風まかせ文芸部 『遠い花火の音』
どこかで、打ち上げ花火の音がする。
かなり遠く、ともすれば気のせいと片付けてしまいそうだ。
「これは……?」
「ああ、一週間ほど前から聞こえるようになったんだ。誰かが何らかのサインを送ってるのかもしれないな」
「サイン……いったい誰に?」
「分からんよ。ただの自然現象かもしれんしな」
「世界中の火薬が使い果たされたと思う。花火なんてもう……」
「誰かが隠し持ってたのかもよ。世界の終わりに花火を楽しもうって」
「のんきだな。あんなデッカイ打ち上げ花火が世界中を飛び回ったのに」
「ホントの打ち上げ花火は街を破壊せんよ」
次の日の午後、花火の音を頼りに車で北へ向かう。
オンボロ車はガタゴトと、瓦礫の街を走ってゆく。
「なあ、お前の嫁さん、無事でいるかな?」
「……さあな。お前の子供達だって心配だよ」
「もしかしたらさ、あいつらはどこかにいて、それを俺達に知らせようと花火を打ち上げてるのかもしれないな」
「じゃあ、この行く先に妻や子供達がいると?」
「願望だよ。いつだって希望は持っていたいからな」
「希望……か。潰えたと思ったが、まだこんなところにあったんだな」
ガタゴトと走る車のエンジンが、そろそろ悲鳴を上げそうだ。
砂ぼこりが舞い、視界を奪ってゆく。
この世界は、誰もが望まない姿に変わり果てた。
「遅かったみたいだな」
打ち上げ花火の残骸。
「でもさ、ホントにここに誰かがいたみたいだ。それは、俺たちの家族かもしれない」
「違うかもしれない」
「それでも、進むしかないだろ。ここまで来たんなら、追い求めるのが俺達の人生だよ」
「あいつら、ずっと花火を打ち上げてくれるかな?」
「在庫があればいいな。今年の夏は暑かったからさ、花火の売れ行きがあんまり良くなかっただろ。きっと売れ残ってると思うんだ」
「じゃあ、俺達も花火を探そうか。ドンキとか探せばありそうだよな」
「なるほど。お互いに狼煙を上げれば、きっといつか会える気がする」
「ホントの煙じゃ、そこら中で上がってるから気付かれないけど、打ち上げ花火なら……」
「あいつらも同じこと考えたのかもしれないな。さすが俺の妻」
「俺の息子かもしれないだろ」
花火を求めて、オンボロ車をスタートさせた。
俺達は赤の他人。
たまたま、命からがら辿り着いた避難所で出会っただけの関係。
だけど、互いに大切な存在とはぐれ、悲嘆に暮れていたところを励まし合った。
その絆は、こんな時だからこそ強く、強固なものとなった。
普段なら、すれ違うだけ存在。
駅のホームで、街の路上で。
それが今、二人で必死に、打ち上げ花火を探してる。
家族には出会えないかもしれない。
ずっと彼と二人で生きていくことになるのかもしれない。
だが、それはそれで、人生を無駄に過ごしたとは思わないだろう。
ささやかな希望を抱いて、このオンボロ車を走らせてゆく。
エンジンの動く限り。燃料の続く限り。
花火の音は、互いに近付きつつある。
こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。
