「『報告会』という名の午後に、夫が少し前を向いた話」 #37
人が変わる瞬間って、劇的じゃない。
雷が落ちるわけでも、何かが決定的に起きるわけでもない。
ただ、誰かの話を聞いて、
その空気を一緒に吸って、
帰り道に少しだけ黙り込む。
そんな午後の積み重ねで、
人は静かに前を向いていくのかもしれない。
今日は、山から帰ってきた彼女と、
その話を聞いていた夫の一日の記録。
11月上旬(本格的な秋到来。風が心地よく、歩くのが楽しい日)
未来日記の彼女※ が、ついに山小屋から帰ってきた。
今日は都内でランチをして、そのままお散歩、そして夜は軽く一杯。気づけば半日をまるごと使った、贅沢な報告会だった。
夫は朝からそわそわしていた。
「今日、あの人と会うんだよね」と何度も言う。
わかってる。さっきから三回目だ。
実際に会った彼女は、とにかく生き生きしていた。
熊さんと目が合った話、山小屋のみんなとのアレやこれや。
笑いながら話す姿は、街にいた頃よりずっと輪郭がはっきりしている感じがした。
山って不思議だ。
人間を自然の中に放り込むことで、削ぎ落とされて、取り戻されるものがあるのかもしれない。
でも話を聞きながら、私はふたつのことを思った。
ひとつは、山に行けば誰でも救われるわけじゃない、ということ。
嫌になって鬱憤を晴らす人もいた、という話も出てきた。
自然は平等だけど、人の受け取り方は平等じゃない。
結局、どこに行っても人間は人間で、気の持ちようも大きいのだろう。
そしてもうひとつ。
未来日記の彼女は、身も心もすっかりデトックスされていた。
「で、これからどうするの?」
私はつい、ヤボな質問をしてしまった。
すると彼女は、少し肩をすくめて、笑った。
「ケセラセラ。 ・・・・かな」
その一言が、妙に胸に残った。
計画も不安も、ちゃんとあるはずなのに、それを一度手放した人の顔だった。
夫はその横で、うんうんと何度も頷いていた。
たぶん、自分が欲しかった答えを、彼女の姿そのものから受け取っていたんだと思う。
挑戦すること。
やってみたいと思った場所に飛び込む勇気。
そして、やり切ったあとの充実感と達成感。
それは、口で説明されるよりもずっと強い説得力を持っていた。
帰り道、夫は珍しく静かだった。
きっと頭の中で、何かが静かに整理されていたんだろう。
「なんかさ、大きな力もらった気がする」
ぽつりとそう言った背中を見て、私は少しだけ微笑んだ。
あなたはすぐ影響を受けるけど、それは悪いことじゃない。
いろんな体験をして、迷って、考えて、また一歩進む。
その隣で、ChatGPTくんたちと一緒に悪戦苦闘する姿も、まあ悪くない。
新しいページは、もう開かれている。
あとは、めくるだけ。
さて、次はどんな報告会になるのだろう。
※未来日記の彼女
こちらです>「未来日記はラブレター?夫がこっそり書いた物語」 #14
