【読書】第三次世界大戦はもう始まっている
出版情報
タイトル:第三次世界大戦はもう始まっている
著者:エマニュエル・トッド
翻訳:大野 舞
出版社:文藝春秋
発売日 : 2022/6/17
新書 : 208ページ
少しずつ理解が進んで…
以前、エマニュエル・トッドの『西洋の敗北』を読んだけど、読書記事としてまとめられなかった。本書は同じような内容なのかもしれないけど、ずっと理解しやすいし、面白く感じた。基本的にインタビューだからかな?あるいは、話し言葉を翻訳したからかな?とにかく、すっと頭に入ってくる!!もちろん、ちょっと前に『トッド人類史入門 西洋の没落』を読み、読書記事を書いたことも大きいだろう。こうやって少しずつ理解が進んでいる。
ウクライナ戦争が始まって1ヶ月ほどで…
本書はウクライナ戦争が始まって1ヶ月ほどで、インタビューが行われている(2022年3月23日収録だとのこと)。
本書は日本で出版されただけだ。そして、日本の文藝春秋でのインタビュー記事が元になっている。その後、フランスでも同様の内容で、インタビューを受けたようだ。本書のアイディアをさらに充実させて『西洋の敗北』が執筆されたのでは!?つまりね、フランスも同調圧力が高く、EUなどの公式やフランス社会一般と違う意見は言いづらいし、受け入れづらいという土壌があるのかもしれない。
ロシアウオッチャーのトッドにとっては、この戦争やロシアの軍事侵攻は、予測できていたことだし、あっという間に執筆できたということなのだと思う。そして、フランスでの出版は最初から想定していなかった。フランスの読者には到底受け入れられない内容だと自覚していたからだろう。それをね、日本の出版社がどこより早く出版する。こういうことこそ、多様性だよね。日本は世界で一番、政府からのSNSの消し込み依頼が多い国で「報道の自由度」ランキングでは下位を低迷しているけど、国民性としては潜在的な懐の深さもあるんじゃないかな?って思っちゃう。どうだろう??
そもそもウクライナを国家とするには無理があった
トッドは「そもそもウクライナを国家とするには無理があった」という趣旨のことを述べている。ポーランドに近い西側エリアと、中央部、そして東部。それぞれが、宗教も、言語も、家族システムも違うのだ。
ウクライナには国家としてまとまる伝統はなかった。独立したのはソ連が崩壊してから。独立しても軍隊の再編成は米英の手助けななければできなかった。ソ連の軍事侵攻の前から、高等教育を受けた若者は外国へと流出していた。独立して30年経ってもウクライナには「独自の推進力」がなかったp49-p52。
著述家で、元予備校の歴史教師である宇山卓栄は、「プーチンは盛んにロシアとウクライナは一体だというが実質は違う」「ウ露は歴史観が違う」と述べている。でも、よく聴くと、宇山がウクライナと言っているのは現在のウクライナ国の中央部のことだ。トッドによるとウクライナ国中央部でウクライナ国を代表することはできないようだ。
とはいえ戦争当初から2年半も経っているので
とはいえ本書の出版当時から2年半も経っているので、その間にどんどん状況は変遷した。米国大統領はバイデンからトランプに変わり、ロシアははっきりと中国と手を組み、EUの主要国である独仏と英はなぜだか、戦争継続にこだわり、ウクライナの領土割譲は秒読み状態になっている。
つまり、この本で描かれた状況やそこから読み取れるものは、変更を余儀なくされているものもある。とはいえ、深い洞察に基づいた読みはまだ生きているものも多い。学ぶべきものも多いのだ。
例えば、2017年の時点で「EUは崩壊しかかっている」と2025年の現実を予言している。
というわけで、私の気持ちに残った部分を中心にピックアップしたり要約してみた。
ちょっと手抜き気味。すみません💦
本書の目次
ロシアによるウクライナ侵攻は2022年2月24日。ウクライナ侵攻から1ヶ月ほどでインタビューを受けている。目次を見ていただいて、わかるように、ロシアによるウクライナ侵攻後に受けたインタビューは日本の文芸春秋社によるものだけだ。
1. 第三次世界大戦はもう始まっている
2022年3月23日収録
初出『文藝春秋』2022年5月号に「日本核武装のすすめ」として一部掲載
2. 「ウクライナ問題」をつくったのはロシアではなくEUだ
原題 We Live in a World of Ailing Power
聞き手 マチェイ・ノーウィッキ Maciej Nowicki
初出 Aspen Review
2017年3月15日
3. 「ロシア恐怖症」は米国の衰退の現れだ
原題 La russophobie traduit la chute d'une Amerique brisee
初出 Elucid
2021年11月22日
4. 「ウクライナ戦争」の人類学
2022年4月20日収録、その後一部加筆
トッド自身が、本書の中で「ロシアのウクライナへの侵攻が始まって以来、自分の見解を公にするのは、これが初めてだ」と述べているp15。
自国フランスでは、取材をすべて断りました。…自国で自分の見解が冷静に受け止められる望みはなく、最初に取材を受けたのは、日本の新聞でした。
このように日本は、私にとって一種の”安全地帯”なのです。今回取材を受けたのも、『文藝春秋』という雑誌と読者を信頼しているからです。
以前に社会的に物議を醸した本を出版した経験から、今回も「世論全体を敵に回しかねない」「自国で自分の見解が冷静に受け止められる望みはない」と述べている。つまり、フランスも同調圧力や言論統制志向の高い社会だと述べている。そんな中、表現の自由度が低いと言われる日本が「安全地帯」だというトッド。不思議なねじれが起きている??
トッドの家族論
下記は『トッド人類史入門 西洋の没落』からの引用だ。 トッドは下記のように家族類型を分類している。絶対的核家族が一番原始的で、下に行くに従って、歴史的には後から出現したとのこと。驚いたことに、英米が絶対的核家族であり一番原始的で、日本やドイツは直系家族、中国やロシア、アラブやイラン、トルコなどの共同体家族の方が歴史的には後から出現し、後になるほど、女性の地位は低くなっていくのだという。
トッドによると、中国やロシアなど共同体家族の地域と共産主義や社会主義国が重なるのは、偶然ではないとのこと。もともと、父親による権威主義と、兄弟間での平等という素地があるからだ。

1. 第三次世界大戦はもう始まっている
「ミアシャイマーとほとんど同意見だが、一部違うのは…」
トッドは、この戦争を始めたのは、米英欧であり、原因はウクライナを武装化したことと述べている。そもそもウクライナには国家としてまとまる力はなかった。軍隊が持てたのも、米英の協力があったから。そんなことされたら、ロシアはたまったもんじゃないよね。ソ連崩壊時から、米英欧はNATOの東方拡大はしないと言い続けるかたわら、東欧諸国はEUやNATOに加盟し続け、現在ほとんどの東欧諸国はNATOに加盟しているという。もうロシアからしたら、「約束、破られまくってる!!」「安全保障ヤバすぎっしょ」。さらに2014年のマイダン革命はロシアのお尻に火をつける行為だった。ロシアによるクリミア併合はマイダン革命直後に行われている。マイダン革命にはビクトリア・ヌーランド米国務長官が大きく関わっていることが知られている。
フランスの識者であるトッドはいち早く、「この戦争はロシアの勝利で終わるだろう」と述べている。一方、米国 シカゴ大学のミアシャイマー教授も同様のことを述べている。「ロシアはアメリカやNATOよりも決然たる態度でこの戦争に望むので、いかなる犠牲を払ってでもロシアが勝利するだろう」と。ここに微妙な違いをトッドは見ている。「いやいや。米国もウクライナに深くのめり込む可能性がある」「米国の威信がかかっているからだ」。
そして、ウクライナとロシアの紛争を、そもそも「グローバルな問題」にしたのは米国だ。ウクライナを武装化し、事実上のNATOの加盟国としたので。そういう意味では、ウクライナ戦争によって、すでに第三次世界大戦は、始まっている、とトッドは述べている。他にも「ポーランドの動きに注目せよ」とか「GDPで国力は測れない」とか面白いトピックが目白押しだ。そうそう、「日本も核武装した方がいいよ?」という提言も。
ご興味のある方は、ぜひ、本書に直接当たってほしい。出版されて3年経った今も、議論は色褪せていない。
2. 「ウクライナ問題」をつくったのはロシアではなくEUだ
前章では主に、ウクライナ戦争における米国の責任を見ていたが、本章では「ウクライナ問題」におけるEUの責任に注目している。しかも、このインタビューは2017年になされている。もう、その頃から火種はあったのだ。それを煽る方向に物事が動いていった、ということだろう。
一番、心に残ったのは、以下の部分だ。長くなるが引用しよう。
ウクライナは独自の力学を持ち合わせていません。自力では近代化できない、まとまりを欠いた地域で、「近代化の波」は常に外からやってきました。
ウクライナがロシアの軌道から抜け出すには、他の大国の軌道に飛び乗るしかありません。しかし、それはどこの国なのか。
アメリカは遠すぎます。ヨーロッパは軍事大国ではないし、資金力も欠いています。仮に資金力があったとしても、ウクライナを衛星国とするための投資として、何十億ユーロも投入するつもりはないでしょう。
その結果、何が起きたか。EUの最近の行動が達成したことはただ一つ、ウクライナの崩壊を加速させたことです。ヨーロッパは、自由主義、資本主義、調和のとれた空間に別の国家を引き込むという、あのいつもの夢、意図をもって行動したのです。そして、もともと孵化する暇もないほど緊張状態にあった国家を破壊してしまったのです。
それから、下記も引用しておこう。ヨーロッパがいかにお花畑さんたちかを如実に物語っているように思ったので。それは2025年に米国抜きでも、是が非でもウクライナ戦争を継続させようというフォン・デア・ライエンたちEUの首脳のお花畑さと残酷さにも通じるところがある。
クリミア併合後、EUがプーチンを窮地に追い込むことで、プーチンとしても対応を強いられたのです。そして、EU側が、この戦いに敗れましたが、EUはプーチンだけが軍隊を持っていることに、事後になって初めて気づきました。
ヨーロッパは、軍事力を持たずに拡大政策を取るという、歴史的にも新しい、そしてあまりにも不条理なことを試みたわけです。彼らは自らの妄想を信じ込んで、「今の世界で意味をもつのは経済だけだ」という結論に至ったのでしょう。
3. 「ロシア恐怖症」は米国の衰退の現れだ
ちょっと複雑なロジックなので、上手くまとめられるかな??
トッドは、これは米国の「ロシア恐怖症」を説明するための、自分の「仮説」だと述べている。
ロシアと米国は真逆の精神システムを持っているp120-p121。
それは家族構造に根ざしている。
家族構造は、米国は絶対核家族で、ロシアは共同体家族。
米国の家族構造は自由で非平等。ロシアは兄弟間の平等とほぼ無制限の父親の強い権威。
一つは「自由」と「非平等」に基づき、もう一つは「権威」と「平等」に基づいている。
米国とロシアは世界規模で対立し合うと同時に、家族システム(精神システム)的には補完し合っていた。
米国はロシアを「成長」へと向かわせ、ロシアは米国を「平等」へと向かわせたp121。
1950年から1960年にかけて西側の先進諸国は「福祉国家」への方向に進んでいる。
時期はズレたが米ソは共に識字率が上がった。
「誰もが読み書きできる状態に達した」と社会が認識したとき、人々はお互いを対等な存在と捉える。「市民」という観点から物事を考えられるようになる。
ロシアは個人レベルの平等主義的文化を土台として、共産主義、全体主義へと変遷した。
米国は自由と非平等主義的な家族構造から、平等主義的文化が確立した。米国の民主主義は全体主義とは程遠かった。
一方、米国の平等は「白人」と「非白人」を区別することによって成り立つ平等だった。
ソ連の「全体主義的民主主義」と米国の「人種主義的民主主義」という2つのシステムが1945-1990年にかけて相互に作用しあったp122。
だが、米国の「人種主義的民主主義」は「万人の平等」を掲げることで、崩壊し、米国というシステムそのものも脅かしていく。
福祉国家的になるにつれ、経営者の利益率は低くなり、これに対抗すべく組織化した。
「万人の平等」に黒人も含めることで「米国のシステムは調子が狂った」p124。
経済的な不平等が抑えきれなくなり、社会保障制度は崩壊した。
「新自由主義」という革命が、人種主義の圧力から誕生した。
「黒人の解放」が「白人の集団感情」を打ち砕いた。
→(もうここら辺になると、私には???)
→(単に、理想主義は捨てて、エゴ丸出しの今だけカネだけ自分だけ、に走ったって、だけじゃないの??って思っちゃう)
「新自由主義ナショナリズム」が国内産業、労働者階級、社会保障制度を破壊し、生活水準を低下させ、平均寿命を押し下げた。
→(いや新自由主義はグローバリズムであり、ナショナリズムにはなり得ないでしょ?と思うのだが…米英欧トップが国是??としてしがみついているという意味では「新自由主義ナショナリズム」なのかな??)
この要因の一端は、ロシアから受けたプレッシャーにあった。
一つは共産主義からくる平等へのプレッシャー
もう一つはベトナム戦争の敗北
おカネで懐柔しても、戦争に勝つことはできないってことだよね。
というわけで、トッドは、冷戦はソ連を崩壊させただけではなく、米国をも崩壊させたのだ、と論じている。
私には、論理の飛躍があるように感じるが、よく読めば、そうではないのかもしれない。ご興味があれば、ぜひご自身で読んでみてください。
4. 「ウクライナ戦争」の人類学
現在の米英での不平等の広がりは、そもそも米英の家族システム(絶対核家族)には、兄弟間の「平等」という価値観は組み込まれていないという家族構造に由来している、とトッドはいうp168。
2022年6月時点でのウクライナ戦争は、米露戦争であり、人類学的に見れば「リベラル寡頭制陣営VS権威的民主主義陣営」の戦いとみなすこともできる、というのが、トッドの見解だ。EUやバイデン政権の米国はまさに民主主義とは名ばかりの「リベラル寡頭制」であり、全体主義だろう、今の私には権威主義的民主主義と全体主義の区別はつかない。だが、プーチン氏のロシアは、全体主義国家であったソ連とは別物で、あることは理解できる。権威主義に基づいてもいるんだろう。だが、それがどのくらい言論の自由があり、監視が軽減されているのか、はっきりとは、わからない。民主主義と呼んでいいものなのか、やっぱりわからない。米国の金権政治っぷりを見ると、やっぱり民主主義って?とも思うのだが。
真の経済力は「エンジニア」で測られるなどにも面白いトピックが満載だ。
おわりに
ところどころ、あれれれ??とついていけない部分もあるが、概ね面白く読めた。データもまだまだ参考になる部分も多いと思う。ご興味を持った方はぜひぜひ、書店へGO!!
そろそろ停戦も近いと言われるウクライナ戦争。次は東アジア??変な巻き込まれ方しないように、日本も気をつけないと…。
よき来年2026年を願わずにはいられない。
引用内、引用外に関わらず、太字、並字の区別は、本稿作者がつけました。
文中数字については、引用内、引用外に関わらず、漢数字、ローマ数字は、その時々で読みやすいと判断した方を本稿作者の判断で使用しています。
また、文言の間違い、表現のわかりやすさなど、随時訂正しています。ご了承ください
おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために
ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであればご参考までに。
エマニュエル・トッドの本
下記はトッドの原点の著作だそうです。
下記は日本の読者のためだけに語りおろした本。
お。表現者クライテリオンの面々と討論してる!?ちょっと古いけど。2015年出版。
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