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社員戦隊ホウセキ V 大将外伝/前編;印象深い来客

 脱サラして飯屋を始めて、十年以上になる。
 俺の店は、筋肉付けたい野郎どもに蛋白質ばっかりを食べさせる店だ。

 来る客はゴツくて若い野郎ばっかりで、店はいつも空いてる。

 だけど…。いや、だから印象的だった。
 絶対に俺の店になんか来なさそうなあんちゃんが、常連になっちまったんだから。


 去年の八月だ。そのあんちゃんが俺の店に来たのは。平日の夕飯時だった。あんちゃんが、その日の夕飯時のお客さん一号だった。

「おっ! いらっしゃい!」

 店の引き戸が開く音に反応して声を掛けた俺は、扉の方を見て自分の目を疑った。そこに居たのは、背は高いけど線が細くて眼鏡を掛けたあんちゃんだったからだ。見るからに体力が無さそうで、俺の店には縁が無さそうな人としか思えなかった。

「ウチの店、初めてだよな? だいぶ変な店だが、大丈夫か!?」

 俺の店は変な飯しか出さないから、食う時になって後悔させたら申し訳ない。そう思って、俺はあんちゃんに確認した。あんちゃんの返事は速かった。

「メニューが一つしかなくて、体重に合わせて料理の量を変えるのは知ってます。知り合いがネットでこの店を知って、教えてもらいました」

 あんちゃんは、俺と目を真っ直ぐに付き合わせながら話し続けた。

「仕事の都合で、急いで体力を付けなきいけなくなったんです」

 あんちゃんの視線に、俺は押された。焦ってんだろうか? よく解らねえけど、もの凄い必死さを感じた。

「お…おう。そうか…」

 頷くしかなかった。このあんちゃんが、急に体力を付けなきゃいけなくなった理由は気になったが、訊けなかった。

 店のルール通り、まずはあんちゃん体重を測った。66 kgだった。俺はいつもゴツい野郎の相手ばっかりしてるから、めちゃくちゃ軽いと思った。

 蛋白質の量が130 mgくらいになるように調整した【蛋白質の塊】を、俺はこのあんちゃんに出した。あんちゃんは丁寧に合掌して「頂きます」と呟いてから、無言で飯を食べ続けた。



 この日から、このあんちゃんは俺の店の常連客になった。あんちゃんだが、慣れて来ると普通に俺と喋るようになった。最初、俺は、このあんちゃんを見た目だけで気難しそうな奴だと思っていたが、喋ってみたら意外に気さくな奴だった。

 あんちゃんの名前は伊勢いせ和都かずと。年齢は二十四歳。新杜あらと宝飾ほうしょくに勤めるジュエリーデザイナーらしい。ジュエリーデザイナーの仕事を俺は詳しく知らないが、不思議だった。

(最初、「仕事で急に体力を付けなきゃいけなくなった」って言ってたよな? 重い物を運ぶような仕事とは思えないが…)

 このことが凄い疑問だったが、詳しく訊くのも野暮だと思ったから、気にはなっていたが一度も訊かなかった。


 いつしか俺は、あんちゃんを和都かずとと呼ぶようになっていた。それくらい、俺と和都かずとが親しくなった頃、ビックリするような事件が起きた。それは、和都かずとが俺の店の常連になってから、一ヶ月が経った頃だった。

「なんだ、こりゃ!?」

 夕方だった。あと三十分くらいで、店の準備を始めようと思ってた頃だった。店になってる一階の上、家として使ってる二階で、俺は何気なく新聞の夕刊を見た。一面を飾った写真を見て、俺は思わず驚嘆した。その写真は素人がスマホで撮ったのかピンボケした酷い写真だったが、何を撮られたものかは判った。緑色をした人型の怪物と、黒い全身スーツを着た人たちが、街中で乱闘しているような写真だった。黒い全身スーツの目許や胸には、宝石みたいな鮮やかな色が映えていた。

 新聞記事には、こう書いてあった。
 午前十時頃、田家下たけした通りに人型の怪物が現れて、手当たり次第に人を襲っていた。暫くすると、全身スーツを着た四人組が駆けつけて戦闘状態になり、人型の怪物は四人組の攻撃で爆死した。
 現実離れした記事の内容を俺はすぐに受け入れられず、暫く困惑していた。

(こんなこと、本当にあるのか? 毎年、日曜の朝にやってる子ども番組…【ヒーロー戦隊】じゃねえんだぞ?)

 頭に【ヒーロー戦隊】って言葉が浮かんだら俺の脳みそは急に活性化して、いろんなことが連想ゲームみたいに飛び出してきた。

(ヒーロー戦隊と言えば、新杜あらと宝飾ほうしょくの社長さんが【ジュエルメン】とか言うヒーロー戦隊が好きだって、和都かずとが言ってたな……。ヒーロー戦隊? ジュエルメン? 新杜あらと宝飾ほうしょく?)

 その連想は変な想像に繋がった。

(まさか、この戦隊みたいな四人組は新杜あらと宝飾ほうしょくの社員たちで、和都かずともその一員? 戦隊に選ばれたから、和都かずとは体力を付なきゃいけなくなったのか?)

 自分で言うのもなんだが、デタラメな推理ではなかった。だが、俺の中にある常識と名乗る固定観念が、この説を否定した。

えよな? そんな、漫画みたいな話…」

 俺はそう自分に言い聞かせて、考えないようにした。


 その後、俺は一階に降りて、夕飯の営業を始めた。午後七時近くになると、和都かずとがいつも通り店に来た。心なしか、和都かずとはいつもより疲れてるような気がした。


 その後も、似たようなニュースを何度も耳にした。人型の怪物が街に現れて人を襲い、派手な全身スーツの四人組がその場に駆けつけて、怪物を倒して去って行ったというニュースを。
 いつからか、怪物たちは【ドロドロ怪物】、派手な全身スーツの四人組は【ピカピカ軍団】と呼ばれるようになり、『ピカピカ軍団は新杜あらと宝飾ほうしょくの社員だ』という噂も囁かれるようになった。

 幸い、俺の目の前に怪物が現れることはなく、知り合いが怪物に襲われることも無かった。だから、怪物や謎の四人組のニュースを、俺は『自分とは関係ない、遠くで起きてる絵空事』みたいに思っていた。

 その日まで想像してなかった。まさか、自分が襲われる日が来るだなんて。


後編に続く!


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