【clum! '96 #23】砂糖菓子
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1996年7月。佐賀の夏の湿った熱気が、体育館の床をじっとりと湿らせる季節。
中体連(中学校体育大会)を目前に控え、碧翔学園バスケットボール部は、異様な熱気に包まれていた。
全体練習が終わった後の、わずかな自主練習の時間。立夏と一頼の、不器用で、けれどどこか温かい個別練習の風景。
「立夏先輩、シュートフォームをチェックします。……一歩、失礼しますね」
一頼の声は、あのハプニング以来、驚くほど慎重で、けれど以前よりもずっと温かい響きを帯びていた。
彼は常に「立夏のパーソナルスペース」を定規で測っているかのように守り、彼女が不意に怯えることのないよう、動作の一つひとつを言葉にして伝えていた。
「……うん、お願い。どこを直せばいい?」
立夏がボールを構えると、一頼は彼女の正面ではなく、あえて少し斜め後ろに立つ。圧迫感を与えないための、彼なりの作法だ。
「右の肘が、ほんの数ミリだけ外に開いています。……僕が今から、指先で少しだけ、先輩の肘を内側に押してもいいですか?」
「……うん。大丈夫だよ、やってみて」
一頼は「失礼します」と小さく断り、細くしなやかな指先で、立夏の肘をそっと押した。その触れ方は、まるで壊れやすいガラス細工を扱うような、極上の丁寧さだった。

練習が一段落し、二人は体育館の端で休憩に入った。
立夏が息を弾ませて首筋の汗を拭っていると、一頼が部室の冷蔵庫から冷えたスポーツドリンクの大きなペットボトルと紙コップを持ってきた。
「はい、立夏先輩。一緒に飲みましょう」
「ありがとう、一頼。……相変わらず、準備がいいね」
立夏が笑うと、一頼は少しだけ距離を空けて隣に座り、ドリンクを紙コップに注ぎ始めた。先に注いだ方を立夏にそっと手渡す。

「先輩、今の中体連への意気込み……星占いだと、今月の先輩の獅子座は『挑戦』の時期なんですって。きっと上手くいきますよ」
「ふふっ。一頼、最近星占いに詳しくなりすぎじゃない? ……でも、ありがとう。一頼がそう言ってくれると、本当に大丈夫な気がする」
立夏は、自分の隣で一生懸命に「安心」を演出しようとしてくれる後輩を見つめた。
彼の丁寧すぎる言葉遣いも、過剰なまでの距離感も、すべてが自分への「愛」なのだと、今の立夏は理屈ではなく、心で理解し始めていた。
「……あ、立夏先輩。頬に、タオルの糸くずがついてます」
一頼がそう言った瞬間、立夏は反射的に身を強張らせる……のではなく、少しだけ目を細めて、自分から一頼の方へ顔を近づけた。
「え、どこ? 取ってくれる?」
一頼の心臓が、ドクンと大きく跳ねた。
自分から近づいてきてくれた。その信頼が、一頼にとってはどんなものよりも価値のある報酬だった。

「……は、はい。失礼します……」
震える指先で、立夏の白い頬に触れるか触れないかの距離で糸くずを払う一頼。
至近距離で見つめ合う二人。
かつての「恐怖」はそこにはなく、代わりに、夏の夕暮れのような、甘酸っぱくて少しだけ切ない空気が二人の間を支配した。
「……取れました。……先輩、すごく、綺麗です」
「……もう。一頼、さらっと恥ずかしいこと言わないでよ」
立夏が赤くなって顔を背けると、一頼も「あ、すみません! 本音が漏れました!」と顔を真っ赤にして立ち上がった。

その様子を、部室の影から迅が「……あいつら、何やってんだ」と呆れたように、けれどどこか安心したように見守っていた。
「立夏先輩! 中体連、僕が一番大きな声で応援しますから! 先輩は、前だけ見てシュートを打ってください!」
「うん、期待してる。……あたし、一頼が見ててくれるなら、きっと怖くないから」
一歩進んでは半歩下がるような、もどかしくて丁寧な二人の距離。

中体連という大きな舞台を前に、彼らは「過去の傷」さえも、二人で共有する「強さ」へと変えようとしていた。
体育館の外では、激しい蝉時雨が、彼らの未熟で真っ直ぐな青春を祝福するように降り注いでいた。
【今回のおまけ】
野瀬「おおぉ、やっと心置きなくおまけやれる〜」
稲城「一頼、がんばれー」
野瀬「あ、今回はアイコン作り直すってことになったんで……」

野瀬「女の子2人のかわいいだけのバージョンと〜」
稲城「かわいい……っ!」

野瀬「7人で立って手ぇ繋いでるやつと〜」
稲城「かごめかごめ?」

野瀬「みんなで手繋いで寝てるみたいなやつ〜」
稲城「いや、目つぶってるだけでしょ。寝れないよね、これ」
野瀬「せっかく作ったんで、ぐるぐるとつかっていくらしいよ」
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