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【clum! '95 #08】5月6日の贈り物

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1995年5月6日、土曜日。

ゴールデンウィーク後半の土曜日の午後。

体育館は、連休中の強化練習を終えたバスケ部員たちの熱気と汗の匂いに包まれていた。

「よーし、今日はここまで! クールダウンしっかりやって解散!」

「「ありがとうございました!!」」

古賀こがキャプテンの号令で練習が終わる。

あたし、佐野さの立夏りっかは、タオルで汗を拭きながら、チラチラと周囲——主に幼馴染の折館おりたちじんを見ていた。

……ねえ、嘘でしょ? 今日何の日か忘れたわけ?

今日は5月6日。あたしの14回目の誕生日だ。

家では朝、パパとママにお祝いしてもらったけど、学校の友達や部活の仲間からは、今のところ「おめでとう」の一言もない。

迅に至っては、練習中一度も目を合わせてくれなくて、淡々とメニューをこなしていた。

「はぁ……。ま、連休中だしね。期待したあたしが馬鹿でしたー」

あたしがふてくされて水筒のお茶を飲もうとした、そのとき。

「あ、あのっ! 佐野先輩!」

裏返った声が聞こえた。

振り返ると、1年生の早坂はやさか一頼かずよりくんが、背中に何かを隠してモジモジと立っている。

まだ入部して1ヶ月弱。練習についていくだけで必死な彼が、いつも以上に顔を真っ赤にしていた。

「ん? どうしたの早坂くん。足つった?」

「ち、違います! ……あの、これ!」

早坂くんは意を決したように、背中に隠していた小さな包みを突き出してきた。

ピンク色のリボンがかかった、可愛らしいラッピング。

「え、なにこれ?」

「お、お誕生日、おめでとうございます! ……名簿の日付見て、今日だって知って……その、生意気かと思ったんですけど……」

早坂くんは消え入りそうな声で早口にまくしたてる。

びっくりした。けど、うれしい、うれしい!!

「えーっ! 覚えててくれたの!? 嘘、嬉しい!!」

あたしが包みを開けると、中から出てきたのは「ピンク色のリストバンド」だった。

スポーツブランドのものだけど、ロゴが小さくて、あたしが好きな感じのデザイン。

「ぼ、僕、センスないから……岡本先輩に相談して選んだんです。佐野先輩、ピンク似合うからって……」

「岡本さんに!? ……うわ、めっちゃ可愛い! さすが岡本さん、そしてありがとう早坂くん!」

あたしはその場ですぐに手首につけてみた。

「どう? 似合う?」とポーズをとる。

早坂くんは「は、はいっ! すごく!」と首を縦に振り、顔をさらに赤くしていた。

二人揃ってうれしい空気の中ではしゃいでいると、

「……お前ら、通路塞ぐな」

と、低い声が降ってきた。

迅だ。着替えを済ませ、肩にスポーツバッグを掛けている。

「あ、じ、折館くん! 見てこれ、早坂くんがくれたの! あんたと違って気が利くわー」

「……ふん」

迅は鼻を鳴らし、興味なさそうに通り過ぎようとする。

やっぱ忘れてんだ、薄情者。

そう呟こうとした瞬間。

迅は立ち止まらず、すれ違いざまにあたしの頭にポンと何かを乗せた。

「え? なに?」

あたしが慌てて頭の上にあるものを手に取る。

これは、あたしが「新作出たのにどこにも売ってない!」と騒いでいた、限定フレーバーのグミだった。しかも3袋セット。

「えっ、これ……! 探してたやつ!」

驚いて振り返ると、迅は背中を向けたまま、片手だけ上げてヒラヒラと振った。

「……おめでとう。うるさいから、それ食って黙ってろ」

「はあ!? 一言余計よ!」

文句言っちゃったけど、顔はニヤけているのが自分でもわかる。

わざわざ探して買ってきてくれたんだ。

「……もう、どいつもこいつも」

あたしは左手のリストバンドを撫で、右手のグミを握りしめた。

早坂くんが見上げて言った。

「佐野先輩?」

「んーん! 最高の日だなって思っただけ! 早坂くん、これ大事にするね! 次の試合、絶対これつけて出る!」

「は、はいっ!!」

週が明けた、5月8日の放課後。

わたし、岡本おかもとれいは、図書室のカウンターで、返却された本の貸出カードに、日付印を押す作業をしていました。

トン、トン、トン……。
静かな室内に、スタンプの乾いた音だけが響きます。

手元のカレンダーは「1995年5月」。窓から吹き込む風は少し湿り気を帯びていて、梅雨の気配を感じます。

早坂くん……どうだったかな。

一昨日の土曜日、5月6日は佐野さんのお誕生日だった。

「練習が終わったら渡します!」とプレゼントを抱えてはりきっていた早坂くん。

結果を尋ねようにも、わたしは彼の家の電話番号を知らない。

結局、わたしはずっとソワソワしたまま週末を過ごし、今日の放課後を迎えている。

失敗して落ち込んでないといいけど……。

わたしがため息をついた、そのときだった。

図書室の重い引き戸が、ガラガラッ と勢いよく開いた。

「お、岡本先輩!!」

息を切らして入ってきたのは、早坂くんだ。その顔は、夕日に照らされて輝いている。

「あ、早坂くん! ……その顔、もしかして」

「はいっ!! 成功しました!!」

早坂くんはカウンターに駆け寄ると、興奮を抑えきれない様子で報告してくれた。

「佐野先輩、すごく喜んでくれて……『次の試合、これつけて出る!』って言ってくれたんです! その場でつけて見せてくれて……!」

「本当? ……よかったぁ」

胸の奥がじんわりと温かくなる。気づけば、目頭が少し熱くなっていた。

「岡本先輩が『ピンクだけどスポーツブランドなら使いやすいはず』ってアドバイスくれたおかげです! 本当にありがとうございました!」

「ううん、早坂くんの勇気が伝わったんだよ。ふふ、週末ずっと気になってたから、聞けて安心した」

二人で顔を見合わせて笑い合った。

結果を知るまでに二日間かかったけれど、その時間も含めて、わたしたちの「作戦」は成功した。

「じゃあ僕、部活行ってきます! 今日は先輩にいいとこ見せないと!」

「うん、頑張ってね」

早坂くんが嵐のように去っていくと、図書室には再び静けさが戻ってきた。

わたしはカウンターの下から、紙袋に入った小さな包みを取り出した。
手作りのアイシングクッキー。

湿気ないように乾燥剤と一緒に丁寧にラッピングしてある。

「……よし」

わたしはカウンターの片付けをして、カバンを持って立ち上がった。

早坂くんの報告を聞いて、勇気をもらった気がした。

「佐野さんに直接渡すのは恥ずかしいから……下駄箱に入れておこうかな」

手紙を一通添えて。

『お誕生日おめでとう。素敵な14歳になりますように。』

わたしは誰もいない廊下を、少し早足で歩き出した。

佐野さんの反応が分かるのは、また明日か、明後日か。

そんなゆっくりとした時間の流れが、心地よかった。

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ゆりしま みつき|青春群像の庭師|『clum! 』連載中 よろしければ応援お願いします! いただいたチップは製作費に使わせていただきます。