広げた妖怪の話さ。
梟森では村や町が現れては消えていき、今では文仁町、矢福村、雨葉村、花手村が残っている。
三吉とは矢福森の矢福村の宿で出会った。
「あれはもう五年前の話になるのか」
当時俺は数えで二十二、三吉は俺より二歳年下だった。背は俺より低く、くしゃくしゃの顔で笑う愛想のいいやつだった。
俺たちは似た境遇で、出会ってすぐに意気投合し、お互いの付き人になるために「お主を見守っている」と書いた約束手形の文を交わした。三吉も俺と同じで親に勘当されて放浪の身だったが、もとは武家の出身だとわかってお互い心を許すようになったのだ。
夕飯が済んで宿の大きな居間で、囲炉裏を囲んで酒を交わしていた。囲炉裏の炭がパチパチと音を立てて燃えている。囲炉裏の火でキセルに火をつけ、三吉にキセルを勧めるといらないと断られた。三吉はどうもキセルは好かないらしかった。
三吉が酒を飲みながら、
「なぁ、わたり。矢福村の住人は新しくできた雨葉村にずいぶん移ってるって話だ。俺たちも雨葉村に行かないか」
驚いたが、この村にもまぁまぁ長居した。そろそろ新しい場所に移るのも悪くない。持っていた盃の酒を少し口につけて頷いた。
「そうだな。これからは雨葉村のほうが商機がありそうだ。雨葉村は若い娘に人気らしいから、べっぴんも多そうだしな」
三吉はそれを聞いて可笑しそうに笑った。
「女の前で口の手拭いも外す度胸がないくせによく言うよ。そうとなったら話は早い。今夜荷物を畳んで、明日にでも雨葉村に向かおう!」
「えらい話が早いな。三吉よ」
囲炉裏の火に照らされて、三吉は子供のように目を輝かせながら続けた。
「だってよ、雨葉村には遊戯場があって、いろんな遊びができるっていうじゃないか」
「お前、それが目当てかよ。ちっ。しょうがねぇなぁ」
三吉の顔を見て、また盃を口につけた。なんだかんだ言って新しい村が見れるのは楽しみだ。
キセルの煙は細くたなびいて囲炉裏の火棚にまとわりついていた。
昨年、創作大賞エンタメ原作部門に応募した作品をリライトしてお届けします。
別アカウントにありましたが、整理するためにこちらに引っ越しすることにしました。
名称を一部変更しました(2026年7月9日)。
