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【洋楽解説×平和学 No.020】That's the Way of the World 〜 Earth, Wind & Fireが示した、「黄金の心」を守るという抵抗

🎸楽曲紹介

Title: That's the Way of the World
Artist: Earth, Wind & Fire
Issued on: 1975年6月(シングル)
Album: That's the Way of the World(1975年)
Chart: 米ビルボード Hot Soul Singles 5位/Hot 100 12位


 この曲は、これまで紹介してきたどの曲とも全く異なります。怒りがない。告発がない。絶望もない。あるのは、圧倒的な「愛」と「希望」と「美しさ」です。

 しかしだからこそ、この曲は最もラディカルな平和への意志を持っているかもしれません。

 モーリス・ホワイトが作り上げたEarth, Wind & Fireの音楽は、世界が私たちの心を冷やし、硬くしようとする脅威から私たちを守ることを意図していました。「黄金の心を持って生まれた子どもが、世界のあり方によって心を冷やされていく」——この一節に、平和学者として私は深く共鳴します。なぜなら、これは平和研究の根本命題そのものだからです。


1. Background:1975年のアメリカ——傷の後の「一瞬の解放」

 楽観主義は、1970年代を語る上で最初に思い浮かぶ言葉ではありません。しかしこの時代の中頃を考えてみてください。ベトナムとウォーターゲートという嵐は過ぎ去り、法的な人種差別の最後の残滓も一掃され、混乱からの短い解放の瞬間がありました。「That's the Way of the World」というアルバムと曲は、その浮遊感を呼び起こし、それを表現する言葉を与えてくれました。

・ベトナム戦争終結の年:1975年4月、サイゴン陥落。アメリカが10年以上引きずってきた戦争がついに終わりを迎えました。このアルバムがリリースされたのはその直後——「ようやく終わった」という集団的な安堵と疲弊の中に、この曲は生まれました。

・ウォーターゲートの傷:公民権運動後のアメリカは、ニクソン政権による反体制活動家への弾圧、都市部へのヘロイン流入、そして人種統合への組織的な白人の抵抗によって定義されていました。そんな時代に、モーリス・ホワイトは「頭を空に向けて保ち続けるための倫理的な黒人音楽を前進させる」という使命を持ってEWFを率いていたといわれています。

・黒人文化の爆発的隆盛:スティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、パーラメント・ファンカデリック、スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン——この時代は、アフリカ系アメリカ人の音楽が主流に大きく浸透した、驚異的な時代でした。EWFはその中心に立ち、怒りではなく「愛と希望」で世界を変えようとしました。

・モーリス・ホワイトという人物:「ジャンルを超えた普遍的な愛と調和のメッセージを、力ずくで聴衆に押し付けることなく伝えたかった」——モーリス・ホワイト自身の言葉だといわれています。メンフィスの貧しい家庭に生まれ、ゴスペルとジャズに育ち、チェス・レコードでセッション・ドラマーを務めた彼は、「音楽で世界を変える」という信念を生涯持ち続けました。


2. Lyrics:「黄金の心」という平和学の命題

 この曲の歌詞は短く、シンプルです。しかし、その一行一行が深いんです。

冒頭——愛の炎

「心の炎が愛の欲望を生み出す("Hearts afire creates love desire")/あなたをより高く、あなたが属する世界へと連れていく("Take you high and higher to the world you belong")/心の炎が愛の欲望を生み出す("Hearts afire creates love desire")/より高く、玉座へのあなたの場所へ("High and higher to your place on the throne")」

「心の炎(Hearts afire)」——これはEWFの哲学の核心です。人間の中には本来、愛と情熱の炎が宿っている。それこそが人間を「あるべき場所」へと連れていく原動力だ、と歌い始めます。

中間部——内なる平和の在り処

「平和な心は見つかる("You will find peace of mind")/心と魂の奥深くを見れば("If you look way down in your heart and soul")/世界が冷たく見えても躊躇うな("Don't hesitate 'cause the world seems cold")/若い心を保て("Stay young at heart")/なぜなら心は決して老いないから("'Cause you're never, never old at heart")」

「世界が冷たく見えても」——これは単なる励ましではありません。世界の冷たさを認めた上で、それでも内なる温かさを手放すなという、静かな抵抗宣言です。

そして核心の一節——

「子どもは黄金の心を持って生まれてくる/世界のあり方が、その心を冷やす("Child is born with a heart of gold / Way of the world makes his heart so cold")」

 この二行が、この曲のすべてです。これは平和学の根本命題です——人間は本来善であり、環境が人を変えるのではないか(性善説)。この問いは、ホッブズとルソーの時代から続く人類の議論の核心であり、今も現場で問われ続けています。

締め——花を植えよ

「あなたの花を植えれば、真珠が育つ("Plant your flower, and you grow a pearl")」——暴力と憎しみの世界に、それでも愛の種を植える。それが、この曲が最終的に語りかけることです。


3. Music:「愛による抵抗」の音楽的形態

・ホーンセクションという「祝祭」:Chicagoのホーンが「怒りの武器」なら、EWFのホーンは「祝祭の鐘」です。同じ管楽器でも、その響きは全く異なる感情を喚起します。レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーは、モーリス・ホワイト死去後にこう述べたそうです——「私の中学では、白人の子どもたちはレッド・ツェッペリンを、黒人の子どもたちはP-ファンクを、変わった子どもたちはボウイを愛していた。でもEarth, Wind & Fireは全員が愛していた」。あらゆる人種、あらゆる文化を超えた普遍性——それはこの音楽の「愛」が本物だったからです。

・ファルセットと重厚なベース:フィリップ・ベイリーの天に届くようなファルセットと、ヴァーダイン・ホワイトの地を這うようなベース——この天と地の対話が、この曲に宇宙的なスケールを与えています。「地に足をつけながら、天を目指す」——それがEWFの哲学であり、音楽そのものでもあります。

・ゴスペル・ソウル・ジャズ・ファンクの融合:EWFはベトナム戦争時代の反動的な楽観主義、黒人芸術運動の影響を受けたアフロセントリズム、そしてホーリネス・チャーチの要素を組み合わせた、独自のサウンドを生み出しました。この複合性こそが、この曲に「怒りを超えた深み」を与えています。


4. Lessons:「黄金の心を冷やすもの」との戦い

平和学の根本命題——人間はなぜ暴力的になるのか

 「子どもは黄金の心を持って生まれてくる。世界のあり方が、その心を冷やす」——この一節は、平和学・紛争解決学の根本にある問いを、たった二行で言い切っています。

 人間は本来攻撃的なのか(ホッブズ的世界観)、それとも環境によって暴力的になるのか(ルソー的世界観)——この問いに対して、EWFは明確に後者の立場を取ります。生まれてくる子どもに罪はない。その心を冷やすのは「世界のあり方(way of the world)」——つまり社会構造、貧困、差別、戦争、暴力の連鎖です。

 このシリーズで取り上げてきた曲を振り返ると——Dialogueの「無関心な若者」も、19の「戦場に送られた19歳」も、A Dios le pidoの「子どもたちの子どもたちのために」という祈りも——すべてこの命題に帰着します。誰も最初から「戦争をしたい人間」として生まれてくるわけではない。

「怒りではなく愛で戦う」という戦略

 このシリーズの他の曲は、様々な形で「怒り」を表現してきました。Dialogueの怒り、19の告発、A Dios le pidoの懇願、Civil Warの反骨。しかしEWFは全く異なるアプローチを選びました——愛と美しさで、世界の冷たさに抵抗するという戦略です。

 モーリス・ホワイトは、世界が私たちの心を冷やし硬くしようとする脅威から守るための音楽を作りました。これは逃避ではありません。「黄金の心を守り続けること」それ自体が、暴力と憎しみに満ちた世界への最も根本的な抵抗だという確信があったのです。

 非暴力平和主義の文脈で言えば、これはガンジーやキング牧師が実践した「愛による変革」の音楽版です。怒りで怒りに応じるのではなく、愛で世界を変える——その「実直な楽観主義」こそが、最もラジカルな平和への意志かもしれません。

2026年——黄金の心はまだそこにあるか

 2026年の今、世界を見渡せば、至る所で「黄金の心が冷やされていく」現場があります。ガザで爆撃の中を生きる子どもたち。ウクライナで戦場に送られる若者たち。貧困と差別の中で希望を失っていく人々——。

 しかしEWFのこの曲が教えてくれるのは、「それでも黄金の心は最初からそこにある」ということです。冷やされても、傷つけられても、その核心は消えない。「花を植えれば真珠が育つ」——どんな土壌にも、愛の種を植えることはできるのです。


5. In sum:「怒らない」曲が最も深く平和を語る

 "That's the Way of the World"は、これまで紹介した中で唯一「怒らない」曲です。しかしだからこそ、最も深いところで平和を語っています。

Dialogueが「対話せよ」と叫び、19が「若者を戦場に送るな」と告発し、A Dios le pidoが「神よ守りたまえ」と懇願し、Civil Warが「富める者のための戦争はいらない」と怒鳴りつけた——それらすべての根底にある問いが、この二行に凝縮されています。

「Child is born with a heart of gold / Way of the world makes his heart so cold」
「子どもは黄金の心を持って生まれてくる。世界のあり方が、その心を冷やす」

 平和学者として私が研究を続ける理由の一つは、この「冷やすもの」を取り除くことにあります。そして音楽が持つ力——美しさと愛と希望を通じて人の心に直接語りかける力——は、その「冷やすもの」に対抗できる数少ない武器の一つです。EWFはそれを、このような心に染みる「音楽」で、半世紀前から私たちに伝えていたのです。


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