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邪道作家二巻 主人公をブチ殺せ 分割版その1 リンク付

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二巻 簡易あらすじ


今度の敵は「主人公」───


依頼に則り取材兼殺しという生き方の邪道作家が、資本主義の闇と正義を振りかざす勝つ側へと取材に挑む。


頼んでもいないのに争いに巻き込まれ、外部から見た主人公勢の、悪として排斥される側から見た物語の裏の世界。


無論、くたびれ儲けな訳だが••••••やれやれ。



まあ、正義の最後なんて、あんなものであるのは確かだろうさ──────



   1

 殺して欲しい存在がいて、殺したい相手がいれば私の仕事は成立する。そう言う意味では科学が発達し、それに伴って出てきた、夢を見るアンドロイドなんて奇妙な連中は、私にとって上客となるようだった。
 私はイタリアンレストラン(作っているアンドロイドが、イタリアを知っているのか疑問だ)にいた。そこで食事をしていたのは、私が優雅な一時を過ごしたかったからではなく、知り合いの女に呼び出されたからである。
 名はフカユキ、PNシェリー・ホワイトアウトという、自称アンドロイド作家。
 アンドロイド、人間にもっとも近いロボット、それも人権を獲得した奴らは、その有り余るスペックを執筆業なんてマイナーな業種にまで手を伸ばしてきたというのだから、困ったものだ。
 私はどんどんアンドロイド相手の売り上げが伸び、生活も豊かになってきているので、正直複雑な気分だが、しかし、金を払って私の作品を読むのなら、それは読者だ。
 つまり、商売相手だ。
 なら、せいぜい利用させて貰うとしよう、などと、ひねくれて、悪ぶった言い方をしてみたモノの、未だにアンドロイド達がわたしの作品に熱中する理由が、よく分からないままだった。
 教育衛生上よろしくない話が好きなのかも知れない。そんなことを目の前に座る「仕事」の依頼主相手に考えていた。私の言う「仕事」とは、執筆業ではなく、サムライとしての副業、邪魔者を始末する仕事だ。
 もっとも、最近では取材の意味合いが大きくなっているのだが。
 フカユキは解けない謎を考える名探偵のように少し考え込みながら、
「殺して欲しいアンドロイドがいるんだ」
 と言った。
 アンドロイドも同胞を消す罪悪感を消し去る味を覚えたのか、そういった依頼も増える一方だった。だから、殺しの依頼そのものは、別段珍しい話でもない。
 問題は、
「ただのアンドロイドじゃないよ・・・・・・そのアンドロイドはね、幽霊なのだよ」
 と、言われ、正直その女、シェリーホワイトアウト女史の、正気を疑った。白く美しい髪に、スタイルの良い身体。アンドロイド作家として名を馳せる、謎の女。
 アンドロイド作家と歌っているのに、どう見ても見た目は人間にしか見えないし、事実彼女は人間だ。クローンニンジャを自分の細胞から培養し、その分身達を使っていたというのだから、ファンには見抜けるはずもなく、今も、アンドロイド人気作家として、死滅した分身達の分も媚びを売ってアイドル作家業を続けているらしいが。
 まあ、本当にアンドロイドかどうかも、ファンからすればどうでもいいのかも知れない。聞こえの良い通り名が重要なのであって、実際はどうでもいいのだろう。恐らく、作品の内容さえ。
 私の作品は相変わらず、人間に売れない。
 本当に、いっそのことこの女のように、内容は何でもいいから売れそうな、売ることだけを考えた作品でも執筆してみようか? しかし、そんなことをするならそれこそ、株でも扱えばよい訳であって、作家なんてする必要はない。
 作家とは何か。
 そんなことを考えている途中に、
「聞いてるの?」
 と、言われ、ハッとなった。
「聞いている」
 男がこう言うときは、大体聞いていない。
 女の話は、過程を重んずる場合が多く、話したいから話す、とでもいうのか。結果や理屈を重んじる男にすれば、馬耳東風もいいところなのだ。 まあ、この場合、仕事そっちのけで考え事をして、私が話を聞いていなかっただけだが。つまり完全なる私の不注意だったので、取り繕っても仕方がないのだが、思索の邪魔をされたような気分になり、私は、
「くだらない与太話だ」
 と言った。
 女は女で話を否定されることを嫌がる生き物であり、「なら、証拠を見せるね」と、半ば躍起になって、シェリー、いやフカユキは、写真を一枚取り出し、机の上に置いた。
 そこには、実に奇妙な「モノ」が写っていた。「なんだ、これは?」
 まず、頭がない。四角いボディ、何かしらの寄せ集めのような、物理法則に従っているように見えないその身体部分に、二足の足が着いていて、しかもその足も別々のデザイン、旧式なのか新型なのか分からなかったが、バランス悪く、違う足がそれぞれついている。
 そして、
「何だ、これは。まるで胴体部分のパーツが」
「人間の顔みたいに見える」
 場を制されてしまったが、その通りだ。
 まるで苦悶する人間の表情に見える。見方を変えれば、機械パーツの大きな頭部に、足が生えているようにも見えた。
 不気味だ。
 だが、同時に興味も沸いてきた。こんな奇妙な物体は見たことがないし、何かしら、新しい作品の参考になるかもしれない。
 無論、依頼は依頼だ。金を頂くのは当然だが。「不気味でしょ、それ」
「ああ、何なんだこれは?」
「アームズテック社って、知ってる?」
「いや、TVを見ないので、知らないな」
 呆れた風に、フカユキは「そうだったね」と一息ついてから、話し始めた。
「アームズテック社は、一言で言うと、「人間至上主義者の集まりだよ」
「人間至上主義、とは?」
 なんだろう、ロクでもなさそうな主義であるのは、間違いなさそうだが。
 おおよそ「差別」とか「権利」とかを掲げる連中とは馬が合わない。つまらない階級意識だの優越感のための差別よりは、私は実利を選ぶ。
 優越感、などという不透明なモノのために、人間は戦争までしたことがあるのだから、つくづくどうしようもない生き物だ。まぁ、私はその人間の中でも、実利のためならアンドロイド相手でも商売をするし、宇宙人相手でも本を書くし、そもそもが相手を選べない商売である作家業なんてやっている人間は、すべからず破綻しているものだが。
 つまりどうでもいいのだ。本が売れれば、だが、そういう意味ではアンドロイド達が多く買ってくれて、そのおかげで最近は生活も潤っているわけだから、私は人間以外、人間でないものの方が、話の馬は合うのかもしれなかった。
「つまり、ロボットの存在を認めていない、人間こそが唯一の生命体であり、アンドロイドは人権を剥奪して、労働力に戻すべきという考えだ」
 本当のところは、安い労働力を取り戻したいだけなのでしょうけど、とフカユキは続け、
「つまり、安価な労働力であったロボット達の生産能力を取り戻したいという、利権の奪い合いで産まれた勢力みたいなもの。彼らにとってはアンドロイドみたいな人権と創造性を提供するロボットよりも、おとなしく人間に従うだけの従順な生産力の方が都合が良いって訳」
「なるほどな」
 つまり、厄介事というわけか。
 そんな団体が、個人が、依頼する内容がまともなわけがない。何しろ、アンドロイドの幽霊だ。「つまり、こういうことか? アンドロイドに、魂だとか、あの世だとかが、あるのかどうか知らないが、少なくとも、そんな亡霊に、買い取りたい土地か何かに住み着かれていては、困る、と」「少し、違うかな」
 予想を外してしまったが、じゃあ、何だというのだろう? アンドロイドの幽霊なんて、放っておけば良さそうなものだが。
「買い取る予定なのは、星だよ」
「・・・・・・・・・・・・まさか、その惑星に山ほどいるアンドロイドの幽霊とやらを、一人残らず始末しろなどと、言うわけじゃないだろうな」
「いや、使う土地は限られているし、とりあえずは追い出せればそれでいいかな。サムライやニンジャの武器は幽霊みたいな、あの世の物質で出来ているって話もあるから、君の持っているらしい「武器の幽霊」かなにかで、殺せるのかどうか試して、可能であれば対処法を見つけて欲しい、といったところじゃないかな」
「塩でもまけ」
「そうもいかないよ。実際、幽霊なんて科学で解明できない存在は、同じ幽霊を扱うサムライかニンジャだけだ」
 なら、ニンジャを雇えばいい、と言おうとしたのだが、
「ニンジャはどうも、人手不足でね。つい最近までそんなことは無かったけど、急に数が減っちゃったらしいからね」
 にやにやとそんなことを言う。私のせいだとでも言いたいのだろうか? だとしても知ったこじゃないが。あまり軽く扱われても迷惑なので、とりあえずここは安く動く人間ではないことをアピールしておくことにした。
「依頼、というからには、それなりの報酬も必要だろう。落ちぶれた会社に大金が払えるのか?」「払えるらしいよ。とりあえず、200万ドルほどは、前金で」
 私の心は躍った。結構チョロいと、自分でも思わなくはなかったが、しかし引き受けるかどうかは別の話だ。
「だとしても、仲介業者越しに受ける気には、ならないな」
「本人に会わないと駄目なの?」
 不思議そうに言われたので、私の仕事に対するスタンスを、この際だ。話しておくことにした。「当然だろう。どんな依頼であれ、まずは本人と話さなければ、分からないこともある」
 実際には見たり聞いたりすれば、作家の観察眼である程度の情報は分かってしまうのだが、重要なことは他にある。
「つまり、依頼人本人から思惑を聞きたい。信用等のは何よりも大切だ。信用できる依頼主かどうか、それを知らなければ金の不払いだって起こり得ることだしな」
「それなら心配ないと思うけど、まぁ、そだね」 言って、フカユキは名刺を取り出して、私に手渡した。そこには、居住惑星と、所属銀河連盟、そして住んでいるおおよその地域と、ビル名が書かれていた。
 しかし、
「まだ受けるとは言ってないぞ」
「じゃあ、これ、前金を先に渡しておくよ」
 金のクレジットチップを取り出して、私に渡した。残高を調べてみると、確かに200万ドル入っている。どうやら今回の依頼主は、金払いが良いことだけは確実のようだ。
「それだけ貰えれば、話くらいは気いてもよいと思うけど?」
 などと言うフカユキ。
 気安く受けてしまったが、おかげでとても奇っ怪な出来事に出くわし、それで作品の参考になるのだから、作家として引き受けるしかない。
 とはいえ、邪魔者の始末がはたして、作家の仕事、取材の一環と言えるのか、私には分からなかったが。
「じゃ、これで用件は済んだから」
 と言ってフカユキはそのまま店を出て行こうとしたので、「ちょっと待て」と、私は彼女を引き留めた。
「まさか、私に依頼内容を伝えるだけで、お前の仕事は終わりなのか?」
「そうだよ。何、私とデートでもしたい?」
「そんな楽な役回りが許せるか、貴様も来い」
「えー?」
 私が現地へ赴き、苦労している間、この女が甘いものでも食べながらリラックスし、コメディチャンネルでも見ているのかと思うと、正直かなり腹が立った。
 つまり八つ当たりだ。そもそもが、名刺だけでは、私はその依頼主に会えるかどうか、アポも無いのだから怪しいではないか。
 フカユキは顎に手を当てて思考を巡らし、
「・・・・・・まぁ、いいか。丁度話したいことも、いくつかあったしね。あれ、そういえばあのAIはどこに行ったの?」
 と言った。
 まぁ、あの喧しい声が聞こえないのだから、当然と言えば当然の疑問だ。
「ジャックなら、電脳空間でバカンスを楽しんでいるだろうな」
「そうか、じゃ丁度いいや」
 何が丁度良いのだろう? 物騒なことでなければよいのだが。私は支払いを済まして(奢ると言われたが、軽くあしらわれるのはカンに触り、支払うことにした。ちょうど臨時収入も出たしな)彼女と、フカユキと外へ出た。 クリスマス、と言う行事だろうか。
 地球から何千光年も離れたこのはぐれ惑星でもそういった地球の名残は健在だった。ひとえに、アンドロイド達が躍起になって古い文化、風習を守ろうと尽力しているからだろう。
 人間の若者は不思議なことに、伝統だの風習だのよりも、実利をとる。
 それならわたしの作品を買ってくれても良さそうなものだが、どうだろう、物語というのは自分にないモノを求めるわけであって、だからこそ彼らは私の作品よりも、夢一杯の現実感のないファンタジーを好むのだ。
 そこに自分を投影して、楽しむのだ。
 物語というのは何かしら教訓を学んだり、先人の知恵や経験を伝えるものだと思っていたが、こういうのは古い考えなのかもしれない。しんしんと人工雪が降る中で、そんなことを考えていたところ、フカユキが人工雪にはしゃいで、くるりと回ったりしながら、「ねぇ見てこれ本物かなぁ」などと騒ぐので、思考を中断することにした。
 本物な訳がないだろう、と言うのは簡単だったが、女は男のように事実を見るよりも夢を見ていた方が楽しめる生き物なので「そうだといいな」と、合わせることにした。
「地球にいたくせに、見たこと無かったのか?」「うーん、済んでいた地域ではね。それに、温暖化が進んでからは、あの星に四季は一度無くなって、それから再生して、今の自然豊かな地球があるわけだから、そうでなくても珍しいと思うな」 確かに。
 人間が地球環境を滅茶苦茶にしてから数万年間の間、人類は地球に降り立っていない。サムライやニンジャ、現地に住み着いた人々も、本当に僅かだ。
 散々蔑ろにしてきたものでも、無くなると欲しがって、だだをこねる。
 人間の悪習ではあるが、そのために無いモノを作ろうとして科学を発展させるのだから、考えを改め環境保護に乗り出したりするのだから、人間は回り道することで、案外成長できるのかもしれない。
 現に、地球を壊滅させたからこそ、ここまでテラフォーミング技術に躍起になって、こんな離れた惑星に人工雪を降らせることも出来るようになった訳だしな。
 もっとも、あの地球の山に住んでいる女が聞けば、頭を抱えるかもしれないとは思うのだが、まぁ人間は、人間でなくとも、進んでみなければそれが正しい道なのか、そうでないのか分からないモノなのだろう。結果的には地球環境を滅茶苦茶にして追い出されたわけだから、科学の発展のために環境を害する考えは、間違っていたのだろうがな。
 私はフカユキに「何か土産でも買うか」と持ちかけた。無駄使いが嫌いな私からすれば珍しい発言だった。とりあえず言えることは、自然環境には購買意欲を促進する働きがあるらしいと言うことだ。
「いいよ、何か見に行こう」
 と即答されてしまったので、断るわけにも行かず、私は「等身大サンタクロース」なる全長2センチくらいの小さな人形を買い(サンタクロースとはこんなに小さい生物なのだろうか?)フカユキと共に航空管理局、宇宙船のあるターミナルへと向かった。

 空港内部にはアンドロイド達が出店を出していたようで、金魚すくいなる不可解な遊びを高額ですることになった。
 私は嫌だったのだが、仕方あるまい。これも取材だと思おう。こんなぼったくりみたいな商売のどのあたりを作品に活かせばいいのか、流石の私にも見当がつかないが、いい経験にはなった。
 金魚すくい、と銘打ってあるのに、救えないように出来ているという点が、特に。
「下手だねぇ」
 私から言わせれば、なぜこんなペラペラな薄い膜で魚を救うことが出来る技術があるのか、不思議でならなかった。
 地球の文化とは想像以上に、我々の想像を超えた人間の技術によって支えられていたのかもしれない。そう思って作品のため、メモ帳にこっそり書き込みながら、取材の為、アンドロイド達が運営する店と、最新の科学テクノロジーが運営する店との違いを比較してみることにした。
 まず、全自動でないのだ。
 一から十まで機械が運営する店も珍しくないというのに、会計やら商品の手渡しやら、実に不合理で忙しそうなのに、楽しそうにやっていた。
 最近の人間が機械に運営させる店では、笑顔など無く、のっぺりとした表情の人間が、機械に全てやらせ、自分はTVを見ているところが多い。 実に物珍しかった。
「いやぁ、色々買えたねぇ」
 だからフカユキに少し、その違いについて聞いてみることにした。
「そりゃあ簡単だよ。彼ら人間は、「売ること」を商売の目的にしているから、利益が最重要と考えているからこそ合理化を進め、逆にアンドロイド達は非合理性、人間の持つ文化に目を向けた」「それと、どういう関係がある? 利益を求めるために合理化を求めることは、悪いのか?」
「いいや、そうじゃない。結局のところ、人間は目的に囚われているんだよ。だから心を通わせる接客よりも、機械を選んだのさ」
「なら、こういう、所謂非合理性は、手間がかかるし、何より対した売り上げも上がらないかもしれないぞ」
 しかし、フカユキはふるふると首を振って、
「違うよ」
 と答えた。
 なにが違うのだろう?
 合理性が悪でないなら、取り入れていくべきではないのか・
「そうじゃなくてさ、目的を取り違えているんだと思う。「売る」だけなら、商品は何でも良い。けれど、「伝える」為ならそれは意味のないことじゃないか」
「伝える? 何をだ」
 顎に手を当てながら、フカユキは続けた。どうでも良いが、顎に手を当てながら考えるのが癖らしかった。
「例えば、この飴」
 言って、どこからともなくリンゴの形をした飴を取り出した。飴はプラスチックの棒に刺さっていて、持ち歩きながら舐められるようになっていた。
「この飴の良さ、これは本来、昔の地球で売られていて、祭りの時なんかに昔の人たちは売っていたらしいんだけどさ、人と一緒に歩きながら、この飴を舐めて祭りを楽しんだそうだよ」
「それがなんだ」
「だからさ、そういった漠然とした良さ、雰囲気、人と人との繋がりみたいなモノは、合理性じゃあ伝えられないってことだよ」
 人と人との繋がり。
 私には分からない。
 それはそれできっと素晴らしいことか何かなのだろうが、私には理解は出来ても、感じることが不可能だ。
「別に無くては生きていけないわけでもないだろう? そんなモノが無くても生きては行ける」
 隣を歩くフカユキにそう言った。
 負け惜しみではない。
 私はそういう生き方をしてきた。
 だから塵一つ分とて、後悔も、憧れもない。
 それを察したのかは知らないが、少し立ち止まって、俯きながらフカユキは言った。
「確かに、生きては行けると思う。けれど、それは人間の在り方じゃないよ」
「結構だ。そんなもの、役に立たなければ必要ない。人間として貧しく生きるよりは、怪物として悠々自適の生活を送りたい」
「それは嘘でしょ」
 振り向いて、フカユキは、
「君は、本当は愛されたかったんじゃないのかな?」
 突きつけるように、そう、本当にナイフでも突きつけるかのような鋭さで、質問をぶつけた。
 愛される。
 愛されたい。
 正直、私には「愛」というものさえも分からないのだ。ペンギンが空を飛べないように、自分たちが出来るからって、空を飛ぶ楽しさを押しつけられても困る話だ。
 しかし、愛か・・・・・・愛されたところで、仮に、だが、愛されたところで、私は自分の都合のためにあっさり、仮に心の底から私が何かを愛することがあったとしても、必要とあれば利用しようとし、不必要ならば、捨てようとするだろう。
 それを愛情とは言えまい。
 仮にそのような関係が「愛」と呼べるなら、求めるほどのモノでもない。
 だから、
「それは違う」
 と断言した。
「私は、愛だの人間らしさだのが、手に入らないならそれはそれで構わない。ただ、無いならばそれに見合ったモノが欲しい。それだけだ」
「それは、愛されたいことと、どう違うのかな」 実に楽しそうに、そんなことを聞く。
 変な女だ。
「違うな、極論、私は誰にも必要とされなくてもそれを良しと出来る。実利さえ伴えば、だが」
「それはただの妥協でしょう?」
「違うな、そんなもの、結局はその他大勢が素晴らしいと称えているだけであって、愛情だとかを必要とすることこそが幸せ、などというのは、ただの押しつけがましい善意だ」
 少し、目を見開いて、試すようにフカユキは続けていった。
「けどさ、それって、人間が本質的に望むものだからこそ、皆が素晴らしいと思うんじゃない?」「だからこそ、押しつけがましい。人間が本来大切にするモノだからと言って、それを感じ取れない人間の存在を放棄している。くだらない。私には私の望む「幸福」私の望む「天国」を目指す権利があるはずだ」
 人に合わせずとも。しかし、そもそもがそういった「幸福」を感じ取れないからこそこんなことを言っているわけであって、望むモノが存在しない以上、心無い以上、手にはいるはずのないモノと言えるのかもしれない。
「仮にそんなモノが見つからなかったからと言って、私には分からないだろう」
「分からないから、諦めるの?」
「いや、分からないだろうが、必要とあれば手に入れるさ。それこそ、金の力で買ってやろう」
「あはは、面白いね、君」
 嬉しくもない。
 私はコメディアンではないのだが。
 笑いながらひーひーと腹を抱えて涙を流しながら爆笑されても、不愉快でこそ無いが、目障りではあった。
「あっははは、いや御免御免。でもさぁ、そんな考え方で君は満足なの?」
「満足だな」
 本当はよく分からなかったが、こうやって意味もなく虚勢を張るのも男という生き物だ。逆に女という生き物はお節介で迷惑な生き物であり、頼んでもいないというのに、さらに質問責めにするのだった。
「本当にぃ? まぁ、いいや。じゃあ、君の言う「幸せ」って何なの?」
 幸せ、幸福、天国。
 ささやかなストレスすら許さない、平穏なる生活が目的ではあるが、それは目的や環境であって「幸せ」そのものではあるまい。
 なら、何だろう? そもそも幸せを感じ取れないからこのような回りくどい生き方をしているのであって、そんなモノがあれば苦労はしない。
 だから、
「金だ」
 と答えた。
「お金はあくまでお金であって、幸せとは関係なさそうだけど?」
「そうでもない。望むモノを手に入れる、という点では、私からすればもっとも近い。幸せなんて状況次第で変わる。少なくとも私には、不変の幸せ、愛情だのと言ったモノは感じ取れない。ならば臨機応変にその場その場の幸せを買うことの出来る金は、幸福を作るための資材のようなものだろう」
「その場しのぎも良いところだと思うけど」
 鼻で若干小馬鹿にしながら、何かカンに障ったのか、少し、苛立ったように言うフカユキ。
 確かに、まぁそう言える。
 その場しのぎ。
「それは、悪いことなのか? 私には精々そのくらいのモノを「幸せ」とする事しかできない。人間の言う「愛情の素晴らしさ」に耳を傾けたところで、幸せなのは相手だけだ。私は何も感じないだろう。良い悪いでは無く、最初からそうなのだから、自分の手に入る「幸せ」で妥協だろうが何だろうが、満足しようと言うのは当然だろう」
 手に入らないモノを押しつけられたところで、あるいはそれが幸せだと言われたところで、納得行くはずもない。
 自分達の常識を押しつけないで欲しいものだ。私はそれを幸せだとは、決して感じることが出来ないのだから、言ってしまえば存在しないも同義だしな。
「そんな生き方で満足なの?」
「選びようが無かった気もするが、ここは小綺麗な答えよりも真実を話そう。満足できるように変えるしかあるまい。生きるためにはまず、己を知らなければならない。私は破綻者であることを知り、それでも幸せになれるように四苦八苦しているだけだ」
「ふぅん・・・・・・」
 満足したのかしていないのか、まぁそれこそ知ったことではなかったが、何時までもぶらぶらふらついているわけにも行かないので「そろそろ宇宙船が出発する時間だ、私は先に行く」と言って私は先に向かおうとしたのだが、
「いいよいいよ、一緒に行こう」
 言って、腕を私の右腕に絡めてきた。
 鬱陶しい。
「勝手にしろ」
 私はそう言って、非常に歩きにくかったのでフカユキを引きはがして受付に向かい、宇宙船へと乗船するのであった。

   3

 私たちは向かい合ってシートに座っていた。私はホットコーヒーを、フカユキはバニラシェイクを頼み、私は機内食のイタリアンを食べ終わって珈琲を飲んでくつろいでいた。
 いいものだ。
 しかし、フカユキはあろう事かパスタを頼むだけ頼んで(そもそも、何故宇宙食でイタリアンなのだろう?)それらをほとんど残したため、はっきり言えば見苦しく、遠回しに言っても落ち着きがない奴だった。
 ようやく食べ終わり、バニラシェイクをスプーンで摘みながら、
「いやあ凄いねぇ、宇宙って奴は」
 などと、おのぼりさんのようなことを言うフカユキを見て、そういえばつい最近までこの女が、地球に住んでいたことを思い出した。
「地球からは、宇宙はどう見えるんだ?」
 ただ間を持たせるためだけ、というかほとんど思いつきでそんなことを聞いてみた。なにか作品のネタになる可能性もあるしな。
「そりゃあもう、綺麗だよ。星が空一面に広がっていて、星の海を眺めている感覚だね」
 星空を海に例えるというのは、何というか、それなら海を眺めればいいんじゃないのかと思ったが、しかし、まぁ女は感覚の生き物なのだから、私とは見えている世界も違うのだろう。
 景色を、世界を共有する。
 それは一つの幸せの形だろう。私には分からないが、追求することで何か分かることもあるかもしれない。そう思って、私はこれから向かう惑星について聞いてみることにした。
 仕事の世界観を共有したところで、幸せになれるのかは分からないが。
「これから行く惑星には、海はあるのか?」
「無いよ」
 との答えが返ってきたので、少し驚いたが、それは答えが早かったからではなく、「海の存在しない惑星」と言うモノが、全く想像つかなかったからだ。
「海が全くない惑星なんて、あまり聞かないな」「人工惑星だからね。ノーズトーって呼ばれている星で、名前の意味は「この世の外側」だって」「物騒な名前だな。なぜ、そんな惑星に、ロボットをこき使っている会社の会長がいるんだ?」
 そんな辺境の惑星に住まずとも、自然豊かな火星や、バカンスや観光向けの惑星に別荘でも構えていそうなものだが。
「当然だよ。彼女、なのかは分からないけど、マフィアのボスが、そんな堂々としてられないし」「何だって?」
 初耳だ。
 今回の依頼主は、ずいぶん物騒な肩書きを持っているらしい。
「聞いていないぞ、そんな話」
 何故、船が出航してから、いや、これはわざとなのだろう。
 私が話から降りないように仕向けたのか?
「調べれば分かったと思うけど・・・・・・」
 事前調査は主にAIのジャックが担当してくれていた分野だ。今回奴は同行していない。
 とはいえ、それを踏まえても、やはりわざとのようだった。フカユキがどの程度演技力があるのか知らないが、こと、人を見抜く力は作家である以上、心を読める超能力者よりもある自信があるのだ。
 その私から言わせれば、動揺して調べなかったことを意外そうに振る舞ってはいるモノの、その動揺は嘘だと分かる。
 むしろ、計画通り進んでいるかのような・・・・・・気のせいだろうか?
「なら、説明して貰おうか。なぜそんな奴が」
 ロボット産業を牛耳っていたのか、と私は詰問した。
 気になる。
 非常に気になる。
 作品のネタにもなりそうだしな。
「元々、ロボット産業は戦争用ドローンからの派生系、というか、ドローン以上に効果的に殺戮できる兵器として、運用されていたの。それを独裁者、テロリズム、何でも良いけど要は「暴力でモノを言わせてきた人種」が横流しして、あるいはパーツを作ったり、新しく開発して優れた殺人兵器の数々を作り上げてきた」
「ロボットの産みの親は、戦争か」
 笑えない話だ。
 大昔から人間はそんな考えだったのか。
「そうだね。殺し合うことで進化してきた産業だから、当然非社会的な連中も介入するし、むしろ国家の中古品を、率先して売っていたらしいよ。彼らは薬、臓器、戦争代行と、金のためなら何でもやった。そしてそういったところに集まるアンダーマネー、フリーなキャッシュを手にすることで、国力を上げて行くのが、昔も今も変わらない国家政治のやり口だよ」
 人間は大昔から成長しない。
 そのくせ、科学力はどんどん発展していくのだから、手に負えない話だ。同じ人間である私が言っても、あまり説得力はなさそうだが。
 何にせよ、その「国家」とやらのため、そんな実体のないあやふやな存在のために、人間は殺戮と薬と売春と植民地を正当化してきたようだ。昔の人類も今の人類も大してやってることは変わらない、しかし、問題は時代を積み重ねることでそういった外道な人種が力を付けすぎてきたと言うところだろうか。
 私は悪人か善人かはどうでも良いのだが、そんなチンピラみたいなやり口でのし上がってきた人種が、素直に金を支払うのか?
「その、今回の依頼主の略歴は大体分かった。それで、経済成長を続けたそいつらは、戦争という仲介人を通して、企業運営をするようになったわけか」
「上手いこと言うね」
 事実、その通りなのではないだろうか?
 戦争、紛争、何でも良いが、暴力で安易に物事を集結させようとした先人達の「ツケ」を我々が払うことになっている気がしてならない。
 迷惑な話だ。
「彼らは地下のコネクションをフル活用して、新しい惑星の採掘権利、見捨てられた惑星の植民地としての活用、銀河連邦の法を無視して外側で行動できる人脈、組織作りを可能にした」
「そこまで出来る組織が、幽霊に怯えるか?」
 また何か利用されそうになっているのではないだろうな。
 他人の都合で動かされるのは、こりごりだ。
 フカユキは「そういうことじゃないよ」と首を振って、
「軍事利用できるかどうか、捕獲して試したいんだと思う。ほら、君の、というか所謂サムライやニンジャが、最高峰の戦力として数えられているのは「幽霊」なんて自分たちに解明できない道のテクノロジーを使っているからであって、逆に言えばそれらを解明さえすれば」
「サムライやニンジャの大量生産が可能になる」 先んじて私は言った。
 クローンニンジャの実例を見たことはあるが、もし軍事への転用が可能だとすれば、相当な驚異になるだろう。実際、私のようなおよそ剣を握ったことさえない人間に、弾丸をはじく胴体視力やアンドロイド以上の身体能力を付与した未知のテクノロジーだ。
 それを作り出し、量産することが出来れば、昔の映画みたいに銀河全体を支配する帝国、なんてモノを作ることが出来るかもしれない。
 そのためにオカルトな、「アンドロイドの幽霊」などという眉唾な与太話に、大の大人達が踊らされているというのだから、いささか以上に滑稽ではあったが。
 機内のサービスでアーモンドを一皿頼み、運ばれてきた皿から一粒摘んで食べた。
「美味しいの? それ」
「地球にはアーモンドは無いのか?」
「無いよ。せいぜいが野菜と、少しの肉と、後は現地調達の木の実かな」
「そんなのでよく生きていけるな、地球の人類はその環境に適応しているのか?」
 だが、フカユキは悲しそうな顔で、
「そうじゃない。不必要なモノが増えすぎた。元々人間はそんなに多くのモノを必要としなくても生きては行ける。だのに、テクノロジーの利便性に目を眩まされて、大切なモノを見失った」
「大切なモノ、とは?」
 いぶかしむ私をよそに、フカユキは遠い目で窓の外、銀河の海を眺めながら、続けた。
「人間は徐々にではあるけれど、心を失いつつある。この数千年でそれがさらに顕著になってきているんだ。考えてもごらんよ、テクノロジーに頼らない人間なんて、このご時世に居ないだろう? 逆に言えば、彼らはもうテクノロジーの恩恵なしでは、人と繋がることさえ出来やしない」
 デジタル上で顔を合わせられる以上、直接あって話す必要はない。そう考える若者は多いらしく実際に会ってもいない人間に仕事を頼んだり、あるいは縁談を進めようとする奴もいる。意志を共有して物事に挑む必要性が廃れつつある以上、そこのは真実当人の意志は無く、あったとしても、薄っぺらな偽物だ。
 デジタル社会の恩恵。
 それは利便性であり、汎用性であり、物事を加速させる力だと、私は捉えている。そして重要なのが、物事を加速させるということは、歴史の歩みを加速させることが出来ると言うことだ。
 加速させた結果、核弾頭を扱いきれずに殺戮は起こり、最近なら「振動核」、殺さない核弾頭、人工的でかつ、強力な振動波で、何も傷つけずに制圧できるという代物が出回っているが、結局は悪用され、扱いきれずにいる。
 人間の精神の進化があるならば、それは遅く、そして精神が幼ければ幼いほど、強力なテクノロジーに心奪われ、扱いきれずに自滅する。
 何度も人間はそれを繰り返してきた。
「だが、それによって得られた恩恵は大きいものじゃないのか?」
 何か言われたらとりあえず反論を返す。これは私が作家として好奇心を満たすためにやっていることであって、別に意地が悪いわけではない。
「そうだね。けれど、そのために多くの植民地や貧困層を生み出して、それらを利用して平和な世の中を説きながら、「恩恵」とやらを受けるのは良いことなのかな?」
 静かに、怒っているようだった。
 何に対してかは知らないが、面白そうだ。作家として、ひいては個人的にも興味が沸いた。
「ほう、、何か、嫌なことでもあったのか?」
 などと、気遣うフリをして人の生傷を抉るというのだから、我ながら性格は少しだけ、ほんの少しだけ悪いかもしれないと反省のようなことを思った。
 まぁ、生傷を抉ることを、やめはしないが。
 それが私だ。
「うん、まぁね」
 といって言葉を濁したので、私は嫌がるだろうなぁと思いつつ、執拗に詮索を続けた。
 勿論、遠回しにだ。
「地球に住む前は、どこに住んでいたんだ?」
「よく分かったね、私が地球生まれじゃないの」「しゃべり方になまりが無い。標準語、と言うと語弊があるが、どこか別の星で話し方を学んでいなければ、そうそう上手く話せないだろう」
 この銀河にはあらゆる言語圏があるが、こうも流暢に私と同じ言語を話せるのはおかしい。銀河連邦の管理下で学んでいるはずだ。
 そう思ったのだが、
「私はね、奴隷だったの」
 と、思わぬ告白をされたので、とりあえず聞くことにした。
 作品のネタになりそうだしな。
「奴隷、と言うと、敗戦国のどれかに住んでいたのか?」
 あるいは、開拓前の惑星の先住民だったりしたのだろうか。そうは見えなかったが。
 フカユキはううん、と首を振って、
「そうじゃない、技術提供国の一つだった。珍しい製鉄技術を持っていた私の国は、政治力のある銀河連邦に一方的な契約をさせられた。けれど、報酬は僅かで、それでいて労働は過酷だった・・・・・・毎日食べるモノは畑から盗んできた野菜とかで、盗みがばれた仲間は射殺された」
 リァリティがあって良い話だ。
 本来、人間はこういう話に同情して「かわいそうに」とか「辛かったね」とか言う生き物なのだろうが、まぁ、知らん。
 作品の役に立てて良かったなと思うくらいだ。 だから、
「それで? どうなった?」
 と、若干前のめりになる気持ちを抑えて、催促した。これも作品のために仕方が無くやっていることであって、私の人間性は関係ない。
「続きを話してくれ」
「・・・・・・私は、逃げた人間を爆撃する轟音を毎日聞きながら、必死に逃げたけど、そこで人売りの手に捕まった。けれど、買い取ったのは」
「あの「教授」か」
 俗物に渡らなくて一安心したところに、人体実験の実験台という運命が待っていたわけだ。この女の経験を、なにか悲劇のヒロインモノに活かせないものか・・・・・・お涙ちょうだいモノならハッピーエンドでなければ人の目を引かないしな。
 まぁ考えておこう。
「そ。そこでまぁ、前よりはマシな生活と、地球での居住権利を貰って、そこで生活していた訳」「成る程」
 と、ここまで聞いて分かったことがある。
「だから、銀河連邦、というよりこの現代社会を憎んでいるわけか」
 ぎょっとして、「やだなぁ」と、冗談めかしてフカユキは、
「そんなこと無いよ。ただ、もう少し、人間がわかりあえればなぁって思うだけだよ」
 平静を一瞬で取り戻したが、しかし、その違和感を見逃すようなら、私は作家なんてやっていないだろう。
 この女の中には激しい憎悪がある。
 それを仮面を被って誤魔化してきた訳だ。
 そんな女の依頼が、まともであるはずもない。もとよりまともな依頼なんて無かった気もするがしかし、だからってトラブルが好きなわけではないのだ。
 平穏が良い。
 それが一番だ。
 とりあえずは目的地に着いてから考えるとしても、さてどうするか。
 依頼の前金は貰ったわけだし、いっそのこと引き返すのもありかもしれない。そんな考えを巡らしていた私は、一つ重要なことを見逃していたのだろう。
 災厄とは、前触れ無く振ってくるモノだ。




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邪道作家 例の記事通り「悪運」だけは天下一だ!! サポートした分、非人間の強さが手に入ると思っておけ!! 差別も迫害も孤立も生死も、全て瑣末な「些事」と知れ!!!