[奮闘するパパ,揺れるパパ 第9回]父親の母親化? ~授乳以外は何でもできるパパがいい?~
こちらの記事は,『チャイルドヘルス2023年9月号』に掲載されたものです.

はじめに
『チャイルドヘルス』は,子どもの保健と育児を支援する専門誌として,毎号,子どもにかかわる専門職の皆さんに役立つ情報をお届けしています。
本誌の2023年1~12月(26巻1~12号)にて,連載「奮闘するパパ,揺れるパパ」をご執筆いただいた渡邊先生は,産後ヘルパーの会社を運営されています。このほか,マタニティ夫婦向け講座の「両親学級」の講師を務められたり,男性育児に関する書籍を多数出版されたりするなど,幅広くご活躍されています。
子育ては夫婦で協力してするもの,ということは一般的になりつつあるいま,子育てを頑張りたい父親も増えています。
しかしその際, 世間にはびこる「性別役割分業」「子育て神話」などに戸惑う方も少なくありません。
そんな迷える父親にどのように向き合っていったら よいのでしょうか?
渡邊先生が紹介してくださる事例をみながら,一緒に考えていきましょう!
※この記事の著作権は株式会社診断と治療社に帰属しており,無断での転載は禁止されています。
【渡邊大地先生 プロフィール】
株式会社アイナロハ代表取締役。札幌市立大学看護学部助産学専攻課程非 常勤講師。1980 年,北海道札幌市生まれ。産婦人科や自治体などで産前産後の夫婦向けの両親学級,ワークショップを実施。受講者は累計 2 万人を超える。『産後が始まった!』(カドカワ,2014),『ワタナベダイチ式!両親学級のつくり方』(医学書院,2019)ほか著書多数。
子育て世代からよくあがるパパの戸惑いエピソードを紹介しつつ,現場でそれにどう向き合っていくべきかを考えるコーナーです。
今回は,少し前に世間をにぎわせた「父親の母親化」について考えてみたいと思います。
自称イクメンブームからの,「やって当たり前だ」
数年前に「父親の母親化」がメディアでよく議論されていたのを覚えているでしょうか。
家事育児は男女で分担してやるべき,という風潮が過熱して,「父親は母親と同じ家事育児スキルを身につけるべきだ」という論調になったものです。
この風潮の発端が何だったかはわかりませんが,この直前に,「イクメン」がブームのようになり,「男子イクメンに非ずんば,人に非ず」のような SNS発信が多く見受けられたのは記憶にありますし,いわゆる「自称イクメン」が乱立したのもよく覚えています。
「イクメンブログ」と称していかに自分が育児をやっているかを日記風にアピールしたり,「パパの手作りごはん」のような料理写真を頻繁にアップしたり。

そんな状況が一通り加熱した後に,「父親の母親化」が叫ばれるようになり,まあ早い話が「やって当たり前だ。いちいちアピールするな」という意見や,「母親は毎晩ごはんを SNS にアップしてないだろ」という声,「イクメンを自称している時点で育児のいいとこ取りしているだけだ」などなど自称イクメンへの風当たりが強くなりました。
おそらく,そんななかから出てきた「父親は母親と同じ家事育児スキルを身につけるべきだ」論調だったのだろうと思います。
論調が変わると,ちゃんと敏感なパパたちはそれについてくるもので,今度は「オレは授乳以外は何でもできる」「授乳さえできればママと変わらないのに」とアピールするパパたちが現れ始めました(笑)。
皆さんは,どう思われますか?
父親も母親も,まったく同じ家事育児スキルをもつべきだと思いますか?
専門職が陥りがちな「父親の母親化」
私は,助産師さんや保健師さんなど両親学級をしている(したいと思っている)専門職向けの「両親学級の始め方講座」もしていて,そのなかで,そのときどきのパパを取り巻く風潮について意見交換をします。
このときも, 早速「父親の母親化」をテーマにして意見を募りました。
そうしたら,予想以上に多くの方が「父親の母親化」肯定派だったんですね。
つまり,「授乳以外はすべて母親と同レベルにできてこそ父親として認めよう」という ことです。
もちろん,「共働き家庭が多い現代ではそれ が理想だと思うが,父親には父親の,母親には母親にし かできないことがあるんじゃないか」という声もあがり ました。
ですが,それは少数でした。
では,父親は母親と同レベルの家事育児スキルをもつべきだとして,現状おそらく多くの家庭がそうはなっていないはずです。
そんなパパたちは,どう評価したらよいでしょうか。
専門職で「パパへのかかわりを強めたい」と考える方々 は一様に思いが強いので,ついつい「こうでなければならない」「これ以下は認めない」という高いハードルを設 定しがちです。
将来的にそこをめざして,自分が責任を もってそんなパパを増やしていく! ということなら心強いのですが,えてして「今,こうでなければならない」と思ってしまうものです。
そうすると,そのハードルを越えられずに足踏みしてしまう家庭があふれ,それらをすべて否定することになりかねません。
皆さんご存知のとおり,家事育児の分担は家庭によって千差万別です。
夫の非協力に不満をもっているママももちろんいますし,夫がだれの目にも頑張っているのに妻だけは不満に思っていることもあります。
なかには, 夫は外で稼いできてくれさえすればいいという家庭もあり,そういう場合は家事育児をほぼしない夫でも感謝されていたりします。
夫婦の考え方によって,正解は一つではないということです。
そこを支援者側が強制するのは間違っていますよね。
授乳は「授乳だけ」ではない
ただ,パパにもモノ申してよい点があります。
「オレは授乳以外は何でもできる」という人に対して,それは必ずしも授乳以外「何でも」にはなっていないだろう, ということです。
というのも,母親にとって授乳は,単に母乳を作って与えるという行為だけでなく,授乳を取り巻くさまざまな悩みやストレスも抱えるということですよね。
それを,「1 日に数回子どもにおっぱいをくわえさせる作業」と思っているなら,それは甘すぎです。
街中で見知らぬおばあちゃんから「ちゃんと母乳で育ててるの?」と尋ねられたり,「おっぱいで育てたいならお餅をたくさん食べなさい」と謎のアドバイスをされたり,「1 歳にしては小さいんじゃない? おっぱいの栄養が足りないわよ」といらぬ心配をされたり。実母や義母も授乳に関しては一家言もっていますよね。

授乳に対する他人様からのアドバイスって,男性にとっては「あなた,収入が低いんじゃない?」「そんなんじゃ,ヒモだと思われるわよ」くらいのダメージがあるという話を聞いたことがあります。
そんなストレスとママは日々戦っています。
授乳とは,そういう周囲のもやもやを含んだ育児ですから,そういうものと無縁なわれわれ男性陣が気安く「オレは授乳以外は何でもできる」などと言うべきではありません。
パパにアプローチしようとすると,つい「パパ単独」で何をすべきかを考えてしまいがちですが,パパは1 人で育児をしているわけではありません。
パパの隣にはママがいて,その周りを取り巻く人もいて,家庭ごとにさ まざまな考えで子育てに奮闘しています。
そのなかで, パパがどのような活躍をすべきかに思いを馳せてアドバ イスしてもらえたらと思います。
本連載では,皆さんからの「こんな状況のパパとのかかわりに悩んでいる」という声を求めています。現場の悩みを教えてくださいね。
おわりに
連載第9回目の記事,いかがでしたでしょうか?
次回もどうぞお楽しみに!
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