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この万年筆を探しています。

今年、父を亡くした。
全く実感がないまま数ヶ月が経ってしまった。
実家の父の部屋を片付けていると、小さい頃に見た事がある万年筆が出てきた。
うちで見る筆記用具の中でも、かなり古い物だと思う。
でもこの万年筆には赤いインクが入っていて、全然実用的じゃなかった。
「何で赤いインク入れたんだろう?」
とか言いながらも使ってみると、不思議とすぐに手に馴染んだ。
インクを交換してみようかな。と思い、ペンの本体をねじってみたものの、全く動く気配がない。
とても強い力で締めてしまったか…
それとも中でインクが漏れたまま固まったのか…
どちらにしても、今出ている赤いインクが切れたら使えなくなってしまう。

幼少期から、父は仕事人間でほとんど家に居なかった。
誰よりも早く家を出て、誰よりも遅く帰宅した。
働き過ぎて身体を壊す事もあった。
そんな父に迷惑をかけないように、私は早くに家を出た。
自分の事は自分で出来るように。早く大人になりたかった。

一生懸命生活していると、あっという間に時間が経ってしまう。
たまに実家に帰る度に、父の身体が小さくなっていく気がしていた。

そうやって何年も経って、今年、父が亡くなった。
祖母を亡くした時。叔父を亡くした時。人が居なくなる時。
ずっとずっと覚悟してきたけれど、いつか来るその時は今年の春に訪れた。
ただひたすら悔いた。
「なんでもっと……」これを考えるとキリがなかった。
命はこの世の摂理では絶対に元に戻らないモノだから、
受け入れる準備をしてきたのに、全然受け入れる事が出来なかった。

ふと母を見た。母の表情は落ち着いていた。
ずっと一緒にいたから、長い時間をかけて受け入れる事が出来たんだね。

父の葬儀は親族のみで終えたが、会社の同僚だった人や、上京してからの友人の方々が駆け付けてくれた。
父の話をしてくれる大人達は、とても寂しそうな、だけど明るい顔をしていた。
母や私の知らない父は、きっと人に好かれる人物だったんだなと思うと、心から父の事を尊敬できた。

亡くなってから父の手帳を覗くと、
私が繰り返し引っ越した先が赤インクで修正されていたり、
姪っ子が出場するスポーツ競技大会などが書かれていた。
あの万年筆を使ったかは分からない。
父が文字を書いている所は見た事がないから。

父の形見の万年筆は、赤いインクが入っていて使い所がない。
メーカーホームページを調べてみても、とても安価な物だ。
だけど持ち続けたい。インクが切れるまで使いたい。
同じモデルを探そう。
父の物からは、だいぶモデルチェンジがされているかもしれないけれど。

この万年筆を探しています。