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「様子を見て」と言われたら? ── 診察室のすれ違いを防ぐ3つの問い【心理士ときどき患者#5】

※本連載は、医療現場のすれ違いを減らすヒントを一人でも多くの方に届けるため、当面の間【全文無料公開】でお届けしています。

こんにちは、臨床心理士の向田灯(むこうだ ともり)です 。

この連載では、医療現場に潜む「すれ違いの構造」を、私自身が患者として長年医療現場で見てきたことと、臨床心理士としての視点を交えながらひも解いています 。

※皆様からの「医療の場でのモヤモヤした体験談」も募集中です(詳細は記事の末尾をご覧ください) 。


「病気知らず」を襲った突然の異変


博さんは会社に入って20年、40代になっても運動を欠かさず、体調不良で会社を休んだことがないのが自慢でした。

ある夏の暑い日に、博さんは急におなかを壊しました。ちょうど飲み会の翌日だったし、二日酔いかな・・と思い、食事は消化しやすいものにして、様子を見ていました。しかし次の日になっても回復しません。下痢がつづき、元気もなくなってきたので、さすがに耐え切れず、会社を休んで近所の内科に行きました。


病院では薬を5日分処方されました。医師からは、
「薬を飲んで様子を見てください。」
と言われました。

博さんは、薬を飲んでいればよくなるのだろう。薬がなくなるまでは静かに治るのを待とうと考え、水分を取ったり、おかゆのようなものを少し食べたりしながら自宅で寝ていましたが、一向によくなりません。

よくならないどころか、元気がなくなってきています。苦しそうな様子に妻のゆりさんは心配になり、夜間の救急電話相談に連絡しました。

「夫が下痢がひどく、内科を受診して自宅で療養しているのですが、全然良くならず元気がなくなってきているのですが・・・。

電話に出た担当者は、症状を細かく確認したうえで、こう言いました。


「緊急性はないので、救急に来る必要はないと思います。もう少し様子を見てください。」

普段は元気な夫がこんなに元気がないのに、やはりこのまま回復を待つしかないのだろうか・・・ゆりさんとしては首をかしげる部分もありましたが、緊急性はないと判断されたことにホッとする部分もあり、自宅療養を続けることにしました。

それから1日が経過しました。博さんの様子は、良くも悪くも変化がありません。本人は静かに耐えている様子で、ゆりさんはこれがいつまで続くのだろうと不安になってきました。

状況が変わったのはその日の昼でした。これまでは弱々しいながら歩けていた博さんが、トイレに行くのに壁をつたって、もたれかかるようにしています。
また、博さん自身も、なんだか心臓の動きがおかしい感じがしてきました。様子を見るようにと言われたけれど、さすがに今の状況は不安です。

ゆりさんは
急いで病院に連れて行きました。



博さんは脱水から腎不全になっていたことがわかり、緊急入院となりました。 

幸い、博さんは1週間程度入院治療を受けたことで、後遺症もなく回復することができました。

博さんはこの出来事をこんな風に振り返ります。

「私は体が丈夫で病気らしい病気にもかかったことがなかったんで、まさか自分が入院するような状態になるなんて、想像もしていませんでした。様子を見てって言われたから、具合がどんどん悪くなっていったのに、まだ大したことないって考えてたんですよね。それから、『このくらいで騒いで・・・』って、家族にも病院の人にも思われたくないっていう気持ちも正直ありました。ちょっと我慢しすぎちゃいましたね。」

妻のゆりさんはこう言います。

「普段は丈夫な人なので、病気の姿を見たことがなくて・・・。こんなに我慢づよい人だとは、知りませんでした。入院するほど悪くなっていたなんて・・・どうしてこんなことになってしまったんでしょう?

診察室と救急電話で起きていた「言葉の誤訳」


最初に訪れた病院でのやり取りにはこんなすれ違いが生まれています。

医師:下痢という症状や既往症がないことから、今の症状を抑える薬を出して、経過観察してもらおう。当然変化があれば、また受診するだろう。

博さん:医師が5日分薬を出したということは、回復には5日くらいかかるということだろう。つらいけれど、とにかく自宅で療養しなければ。

そして、夜間救急との電話でも、すれ違いがありました。

夜間救急の担当者:「緊急性はないので、今、夜間救急を利用する必要性はない。明朝、病院が開いた後に受診すればよいでしょう。」

博さん:正直かなりつらいけれど、大げさだと思われたくないし・・・

ゆりさん:来なくてよいと言われたということは、まだ大したことないということなのかな。心配だけど、自宅で様子を見るしかないのかな…。

医療機関を受診した結果、「様子を見て」と言われ、数日分の薬を処方されるというのはよくあることだと思います。

医師としては、いくつかの可能性の中から診断し、その時点で適切な処方をするけれど、なにか異変があれば、あるいは改善がなければ診断や治療方針を見直すということは当然のこととして診察をしているでしょう。

しかし、患者の側の受け止めはおそらく医師が想像するよりも様々です。

・薬があるうちはそれを飲んで回復を待つしかない
・薬が出ている日数で治るということかな
・この医師ははっきり診断してくれなかった
・こんなに苦しいのに、そんな気休めみたいなことしか言ってくれないなんて・・・本当に治るの?

いずれも、医師にとっては当然で妥当と思われる行動を、患者は誤って解釈しています。

今回のエピソードでは、救急の相談窓口でも大変なすれ違いが生じていました。

窓口の担当者は、

「夜間救急を今、受診する緊急性はない。」という判断をしたにすぎないのに、博さんとゆりさんはまだ自宅療養をしばらく続けなければならないと思いこんでしまいました。


「大げさと思われたくない」心理と正常性バイアス


その背景には、「大したことない。もうすぐよくなる。」と思いたい、患者の心理があります。災害のニュースで広く知られるようになった「正常性バイアス」がこれにあたります。

もうひとつ、今回の事態に大きく影響を及ぼしたものがあります。

それは、博さんの「我慢強さ」です。

痛みや苦痛、体調の変化は、他の人からはわかりにくく、強い・弱いの明確な指標があるわけではありません。だから、本人が訴えないかぎり他者は気づけないことがあります。

周りの人や医療者に「迷惑」をかけてはいけないとか、年齢や性別など個人の立場(いい年して/男だから など)を考えて我慢してしまう人がいるのです。

こういった背景から深刻な状況を見逃してしまうと、命にかかわる事態になりかねません。

では、どうすればよかったのでしょうか。

こういう事態を招かないために、医師・患者の双方が明日から診察室でできる具体的なアプローチを、ここから掘り下げていきます。


医師への提案:「様子見」の単独使用禁止令


大きな問題に発展することを避けるために、私はこんなことを提案したいと思います。

「様子見」の単独使用禁止令

医師は

しばらく様子を見て下さい。

という言葉だけを患者につたえることを止めます。

代わりに、具体的な期間や、様子を見るべきポイントを伝えます。たとえば、

・薬を5日分出します。その間、痛みが強くなったりしないか、様子を見てください。もしも痛みがひどくなるようならすぐに受診してください。

・今の症状で見ると、胃腸炎だと思われるので、この薬を出します。でも、もしも〇〇のような状況になったら、薬がなくなる前であってもまた受診してください。

という風にです。人は見通しの立たないことに不安を覚えます。
患者が知りたい、いつ治るのかという疑問に明確に答えることは多くの場合難しいことだと思います。しかし、客観的で、誰が見ても同じ判断になるような、具体的な目安を知らせることで、患者はやるべきことが明確になり、不安が大きく減ることにつながります。それは重症化を防ぐだけではなく、治療の上でも良い効果があるものと思います。


患者ができること:医師から「命の安全網」を引き出す3つの問い

患者の側は、「様子を見て」と言われるとなんとなく「分かりました」と言ってしまうことが多いでしょう。
かつての私のように(第3回をご参照ください)、小さいころから「医師の言うことには従わなければ」という気持ちが、病院に行くと自然と現れてしまう人は特に要注意です。


【いつまで】お薬を飲み始めてから、何日経っても症状が変わらなければ、もう一度受診した方が良いですか?

【もしも】もし、どんな症状(変化)が追加で出てきたら、すぐに受診すべきですか?

【どんなふうに】自宅で過ごす間、私の体のどんな様子に一番気を配っておけばよいでしょうか?

などと、具体的に注意すべきことを尋ねるようにしましょう。医師には言いづらいという人は、後で看護師さんなど話しやすい人に尋ねるのでも良いと思います。最終的には「あ、それ、先生に確認しますね。」と言われるかもしれませんが、あいまいなままにするよりは安全です。

分かったつもり、伝えたつもりは時に大変な危険をはらんでいます。そういうすれ違いがなくなることが、患者を守ること、そして限りある医療資源を大切にすることにもつながると私は考えています。

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