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年賀状だけがつないだ、40年越しの初恋〜第二章(/全三章)

さとる と 理佐 の その後の交際は、 本当に 「交際?」 と言えるかどうかという、淡いものだった。

高校生の付き合いといっても良い。

週末に公衆電話から彼女の実家に電話し、
そうすると、彼女のお母さんがでた。

その後に 本当に箱の中から出てきたように、
箱入り娘の彼女が電話に出た。

いつも、その繰り返しだった。

デートは、 大学の最寄駅で休日に待ち合わせて、

テディベアの展覧会に行ったり、 

演劇や コンサートに行ったり、 

ありふれたものだった。

つき合ったことのなかった彼は だんだんネタがなくなってきて、

そのうち 2人とも、卒論に追われる毎日になった。

さとるは 学業に集中するうち、理佐への電話が 毎週から 2週間に一度 そして、そのうちに、1ヶ月に一度になった。

さとるから電話が1ヶ月もなかった時には 理佐からさとるに電話もあった。

いつしか疎遠になり 夢の日は次第に、過去の記憶になっていった。

結局、理佐は会社に就職し、 さとるは 大学院に進学した。
二人の前には それぞれの道が広がっていた。
その後 理佐は27歳で結婚した。

さとるも、理佐から5年ほど遅れて、別の人に出会い、 結婚した。
それぞれに子供が生まれ、 家庭ができ、 仕事に追われ 月日は流れた。

さとるは、時々 思う。
彼女はその時 どう思っていたのだろうと。
あれは つき合っていたといってよいのか。
 
彼は 結局、 彼女に好きと打ち明けることはなかった。

さとるは、自分のことに自信がもてなかった。

気持ちを確かめ合う機会もなく、 
季節は巡り、 二人は、卒論や就活に追われた。

理佐との連絡が途絶えがちになった、 大学4年の夏の終わりに、
さとるは 理佐に 1通の手紙を送った。

君とこれまで話したたくさんのことが 
何故か遠い日の記憶のように感じる 
ごめん ありがとう

それから 彼女から彼にハガキが届いた。 
それは、儚げな西洋葡萄の絵が描かれた葉書だった。

今まで ありがとう 、とだけ書いてあった。

葡萄の絵。一粒一粒が大切に育まれる実。
さとるには、その一粒一粒が、これからも心に生き続ける 二人だけの記憶に刻まれた2人で過ごした淡い時間の記憶のように思えた。
実を結ぶことはなかった。けれど、完全に枯れたわけではない。それは、未来に続く、ほのかな希望のようにもみえた。



彼女は別の人と 結婚し 母となり、仕事を持ちながら、日々を生きてきた。

彼もまた結婚し 家庭を築いた。また仕事も年を追うごとに忙しい毎日になった。

桜が咲き、 太陽の季節が終わり、 実りの季節を経ると、 また 冬が来た。

2人には、それぞれ、子供が産まれ そして子ども達は 学校に通うようになり、ついには 成人式を迎えた。

1年 1年が、あっという間に過ぎた。

10年が経った。

また、20年が経った。

ついには、30年が経ち、

そして、40年が経った。

〜 年賀状 〜

2026年の 新しい年がまた始まろうとしていた。

白髪の増えた さとるは 60歳になった。

元旦にポストを開けると、
以前より すっかり少なくなった年賀状が 届いていた。

職場の義理の年賀状もなくなり、
昔の先生や先輩も友人も 亡くなったり 疎遠になった。
もう届く年始の挨拶も 少なくなった。

引越し 転勤 家の建て替え、
また 喪中のたびに かつての知り合いとの年賀状も 次第に途絶えた。

ただ、

40年前から毎年変わらず、必ず届く 年賀状があった。

それは理佐からの、彼女らしい とても丁寧な手書きの文字がたくさん書かれた 年賀状だった。

さとるも 毎年一番書きたいと思う 年賀状があった。
それは 理佐への年賀状。

お互いの年賀状の差出人は 家族の連名になっていた。
それは、お互いの家族への配慮だと思う。

年に一度の たわいもない 近況報告。 
今年は、家族旅行の写真。
そして、 ますますの活躍をお祈りします と書かれていた。

それは 友人にも 誰にも話すことのない 2人の小さな交流。

さとるは、そんな言葉に少し疲れた心を励まされ、今年の理佐の年賀状を、
これまで受け取ってきた、片手では重い 葉書の束と一緒に、
机の いつもの場所に そっと しまった。

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