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【読書】コールダー・ウォー: ドル覇権を崩壊させるプーチンの資源戦略 その2

出版情報

  • タイトル:コールダー・ウォー: ドル覇権を崩壊させるプーチンの資源戦略

  • 著者:マリン・カツサ

  • 翻訳: 渡辺 惣樹

  • 出版社:草思社

  • 発売日 ‏ : ‎ 2022/8/3

  • 文庫 ‏ : ‎ 376ページ

本記事は一連の『コールダー・ウォー』紹介記事のうち、その2である。下記は予定であり変更もありうる。

私たちはプーチンを知っているか?

 ウ露戦争で勝利しつつあるロシア。多分ウクライナの東部4州はロシアに割譲されることになるだろう(2025年9月記事筆者による予想)。

 そして日本は西側諸国と足並みをそろえてロシアに経済制裁をしている。またNATOとの軍事的な協力関係を深めている。つまり、日本は実質的に戦争に巻き込まれているのに、その自覚もなく敵であるはずのロシアについて、ほとんど何も知らないままでいる…という恐ろしい状態にいるのである(ったくもうっ、自公政権め〜)(いやいや政治家のせいにだけしていられない。つまり国民…少なくとも私の場合は自分の無関心さがこの事態を招いたという反省!?の上に立たないと、本当の意味で国益に叶う政治家を選ぶことすらできない…)。

 というわけで遅ればせながら、ロシア研究、プーチン研究の成果を学ぼうというわけで、本書 コールダー・ウォーを読み始めたわけだ。せっかくなので読書記録にこうしてまとめることにした。

 本記事はそのうちその2 プーチンの生い立ち&オリガルヒとの戦いである。

 ネタバレを好まない人は目次を貼るのでご希望の場所に飛んでください。よろしくお願いします。


プーチンの生い立ち

祖父の影響

 プーチンは1952年レニングラード(のちのサンクトペテルブルク)で生まれた。父は戦争の英雄(傷痍軍人)で、母は工場労働者だったという。でもお父さんもその後は工場労働者(wikiによると機械技師)だし、何と言っても暮らしていたのは19平米のアパートに6人暮らし!?だったというp94。当時だって極めて貧しかったのでは??トイレは屋外。東京の学生さんのアパートだってもう少し広いのでは!?どうだろ!?

小学生時代のプーチン少年
偏見かもだけど、お金持ちのお坊ちゃんには見えないよね
Kremlin.ru, CC 表示 4.0

 家族の中で誰がプーチンに影響を与えたか?お祖父さんだ。ヴォルガ地方の小作農の家に生まれたお祖父さんは都会に出て料理の腕を磨く。革命前にはあのラスプーチンから高額のチップをもらい、革命後には何とレーニンの住む家の料理人をしていた!そしてレーニンの死後、引き続きスターリンの料理人をした、と。レーニンとスターリンは不仲だった。お祖父さんは、よっぽど腕が良かったし、政治的な立ち回りもうまかったのだろう。周りの人々を粛清しまくったスターリンのそばにいて、スターリンよりも長生きしたp95。
 お祖父さんはプーチンロシアエリートの暮らし経験してきた数々の戦争や革命の話を聞かせたp94。そして諜報の重要性も。お祖父さん自身がKGBの前身である秘密警察NKVDで訓練を受けていた可能性もあるp96。プーチンが9年生(14-15歳)の頃、地元のKGB幹部にスパイとして働きたいと訴えたというエピソードもp98ある。こういうおじいさんがいたらもありなん、だよね。
 ともかく…プーチンは、お祖父さんの昔話からロシア政治の本質を学んだのだった。

スパイ時代

 その後もスパイ願望を持ち続け、少年青年時代は格闘技を習いp96、また近所の女性からドイツ語も習っていたというp97。さらにKGBに入るなら法律だ、ということで、当時潰しが効かないと思われていた法学部に進んだp98。見事KGBからコンタクトがあり1975年、22歳で正式職員となった。
 そして、その後16年間スパイとして活躍した。3度昇進したので「評価は高かったと思われる」p98。他人の心理を読む技術、他者を操縦する能力、暴力に動じない精神力。いずれもKGBにもロシア政治にも不可欠とされる能力だp98。
 ベルリンの壁崩壊時(1989年)、東ドイツにいたプーチンに、もはやモスクワからの指令は届かなくなった。プーチンは必要な後処理をして、ひそかにオフィスを後にしたp99(1990年)。

スパイ卒業後

 その後はサンクトペテルブルクに戻り、政界に入った。市長付きの外交アドバイザーだ(1991年)。1992年には副市長となり、外国企業誘致を行い外国からの投資の促進に努めた(wiki)。懇意の市長が選挙で敗れると、ロシア大統領府に抜擢されモスクワ政界に入る1996年)。
 本書によれば、ドイツを離れた後、まず大学に戻り、大学を終えて、それからサンクトペテルブルク政界に入っているp99。wikiによればすぐサ市の政界入りしている。それだと大学に戻るのと並行している感じなんだけど…。1年で終えたのかな?いやリアルな政治と並行しながら論文の執筆を進めたのかもしれない。
 いずれにしても論文の完成は1997年ロシア経済の復活は天然資源を軸とすべしという例のヤツだ(本一連の記事その1)。これには外国企業との付き合いからの知見が大いに活用されたに違いない。もちろんサンクトペテルブルクボーイズとの出会いもあったp99。

 プーチンの執務室にはピョートル大帝の肖像画が飾られている。プーチンに託されたロシアは経済的にも政治的にも混乱していた。ピョートル大帝が即位した頃のロシアと酷似していた。大帝はある種強引で暴君とも看做みなされたが、ロシアを世界の大国に変貌させた。プーチンは自分もピョートル大帝にあやかり成し遂げる!と決意しているp100-p101。

オリガルヒとの戦い

オリガルヒとは

 オリガルヒとはwikiによれば、下記のような定義で、要するにソ連崩壊によって生まれたロシアやウクライナの新興富裕層である。

ロシアウクライナなどソ連邦構成共和国資本主義化(主に国有企業民営化)の過程で形成された政治的影響力を有する新興財閥。少人数での支配、寡頭制を意味するギリシャ語 ὀλιγάρχης (oligárkhēs、英語:Oligarchy) にちなむ。

wiki "オリガルヒ"

 では、どうやって彼らは、その莫大な富を築いたのだろうか?

オリガルヒの誕生

 1990年代、ロシアは政治も経済も混乱していた。ベルリンの壁は崩壊し、プーチンは東ドイツからサンクトペテルブルクに戻り、エリツィンは西側の経済アドバイザーのいうままにロシア経済を解体させていった。成人男性の寿命が50代まで落ち込んだ。ロシア国民は90年代を屈辱の時代と感じている。
 そうした経済的混乱の中でも目先のく人々はいる。混乱に乗じるってヤツだ。典型的だったのは、西側のアドバイザーに言われるがまま、国営企業の株式を全国民に配ったときのこと(1992年)p39。それがロシアの民営化だった。株式がもらえるバウチャー(証票)を配られても、資本主義に慣れていない大多数の人々は意味がわからない。二束三文で買い集め、信じられないような安値で国営企業を次々に手中に収めていった。「これがきわめて少数の人間が脅威的な巨万の富と権力を」手にしたメカニズムだったp39。「国民の無知を利用して億万長者に変身した」p39-p40。これはプーチンがサンクトペテルブルクにいた頃だ。オリガルヒが成り上がるのをじっと見ていたに違いない。

国営企業の入手方法 その2

 バウチャーの大量買取が国営企業を手に入れる方法 その1とすれば、以下の方法は その2にあたる。

 まず、財政難なエイツィン政権に資金を貸す。そして担保には国営企業の株式を設定する。貸出金額の何倍も価値があるような、株式だ。予想通り返済不能となり、担保の株式は競売にかけられる。オリガルヒ自身の息のかかった銀行が落札できるように操作し、文字通り濡れ手で泡を掴むように、旨みのある優良国営企業を入手する。
 本書ではのちにプーチンと敵対することになるホドルコフスキーのユコスの逸話を紹介しているp40-p41。ユスコは優良な石油関連の国営企業だったが、民営化の過程で苦しんでいた。生産も落ち込み給料も遅配していた。生産性の高い油田を有し、採掘、生産、精製、輸送、販売までを垂直的に扱う大企業だった。上記の方法でユスコを入手し、ホドルコフスキーは数年で経営を軌道に乗せる。ロシア国内の20%の石油を賄うようになり、国内2番目の高額納税企業となった。

プーチンの基本姿勢

 プーチンは「周りが敵だらけだったスターリンとは違う」p64。プーチンは合理主義者で、権力や財力のある者の協力の重要性を理解している。プーチン流のルールに沿って行動する限り誰でもよいp64。

 「俺と一緒にやろう。そうすれば邪魔はしない。反対すれば必ず潰す」。

 ロシアを指導するのはプーチン、その人ただ一人。新興財閥はついてくればよいp64。それが嫌なら消えろ、と。おお怖っ!だが、ロシア国民は、こういう強権だが、国力を確実に上げてくれるプーチンが好きなのだ。90年代の屈辱は2度とごめんだ、なのである。 

プーチンと敵対したオリガルヒ

 上記のボドルコフスキーをプーチンと対立した典型的なオリガルヒだとすると、彼は…

  • プーチンを公然と批判した。

    • あちゃ、一番やっちゃイカンこと。

  • ロシアの将来像:西側と同様な民主主義自由主義経済大国p41

    • プーチンは政治が独裁国家でも構わない。ロシアが強国になるなら。

  • ロシア経済の軸:西側的なハイテク産業

    • プーチンは天然資源開発を経済の軸とした。

  • 外国企業との関わり:自分が儲かるのであればロシア国内で外国企業が力を持つのも構わない。

    • プーチンは外国企業とは協力するが国内での手綱は譲らない

  • 自分ファースト:いずれはロシアを出て西側でも資産を増やし資本家生活を満喫する。もちろん自社の子弟に育成・奨学金プログラムなどを用意したが。

    • プーチンにはロシアの安全保障、そして自身の政治的安定の確保のためにも国民を豊かにするべきと考えたp65。

オリガルヒとの戦い

 プーチンは、では、どのようにオリガルヒと戦ったのだろうか?

 ホドルコフスキーとは2003年、テレビで討論対決をした。全国民が番組を見た。ボ氏は公然とプーチンを批判したp48。二人の息を呑むやりとりはぜひ本書で読んでいただきたい。
 ただ結果として、

  • ホドルコフスキー

    • カリスマ性、国民にアピールする個性がなかった。

    • 甲高い声も心地よいものでなかった。

    • ユダヤ人であった(一般的にロシア人はユダヤ人が嫌いである)。

多分、討論自体の優劣は僅かにプーチンが優勢だったのかもしれないが、上記のことがマイナス点となり、全体としてスラブの戦士プーチンが勝利した。

 その後、プーチンは1発でホドルコフスキーを仕留める機会をうかがった。それまでのソ連の指導者のようにいきなりシベリア送りにすることはできなかった。民主主義国の指導者のイメージを壊してはならない。結局側近に当たる人物を逮捕してから本丸のホドルコフスキーを逮捕した。2003年10月、自家用ジェット機をFSBが急襲した。罪状は脱税、詐欺、文書偽造だったp51。叩けば埃が出るんだよ。なんでもありの90年代を潜り抜けてるんだから。
 そして未納分の税金の支払いを2日後に払えと要求し、払えないとなるとユスコ社の一番の子会社を競売にかけた。プーチンお気に入りの会社が入手。出来レースだよね。2005年には9年の実刑判決が下され、2013年末に釈放された。そしてドイツ経由でイギリスへ。2023年現在、事実上の亡命生活を送っているという。
 プーチン自身の資産は公開されていない。が破滅したオリガルヒたちの資産の大きな部分はプーチンの懐に入っていると見られている(約700億ドル。2015年当時で8兆4000億円)。が、オリガルヒたちへの悪感情とロシア人のユダヤ人嫌いからプーチン個人への批判はほぼない。

 プーチンに事実上の粛清されたオリガルヒもいれば、生き延びているオリガルヒもいる。上で「俺と一緒にやろう。そうすれば邪魔はしない。反対すれば必ず潰す」と書いた通りだ。2022年当時、ウクライナ侵攻が始まった時にも何人かのオリガルヒが不審死を遂げた。そういうこと!?怖っ💦。

今もグレートゲームは続いている

 本書によるとグレートゲームというのは、元々、中央アジアにおける英露の100年にわたる覇権争いを指すのだそうだ。現在、それは米露に変わっているp68。
 また著者によれば、世界貿易と世界の準備貨幣を支配するものが世界覇権を制するp69。
 「一般的にグレートゲームは領土問題と関連して理解されている。しかし同時に貨幣の戦いも進行していた。そして20世紀になるとエネルギー資源の覇権争いもこのゲームの重要なファクターとなった」p70。

 プーチンはこうしたこと全体を理解してグレートゲームを戦っている。「石油とリンクしたドル支配体制に挑戦しているのである」p71。

おわりに

 wiki "グレート・ゲーム"によれば、グレートゲームは何期にも別れているという。元々の100年にわたる覇権争いを1期とすると、我が日本は、図らずも日露戦争に勝ってしまい、2期では英国の用意した駒から主要プレーヤーとなってしまった。wikiによれば「ユーラシア大陸における英露対立は外交政策策定における大前提だった。しかし、その思考を固定化してしまったために、ソ連の出現と米国の台頭により複雑になってゆく状況に適合できないまま、最終的にはプレイヤーとしては“出場停止”処分となる」と大東亜戦争を総括している。この見方には「要出典」とあるので、ご参考まで、ということなのだろうが、ウクライナ戦争が、現代のグレート・ゲームの一環だとすれば、ウクライナの借金の肩代わりをしていると言われている現在(増税メガネさんが約束したようだ)、脇役ながら、重い負担を背負わされていると言わざるを得ないのだろう。


引用内、引用外に関わらず、太字、並字の区別は、本稿作者がつけました。
文中数字については、引用内、引用外に関わらず、漢数字、ローマ数字は、その時々で読みやすいと判断した方を本稿作者の判断で使用しています。
また、文言の間違い、表現のわかりやすさなど、随時訂正しています。ご了承ください

おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために

ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであればご参考までに。
 関連図書はあまり調べられなかった。つまり日本語の関連図書はあまりないってことのようだ。

ピョートル大帝

90年代のロシア

オリガルヒ:ホドルコフスキー

 現在はイギリスに事実上の亡命。

グレートゲーム

ペトロダラーからの脱却の萌芽

ペトロダラーシステムの終焉

ウクライナの天然資源とウ露戦争

米露アラスカ会談

その後の米ウEU会談

【詳しい解説も】米ウクライナ首脳会談 欧州各国首脳とも会合(NHK)

西洋の敗北

2025年9月に新刊が出るようだ

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