【読書】トッド人類史入門 西洋の没落
出版情報
タイトル:トッド人類史入門 西洋の没落
著者:エマニュエル・トッド , 片山 杜秀, 佐藤 優
出版社:文藝春秋
発売日 : 2023/3/17
新書 : 208ページ
なんで借りたんだっけ??…
なんでこの本に興味を持ったのか、忘れてしまった〜💦
あ、思い出した。シュペングラーの『西洋の没落 I・II』を読むにあたって、本書の副題に西洋の没落とあったので、手に取ってみたのだった。
結果として、すごくよかった。今の私には適切だった。エマニュエル・トッドの著作は以前『西洋の敗北』を読んだけど、読書記事としてまとめられなかった。難し過ぎたのかな?いや、そうじゃなくって、敗北の理由に今一つ納得できなかった。じゃあ「納得できない」理由を記事にすれば、よかった、のだけど、それもできなかった💦まあ、つまり、やっぱり、難し過ぎたのかな??💦
この本は、超わかりやすかったYO
トッドの集大成と言ってよい『我々はどこから来て、今どこにいるのか?上・下』の本人や識者たちによる解説本という位置付けだからだろう。さらに本書は基本的には対談集だ。著者であるトッド自身のインタビュー、片山 杜秀、佐藤 優 両氏の対談などによって構成されている。肩の力を抜いて、気の置けないもの同士、ざっくばらんに、語り合う。それがさりげなく解説本になっている。秀逸!!
しかもですよ、翻訳や通訳をしているのは、堀茂樹ですよ。左派の考え方を持つ人が多いと言われる大学教授(慶大名誉教授)でありながら参政党の政策に共感し支持しているという。
近代=グローバリズムを乗り越える流れの中で
すこ〜しばかり、真面目に。
下記はざっくりとした私の近代評(ざっくりし過ぎ!?)とトッドの著作の立ち位置について。
近代は技術革新によって生活を激変させた。便利とおカネが正義。中間共同体を破壊し、宗教的な結びつきや宗教心も破壊し、個々の人々がバラバラに集まっているのが社会であるとしてきた。近代=グローバリズムといってもいいのかもしれない。
だが本当のところ、近代=グローバリズムによってそこに生きる人々は絶望や孤独を感じ、また、近代=グローバリズムは民意を吸い上げる装置としての民主主義をも壊しにかかっている(EUなどの地域全体主義、あるいはビックテックなど大企業寡占による企業全体主義など)。
一方で近代=グローバリズムを乗り越える試みもあちこちで始まっている。政治的には、いわゆる右派ポピュリズムの台頭であり、国際的にはBRICSなどの台頭であり、思想・哲学的には、伝統回帰=伝統から新しいものを掘り起こそうという流れと、ロシアのドゥーギンなどのいわゆる西欧から離れたところから現れるものとがありそうだ。
その流れの中にあるのが、エマニュエル・トッドの家族論に基づく文化人類学的考察であり、堀茂樹のいう国民共同体ではないのか?
ユダヤ系フランス人で日本に恋した文化人類学者…
エマニュエル・トッドはユダヤ系フランス人で文化人類学者。しかも日本に恋している…あれ?そういう人、いたよね?そう、レヴィ=ストロースだ。レヴィ=ストロースとの立場の違いも、本書で述べられている。よかったら、お手に取ってみてください。
というわけで、私が、面白い、と思った部分をただただ抽出していくという記事です。もしかしたら少しの感想も書くかも、だけど…。
ちょっと手抜き気味。すみません💦
本書の目次
1 . 日本から「家族」が消滅する日: E・トッド(インタビュー)
「家族」の重視が少子化を招く
2. ウクライナ戦争と西洋の没落: E・トッド+片山杜秀+佐藤優
「露と独(欧州)の分断」こそが米国の狙いだ
3 . トッドと日本人と人類の謎: 片山杜秀+佐藤優
「西洋人」は「未開人」である
4 . 水戸で世界と日本を考える: E・トッド(インタビュー)
日本に恋してしまった
5 . 第三次世界大戦が始まった: E・トッド(インタビュー)
弱体化する米国が同盟国への支配を強めている
面白いのは、トッドの著作の一部は、祖国フランスより早く、日本で発売されていることだ。また、祖国フランスや各国語に訳されていても、長く英語版のない本もあるという。
つまりね、言論の自由といいながら、「需要がない」という商業的な言い訳で、潜在的な需要を喚起しようとしない。ステルス言論統制が行われているということではないのだろうか?こういう事例を見るだけで、近代のお手本としての西洋は確かに敗北し没落しつつあるように思えてしまう。
トッドの家族論
エマニュエル・トッドは文化人類学者ではあるが、フィールドワークをおこなうタイプの文化人類学者ではない。統計資料などをもとに考察を行うのだという。フランスの国立人口学研究所に2017年まで勤務していたが、いつからは、わからなかった。でも、だいぶ長い間、勤めていたのでは、と推測される。

トッドの研究によると、上図の家族類型の上の方が原始的で、下の方が人類史的には後から出現した家族形態であるという。つまり、核家族は原始的で共同体家族は歴史的に新しい。そして家族の歴史から見ると女性の地位は時代が進むにつれ低下していった、と。
人類は狩猟採取民から、定住農耕社会へと移行し、「農耕の発明から6000年後に「原初の核家族とは異なる家族形態」が出現した」。その時に「シュメールで「長子相続制」が生まれた」。そこから今日まで、5000年間かけて、男性や父兄の権力が強まり、女性や母系の地位は低下していった、とp20-p21。
概ね核家族→直系家族→共同体家族という形で「進化」し、その過程で、男性や父兄の権力が強まり、女性や母系の地位は低下していったのです。
ユーラシア大陸には、「家族システムの先進地域」が二つありました。メソポタミアと中国です。いずれも農業、文字、都市、国家が誕生した文明の発祥地で、そこで生じた「女性の地位の低下」は、それ自体が当時の「先進的な革新」だったのです。
こうしたユーラシアの「中心部」に対し、「周縁部」では、原初のホモ・サピエンスの核家族に近い家族形態が残存しました。ヨーロッパ、アメリカ、東南アジアなど、メソポタミアや中国から遠い地域ほど、古い家族形態が残ったわけです。これは、中心から遠いところに古い方言が残るのと同じで、最も古い形態が周縁部に生き残るという「終焉地域の保守性原則」に則っています。
そのほか、刺激的な議論がさまざまになされている。ご興味のある方はぜひ、書店へGO!!
それから、姉妹版として『彼女たちはどこから来て、今どこにいるのか?』という本がフランスでは出版され、日本語版も近日出版予定だという。それも楽しみだ。期待したい。
(ちょっとばかり補足だけど、このトッドの家族論は、もしかしたら、今後、だいぶ変わってくることもあるのでは、と個人的には思っている。というのも、現在の古代文明に関する知見は、海洋交流に関する比重が相当に低く抑えられている気がするのだ(あくまで素人の推測)。かなり古い時代(3-4万年前)から海洋交流がなされていたことに基づく発掘調査や再評価、研究が進むのでは、ナーンて思っている)(余計なことかもね、スミマセン💦)。
印象に残った箇所
印象に残った箇所は、主に4 . 水戸で世界と日本を考えると5 . 第三次世界大戦が始まったからピックアップした。やっぱり、美しいものを見たり(水戸の藩校 弘道館の美しい建築)、気の置けない仲間(案内したのは片山杜秀だそうだ)とのおしゃべりでリラックスし、インタビューも充実した、ということだろうか?通訳は堀茂樹だし。早速みてみよう。
いち早くソ連の崩壊を予言、しかもロシア語はできないのに
その予言は書籍『最後の転落-ソ連崩壊のシナリオ』として出版されている。ロシアに行ったこともないのだという。ロシア人も同じ人類であり、「人口動態から歴史の動きを捉えられるはず」との確信があったp164。
誰もが閲覧できる国連統計において、ソ連の乳幼児死亡率が1971年から1974年まで急上昇し、1975年に至っては数値が公表されていませんでした。私は「ソ連内部で何かが起きている」と確信しました。そして「今後、10年、20年、もしくは30年以内にソ連は崩壊する」と、1976年の時点で主張したのです。
すげ〜。
「社会」は、肉眼で見ただけで「見える」ものではありません。…とくに「歴史的に動いている社会」は、肉眼では見えません。敢えて言えば、「歴史的現実は目に見えない」というのが、私の歴史家としての確信です。
上流階層より庶民層の方が、男女関係がより対等
東日本大震災の後しばらくして、トッドは日本人ジャーナリストと東北を旅して回る。取材ではなく、被災した人々に対して思いを寄せるためだった。
南相馬で漁師さんや床屋さんとやりとりをした時のこと…直ちに見て取ったのは、社会の上流階層よりも庶民層の方が、夫婦関係、男女関係がより対等だということです。これは、およそ世界のどこでも共通することです。
知らなかった。日本人でありながら。私自身すっかりプロパガンダに侵されている。
「共時的分析」と「通時的分析」の総合
トッドの『我々はどこから来て、今どこにいるのか?上・下』は「共時的分析」と「通時的分析」を総合した集大成だというp168。
一つは、世界各地に多様な家族構造があり、それぞれが特定の政治イデオロギーに対応している、という「共時的分析」です。もう一つは、それぞれの家族構造がどのような変遷を辿ったか、という「通時的分析」です。
この二つを総合して、世界全体を対象としながら、ホモ・サピエンスの誕生から今日までを通史として鳥瞰したのが、この本です。
この本が古びないであろうことには、下記のような理由があるという。
表層の事件に目を奪われるのではなく、社会の深層でゆっくりと動いている「長期持続…」に着目する歴史研究だからだと思います。
何もしない重要性
ここで最悪なのは、「混迷する現状」を打開する「解決策」として、戦争や紛争にコミットすることです。…無意識のうちに、「戦争」が、方向性を見失った人々の人生に「意味」を与えかねないことです。
立ち止まって、考える時間を持つべきであるという。そうだよね…。今のところ、日本は冷静に対処しているように思うのだが…。あゆや張本智和選手はえらいと思う。それからロックオンされた自衛隊パイロットや覚醒したと言われるシンジローも(と私は思うのだが、どうだろう??)。
核武装のススメ
人口学者はそろって「中国は決して覇権国にはならない」と言っているという。もちろんトッドも。とはいえ、強大化している中国はまるっきり無視することもできない。
まず「安全」を確保しなければ、「考える時間」を確保できません。そのため「日本の核武装」を改めて提案します。
ほほう。
「核武装」こそ、「軍拡競争」から身を引くための手段、「平和」と「安全」と「考える時間」を確保するための手段なのです。さらには、米国の無思慮な行動によって「必要のない戦争」に巻き込まれることを防ぐ手段、対米依存から脱却して、「独立国家としての自立性」を確保するための手段ともなるのです。
核兵器を持つのは相当な覚悟がいる。それから胆力もね。だから安易に「核兵器を持とう」というのには抵抗がある。だけど状況はかなり切羽詰まってもいるような気もするのだ。少なくとも、抑止力としての核について、もっと活発に議論ぐらいはする必要があるのではないか?私自身はそんなふうに思っている。
『第三次世界大戦はもう始まっている』を日本で出版した理由
そう。『第三次世界大戦はもう始まっている』は祖国フランスではなく、日本で発売された。その理由をトッド本人は下記のように分析している。本人の自分評が面白いよね。
日本での私の扱いは、フランスにおけるのとまったく異なっています。ここフランスでは「反逆的な破壊者」という汚名を着せられていますが、日本では、人類学者、歴史家、地政学者として尊重されています。ほぼすべての主要な新聞や雑誌で発言する機会があり、著作のほぼすべてが翻訳されています。ですから、落ち着いた雰囲気のなかで自分の意見を自由に表現できるのです。
フランスではちょっとキワモノ扱いなのかな??
おわりに
というわけで、とても楽しく、簡単に読むことができました!
そうそう。『第三次世界大戦はもう始まっている』には、米国の政治学者ミア・シャイマーとの意見の同意点と相違点がけっこう詳細に述べられているようだ。米国と欧州の学者の視点。気になりました〜。
もし、ご興味が湧いたら、ぜひ、書店へGO!直接手に取ってみてください〜!!
引用内、引用外に関わらず、太字、並字の区別は、本稿作者がつけました。
文中数字については、引用内、引用外に関わらず、漢数字、ローマ数字は、その時々で読みやすいと判断した方を本稿作者の判断で使用しています。
また、文言の間違い、表現のわかりやすさなど、随時訂正しています。ご了承ください
おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために
ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであればご参考までに。
エマニュエル・トッドの本
下記はトッドの原点の著作だそうです。
下記は日本の読者のためだけに語りおろした本。
お。表現者クライテリオンの面々と討論してる!?ちょっと古いけど。2015年出版。
堀茂樹と参政党
これって、トッドが家族論の観点から、グローバリズムやヨーロッパを批判していなければ、あり得なかった対談だと思うので。
レヴィ=ストロース
日本に恋したレヴィ=ストロース。
シュペングラー
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