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【洋楽解説×平和学 No.015】Sweet Sweet Smile 〜 Carpentersがカントリーの風に乗せた、小さな「積極的平和」


🎸楽曲紹介

Title: Sweet Sweet Smile
Artist: Carpenters
Issued in: 1978年1月(シングル)
Album: Passage(1977年)
Chart: 全米44位/カントリーチャート8位/AC(アダルト・コンテンポラリー)チャート7位
作詞・作曲:Juice Newton / Otha Young


 Carpenters特集、4日目——最終日です。

 「Bless the Beasts and the Children」で声なき者への祈りを聴き、「Sing」で歌うことそのものの力を考え、「Calling Occupants」で宇宙規模の対話に思いを馳せました。この3日間、カーペンターズの音楽に宿る「平和への射程」を追いかけてきました。

 最終日に選んだのは、カーペンターズのキャリアで唯一カントリーチャートに入った曲、「Sweet Sweet Smile」です。後にカントリーシンガーとして成功するジュース・ニュートンとオサ・ヤングが書いたこの曲を、カレンがデモテープで聴いて「これだ」と直感しました。1970年代前半の黄金期を過ぎ、ディスコとパンクの波に押されていた時期に、実験的なアルバム「Passage」(1977年)からシングルカットされた一曲です。ポップチャートでは44位と控えめでしたが、カントリーチャートでは8位。LAのポップス・デュオがナッシュビルに受け入れられた、唯一の瞬間でした。

 「甘い笑顔」——この言葉の中に、「日常の中の平和」が宿っています。それは、平和学でいうところの「個人的・積極的平和」です。
 では、解説していきましょう。


1. Background:1978年——「人権」と「対話」が外交の言葉になった時代

 1977年1月、ジミー・カーターがアメリカ大統領に就任しました。就任演説で彼はこう宣言しています。「私たちは自由であるがゆえに、他の場所での自由の運命に無関心ではいられない」。ベトナム戦争とウォーターゲート事件で傷ついたアメリカが、「人権」を外交の中心に据えようとした——それは、冷戦の論理とは異なる、新しい平和の模索でした。

 カーターは就任直後から、チリのピノチェト、アルゼンチンのビデラ、ブラジルのガイゼルといった独裁政権への軍事援助を削減・停止しました。「共産主義への過剰な恐怖」が同盟国の人権侵害を黙認してきた従来の政策からの、明確な転換です。(チリのピノチェト、および人権に関しては、El Derecho de Vivir en Paz(Victor Jara)も合わせてお読みください)

 そして1977年9月、カーターはパナマのオマル・トリホスとパナマ運河条約に署名しました。運河の管理権を、米国からパナマに、段階的に返還するというものです。カーター自身が「ラテンアメリカにおけるアメリカ植民地主義の最後の残滓の除去」と位置づけた条約です。中米・ラテンアメリカにとって、これは決定的な出来事でした。

パナマ運河条約と中米: 1903年以来アメリカが管理してきた運河地帯の返還は、ラテンアメリカ諸国にとって長年の悲願でした。条約締結の翌年1978年に国内の強い反対を押し切って上院で批准したのです。カーターにとっては政治的に大きな賭けでしたが、中米との関係を根本から変える一歩でした。

キャンプ・デービッドへの序曲: 1977年11月、エジプトのサダト大統領がイスラエルを訪問し、クネセト(国会)で演説するという前代未聞の行動に出ました。翌1978年9月のキャンプ・デービッド合意につながるこの動きは、「対話」が不可能と思われていた関係を動かした瞬間でした。

国連軍縮特別総会: 1978年5月〜6月、国連で初の軍縮特別総会が開催されました。包括的な軍縮戦略について国際的な合意が成立した、画期的な会議です。ベトナム戦争後、反核・平和運動が新たな形で再燃していた時期でもありました。

 「Sweet Sweet Smile」がシングルとしてリリースされた1978年は、そういう時代でした。力の論理ではなく「人権」と「対話」で世界を動かそうとする試みが、少なくとも外交の表舞台では進行していました。その空気の中で、LAのポップス・デュオがナッシュビルのカントリーと手を結んだ——「異なるものとの対話」は、国際政治だけでなく、音楽の世界でも起きていたのです。


2. Lyrics:「笑顔」という最小単位の平和

「You put a sweet sweet smile on my face(あなたは私の顔に甘い甘い笑顔をくれる)」
「It's a feelin' that time just can't erase(時間では消せない気持ち)」
「It was you who showed me that the sun is always there(太陽がいつもそこにあると教えてくれたのはあなた)」

 歌詞はシンプルです。「あなたがいてくれるから笑顔になれる」——それだけです。

「There is love for everyone(誰にでも愛はある)」
「Oh can't you see, you've given me(わかるでしょう、あなたがくれた)」
「A sweet sweet smile(甘い甘い笑顔を)」

 「誰にでも愛はある(There is love for everyone)」——この一節を、聞き流すこともできます。でも、立ち止まって考えると、これはかなり大胆な宣言です。

 「誰にでも」。例外なく。条件なく。「There is love for everyone」——平和学においては、どんな人でも積極的平和の要素を持っていると考えます。ただし、同様に、どんな人にも暴力性がある。だからこそ、人間に内在する「平和の力」に焦点を当てることが、平和構築のために重要になるのです。


3. Music:Dメジャーの陽光とカントリーの風

 まず耳を奪うのは、思わず文字通りウキウキと歩き出したくなるようなウォーキング・ベース。しっかり効いたミュートが、ビート感をいやがおうにも高めてくれます。同時に最初は四つ打ちのリズムで入ってくるハイハットに合わせて、手拍子も打ちたくなります。キーはDメジャー。テンポはBPM 176と軽快で、明るいアコースティックギターの音が絡んで、歌が始まります。

カントリーの文法: フィドルとスチールギターのフレーズが、曲にナッシュビルの空気を運び込んでいます。カーペンターズのサウンドに「土の匂い」が混じる、珍しい瞬間です。リチャードのアレンジは、カントリーを「借りてくる」のではなく、カーペンターズの音楽に「溶かし込む」——その匙加減が絶妙です。

カレンの声のもうひとつの表情: 「Bless the Beasts」の祈り、「Calling Occupants」の壮大さとは全く違う——この曲のカレンは、肩の力が抜けた、素のままの笑顔で歌っています。コントラルトの深みは健在ですが、そこに「軽やかさ」が加わっています。カレンの声が最も「幸福そう」に聞こえる曲のひとつかもしれません。

Juice Newtonのデモとの違い: ニュートン自身のバージョンは、よりストレートなカントリーです。カーペンターズ版は、カントリーの骨格を残しながら、コーラスワークとプロダクションで「カーペンターズの音」に仕上げています。同じ曲が、歌い手とアレンジで別の景色を見せる——音楽の面白さが凝縮されています。


4. Lessons:「小さな平和」の実践

1. 笑顔という「日常の積極的平和」

 「平和学」という新しい学問分野を創設したノルウェーのヨハン・ガルトゥング博士は、平和を「消極的」なものと「積極的」なものに分類しました。「消極的平和」とは、簡単にいうと「戦争がないこと」です。日本では、多くの人がほぼ無意識に「平和」というとこの消極的平和を頭に思い浮かべます。

 一方、「積極的平和」とは、公正で平等な社会、人間の可能性が花開く状態を指します。では、その大きなビジョンは、日常の中のどこに現れるのでしょうか。それは、人やものごとが「前を向いている時」です。ですから、私(足立力也)の平和理論では、「人やものごとがポジティブな方向性を持っていること」を「積極的平和」と定義し直しています(私も一応学者なんですよ笑)。そして、まさにその代表的な一例を表しているのが、この曲なんです。

 「Sweet Sweet Smile」が歌うのは、笑顔ひとつ。誰かがそばにいてくれることで生まれる、小さな幸福。それが、人が前向きな方向性を持って事態がいいほうに動く「積極的平和」の最小単位だと言えます。

 大きな構造を変えることは重要です。でも、構造を形作るのは、結局は一人ひとりの「個人」です。制度や政策といった「大きな話」が笑顔を生むのではなく、個人の笑顔という「小さな話」の集合体こそが、より平和な社会の最も強固な礎となるのです。

 平和とは、何らかの状態を表すだけではありません。私たちの心の「方向性」も指すというのが、ガルトゥング理論から発展させた私(足立力也)独自の平和学理論です。この曲のタイトル(とサビの歌詞)に、それが極めて明確に、そして限りなくポップに表現されています。

 Sweetというキーワードをあえて「重ねて繰り返す」ことで、心の「方向性」をより明確に表現しています。ただ甘い笑顔じゃない。もっともっと、甘い笑顔を。その「方向性」こそ、平和を「守る」(現状維持、減らないようにする=消極的)のではなく、平和を「つくる」(増やす=積極的)基礎となるものなのです。

 そして、それは日常にあることだ、とカレンは歌っているわけです。

 そう考えると、平和をつくるということは、実は誰にでもできる、とっても簡単なことだということがわかります。そう、まずはあなたが笑えばいいのです。もっともっとSweetに!

2. 「誰にでも愛はある」——普遍性への信頼

 「There is love for everyone」——この歌詞を、平和学の言葉に翻訳すると、「すべての人間には尊厳がある」という人権の基本原則に行き着きます。

 「誰にでも」という言葉の射程は広いものです。紛争地の子どもにも。難民にも。社会から排除された人にも。「愛がある」——つまり、つながりの可能性がある、孤立させてはならない、という宣言です。

 カーペンターズの曲は、そういう「宣言」を、理論や告発の言葉ではなく、「甘い笑顔」というフィルタを通して届けています。それこそ、音楽が持つ「平和の力」です。

3. ジャンルを越えること——カントリーとポップの「対話」

 1978年、カーペンターズがカントリーチャートに入ったことは、小さな事件でした。

 アメリカの音楽シーンにおいて、ポップとカントリーは長く別の世界でした。都市と農村、リベラルと保守——音楽ジャンルの壁は、しばしば文化的・政治的な分断と重なります。

 「Sweet Sweet Smile」は、その壁を笑顔で越えました。ジュース・ニュートンというカントリーの書き手が作り、カレン・カーペンターというポップスのシンガーが歌い、カントリーのリスナーがそれを受け入れました。ジャンルの越境は、文化的な「対話」の一形態です。(「対話」に関してはNo.014「Calling Occupants」の記事も参照)

 異なる文化圏が一つの曲を共有すること——それもまた、「小さな平和」のひとつの形なのです。


5. In sum:特集を終えて——カレンの笑顔が残したもの

4日間のCarpenters特集

 この4日間、カーペンターズの4曲を通じて、「平和」の異なる側面を見てきました。

 「Bless the Beasts and the Children」——声なき者への祈り。弱き存在に目を向けること。
 「Sing」——歌うこと自体の力。上手くなくていい、ただ参加すること。
 「Calling Occupants」——未知の存在への対話。「We are your friends」と呼びかける勇気。
 そして「Sweet Sweet Smile」——日常の中の平和。笑顔という最小単位の実践。

 祈りから始まり、参加を経て、対話に広がり、日常に降りてくる——カーペンターズの音楽は、平和構築のプロセスそのものを辿っていました。

カレンの笑顔

 カレン・カーペンターの声には、怒りも告発もありません。その代わりに、温もりと笑顔があります。「Sweet Sweet Smile」を聴くと、人間が「つながっている」とはどういう感覚か、身体で分かります。

 1983年、カレンは32歳で亡くなりました。摂食障害が彼女の命を奪ったのです。「甘い笑顔」を歌いながら、自分自身の中では嵐が吹いていました。その事実は、この曲をさらに複雑に、さらに切実なものにしています。

 笑顔は、自然に生まれるものであると同時に、時に「守らなければ失われるもの」でもあります。カレンの人生が教えてくれるのは、こういうことではないでしょうか。すなわち、社会の平和も、個人の内面の平和も含め、「平和とは、放っておけば維持されるものではない」ということを。

「誰にでも愛はある」

 「There is love for everyone」——この歌詞を、カーペンターズ特集の最後の言葉にしたいと思います。

 祈り、歌い、対話し、そして笑顔でいること。それが「平和をつくる」ということだとしたら、カーペンターズの音楽は、その教科書です。


 これで、カーペンターズ特集は一旦おしまいです。
 もしリクエスト等がありましたら、ぜひコメントもしくはDMでお知らせください。
 すべてにお応えはできませんが、可能な限り、日程なども考慮して出していきます。
 次回は「積極的平和」の集合体、”Celebration”を解説します。
 明後日までは毎日無料記事を配信しますので、お楽しみに!

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