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第2章 ⑫ 「1人にしてほしい」——夜に届いたメールに泣いた日

次の日には主人は元の病院生活に戻り、私と娘もいつもの日常に戻った。

感染を避けるために家と公園と近所のスーパーを繰り返す毎日が続いた。

そんな穏やかで、でもどこか張り詰めた日々だった。

抗がん剤の2クール目が始まると、また吐き気と倦怠感と便秘が主人を苦しめた。
それでも彼は私に八つ当たりすることもなく、ただ静かに耐えていた。

そのことが、余計に辛かった。

心のどこかで思っていた。
もっと辛いって言っていいのに、と。
私は頼りにならないのかな、と。

付き合って11ヶ月で結婚して、結婚から1年4ヶ月で癌がわかった。

連れ添ってまだ浅いから、言いたいことを遠慮しているのかもしれない。

そんなふうに勝手に考えて、一人でがっかりしていた。

お見舞いに行ったある日、主人がこう言った。

「毎日大変だと思うから、明日からは毎日来なくていいよ」

「大丈夫だよ。娘も夜泣きしないし眠れてるから」

「いいから。1人にしてほしい」

どうしたらいいかわからないまま、その日は帰宅した。

夜、主人からメールが届いた。

「さっきはごめん」

「髪は抜け落ちてツルツルになって、自分の姿が自分じゃないみたいで情けなくて」

「八つ当たりして、ごめん」

読んで、涙が出た。

主人はいつもスーツの似合う、身だしなみのきちんとした人だった。

髪がボサボサな姿なんて一度も見たことがなかった。

だから、髪を失い毎日病衣で過ごすことが、どれほど彼のプライドを傷つけていたか。

気づいてあげられなかった自分が情けなかった。

「私こそ、何も気づいてあげられなくてごめんね。ダメな妻だね」

「これからは何でも伝えられる夫婦になろう」

その言葉をもらって、夫婦の仲が少し深まった気がして嬉しかった。

抗がん剤は、大切な人の身体だけではなく、心も少しずつ傷つけていく。

だからこそ、言葉にすることの大切さを、私はこの時初めて知ったのかもしれない。
#エッセイ #実話 #家族 #がん #夫婦 #生きる
#創作大賞 #オールカテゴリー部門

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