手紙がつなぐ関係_小川糸『椿ノ恋文』
『椿ノ恋文』は、鎌倉を舞台に、先代の祖母から引き継いだ手紙の代書屋を営む鳩子と、人々との交流を描く『ツバキ文具店』シリーズの三作目である。中学生になったQPちゃんに加え、小梅と蓮太郎が生まれ、家族は五人になった。妊娠・出産で休んでいた鳩子が、代書屋を再開するところから物語は始まる。
幼かったQPちゃんが反抗期を迎え、鳩子に冷たい態度をとる姿に、成長を感じてしみじみとした。わたし自身はそこまでの反抗期はなく、どちらかといえば父に向いていた。母は怖くて反抗できなかったからこそ、今になって「もう少しぶつかってもよかったのかもしれない」と思う。反抗期は、親子にとって大変な時間でありながら、健やかな成長の証しでもあるのだと感じた。
今作でも鳩子は、さまざまな依頼人の手紙を代書する。印象に残ったのは、友人の舞ちゃんが、義母の料理に髪の毛が入っていたことを、相手を傷つけずに伝えたいという依頼だ。ちょうど自分がブレンドティーの販売を始めたばかりだったこともあり、異物混入には細心の注意が必要だとあらためて思った。近しい間柄であれば、舞ちゃんのように気遣いながら伝えてもらえるかもしれないが、お客様であれば、何も言わず離れてしまう可能性もある。鳩子の手紙によって、舞ちゃんと義母の関係がより深まったことに、あたたかさを感じた。
タイトルにもなっている「恋文」は、先代が伊豆大島に住む男性・美村氏と交わしていた手紙だった。鳩子は、彼の甥である冬馬さんとともに手紙供養をするため、伊豆大島を訪れる。後から追いかけてきたQPちゃんと心を通わせる場面もあり、胸があたたかくなった。
また冬馬さんは、自身が同性愛者であることを両親に伝える手紙の代書を依頼する。その後のことは描かれていないが、受け入れるまでには時間がかかるかもしれない。それでも、いつか分かり合える日が来ると信じたくなる。
全編を通して、家族や友人との心の交流が丁寧に描かれている。思わず笑みがこぼれたり、ふと涙ぐんだりと、静かに心を揺さぶられる物語だった。いつか鎌倉や伊豆大島を訪れ、この作品の空気を実際に感じてみたい。
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