オタクプレゼンツ〜記憶力テスト特典会〜開催
良くないと思う。
本当に良くないと思う。
でも始まる。
推しの記憶力テストが。
めちゃくちゃ記憶力のいい推しがいた。
初めましての日。
少し話した。
本当に少し。
そして一週間後。
また会いに行った。
「2回目ましてー」
と言ったら。
向こうから名前を呼ばれた。
え?
と思った。
さらに。
「3度目は明日?」
と言われた。
怖い。
いや。
すごい。
記憶力も。
営業力も。
そりゃ人気になるわ。
私はまんまと推した。
半年前。
なんとなく曲の話をしたことがある。
本当に一度だけ。
その時は披露していなかった曲。
それなのに。
半年後。
その曲を公演でやった日の特典会。
「これ好きじゃん」
と言われた。
え?
なんで覚えてるの?
あの話。
一回しかしてない。
しかも半年前。
困惑した。
感動した。
尊敬もした。
でも。
人間は慣れる。
慣れると始まる。
記憶力テストが。
私が何か話す。
すると。
「あぁ、前こう言ってたもんね」
と返ってくる。
自然に。
本当に自然に。
だから余計に怖い。
メモしてる感じもしない。
頑張って覚えてます感もない。
サラッと言う。
だからオタクは勘違いする。
私のこと覚えてる。
特別かもしれない。
いや違う。
たぶん違う。
きっとみんな覚えてる。
それでも嬉しい。
そして次の特典会。
私はまた話す。
どこかで期待しながら。
覚えてるかな。
あの話。
この話。
そんなつもりじゃなかったのに。
気づけば私も。
推しの記憶力テストを始めていた。
でも。
逆もいた。
その子は。
他メンのオタクからよく言われていた。
記憶力ないよね。
オタク覚える気ないよね。
と。
実際。
前の特典会の話を持ち出すこともなかった。
MCで昔のエピソードを話すこともなかった。
だから私も思っていた。
覚えてないんだろうな。
と。
まあ別に良かった。
顔が良かったから。
だから同じ話をした。
二週間くらい前にした話。
覚えてないと思って。
「実はこの曲好きなんだよね」
と。
すると。
少し寂しそうな顔で。
少し怒った顔で。
言われた。
「前聞いたよ」
と。
固まった。
私が。
え?
覚えてたの?
そっち?
さらに。
「覚えてないの?」
と言われた。
やられた。
完全にやられた。
一応その場は笑って誤魔化した。
ごめんて。
それ以降。
特典会を重ねていくと。
彼は昔の話をするようになった。
前こう言ってたよね。
あの日こうだったよね。
この前これ好きって言ってたよね。
そんな感じで。
自然に。
当たり前みたいに。
私はその度に驚いていた。
でも。
学ばなかった。
私はずっと。
推しがこちらの話を覚えていない前提で生きていた。
だから。
また最初から話す。
そして怒られる。
「それ前聞いた!」
「もう知ってるよ!」
「分かってまーす!」
って。
ごめんて。
本当にごめんて。
後から気付いた。
彼は記憶力がなかったわけじゃない。
自分からあまり話さないだけだった。
ちゃんと覚えていた。
ただ。
飲み込んでいた。
オタクが話しすぎるから。
メンバーが先回りするから。
話す前に終わってしまうだけだった。
私が聞き役に回ると。
急に色々話し始める。
前の話。
最近考えていたこと。
公演のこと。
些細なこと。
ぽつぽつと。
あぁ。
この子は話さないんじゃない。
話す前に終わってしまうんだ。
そう思った。
多くのオタクは。
そこに辿り着く前に離れていった。
つまらない。
会話が続かない。
盛り上がらない。
そう言って。
たぶんそれも正しい。
特典会向きではないと思う。
話すのもゆっくり。
間もある。
ラリーのテンポも遅い。
でも。
私はそこが好きだった。
急かさないところも。
少し考えてから話すところも。
間があるところも。
全部。
可愛かった。
顔が良かったから。
末期である。
私はずっと。
推しの記憶力テストをしているつもりだった。
名前を覚えているか。
前の話を覚えているか。
好きな曲を覚えているか。
でも違った。
テストされていたのは私だった。
しかも負けている。
圧倒的に。
推しの方が覚えている。
私は覚えていない。
なんなら。
自分で話したことすら忘れている。
ひどい。
本当にひどい。
推しの記憶力より。
まず自分の記憶力を心配した方がいいのかもしれない。
これはそんな私が結んだ縁のお話。
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