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「バンクロディ」 ささやきのハープ第62回

ささやきのハープ、第62回です。前回まで、4回にわたって「アイルランドのため彼女の名は言わない」という曲についてお話ししてきました。

結局のところ、

「なぜアイルランドのためなのか」

「なぜ彼女の名前を言わなかったのか」

という問いに対して、はっきりとした答えは見つかりませんでした。お聞きいただいた方の中には、少しもやっとされた方もいらっしゃるかもしれません。ですが、伝承音楽の世界では、すっきりとした答えがないもののほうが
むしろ普通です。そして、そうした曖昧さこそが、この音楽の真実味なのかもしれません。

歌詞の内容と、その歌の背景にある物語がまったく別だった、という例は、
第29回でお話しした「あの晩を覚えている?」という曲でも見られました。

さて今回は、アルバム『アイリッシュ・エア vol.2』から「バンクロディ」という曲をご紹介します。

バンクロディ Bunclody とは、アイルランド南部、ウェクスフォード州にある地名です。

少し平凡な内容ですが、まずは歌詞を紹介しましょう。

もしも僕がモス・ハウスにいられたなら 鳥たちがさえずるあの場所に、
マウント・レンスターの麓や 静かな場所にいられたなら、
バンクロディの流れのほとりで あらゆる楽しみが出会う場所で、
僕が願うのは 君からのキスをひとつだけ。

もしバンクロディにいたら きっと「帰ってきた」と思えるだろう、
あそこには恋人がいるけれど ここには誰もいない。
陽気な気分で強い酒をあおって、
バンクロディと 愛するあの娘に乾杯しよう。

カッコウは可愛い鳥、飛びながら歌い、
よい知らせを運んで 嘘はつかない。
雛の卵を吸って 声を澄ませるというが、
「カッコウ」と鳴くたび 夏は近づく。

もし僕が書記で 上手に字が書けたなら、
君にわかるような手紙を 僕の愛を伝えるために書くだろう。
僕は恋に傷ついた若者、
かつてバンクロディに住んでいたが 今はもう離れなければならない。

もし僕がヒバリで 翼があったなら、
あのあずまやに飛んで行こう 君が眠るその場所へ。
あのあずまやにたどり着き 君の腕の中に身をゆだねて、
その胸に抱かれて 僕は満ち足りて死ぬだろう。

僕の恋が報われない理由は きっとこうだとわかるだろう、
彼女は土地を持っていて 僕には何もない。
彼女はたくさんの富と 金貨を持ち、
立派な家を保つのにふさわしいものを 何もかも持っている。

だから さようならお父さん さようならお母さん、
姉さんにも 兄さんにも別れを告げよう。
僕はアメリカへ旅立つ 運命を試すために。
バンクロディのことを思えば 胸が張り裂けそうだ。

――
貧しさのために、身分不相応とされてしまった恋。
その恋人と結ばれなかった男が、アメリカへ出稼ぎに行き、
生まれ故郷バンクロディの美しい小川や、夏の訪れを告げる
カッコウの声を思い出す。そんな内容の歌です。

この話、どこかで聞いたことがある、そう感じられた方も
いらっしゃるかもしれません。

実はこの物語、「アイルランドのため彼女の名は言わない」
の伝承と、どこかよく似ているのです。おそらく、19世紀のアイルランド各地で、このような出来事が実際にあったのではないでしょうか。

さて、この美しい旋律には、実は別の歌詞も付けられていました。それは、
歴史家 P. W. ジョイスが1909年に出版した曲集に見られます。そこでは、

「クールフィンの湖、あるいは
ウィリー・レオナード The Lake of Coolfin, or Willy Leonard」

というタイトルで収録されています。

ジョイスによれば、この歌は南部や西部でよく知られたバラッドで、
彼はリムリック出身のペギー・カドモア Peggy Cudmore of Glenosheen という人物からこの旋律を採譜しました。

内容は、クールフィンの湖で幼いウィリー・レオナードが溺れ死んでしまったという、悲しい実話に基づくものだといいます。ただし、同じ名前の湖が各地に存在するため、具体的な場所は特定されていません。ジョイスが残した歌詞は次のようなものです。

その朝早く、若きウィリーは起き出して、
仲間の寝室へと向かった。
「起きてくれ、親しい友よ、誰にも知らせずに行こう。
今日は晴れ渡った気持ちのいい朝だ、
一緒に水浴びに出かけようじゃないか。」

仲間たちはまもなくクールフィンの湖へ着き、
そこで最初に出会ったのは狩猟番だった。
「引き返せ、ウィリー・レナード、今すぐ戻るんだ。
クールフィンの湖は深く、そして底の定まらぬ水だ」

若きウィリーは湖へ飛び込み、
泳いで湖を一周した。
島へと泳ぎ着いたが、そこは柔らかな沼地だった。
「おお友よ、親しい友よ、どうか入って来ないでくれ。
クールフィンの湖は深く、そして底の定まらぬ水なんだ」

その朝早く、彼の妹は目を覚まし、
母の寝室へと向かった。
「昨夜、ウィリーのことで悲しい夢を見たの。
彼は死装束をまとっていた――真っ白な死装束を」

その朝早く、母もそこへやって来た。
手を絞り、髪をかきむしりながら。
「ああ嘆かわしい時よ、愛しいウィリーが飛び込んだのは――
クールフィンの湖は深く、そして底の定まらぬ水」

そして私は、一人の美しい乙女を見た、岸辺に立ち尽くして。
顔は青ざめ、激しく涙を流していた。
若きウィリーが飛び込んだその場所を、深い苦悩のうちに見つめながら――
ああ、クールフィンの湖は深く、そして底の定まらぬ水。


実話だと思うと、少し演奏するのが怖くなってしまいますので、私はこの旋律を「バンクロディ」というラブソングとして受け取り、演奏することにしています。

それでは、お聴きください。

アルバム『アイリッシュ・エア vol.2』より、
「バンクロディ」


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