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風まかせ文芸部 『7月32日』

よくあるじゃん。
同じ日を何回も繰り返して、抜け出せないやつ。
タイムループっていうの?
まあ、実際には起きないけど……って、今の状況分かってる?
まさにそれじゃん。
何なの、この7月32日のあるカレンダー。
いや違う、7月32日しかないカレンダーか。
もしかして、自分で作ったの?……なんで?
需要ないじゃん。

……え?推しのアイドルの結婚式の前日?
いや、前日は7月31日で、結婚式当日が8月1日か。
前日は、明日が結婚式で推しが他人のものになってしまうと考えるのが嫌でスルーしたと。
で、次の日が結婚式当日で、だけどそんなもん受け入れる気もなくて、その日がまだ来ないってことにしてるわけ?
それで今日は7月32日ってこと?
いやいやいや、じゃあ、推しはとっくに結婚してるじゃん。
……まだ7月32日だからしてない?
8月になってないからって?
おいおいおい、怖いって。
あのね、時間はお前の一存でどうにかなるもんじゃないんだよ。
だって今日は、8月の……あれ?何日だっけ?
いや、最近ずっとお前と一緒にいるからさ、俺も日付の感覚が無くなってきてるんだよな。
だけどもう、8月なんて終わってるんじゃないの?
蝉の声だって聞こえないし……え?今年は酷暑で蝉が鳴いてないだけ?
……そーかな?
でもなんか、だいぶ涼しくなってきてないか?
ほら、窓の向こうの公園の木々がさ、なんとなーく赤や黄色に色付いてる気がするんだよ。
もしかして……もう秋なんじゃないの?

確かあの、7月最後の日に、お前の家に遊びに来たんだよな。
あれからなんだかんだ引き止められて、スマホはバッテリー切れで充電させてくれないし、この部屋にはテレビもラジオもない。
おかげであの日からずっと、俺の中でも時が止まったまんまなんだよ。
食べるものも着替えもあるから、生活に何ら不便はないけど、よく考えたらコレ、どこから現れてるんだ?
お前、買い物にも行ってないだろ?
……ずっと同じ日だから新たに買う必要がない?
いやいやいや、そもそも7月32日なんて存在しないから。
もういい加減目を覚まそうぜ。
お前の推しはさ、今頃新婚の旦那さんと仲良く幸せに過ごしてるんだって。
認めろよ。先に進もうぜ。

ねえねえ、そもそもさ、なんで俺も一緒にこの部屋に閉じ込められてんの?
俺、関係ないじゃん。
……え?別に閉じ込めてなんかいない?
同じ日が続いてるからずっとここにいるだけ?
そんなわけ……あるか。
……今日のお昼、何食べたかって?
そりゃ、お前が作ってくれたパスタ……昨日?
昨日は確か……お前がパスタ作ってくれて……。
あれ?ずっとパスタ食べてる……。

えーと、俺はお前の妄想に巻き込まれてんの?
ずっと、推しがまだ結婚してない7月32日を繰り返す妄想?
んー、どうすればいいの?
お前をこの世から抹殺したら、この世界は消える?
俺、彼女だっているんだよ。
もう二度と会えないの?
勘弁してくれよ。
泣きそうだよ。


俺は黙ってカレンダーを灰皿の上に置いて、ライターで火をつけた。
俺が作ったカレンダーが燃える。燃え尽きる。
それを見つめながら、あいつに言った。
「お前に言われて目が覚めたよ。先に進まなきゃな。きっと推しの彼女だって新しい人生のスタートを切ってるんだ。俺とお前だけ同じ夏の日にいるわけにはいかないよな」
「おい……吹っ切ったのか?」
「ああ……聞こえるか?蝉が鳴き始めたぜ。夏の暑さが戻ってきたよ。8月1日が来るんだろうな」
「明日は……どうする?」
「そうだな。お前と海釣りにでも行きたいな。今夜は泊まって、明日付き合ってくんないか?」
「分かったよ。ちゃんと明日が真夏日だったらいいな」

お前やお前の彼女まで不幸にするわけにはいかないからな。
お前がいない日にもう一度、タイムリープを起こしてみるよ。
俺はさ、推しの彼女が誰のものでもない世界で、前に進みたいんだ。
これで最後かもしれないから、明日の海釣り、楽しもうぜ。

こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。

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