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【clum! '95 #04】昼休み作戦会議

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4月中旬の昼休み。

1年B組の教室は、新しいクラスに馴染なじみ始めた生徒たちの話し声で賑わっていた。

そんな中、僕、早坂はやさか一頼かずよりは自席で机に突っ伏していた。

楽しいことと、楽なことは違うらしい。

「うぅ……身体中が痛い……」

昨日の部活で、佐野さの立夏りっか先輩による「基礎フットワーク100本」の洗礼を受けたせいで、全身が悲鳴を上げているのだ。

兄特製の弁当を開けたものの箸をつける気力さえ湧かない。

図書室に行けば、岡本先輩に会えるかもしれない。

そう思ったけれど、身体中が痛くて動けなかった。

「おい、大丈夫かよ? 死にかけのハムスターみたいになってんぞ」

不意に、前の席の男子がにやにやと声をかけてきた。

野瀬のせ隆文たかふみくんだ。彼は僕と同じくバスケ部に入部したばかりだが、ひょうひょうとしていて、どこか達観した雰囲気がある。

「あ、野瀬のせくん……。昨日の練習、きつかったよね……」

「まあな。オレは適当にサボる術を知ってるからいいけど、お前は真面目すぎんだよ。佐野さの先輩の言うこと全部聞いてたら、身体壊すぞ」

野瀬くんが笑いながら箸を割ったその時、

「だーかーら! あれは愛だって! 愛!!」

横からものすごい勢いで割り込んできた小柄でよく通る声の男子がいた。

彼は机に身を乗り出し、目をキラキラさせて詰め寄ってきた。

「お前、早坂だろ? 俺、見てたぞ昨日の体育館! あの立夏ちゃんにマンツーマンで指導されるなんて、前世でどんな徳を積んだんだ!?」

「えっ、あ、ええっ? 立夏ちゃん……?」

「稲城、声デカい。鼓膜響く」

野瀬くんが嫌そうに耳を塞ぐが、稲城くんは止まらない。

「俺、稲城いなぎ芳彦よしひこ! よろしくな! 実は俺、立夏ちゃんと迅ちゃん……あ、佐野先輩と折館おりたち先輩とは家が近所でさ、昔から遊んでもらってたんだよ! だから分かる! 立夏ちゃんのあの指導は、期待の裏返しだ!」

「そ、そうなんですか!? ……期待、されてるのかな」

そう考えただけで、さっきまで重かった身体が少し軽くなった。

「当たり前だろ! 立夏ちゃんは興味ない奴には目も合わせないからな! ……まあ、迅ちゃんの方は昔『狂犬』って呼ばれてた時期もあったけど」

「おい、やめろ稲城。折館先輩の名前出すな。……思い出しただけで寒気がする」

野瀬くんが急に青ざめて震え出した。

野瀬くんは、初日の練習でサボろうとして折館先輩に捕まったらしい。

詳しくは聞いていない。

でも。

あんなに震えているんだから、

きっと大変だったんだろう。

「え、折館先輩、そんなに怖いかなぁ……? この前も飲み物くれたよ?」

「はあ!? 早坂、お前どんなフィルターかかってんだよ。あの目は殺し屋の目だぞ」

野瀬くんがツッコむと、稲城くんがニカっと笑って僕の肩を組んだ。

「ま、とにかく! 早坂は立夏ちゃんに気に入られてる! 野瀬は迅ちゃんに目をつけられてる! ……お前ら、最高の『被害者の会』じゃん!」

「被害者って言わないでよ……」

「でも、そうかもな。……よし、オレたちで同盟組むか」

野瀬くんがニヤリと笑い、自分の弁当からタコさんウィンナーを一頼の弁当に乗せた。

「同盟?」

「『対・猛獣先輩サバイバル同盟』だ。オレは折館先輩の監視をかいくぐる方法を考える。早坂は佐野先輩の愛を受け止める。稲城は情報収集。……どうだ?」

「おー! いいねえ! 面白そう!」

「えぇ……なんか大ごとになってない?」

一頼は戸惑いつつも、二人の笑顔を見て、自然と笑みがこぼれた。

入学してまだ二週間くらい。

クラスで一緒に弁当を食べる相手なんていなかった。

だから。

騒がしい二人が、少しだけ頼もしく見えた。

「……うん。よろしく、稲城くん、野瀬くん!」

「おう! 早坂、昼飯食ったらバスケの話聞かせろよ! 俺の空手の話も聞かせてやるからな!」

「俺にも唐揚げ一個くれ」

こうして、机をくっつけて弁当を囲む三人。

あのときの僕は、

まさか卒業する日まで、

毎日のように三人で机をくっつけることになるなんて、まだ知らなかった。


放課後の部室。

僕と野瀬くんが着替えていると、ジャージ姿の折館先輩が入ってきた。

「……野瀬。今日、基礎練倍な」

「ひいっ!? な、なんでですか折館先輩!?」

「……昼休み、俺のこと『殺し屋』っつったろ」

「き、聞いてたんですかぁぁぁ!!(地獄耳!?)」

野瀬くんが絶望の悲鳴を上げる横で、僕には佐野先輩が近づいてきた。

「早坂くん! 今日はディフェンスの足運びやるよ! 覚悟できてる?」

「は、はいっ! お願いします!」

体育館のギャラリーでは、部活には入らない稲城が、その様子を眺めてニヤニヤしていた。

「早坂くん! 野瀬! 頑張れ同盟諸君!

……へへ、立夏ちゃんと迅ちゃんも後輩ができて嬉しそうだな」

体育館は今日もうるさい。

でも。

前より少しだけ、

居心地は悪くなかった。

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ゆりしま みつき|青春群像の庭師|『clum! 』連載中 よろしければ応援お願いします! いただいたチップは製作費に使わせていただきます。