見出し画像

第2章⑬ 主人が初めて「愛してる」と言った日

入院して3ヶ月。
主人も私達もすっかりこの生活に慣れていった。


抗がん剤治療を続けていたある日、主治医から声をかけられた。


「検査結果について、お話があります」


また、あの話し合いの時間だった。


静かな診察室で、主治医がゆっくりと口を開く。


「安定していた腫瘍マーカーが、上がり始めています」


一瞬、時間が止まった。


言葉が出ない。


すると主治医は続けた。


「今までとは違う抗がん剤に変更して治療を進めたいと思います」



「……お願いします」



そう答えるしかなかった。


生きるためには、前へ進むしかない。


診察室を出たあと、主人が私を見て言った。


「家族3人で過ごしたい。」


「早く家に帰りたい。」


その目は、不思議なくらい真っ直ぐだった。


病気に負けた人の目ではなかった。


希望を諦めていない人の目だった。


帰り際、主人に初めて言われた。


「愛してる」


その一言で、胸がいっぱいになった。


嬉しくて、顔が熱くなっているのが自分でも分かった。
#シングルマザー #過去 #エッセイ#実話#家族#癌
#創作大賞 #オールカテゴリー部門

いいなと思ったら応援しよう!

sachi いただいたチップは、皆さまに物語を届け続けるための活動費として、大切に使わせていただきます。