風まかせ文芸部 『予感の味』
まだやれると思っていた。
その気持ちだけで立っていた。
右足が悲鳴を上げていたが、気合いの表れだと信じていた。
気付けば、床に倒れ伏していた。
レフェリーが俺を庇い、試合をストップさせている。
俺はまだやれる、その気持ちだけで立ち上がろうとしたが、右足は悲鳴を上げることすら出来ない状態だった。
相手のローキックを食らい、沈黙した俺の右足。
何となく、今後普通には歩けなくなるような予感。
マットの上で身動きも取れず、口の中に広がるマウスピースと鉄の味を噛み締めていた。
あれから二年。
あの日の俺の予感は当たっていたようで、今も松葉杖が必要な日々を送っている。
試合にはもう出られない。
でも、荒ぶる俺の心は静まり、平穏な君との暮らしを望む想いが芽生えた。
君が作ってくれたカレーライスの味。
これからの、幸せな日々を予感させる味だ。
ただ、あの日の鉄の味を時折思い出しては、俺の居場所はどこであるべきかと考える。
たとえもうリングには戻れなくても、俺という存在が沈黙したわけじゃない。
この挑む気持ちを、自分の未来に携えて。
あの日掴めなかった勝利を手にする予感を味わっている。
リングの外で巻き起こる様々な闘いに立ち向かって。
俺は、まだやれる。
こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。
