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【clum! '95 #01】ヘッドショット・ロマンス【創作大賞2026 恋愛小説部門】

〖あらすじ〗
1995年、春。

佐賀市に新設された私立・碧翔学園中等部へ入学した、優しくて真面目な少年・早坂一頼。バスケットボール部への入部をきっかけに出会ったのは、ポニーテールを揺らしながらコートを駆け回る二年生の少女・佐野立夏だった。

男の子をどこか拒絶しながらも、誰よりも明るく振る舞う立夏。幼馴染の折館迅、調理部の岡本玲、玲を気にかけている樹、仲間たちとの賑やかな日常のなかで、一頼は少しずつ立夏の心に触れていく。

初恋、友情、過去の傷、そして誰かを守りたいという願い。

未熟で不器用な少年少女たちが、笑い合い、ときに傷つきながら、それぞれの居場所を探して歩き始める、1995年の青春群像劇。

中学校受験をした。

そう言うと、勉強ができそうに聞こえるかもしれない。

でも、僕はそんなに頭がいいわけじゃない。

家族が去年から勤め始めた新設校の中等部を、

受験してみないかと言われて、

気がつけば受験していて、

気がつけば今日は入学式だった。

ただ、それだけの中学一年生だ。

母はいない。

けれど、困ったことはなかった。

教員ばかりの家で育った僕にとって、家族の決定はだいたい確定事項だった。

朝の鏡に写った僕は、ただ小学生が体に合わないサイズの中学生の制服を着ているだけで、到底まだ中学生には見えなかった。

入学式のことは、ほとんど覚えていない。

校歌を初めて聞いたことと、何度も立ったり座ったりしたことくらいだ。

中学生になった実感なんてなかった。

制服だけが先に中学生になってしまったみたいで、僕はまだ、自分がどこにいるのかもよく分からなかった。

次の日の朝。

気の早い兄たちが朝食を囲みながら、

「中学の部活は運動部に入れるべきだ」
「身長は必ず今から伸びる。みんなそうだった」
「今の時代は何だ。バスケか」
「バスケ部に入ってこい」

と、家を押し出され、バスを使って登校する。

小学校までは当然公立の小学校で、ランドセルをカチャカチャ言わせながら歩いて登校していたのだから、それと比べれば少し大人っぽい気分にはなった。バスで向かうのは田んぼの中だけど。

教室は、互いにも誰も知らない顔だらけで居心地が悪い。同じ小学校の知り合いもいるにはいるが、運悪く違うクラスだったようだ。

「オリエンテーション」という名の教科担任の紹介的な授業が続き、やっと放課後。兄たちの言葉に背中を押されて、重い足取りで体育館へと向かう。

中学校の体育館は、新入生を歓迎する熱気と、バッシュが床を擦るあの独特のキュッキュッとした音で満ちていた。

うう……やっぱり、レベル高そうだな。
小学校からバスケする子も最近は多いって聞くし。

体育館の入り口、重たい鉄扉の隙間からこっそりと中を覗いてみた。

あの兄達に背中を蹴飛ばされて来たものの、いざ目の前で繰り広げられる先輩たちのキレのある動きを見ると、気後れして足がすくんでしまう。

身長だって、本当に同じ中学生なんだろうかと疑いたくなる高さの人が何人か。

こわい。帰ろう。

そのときだった。

「もう! そこはもっと前に出なきゃパス通らないでしょ!」

コートの中央で、よく通る凛とした声が響いた。

声の主は、ポニーテールの女子の先輩。

ポニーテールが揺れた。

同時に飛んできた声は、体育館中に響くくらい大きかった。

怒っている。

たぶん、かなり怒っている。

少なくとも、今の僕が話しかけられる相手ではなさそうだった。

思わず身を引こうとした瞬間、彼女の視線が鋭く光った。

パスコースが塞がれ、行き場を失ったボールを、彼女はいら立ちと共に大きく投げる。

「——はい、パス!」

しかし、彼女の腕から放たれたボールは、味方の手元ではなく、大きく弧を描いて体育館の入り口へ。

つまり、僕の顔面めがけて一直線に飛んできた。


「え?」


ぼすっ。

鈍い衝撃音と共に、僕の視界がホワイトアウトした。

鼻の奥にツンとした痛みが走り、そのままお尻から床にへたり込む。

「いったぁ……」

「うわっ、ごめんなさい!!」

慌ただしい足音が近づいてくる。

目をしばたたかせながら顔を上げると、先ほどのポニーテールの先輩が、心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。

「大丈夫!? 鼻、折れてない? あたし、ついカッとなって変なとこ投げちゃって……」

至近距離にある彼女の顔。汗ばんだ肌と、ふわりと香るシーブリーズの匂い。

心配と申し訳なさで眉を下げているその表情を見て、僕の思考は痛みとは別の理由で停止した。

……きれいな人だ。

怖いと思っていた吊り目は、近くで見ると意志の強そうな大きな瞳だった。

呆然とする僕の上から、もう一つ、低い影が落ちる。

「……立夏りっか、力入り過ぎ」

「じ……、折館おりたちくん! だってあいつらが動かないから……って、それよりこの子!」

見上げると、金髪で背の高い男子の先輩が立っていた。金髪なんてテレビ以外で初めて見た。

無表情で少し怖い。いや、かなり怖い。身長だって高過ぎる。

その目は冷静に僕の方を見ていた。

いや、余計に怖いって。もう帰りたい。

その人は大きな手を僕の前に差し出した。


「おい、立てるか?」

「あ、はい……ぼ、ぼくなら大丈夫です」

僕は慌ててその手を借りて立ち上がった。

その手はゴツゴツしていて温かかった。

女子の先輩はまだ心配そうに僕の顔を見つめている。

「本当? 鼻血とか出てない? ……あ、君、見学の子だよね?」

「は、はい! 1年の早坂一頼です。バスケ部に……入りたくて」

痛みを堪えながらそう名乗ると、彼女はパッと表情を明るくした。

さっきまでの鬼のような形相が嘘のように、花が咲いたような笑顔になる。

こんな顔ができる人なんだ。

「かず、よりくん、ね」

確かめるように名前を呼ばれて、心臓がうるさく音を立てた。

「そっか、入部希望なんだ! あたしは2年の佐野さの立夏りっか。こっちの無愛想なのは折館おりたちじん。うちのバスケ部は男女混合で練習してるの。ねえ早坂くん、バスケ好き?」

「え……あ、はい。好き、です」

「じゃあ決まりね! 手荒い歓迎しちゃってごめんね? その代わり、あたしがしっかり教えてあげるから!」

佐野先輩は「よし!」と僕の背中をバンと叩いた。

その手は少し痛かったけれど、不思議と嫌な気分じゃなかった。

むしろ、

……このかっこいい先輩についていきたい。

もう一度あの笑顔を見たいと思ってしまっていた。

自分でも呆れるくらい単純だ。

けれど、僕は

その瞬間、バスケ部への入部を心に決めた。


「……早坂、顔赤いぞ。やっぱり冷やしたほうがいい」

「えっ、あ、いえ! これは、その!」

冷静な折館先輩の方のツッコミに、僕は必死に首を横に振った。

「少し眩しくて……目が、眩んでいるだけです」

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ゆりしま みつき|青春群像の庭師|『clum! 』連載中 よろしければ応援お願いします! いただいたチップは製作費に使わせていただきます。