図書館本90冊目『月まで三キロ』伊与原 新 255P
図書館本88冊目で読んだ『藍を継ぐ海』がとても面白かったので、伊与原 新さんの他の本も読みたいと思って借りたのが本書。
ちゃんと「いよはら しん」さんと読めてます。
(「いよはら あらた」さんだと思っていたので…)
決め手は帯の言葉
「折れそうな心に寄り添う六つの物語」
折れる前に読んどこう…
第一話 「月まで三キロ」
第二話 「星六花」
第三話 「アンモナイトの探し方」
第四話 「天王寺ハイエイタス」
第五話 「エイリアンの食堂」
第六話 「山を刻む」
それぞれの主人公たちは、小学生の子どもから、40代、50代の大人たち。皆、何かモヤモヤするものを抱え込んでいる。
家族のこと、自分の現状、これからこと…
そして皆、何かをきっかけに言葉を交わすようになった人たちに感化され、ちょっと新しい自分になって進んで行く。
たまたま主人公の人生の分岐点となった登場人物たちが、とても魅力的で面白い。
その人たちにも、それぞれ抱えている思いと、これまでの人生がある。
こういうのもヒーリング小説?
本書で面白いのは、どの物語にも理系的素養を備えた人が登場するところ。
(『藍を継ぐ海』もそんな感じでしたっけ。)
元物理教師の人、気象台勤務の人、化石を掘る人、海底の泥の層を調査する人、素粒子物理学を研究する人、火山を研究する人。
この、火山研究の先生と弟子(研究室の学生)のコンビがまぶしい。
第六話「山を刻む」に出てくるこの火山の先生は、いつかNHKの番組で見た火山研究の先生(マグマを彷彿とさせる全身真っ赤な私服の方…)を思い出させ、『バリ山行』(松永K三蔵 / 著)の妻鹿さんも思い出させ、けれどなぜか、ビジュアルは竹中直人さんで勝手に想像してしまうという、とても魅力的な方。
山で偶然出会ったその先生に
「ここ数年で聞いた中では、断トツで一番うらやましい話ですよ」
と、うらやましがられる一大決心をした主人公の主婦。
その主婦に、先生のブラックな研究室に入ることになった経緯を話す中での学生の言葉、
「あの人と一緒にやってみるのが、一番確率高いっしょ」
「確率? 何の?」
「将来、やっててよかったな、面白いな、と思える確率。だってあの人、自分のやってることが世界一面白いって、マジで思ってますからね」
「実際、好きなことだけやって生きてる大人、初めて見ましたから。そんな人、マジでこの世に存在するんだって、結構衝撃で」
表現こそ若者らしいが、彼の感じていることはわたしにもわかる気がする。つまるところ彼は、先生の生き方に感染したいのだ。そばで同じ空気を吸っていたいのだ。弟子にそう思われるのは、師匠として最高のことだろう。
学生の話を聞いて主婦は、
「それに比べて、親としてのわたしは――。」
とため息をつくのだけれど、このやりとりの後、自分の中で、前述の一大決心の覚悟がすでにできていることを確信する…
この第六話「山を刻む」が一番好きです。
(二番目は「エイリアンの食堂」)
ちょっと泣けちゃいました。
通勤読書では、車内で読み終わってしまいそうだったので、最終話は家読みにして正解でした。
(通勤途中に本を読み終わっちゃうと禁断症状が出るし…)
本書の他の短篇は、良い予感を残しながらも「もうちょっとだけ先を見せて~、私の貧相な想像力に委ねすぎないで~」というところで物語が終わります。(良い予感は良い予感なので、どれも後味は良いですが。)
「山を刻む」は、「それ、絶対楽しいわ! めっちゃいいやんっ! 思いきったな!」と、良い予感のもう少し先を、主人公と一緒にワクワクと想像しながら読み終えられます。
ま、今度は私の方が、
「それに比べて、今のわたしは――。(ガーン…)」と思っちゃったりもしますけれど…
動かんことには始まりませんな!!
動け、私!
本書『月まで三キロ』のあとに出た短篇集『藍を継ぐ海』は、どの物語も良い予感の少し先を想像出来るところまで連れて行ってくれるので、毎度、登場人物に便乗して一緒にワクワク感を抱けたのが良かったです…
この二冊を読んで、
「岩石ハンマー」欲しくなりました。
(…なんか、ワクワクする? そして悪い予感がする??)
伊与原 新さん、また他のを読みたいです。
