私の推し歌💖5 郷愁と優しさ香るダンディズム ~新沼謙治さんの世界~
久しぶりの更新となる「推し歌シリーズ」は、今年デビュー50周年の佳節を迎えられた、新沼謙治さんの作品紹介・魅力解説をお届けしようと思います。
新沼謙治さんのヒット曲・代表曲といえば、なんと言っても「嫁に来ないか」「津軽恋女」「おもいで岬」などが挙げられると思いますが、本シリーズではできるだけ ”隠れ名曲” に光を当てつつ、私自身の感性のアンテナが強く反応した作品中心に、ピックアップしたいと考えております。
(時々、「その歌手ならこんな歌もありますよ」と有名な歌をご連絡くださる方も見えますが、私なりにその都度、選曲基準を設けて執筆しております。)
そのため、アルバムにしか収録されていなかったり、ネット検索しても歌詞や作家名などの詳細情報がなかなか見つからない、かなりマニアックな作品も含まれていたりしますが、「この作家さんがこんな作品を書いていたのか……」といった発見も含めて、懐メロファン、演歌・歌謡曲ファンの皆様にお楽しみいただければ幸いです。
また、今年は梅雨シーズンに合わせた歌曲特集を展開してこなかったので、今回の新沼謙治さんの特集は、今の季節に寄り添う作品を多めに選出しました。
その点も併せて味わっていただけたら嬉しいです😊
①風列車
作詞:幸田 りえ
作曲:徳久 広司
編曲:石倉 重信
まずは、新沼謙治さんのさりげない優しさ・明るさが光るダンディズム、そして郷愁が沁みる歌の中から、この作品をお届けしたい(2008年6月18日発売、48枚目シングル)。
岩手県大船渡市出身の新沼謙治さんの歌は、やはり雪深い北国を舞台とした心の触れ合いや葛藤を描く物語が圧倒的に多いが、どの歌も彼の素朴で温かな声によって、明るい陽の光が射し込む作品世界に仕上がっている。
この歌はとりわけ、時代や世代を超えて愛される普遍的なテーマ── 愛する人に一度は背を向けた主人公が、再び北国行きの列車で迎えに行く物語を描いている。
主人公の胸の高鳴りや緊張感は、列車の速度や汽笛などになぞらえられてきた。
加えて、木枯らしや吹雪といった自然現象もまた、人の心の揺れを映す鏡として日本の歌には欠かせない、重要なエッセンス。
ぜひ、この歌を通じて ”日本的情緒の良さ” に浸っていただきたい。
②さよなら橋
作詞・作曲:大倉 百人
編曲:片岡裕雅
29枚目シングル、1988年6月1日発売。
人生に幾度となく訪れるさまざまな別れのシーン。
その胸がギュッと締め付けられるような苦しみの時間を、優しく慰め、癒してくれるソフトな応援歌として、私はこの曲を推したい。
新沼謙治さんの明るい歌声は、どんなにせつないストーリーも、過度に感情を込めることなく、肩の力が抜けた”素朴な語り”を生み出す才能に満ちている。
だからこそ、「歩いて行くがいい/歩いて行けばいい」といったフレーズが押しつけがましさのない、軽やかな誓い・決意の言葉として伝わってくる。
ちょうど今年の梅雨は連日の長雨で、そこに台風も数多く接近してくるという、まるで ”空の号泣が止まらないようなお天気” が続いている。
そんな時は私たち人間も、多かれ少なかれ身体や心に不調を抱えがち。
しかし、わざわざそんな時に、つらい決断を無理に下そうとする必要などない。
空の涙(雨)がいつか必ず止むように、人の心に流れる涙雨も、暴風も、やがて自然に静まる時が訪れる。
そんな気付きと共に、そっと優しい風を心に届けてくれる「さよなら橋」。
誰かの心の雨をそっと止めてくれるこの尊い歌が、時代を超えてこれからも受け継がれていくことを切に願う。
③雨やどり
作詞:仁井谷 俊也
作曲:中島 慎二
編曲:前田 俊明
こちらは「さよなら橋」のカップリング曲。
これまた新沼謙治さん特有の、ほのぼのとした明るさ・力強さが、泣いている人の背中をそっと優しく撫でてくれるような、「癒しの一曲」。
今の季節(連日雨続きの梅雨)だからこそ、お疲れモードの方々にはぜひ聴いていただきたい。
この歌にも「さよなら橋」の歌詞とリンクする、「悲しみに 降る雨も もうすぐ あがるだろう」というフレーズがある。
私自身の話になるが、一年近く前に大切な心友が病に倒れて連絡がつかなくなってからというもの、心の中にゲリラ豪雨のような雨が降ってくる日々が続いた。
「もうそろそろ、泣かない私にならなければ……」と思っても、かけがえのない人と連絡付かなくなったショックというのは何度でも襲ってくるもので、そのたびに心の中には土砂降りの雨が降り、涙で水浸しになっていた。
もう一生、その「雨」は止まないのかと思っていた。
だけど涙も枯れてしまうぐらい泣いた私なのに、いつの間にか少し強くなれたことに気づいた。
このnoteも、心友がいつも遠くから励ましてくれていたからこそ続けられてたはずなのに、友人が倒れた後も(泣きながらも)今日までなんとか細々と続けてこられた。
自分の悲しみに沈み切ってしまうと、友人に多大な心配をかけてしまうかもしれないということ。
そして友人がもしどこかで見てくれているとしたら、彼女の心の灯火になるような創作を続けていきたいということ。
この二つが私の「心の核」として残っていることに気づいたのだ。
ほかにも、かつての私だったら心が折れてしまいそうなつらい出来事も、毅然と一線を引く対応ができるようになっていた。
そんな、ちょっとレベルアップした自分に気づいた時、「心友とのご縁は失われたのではない、今もちゃんと胸の中にあるし、目に見えなくてもつながっている」という感覚が戻ってきて、自分は幸せ者だと思うこともできた。
そして、「悲しみに降る雨」が止む、というのはこういうことなのかと腑に落ちたのだった。
なによりも、この歌を泣かずに聴けるようになったことが、私の今一番の ”幸せ” なのかもしれない。
④片想いなら
作詞・作曲:小椋 佳
編曲:馬飼野 俊一
1985年2月21日、25枚目シングル「旅の章」カップリング曲。
この歌を初めて聴いた時、作者名を見なかったのだが、「なんとも味わい深いこの余韻は、小椋佳さんの作品世界を彷彿とさせるな……」と感じた。
そしてクレジットを確認したところ、まさにその人、小椋佳さんの作詞・作曲だったので、やはり……と腑に落ちたのだった。
しかもこの「片想いなら」は、私自身がこれまでの人生の中で経験したこととリンクしており、男性主人公のせつなさは私の胸の中にかつて存在したせつなさ、そのものだったりする。
思えば、片想いの恋が成就することを切々と願ったり、片想いのときめきや不安などを甘く、ほろ苦く描いた詞は無数にある。
しかし、「相思相愛になったからこそ生まれる痛み」を描く歌は少ない。
「両想いになると距離が近くなりすぎて、思わぬ傷つきが生まれたり、愛するがゆえの諍いや苦悩が増えてしまう。片想いならそんな苦しみは味わわずに済むのに……」と思い悩み、「どうしようもなく別れを告げる」という決断に至るストーリーは、心理描写が難しく、一歩間違うと気障、あるいは野暮に転びやすいからだ。
そうした難題を、短いフレーズとしんみりしたメロディの余韻でしっかり表現する、そこが小椋佳作品の凄味なのだと思う。
「片想いなら」はとりわけ、単なる”悲しい恋の物語”で終わらせることのできない、恋愛の奥深さ・難しさが、朴訥とした語り(歌詞)で描かれている。
そのため、歌の主人公の心の揺れ・葛藤が重苦しくならず、ソフトに伝わってくる。
もちろん、それは新沼謙治さんの「歌の個性」そのものとリンクしている。
彼の訥々と語らうような歌詞運び(間の取り方)と、けしてマッチョに傾かない「優しさに裏打ちされたダンディズム」が香る歌唱スタイル。
そんな新沼さんの個性・才能と、この「片想いなら」は”相思相愛”の関係にある。私はそのように実感した。
⑤男のやせがまん
作詞:建石 一
作曲:杉本 真人
編曲:前田 俊明
1994年5月21日リリース、35枚目シングル。
この歌を聴くと、そういえば20世紀の時代にはまだジェンダー平等とか、多様性といった言葉は広まっておらず、男性は涙を見せてはいけないとか、女性は男性に甘えられるぐらいがちょうどいい、なんてことが常識的に語られていた時代だったな……などと懐かしく思い出す。
それにしても、遠くから幸せを祈ることだけ許され、逢いたさも恋しさもグッと我慢するしかない── そんなシチュエーションを想像すると、私の胸にも静かに痛みが走る。
愛する人に素直な想いを伝えられること、どれだけ大事に想っているかを行動で示せること……それは当たり前のようだけど、けして当たり前ではない。
ちょっとした状況の変化や進路の違いなどですれ違いが生まれ、時には自分の気持ちに蓋をするしかないシーンもできてくる。
それが人生というもの、などと割り切れれば楽なのだろうけど、後ろ髪引かれる時間があるからこそ、そこにまたいろいろなドラマが生まれる。
そんなことをつらつらと考えつつも、私自身は「やっぱりやせ我慢はしたくないし、できれば前向きな忍耐がいいなぁ」などと思う今日この頃だ。
⑥待たせたね
作詞:東海林 良
作曲:佐瀬 寿一
編曲:竜崎 孝路
19枚目シングル、1981年9月1日発売。
この歌もまた、「男の痩せがまん」と同じく、”昭和のジェンダー論” が色濃く表れている(男性は自由に生きつつ女性を甘えさせ、社会的・経済的な幸福をもたらす性、といった概念)一曲といえる。
その上、この歌の男性主人公は「移り気な俺」「廻り道をしてたよ」と吐露していることから、一時的にほかの女性に心が移り、また本命の彼女の元に戻ってきたという、少し「自分勝手」なところも垣間見えたりする。
しかし、ともすれば「時代錯誤」の一言で片づけられてしまいそうな、このような世界観の歌も、押しつけがましさを微塵も感じさせない、軽やかなダンディズム香る新沼謙治さんの歌唱にかかると、「待たせたね」の台詞に思わず、「待ってたわ」と返したくなる、
つまり、優しい物語性が生まれるから不思議だ。
そして、「廻り道」という名の心変わりがありながらも、本当に深い愛情を捧げたい相手は誰なのか、という問いに自ら答えを出して軌道修正する、そんな主人公をそっと応援したくなる。
新沼謙治さんの歌唱力に宿る独特の優しさ・温もり・爽やかさは、ちょっと恋愛に不器用で、雑なことをしてしまう主人公をけして憎めない存在に変えてしまう。
そこが最大の魅力なのかもしれない。
⑦相合傘
作詞:阿久 悠
作曲:猪俣 公章
編曲:高田 弘
私が今回の記事で最も推したいのは、この歌。
1982年8月25日リリース、アルバム『北の故郷』に収録された曲で、歌詞の中にある「夜目にしらじら咲く花」という表現がしっくり来る、新沼さんのオリジナル作品の中ではひっそりと佇んでいるような一曲だ。
しかし、私はこの歌を聴いた瞬間、8分の6拍子で揺蕩うように流れていく「旋律美」と、年上女性に恋慕する男性主人公のせつなく甘い心理描写に強い感銘を受けた。
その感銘は、”日本的叙情”の音階を代表する名歌である「宵待草」(作詞:竹久 夢二 / 作曲:多 忠亮)を想起させるものだった(学生時代、自身の研究のために開催したコンサートで歌わせていただいた一曲でもある)。
実際、この「相合傘」と「宵待ち草」は旋律的親和性が高いため、相合傘の旋律で「宵待草」を歌い出してもすんなり歌えてしまう。
音符の流れが似ているだけでなく、文節の区切りが8分の6拍子の最後の拍と一致しているからだ(8分の6拍子は実際には“二拍で揺れる”ように感じられる複合拍子で、符点四分音符三つを一拍と数える)。
この拍子は、日本的情緒あふれる歌詞を時にはゆったりとした川の流れのように、またある時は、引いては寄せる波のように運んでいくリズムとして機能する。
8分の6拍子と混同されやすい拍子として、4分の3拍子(ワルツのリズム)が挙げられる。
ワルツのリズムは3拍ごとに強弱が繰り返されるため、曲に華やかさやメリハリが増える効果があるが、8分の6拍子はもう少し長い文節の詞に、適度なメリハリを加えつつ、滑らかにつなぐ効果がある。
とりわけ今のような長雨の季節には、ゆったりと二拍でリズムが刻まれる8分の6拍子は、しっとりとした「雨の中の恋人」を映し出す、鏡のような役割を果たす。
情緒的な日本語の歌詞と非常に相性の良いリズム、と言えるだろう。
反面、短いフレーズで恋のせつなさ・揺れる心情を巧みに描く日本語の詞は、8分の6拍子に乗りやすい、という側面もある。
このように分析すると、時代を越えて受け継がれてきた多くの日本の歌謡曲・抒情歌全体に貫かれる、“日本の恋情の系譜”や、”日本的叙情の旋律”とはどんなものか、音楽理論の観点から眺めるのが楽しくなってくるはず。
たとえば、静かに燃える恋の情念を「日本的叙情」と呼ぶなら、この「相合傘」の拍子・旋律はまさに、歌の主人公の情念をせつなくも美しく映し出す鏡として見事に役目を果たしている。
「冷静と情熱の狭間」を繊細に取り扱う拍子・旋律になっているからだ。
しんみりと耳や胸の奥深くに染むような余韻をもたらしてくれる歌は、歌詞と旋律・リズム・テンポ、それらが美しく計算されているもの。
そして、そこに歌い手の声という“身体の楽器”がどのように息を流し、言葉を響かせるかで、譜面には描き切れない、その歌手ならではの色や味が加えられていくことになる。
「相合傘」を聴きながら私自身が高校時代、音楽の授業(楽典)で教わり、譜面書きの課題でも復習していた内容を、 「相合傘」を聴きながら久々に思い出すことができた。
余談だが、「あざみの歌」もネット上では 4分の3拍子と紹介されることがある。
しかし実際に歌ってみると、これは明らかに 8分の6拍子の“二拍で揺れる”流れを持つ(「さくら貝の歌」や「浜辺の歌」なども同じ)。
日本的叙情の歌は、言葉の区切りと旋律の呼吸が自然と 6/8 に寄り添うのだ。
⑧めぐり逢えたら
作詞:志名 亮
作曲:大谷 明裕
1986年10月21日発売、『情け川』収録曲。
今の私の心情に最も寄り添う ”成熟した愛の歌” として、最後はこの作品で締め括りたい。
そして、新沼謙治さんの声の優しさに心ゆくまで浸っていただきたいので、この歌はあえて細かな鑑賞ポイントは説明しない。
私自身、この歌を聴く時は「今度生まれ変わってもまためぐり逢いたい」と思う人を心に浮かべながら聴くことにしている。
たとえ会えなくても、別れを告げたとしても、相手の幸せを祈ることができる。
それは少し寂しいけれど依存することのない、自立した大人の愛。
この作品が伝えてくれるそんな優しい愛の形を、雨の季節にしみじみと味わいたい。
◆ ◆ ◆
以下の過去記事にて、新沼謙治さんの『ヘッドライト』について鑑賞していました。ご興味ある方はこちらも併せてご覧ください👇
🐥本日の記事は以上です🍀
最後までお付き合いいただき
ありがとうございました!
