見出し画像

邪道作家二巻 主人公をブチ殺せ その5

新規用一巻横書き記事

縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事
 横書き一記事まとめ版もこちらのみ


    13

 悪について語ろう。
 悪とは何か?
 強ければよいのか? いや腕っ節の立つ人間など金で雇い、顎で使えばよい。そんな労働に身を費やす時点で二流と言えよう。
 賢しければよいのか? いや頭の良い人間など幾らでもいる。やはり札束で頬を叩いてやればよいだろう。
 ならば何か?
 思考回路。
 吐き気を催す思考回路か?
 否、そんなものは大したことではない。怒りっぽい人間と大差はないのだ。そんなもので悪かどうかは決まらない。
 条件は簡単だ。生物など生きている時点で何かを殺し、何かを貶め、何かを騙す。完全無欠の全知全能の神であろうが、あるいは天衣無縫の悪魔であろうが、善意も悪意も持ち得るのだ。
 当人たちが自分を絶対的な善だとか悪だとか「思いこんでいる」だけで、真実この世に悪だの善だのと言うのは、存在しない。
 聖人だって悪と呼べるし、殺人鬼ですら、何かしら役には立ってしまう。これは人格の問題ではなく、完璧な善だの悪だのというのは、そもそも人間や神が勝手に言い始めただけで、そんな概念は華からこの世に存在しないのだから、ある意味当然ではある。
 悪も善も存在しない。
 例え誰に指を指されようが、笑いながら前進して行き、そして生き方を曲げず、誰にも屈することがない・・・・・・歴史上ではそれらを「英雄」だとか呼ぶらしいが。
 英雄も主人公も、全てに指さされる悪の魔王ですら、私からすれば可愛いものだ。
 彼らには自覚がないのだから。
 自覚のない悪ほど面倒なモノもないのだが・・・・・・例えば、所謂「主人公」と言う奴らは、悪であれば虐げて当たり前、考え方を曲げさせ改心させるか、倒すしかない・・・・・・「倒すしか」何とも愉快な言葉だ。「殺す」という事実を優しく彼らに受け止めさせてくれるのだろう。
 この世に善も悪もない。
 あるのは当人たちの意志だけだろう。
 だが、自分たちの「絶対的に信頼できる指針」みたいなモノに従って、彼らは平気で、あるいは苦悩しているような「フリ」をしながら、悪だと断定して殺す。
 愛のためだとか。
 女のためだとか。
 大切なモノのためだとかで。
 仮に女の涙が大切だったとして、そのために行動することが絶対に間違っていると思わないと言うのは、正直よくわからない。
 涙を流している女がいれば、何をしても良いのか? 人殺しも、テロリズムも、全て彼ら主人公は良しとしてしまうからだ。
 私から言わせれば、「主人公」だの「英雄」だのと言った連中など、テロリストと何ら変わりがない。宗教とて、隣人愛を叫ぶのはよいが、見方を変えれば押しつけがましい洗脳でしかない。子供の頃から無理矢理に礼拝堂に通わせ、それで神様を信じろと刷り込む儀式でしかない。
 当人たちが「正しい」と思いこんでいるモノなど所詮、その程度のモノだ。
 つまり、悪と言うモノがあるならば、それは正しさだの大儀だのと言った下らない呪いと、無関係のところにいるのだろう。
 大儀がなければ動けない三流とは違う。
 どんな方法ですら肯定し、自分自身のために生きる・・・・・・それが悪なのかもしれない。
 私のような善良でかつ神とか隣人愛だのと言ったモノを普段から心がけている素晴らしい人格者には・・・・・・気持ち悪いだけだからやめておこう。 馬鹿馬鹿しい。
 面白くはあったが、私はそういう善良な「フリ」をするのは好きなのだが、実際こうして考えると疲れてきた。
 善か悪かなど、知るか。
 問題はそういう輩が非常に厄介だと言うことだ・・・・・・精神的に非常に強く、まず折れない。
 折れたと思ったらあっさり翻して逃げる。
 私ならそうするだろう。
 そういう意味では、いやどういう意味だとしてもその男は危険だった。例えるならば「ぶっ殺す」と騒いでいるチンピラとは違い、本物の悪はあっさり核発射スイッチを押し、要領よく責任を逃れて誰にも気づかれない位の、「強さ」ではなく「強かさ」を持っているのである。
 その彼、大統領は言った。
「何も頼まないのか?」
「生憎と、コーヒーはすでに頼んでいる」
「コーヒーだけ? お前はコーヒーだけでウェイトレスの手を動かし、苦労を強いるつもりか?」 いつぞやの私のようなことを言う。
 しかし、知らん。
「知ったことか。私の為に手を動かせることを有り難く思っていれば良いだろう。接客業にとって客は神らしいからな」
「ほぅ」
 言って、正面に座る。
 私は一人でゆっくりしたいのだが。
 目障りな男だ。
「いいのか、大統領ともあろうお方が、このような場所に護衛もつけずに」
 当然ながら皮肉というか、ただの嫌がらせみたいなものだ。大統領という肩書きに興味はないがしかし、相手の肩書きを利用してからかい、楽しむというのは、私の趣味のようなものだ。
 ただの悪趣味だが。
「構わないさ。俺に護衛なんぞ必要ない。貧弱な人間とは違って、少しばかり頑丈に出来ているものでね」
 大きなお世話だ。
 ひ弱と言うわけでは決してないが、意味もなく私は腹立たしく思うのだった。
「お前こそ何も頼まないのか? 大統領ともあろうお方がまさか無線飲食ではあるまい」
「バーガーを」
 そう言って彼は頼んだバーガーをかじるのだった。
「こりゃいける。お前はどうだ?」
「もうコーヒーがない」
 コーヒーがないのにそんな脂っこいモノを食べる気にはならなかった。
 無言でもう一口かじり、彼は言った。
「俺が大統領のクロウリーだ」
 小男はそう言った。いやクロウリーか。
「まず食べ終わったらどうだ?」
「バーガーを黙々と食べるのか?」
 奇妙なモノを見る目で見られた。
「バーガーは食うものであって、喋るためのモノじゃない」
「辛気くさいことを言うなよ」
 ・・・・・・私が悪いのか?
「用件は何だ? 私はこの惑星に詳しいわけではないが、大統領がほいほい外出できるのか?」
「それはいいだろう。それより」
 出せ、と彼は手のひらを指しだした。
「レンズだ。貰ってきているだろう?」
「ただでは出すなと言われたものでな」
「そう言うな、ケースは表で部下に持たせてあるが、まだお前に渡すと決まったわけでもない」
「ふん」
 私は受け取っていたレンズを差し出した。
 だがいったん取り上げて、「ケースは約束通り頂くぞ」と言い含めておいた。こんな場所で武力行使をするほど馬鹿ではないだろうが、しかし一応心の準備だけはすませておこう。
 心の準備というのは大概不発に終ってしまうものだが。
 鍵も渡したので、あっけなく、ことは済むようだった。大統領ことクロウリーは表に出てしばらくすると、ケースをテーブルの上に置き、また座った。
 手を組んで私を見る。誰彼構わず低姿勢な人間というのは、胡散臭いなと思った。
 私のような人間でなければ、小物だと思われ歯牙にもかけられないだろう・・・・・・そしてそれが彼の狙いなのだろう。
「一応、例は言っとこう。さて、何か聞きたいことはあるかね?」
 私はケースを容赦なく開けた。
 中には、
「なんだこれは」
 丁寧に納品された骨が入っていた。
 なんだこれは。遺骨か?
「賢者の骨、だ」
 知識があることを自慢げに説明し出すのクロウリーだった。人柄はともかく、商売上手な性格なのは、確かなようだ。
「人間の願いを叶えることが出来る」
 と、続けて彼が言ったので、私は思案した。
 そういえばあの何とかって女からケースの破壊を依頼されたのではなかったのか。まぁ、あんな脅迫じみた依頼など、断ったところで私には何の関係もないのだが。
 とそこで思い至る。
 人種差別云々を、確かあの女は語っていたはずだ。差別などを悪く言うのは人間の性らしく、差別に対してあれこれ活動が起こっているらしい話も聞いていた。しかし見てはいない。
 だから私は彼に言った。
「なぁ、この惑星を視察させて貰って良いか?」「構わん。あの女にでも頼まれたか?」
「いや、私はこの惑星の事をよく知らない。私に依頼した連中はどうも、この惑星に関係したことで、今回の依頼を出した気がする」
 ケースの中身の破壊。まぁ依頼内容には嘘が含まれていたが。そして一方はケースの持ち運び・・・・・・そうだ。聞きそびれるところだった。
 願いが叶う云々についてだ。
「その、願いが叶う骨とやらの話を聞きながら、案内して欲しいのだが」
「いいだろう」
 と、相変わらず自慢げに、彼は脂肪分の多い胸を張って言った。
「ついてこい」
 彼、クロウリーについて行き、私は彼が乗ってきたであろうデロリアン(随分と改造が施されていて、空でも飛べそうだ)に乗車した。
「運転手はいないのか?」
「誰にもハンドルは握らせん」
 そう言うと乱暴に車を出すのだった。案の定、空を飛び、安い給料で雇われている客室乗務員が案内するように、適当な説明を始めた。
 社内では「2001年宇宙の旅」のテーマが流れ続けている。もしかしたら現状への皮肉なのかもしれない。
「まず右側が奴隷農場だ。そして左側が奴隷口上で、その奥では奴隷が奴隷を統制してる」
 奴隷。
 資本主義では金のない人間は食い物でしかない・・・・・・恐らくは敗戦国の人間から、そうでない内線のために避難してきた人間まで、ごちゃ混ぜになっているのだろう。
「一つ聞きたいんだが」
「何だ? この曲か?」
「いや、私は宇宙の旅をまだ見ていない」
 目を見開いて彼は「信じられん」と言った。
「あの傑作を? 宇宙船内で意識のない人間がじわじわと殺される、最高の映画だぞ」
「何が最高なんだ?」
 にやり、と頬を引き上げて、
「主導権を握る方が勝利すると言うところだな」 と言った。
 まぁ、この男は、人間かも私は知らないが、しかし資本主義社会の頂点に立つ以上、「握る側」にいるのだろう。
 私は正義の味方でも何でもないので、綺麗事は言ったりしないが。
 それを察したのか、彼は「どうした、正義の心にでも目覚めたのか?」と軽口を叩く。
 私は「いいや」と答えた。
「奴隷がいるのは厳然たる事実だからな。資本主義が世界を覆うようになってからこっち、「面倒な工業」は丸ごと途上国、途上惑星に押しつけるようになっている。「善良な市民」の「人間として最低限の暮らし」を守るため、彼らは犠牲になってくれている。私からすれば感謝はしても、とやかく言う覚えはない」
「わかってるじゃないか」
 と、笑いながら彼は言うのだった。
「連中が「文化的な」生活を営めているのは我々奴隷商人のおかげだというのに、自分たちはまるで真っ当な善人気取りだ。自分たちが使っている衣服、食事、科学、その全てが大昔から、資本主義社会ができあがった当初から、奴隷商人にやらせ奴隷を安く使い、作ってきたというのに、連中感謝の一つもしやがらん」
「そりゃあ簡単だ。奴隷などと言う非人道的なモノは許されないと声高に叫ぶ一方で、その奴隷を活用して自分たちが成り上がったことを忘れられるのさ。自分たちは善良だと思いこんでいるからな・・・・・・調べればわかることなのに調べもせず、とりあえず正しそうだから「奴隷反対」を叫ぶ。まぁ、いつだって民衆はそんなものだろう」
「まさに、それだ。あいつらはな、自分たちの国の道徳心もどきが大切なのさ。こっちの国では誰が何万人殺そうが何も言わんくせに、民衆が少しでも「非人道的な行為」だの、自分たちの生活を棚に上げて叫び出せば、「正しさ」みたいなモノを旗に掲げて、下らん自己満足のために「悪いことをなくそう」だの言い出すのだ。話にならん」 当然と言えば当然か。
 人間は正しさみたいなモノが好きだ。
 自分たちは正しくて、しかも悪いことは話し合いで解決できると思っているし、暴力は悪であり奴隷は罪であり、許されないと思っている。
 自分たちが週に一度外食できる贅沢を味わうために、海外で、あるいは他の惑星で、多くの人間が奴隷以上にこき使われていようとも、そんなことは調べようとも思わないし、「そんなことは悪いことだ」と叫ぶだけで、別段何もしない。
 私は寄付だの何だのが好きだ。無料で金を貰っておきながら、何を返すわけでもなく、豚のようにおこぼれに預かる人間。自分たちは被害者だとアピールするのは、いつだって当人ではなく悲劇を金にしたがるメディアなのだろうが。
 徳のようなモノがあり、それで天国に行けるならば、私は間違いなく天国に行けるだろう。ただあれこれ述べているだけの暇人どもよりは、可能性は高いはずだ。
 何より、私の発言に文句を言う奴がいても、「なら私以上に金を払って見せろ」と言えばいいし、仮に相手の方が多かろうが、やはり私の金で生き延びている人間が存在する以上、文句を言割れる覚えなど無い。
 徳は金で買える。
 人間の薄っぺらい道徳心など、安いものだ。
 仮に神がいたとして、やはり文句を言うなら私以上に金を払えと言うだろう。高いところからあれこれ言うだけの奴など、暇人どもと何ら変わりないしな。
「人間は、私やお前みたいな例外をのぞけば、正しくあろうとするモノなのさ」
「正しだと? 意味がわからん。そんなもの法律次第でどうとでも変わるだろうに。奴隷が悪だの何だの言っている連中だって、いざ戦争が始まれば、自分たちの大切な仲間たちが戦争するよりも、奴隷を争わせてことを済まそうとするのに」「簡単だよ、そういう都合の悪い情報は、ニュースでみたところですぐに忘れるし、所詮自分たちには直接関係がないのだから、気にしないんだ」「よくそんなに無神経でいられるもんだな」 
「私やお前のような人間が言うと、世も末だなって感じがするね」
「全くだ」
 悪人二人のドライブは、空から始まり、そして今なお続いていた。
「民主主義だと、話にならん。国家首相ですら辞任すれば犯罪が許される社会が、大多数で決めたから良しとしているくせに」
「だろうな。なれ合いの結末などそんなものだ」「何故許されるんだ? お前のいた国ではどうだった?」
 聞かれたので答えることにした。
 事実だけを。
「すまなさそうにしているからだ」
 だが、何を言っているのかわからないようだった。当然か、端から見ればあれほど奇妙な光景もそうそうない。
「つまりだ。「悪いことをしたけど、反省しているから許してあげよう」みたいな心境なのさ」
「なんだそりゃ?」
「民主主義は、いや資本主義も併せてだが、実体よりも形式を重んずるんだ。実際にどうかよりも立派な肩書きであれば優遇され、心の中の反省よりも反省しているように見えるポーズの方が、素晴らしいものだともてはやされる」
「・・・・・・つまり、殺したところで謝れば良いってことか? 国が金を着服しようが、人を殺そうが・・・・・・形式的に謝れば」
「許される」
 私は断言した。クロウリーのような平和からほど遠い人間からすれば、理解し難いだろう。
 ただの事実だが。
「そういう事例しか無いと言っていいな。特に金を持っている人間が道徳心を振り回し始めたらもう手に負えない。でかい別荘を作って森林破壊しながら子供たちのためにワクチンを作り、巨大なクルーザーで世界一周しながら貧困について考える。私から見ても意味不明だ」
「病気なのか? そいつら」
 少し考えて、私は言った。
「そのようなものだ。道徳心やら倫理観やらを振り回しながら生きる人間の姿は、この上なく醜悪で、自分たちの狭い倫理観を信じる。いや、ただ単に自分の頭で考えないと言って良い。頭で考えないからニュースの「非人道的な」報道に胸を痛めるように振る舞い、そしてその正しさみたいなモノを盲目のまま信じる。みんなに合わせる人道的な民主主義、大多数を論理的な考察なしで良しとする、生きることと向き合わない人間の持つ、病だ。現代社会ではそれを良しとしている」
「その病とやらは、治らないのか?」
「大抵、大きな災害だとか、自分自身にも被害の粉が降りかかれば、一時的に考えを改める。そして忘れたりする。そのようなものだ」
「俺やお前みたいな人間が、こういうことを話すのは何故だ?・・・・・・」
「我々のような人種にお鉢が回ってくるくらいには、この世界は、人類とやらは手遅れということだろうな」
 正しそうなモノが正しい。それが社会だ。
 実体など関係がない。
 金と形が整えば、正しさは金で買える。
 それはそうと、デロリアンは現在飛行中でありそして、私は高いところが苦手なことを忘れていた・・・・・・下は絶景だ。
 落ちそうなくらいに。
「何を見ている? 前を見ろ、お次は人間牧場だぞ。銀河連邦の奴らが自分たちで禁止しておいて自分たちで我先にと買う、奴隷の楽園だ」
 ただでさえそんな気分だと言うのに、いつの間にか曲が変わっている。クリス・モンテスの「愛の聖書」が流れていた。名曲なのかもしれないがしかし、こういう曲はバーなどで流すものであって、今流されても陰気な気分になるだけだ。
 私は搭載されていた人工知能に話しかけようとしたが、これはどうやら本当に「デロリアン」らしく、搭載されているモノを引きはがした後があった。私は仕方なくディスクを差し替え、「ハローリバプール」か「ノックは三回」のどちらにしようか迷ったが、どうせなら耳の保養になる方がよいので、ハローリバプールにした。
「何をする?」
「陰気な音楽はうんざりなんでな。これでいい」「名曲なんだぞ、愛の聖書は」
 この良さがわからんとはと、小言を言いながら勝手に「帰らぬ少年兵」をクロウリーは流した。「おい、だからやめろ。そんな音楽だと気が紛れないだろ」
「どこがだ。良い曲じゃないか。だいたい、高いところが怖いなど、子供かお前は」
「お前に言われたくはない」
 何か言い返そうとしたようだが、不毛な争いになると踏んだのか、一度口を閉じてから、またクロウリーは口を開いた。
 この曲はなんだか淫靡な雰囲気で話すシーンがあるので、いかがわしい曲に思えた。実際には少年兵の心情にシーンだったはずなので、担当している歌手の言い方のせいだろう。
「俺は大統領だぞ」
「だから何だ。ガキにガキと言って、何が悪い。大体が権力者など、見栄を張る人間がなるものだろう」
「だが俺は何でも手に入るぞ。国も、人も、金もすべて思い通りだ」
「それを私に言って、何になる」
 世界一の作家と世界一の大統領が、あろうことか口げんかとは。
 勿論、実力は勿論だが、性格の悪さという意味合いで捉えておいても、間違いではない。
「いいか、人間だろうと神だろうと、手に入るモノなどしれているだろう。お前が持っているモノは見たところ、このデロリアンくらいだ」
 指を指して何か言おうとしたらしいが、やはり彼は途中でやめた。
 私はケースの中身を見ることも出来たし、タマモの依頼は果たしたので、もう後は観光するだけだった。復讐者らしい女に依頼を受けた気もするが、私は正義の味方でもなければ主人公でもないので、まぁ、知らん。
 私は許可無くまた曲を変えた。「恋はリズムに乗せて」タイトルの割にノリが良い。
「おい、さっき愛の聖書は否定しておきながら、お前はそんな曲を流すのか?」
「流すね。オールディーズはノリがすべてだ」
「音なら何でもいいのか?俺なら歌詞に拘るがね・・・・・・」
「何の話だったか」
 また話が脱線した。
 悪人同士の話というのは、脱線しやすいと言う事実がここに判明した。作品のネタになるかもしれない。
「俺がすべてを手に入れたという話だ」
「気持ちは分かる。だが私からすれば知ったことではないな。大体が私はこの国の住民じゃない」「いずれ住みたくなるさ」
「何故だ?」
 住みたくなる、というその台詞は予想外というか、予期しないモノだった。
 いったい何故だろう。
 気になる。
 作家としての性なのか、どんな手を使ってでも知りたい気分になった。
「簡単だ、ここほど住みやすいところはないからな・・・・・・」
 宇宙船デロリアン号は旋回しながら飛行する。「運転が荒いぞ」
 抗議するようにそう言う傍らで、私には下の光景が見えた。
 貧困街、そして遠くに見える科学技術の発展した豊かな土地。
「いつの世も同じだ。搾取した側が勝利を掴む。俺に限ったことじゃない。どんな国でもこういう光景はあるさ。それが極端なだけでな」
「頼みもしないのにクローンを作って売買する辺り、確かに豊かそうではあるな」
「馬鹿言うなよ」
 そう言って、ハンドルを握りながらこちらを見るクロウリー。私はよそ見運転は危ないのではとかなり心配になった。
「あれは連中が、善良だのと抜かす国家達が必要だから作ってるのだ。自分たちはお高くとまっているが、「人道的な国家」の官僚や公安機関ほど俺の作った奴隷クローン達は、高く売れる」
「政府と関係しているのか?」
「当然だろう。そのくせ、旗色が悪くなったら、自分たちは関係していないとニュースを流し、国民を洗脳する。そんなことを繰り返す国も国だが国民も国民だな。汚いことをしないで「国家」なんてでかい組織が、まともに回るわけ無いだろうに」
 そう言ってクロウリーは続けた。
「俺は違うぞ、そう言ったことを隠しはしない実力社会の世界だ。この惑星では何でも手にはいるぞ・・・・・・臓器、薬、人間、アンドロイド、人工知能、戦争兵器、洗脳兵器・・・・・・・・・・・・」
「物騒な国だな」
「どこもやってる。見えるようにやってないだけでな」
 確かにそうだろう。私は思案した。
 作家として他に聞きたいことはなかったか。
 そこで思い当たったのは、人工知能の問題・・・・・・科学に依存しすぎた社会問題だった。この国ではどうなっているのか、知りたいからな。
「その、搾取して繁栄する側は、どうなったんだ・・・・・・?」
「あいつら、話にならん」
 科学が発展しても、人間関係に関する問題は解決していないらしい。この男にしては珍しく、荒々しい口調だった。
「どいつもこいつもイエスマンだ。役に立たないし、連中に出来ることは人工知能に任せればいいだけだ」
「科学に頼りすぎたからじゃないのか?」
 最近よく言われるのは、科学技術が発展したおかげで、人類は基礎能力が低下してしまったのではないかという問題だ。わかりやすく言えば、人間には「足りないモノを補おうとする」機能があるのだ。視覚が不自由なら他が鋭敏になる。しかし人間の能力が殆ど必要とされない現代では、それらの機能がすべて人工知能便りになり、人間自身は劣化してしまったということだ。
 嘆かわしい、話らしい。
 私にはよくわからなかったが。
「そうでもない、使えない奴は使えない。連中には自分で考える力がないのだ。だから俺を毎度のように悩ませることを仕事にしている「大統領に悩みの種を持ってくること」が、立派な仕事だと思ってやがる」
「酒でも飲んだらどうだ?」
「もう飲んでる」
 ますます危ない奴だ。
 着陸後、我々は夜の待ちに繰り出すことになった。主に私が決めた。
 この男は面白い。
 人間の正しさなど知らん、面白ければな。
 科学技術の随を極めた夜の町に、悪徳大統領と邪道作家の二人組が、夜が明けるまで遊び倒すことが悪ならば、私は悪人で良いしな。
「行くぞ」
 そういってクロウリーについて行く形で、私は恐るべき科学の楽園、いや夜の楽園に繰り出すのだった・

   14

 しかし期待はずれというか、予想外だったのはというと、意外にも、どれだけテクノロジーが進歩しようが、古き良き時代・・・・・・・・・・・・オールディーズの音楽が流れる場所、チェックベリーのロール・オーバー・ベートーベンの喧噪の中で、酒を飲む風習はなくならないようだった。
「俺はすべてを手に入れた」
「またそれか? いいから飲め」
 酔いつぶれることのない男が話をするとするならば、それはグチだろう。
「俺はこの世の摂理ですら、手中に収めたんだぞ・・・・・・その俺が、何故こんな目にあわねばならんのだ」
「この世の摂理?」
「お前が」
 そこまで言ってゲップをした。重要そうな話題なのに、緊張感はまるでなかった。
「おまえが襲われた化け物だ」
「ああ、あれか」
 そういえばいたな、そんなのが。
 あれは何だったのだろう?
「この世の摂理というやつはな、我々神ですら思いのままに出来ない。しかし俺は変えたのだ。摂理という奴は厄介で、争いがあるからこそ科学が発展する。この段階を越えないことを摂理と呼ぶのだ」
「つまり、なんだ。戦争なしじゃ、私たちは音楽をパイプオルガンのままだったのか?」
「パイプオルガンは悪くない。簡単に言えば、そうだな・・・・・・戦争も起こさずに科学を発展させようとしても、必ずそれを巡って争いが「起こらなければ」ならない。ルールだ。発展の前には必ず戦争、虐殺、陵辱、支配がなければならん。個人の意志ではなくこの世のルールだ」
 また一杯頼みながら(そんなに頼んで大丈夫なのか?)クロウリーは言った。
 確かに、そうだろう。
 この世の摂理というやつは、段階を飛ばすことを許さない傾向がある。仮に飛ばして、科学の時計の針を進めたとしても、やはりそれを巡って争いは起こるものだ。
 人間がどうしても争い、戦争を起こすのも摂理の内なのだろう。実際、神々とやらですら、戦争を避けることは出来ていない。どの神話でもそうだろう。
 しかし、だ。
「それと私を襲った怪物と、どういう関係があるんだ?」
「摂理というのはゲームの基本プログラムみたいなものだ。騙せる。おまえたちの言うところのチートだな」
「私が襲われたのは、改造データか?」
「そのようなものだ」
 やるせない話だ。私はそんないい加減な存在に苦戦したのか。
「お前が苦戦したのも無理はない。お前の持っている、その、「サムライ刀」は、どんな人間にでもそのチートをある程度使えるようにするモノだからな。しかし、俺が作った怪物には制約無しで無尽蔵に改造した。当然ではある」
「私のサムライ刀は、お前達が邪魔者を始末するために作ったんじゃないのか?」
「いや、逆だ」
 言って、クロウリーはナッツを摘んだ。我々はカウンターに座っているのだが、男二人がこんな話をしている様を端から見れば、不思議でならないだろう。
「摂理を破る方法を神の一部が解明したのさ。新しい発見だ。我々は全能だが、しかし出来ること以上のことは出来ない」
「娯楽の神が戦争を起こすことは出来ない、ということか」
 彼の顔面は真っ赤になっていた。大丈夫そうには見えない。まさか私が後で介抱しなければならないのだろうか・・・・・・話の代金だと割り切ろう。 貴重な話を聞かせて貰ったしな。
「だから、それさえ破れれば本当の意味での「全知全能の神」になれるのさ。そして俺はそれを解明しつつある」
「そんな、全知全能とかいうブランドに最も近い男が、何に悩む?」
「使い物にならん部下のことだ」
「人間関係か?」
「俺のような男にはふさわしくない言葉だが、まぁそんなようなものだ。どいつもこいつもへらへら笑いながら、「おべっか」を使うことしか考えていないくせに、それがばれていないと思っていやがる。俺はこの惑星の王だぞ」
「落ち着け、飲み過ぎだ」
「まだまだいける」
 まだまだ行けるという男がいたら、それは無理して突っ走る合図のようなものだ。吐かれても嫌だったので、強引に借りている部屋に連れて行くことにした。
「何で部屋を一つしか借りないんだ」
「途中で帰ると思ったからな」
「とりあえずもう寝ろ」
 無言でベッドにクロウリーは倒れ込み、そのまま仰向けになって眠るのだった。
 ベッドは一つしか無いというのにだ。
 さんざんな結果になったが、しかし私はホテルマンに頼み込み、布団を敷いて床で寝た。私は安眠したいのだ、酔っぱらいの隣では眠れない。
 次の日、私はシャワーを浴びてさわやかな朝を迎えたのだが、クロウリーは頭が痛いらしく、頭を抱えながらのそのそと起き上がり、また眠ろうとしたので仕方がなく私は無理矢理シャワールームに彼を押し込んだ。
「のぞくなよ」
 などと軽口を吐いたので、私は「何なら今すぐ目が覚めるように、冷水に変えてもいいんだぞ」と脅した。
 小さい戦いである。
 ようやく気分を取り戻したらしく、私はコーヒーを煎れてやり(何故この私が、こんな召使いなことをしているのか、不思議でならない)適当なモーニングをその辺のパン屋から買ってきて、我々はコーヒーを味わいながらパンを貪った。
「思うんだがな」
「何だ?」
 私はパンをかじろうとしていたので、中途半端な体勢のまま答えた。
 クロウリーは言う。
「俺たちは良いコンビになると思わないか?」
「また酔っぱらいの介抱をするのは御免だな」
「そう言うな。お前は何だかんだ言って望むべき欲望がない。対して、俺はこの世すべての欲望を手にしているが、退屈していてな」
 私は答える前にパンをかじり、コーヒーをすすった。まだ食べていないので、腹が減って話の内容が思うように入ってこないからだ。
 私は適当に答えることにした。
「おかしなことを言う。私ほど欲望にまみれている人間など、そうはいないぞ」
「それはフリだろう。俺は眺めの良い立ち位置に立っているからな。よく分かる」
「それで」
 パンを食べたい気持ちをぐっとこらえて、私は答えてやった。
「俺と手を組まないか?」
「何の手を組むんだ」
「この国を一緒に動かすんだ。お前は参謀、俺は国王だ」
「面倒だから嫌だよ。私は作家であって、政治家じゃないからな」
「そういうな、ポストに座っているだけで良いじゃないか」
「・・・・・・そんなことをしなくても、我々二人は酒を浴びるほど飲み、ゲロをはいた相棒を介抱した挙げ句、こうして益体のない朝食をとれるくらいには自由なんだぞ。これ以上何がいる?」
「権力だ。言ったろう、使う側と使われる側だ」「見たところ、気苦労が増えるだけのようにしか見えないが・・・・・・」
「わかった、もういい。・・・・・・このパンは美味いな・・・・・・」
「国王はパンを食べないのか?」
「茶化すな。俺だってパンくらいは食べるさ。庶民的なイメージで売っているのでな」
「そんなブランド品で全身を覆っておいて、良く言うよ、見栄っ張りめ」
 我々は益体のない食事をした後、益体のない小さい争いをし、あまりの不毛さに馬鹿馬鹿しくなり休んで、またコーヒーで一服するのだった。
 もう完全に復讐者からの依頼は放り出してしまっているので、ケースは斬ったが、中身は無かったとでも言っておこう。
 問題なのは、そう、骨である。
「その骨、何に使うんだ?」
 言うと、彼は面倒そうに「願いを叶えるとされている」と答えた。
 そしてこう続けた。
「あのレンズは骨が持つとされる「英知」の知識を解読するのに必要なモノだった。俺が欲しいのはそっちだったからな。だから願いを叶えるとかいう胡散臭い代物には興味がない」
「欲深い神の癖に、願いがないのか?」
「お前も同じだろう。我々に願いなど無い。大体がこういう代物は、たいてい割にあわん。だから嫌いなんだ」
 元々この中身に興味があって依頼を受けたので私としてはもう、やることはもう無い。願いを叶えるというこのおもしろグッズも、クロウリーの話を聞いた後では色あせてしまった。
 なのでとりあえず、この男と行動を共にして、散策にふけるのも面白いかもしれない・・・・・・また掃除をするのは心底御免だが。
 この男はフカユキとか言うあの女からすれば復讐の対象だったらしいが、見方を変えれば人間であろうが神であろうが、まぁこのようなものだ。 絶対的な悪。
 そう言ったモノがあると、そんな幼稚な考えを捨てきれない人間というのは、自己を正当化することで「正しさ」みたいなモノを証明しようと必死だ。
 この世が物語ならばあの女、フカユキはまさに主人公みたいな性格をしていたが、私のような悪人目線で見れば、人を脅迫して使おうとして無理矢理自分の都合を遠そうとするだけの、暴力的な人種でしかない。
 作品のネタに活かせそうな話だ。
 私から言わせれば、生きている時点で何かを踏みにじり殺すものであって、悪だの善だのと言うのは所謂「良い人間」でいたいと思う醜悪な欲望でしかない。
 この世に善だの悪だのは、存在しない。
 法律や風習で決めているだけだ。人を殺してほめられる場所も、軍隊という形でいつだって存在するし、殺人ですら、誰かはその殺された人間を疎ましく思うだろうし、そうでなくても豚や牛、あるいは自然環境をめちゃくちゃにしておいて「文化的な暮らし」をしている生物が、今更何を気取っているのかという話だ。
 だから私からすれば、クロウリーがどれだけの罪人であろうが知ったことではない。大体、人にそんなことを言えるほど、私は心優しい聖人でもない。
 我々二人は町に繰り出すことにした。「徒歩で行こう」と私は提案したのだが、「馬鹿を言うな、この俺に歩いて移動しろと?」と、運動能力に自信がないらしく、拒否されてしまった。
 なので、だ。
「沈まないんだろうな」
「問題ない。俺のクルーザーだぞ」
 当然ながら私はクルーザーなど持っていない。管理が大変ではないか。大金持ちの象徴らしいがしかし、私は見栄のために人生を無駄にしたくはない。
 対して、クロウリーは見栄の固まりのような男で、内部には執事が一人と、大きな部屋がいくつかあって、酒が山のように並べられている船底で海の中が見える部屋、外の景色を眺めながらコーヒーでも飲めそうなラウンジがあった。
 私は外の景色が見たかったし、コノ惑星の情勢を聞きがてらの移動なので、コーヒーが飲めそうなラウンジの椅子に勝手に座った。椅子と言うよりもソファか。座り心地は抜群だ。
 私の向かいにクロウリーが座る。
「どうだ、良い部屋だろう」
「確かに」
 我々は海沿いに町を眺めていた。勿論、私が最初に言い出したことだ。この町の話を聞き、それを作品の参考にしつつ、適当に嗜好品を楽しみたい。
 確かにそう言った。
「どうだ、生きたアンコウの肝だ。絶品だぞ」
「センス悪いな、お前」
 味はともかく、そんな人間の生き肝みたいなモノを良く平然と食べられるなと思った。
 クロウリーはかじってから、「味は絶品だぞ」と進めた。
「晩にでも頂くさ。私はコーヒーとチョコだ」
「淡泊な奴だな。コノ惑星のことを知りたいと言うから、名産品を持ってきたのに」
「名産品?・・・・・・アンコウがか?」
「珍味はいつでも重宝されるということだ」
 あまりにも美味そうに食べているので、勢い食べそうになったが、こういうのはワインか何かと一緒に食べた方が美味しいだろう。コーヒーには合いそうにない。
「まぁ、食事時に頂くよ。それで・・・・・・」
「この星の話だったな。あまり変わらんよ」
 そう言って彼はおいてあったマフィンをかじって、食べながら話を続けた。
「食うか話すかどちらかにしろよ」
「マフィンは食べながら話すことが出来る、人類の発明品だ」
 口からこぼれていた。
「いいだろ別に、俺だって大統領らしくお上品に食べるのにはうんざりしていたんだ」
「お上品に? お前が?」
「失敬な奴だな、この顔を見て育ちの良さがわかるだろう」
「・・・・・・」
 自分でも失言だと思ったのか、クロウリーはあまり深く追求せず何かを言おうとして、やめてから、話を続けた。大方弁解をしようとして、失敗したのだろう。
「この惑星は俺のモノだ」
「それは知っている。自称だろう」
「自称じゃない」
 そう言ってクロウリーはワイングラスを取ってワインを注ぎ、少し揺らして楽しんだ。
「権力があれば何でも思いのままだ」
「本当にそうなのか? 私は作家だから、権力云々は正直よく分からないんだが・・・・・・」
「勿論だとも。資本主義社会では金と軍事力、そして権力があれば殺人も合法だ」
「そんな、漫画みたいに行くのか? 民衆が反発したりとか、しないのか?」
「ああ」
 ワインを口に含み、多めに飲む。そしてクロウリーは一服ついてから。また話を始めた。
 昼間から酒とは、また吐かないだろうな。
 だから先んじて言った。
「おい、また吐いたりしないだろうな」
「このタイミングでそう言うことを言うんじゃない。俺の偉大さが損なわれるだろ」
「なら飲むな」
「酒を飲むのは、この惑星では合法だ」
 そういって酒を飲もうとする。まぁ、私は酒に大してあれこれ言うつもりは無いのだが、また吐かれてはたまったものではない。
「私はこの惑星のゲロ掃除係じゃない」
 両手をあげて降参のポーズをし、「分かった」と言って渋々、本当に渋々酒をテーブルに置くのだった。
「今度法案を通してやるからな。「酒を飲んでゲロをはいても、掃除するのは同伴者の義務」という法案をな」
「知るか。私にとっては私自身が法だ。長ったらしい法案など知ったことではない」
「おい、それが現代社会に生きる人間の言葉か? もう少し自分を省みろ」
「お前に言われる覚えはない。それより、酒ばっかり飲んでないで、続きを話せ」
 右手をわざとらしく振るわせて(恐らく、自分は酒が飲みたいというアピールだろう)クロウリーは続きを話した。
「そもそも、民主主義だろうが帝国主義だろうがだな、「正しさの基準」は俺のような権力者が決めるんだから、倫理的にどうだろうが関係ないに決まっているだろう。もしばれても、情報を操作するかスケープゴートを出せばいい。民衆が文句を言わないのかって? そりゃ言うさ。だが言うだけだからな。連中は行動しない。だから脅威にはならん。正しさの奴隷だからな、払うことが正しいと景気よく税金を払ってくれる」
 社会的な正しさを信じる姿勢も、ある意味宗教みたいなものか。資本主義も盲目的に信じる彼らからすれば、どんな重税をしかれても「政府が悪い」ではなく「貧乏が悪い」と考え、変えようと一致団結したりはしないのだろう。
 何より、革命というのは基本的に軍事力、団結力、そして金の力で可能になるモノだが、民主主義ではまるで政府の決定が「全員の総意であるかのように扱われ、実体が政府の都合の良いように改竄されていたとしても、選んだ民衆が悪いと言うことになる」システムができあがっている。
 金がなければ政治家にはなれない。
 クズでなければ政治家として生き残れない。
 そして何より、軍事力は警察、公安、軍隊とすべて政府が所有しており、警察機関を使えばどうとでも民衆を罰することが出来る。それも都合の良い形で。
 何より、資本主義社会では「持つもの」の発言が正しくなり、持つモノはさらに持ち、持たないモノは資本主義社会において、ただのゴミだ。
 そんな社会構造で政府が「正義みたいなもの」を唱える時点でお笑い草だが、
 その辺りをわきまえているのだろう。だからこそこの男は現代社会の人間達を操るのに必要なモノを手にしているのだろう。
 資本主義社会。
 この社会構造で、自身の信念に従って業を背負い生きている人間の、なんと少ないことか。
 信念は金にならない。
 誇りは形にならない。
 ただ労働という形で別段やりたくもないことをやらされるか、逆に他人を使用して使い捨て、外道として生きるか。なんにせよ中身が薄っぺらいことは確かだろう。よくよく調べてみると、金を大きく稼ぐ人間は大抵が奴隷商人か有りもしない価値を売りつけるデジタルシステムの支配者であり、農業や漁業と違って、彼らは別に存在しない方が社会のためになるにも関わらず、役にも立たないモノを売り、価値のないモノを流行に乗せ、あるいは価値を作り出すために他人を利用して、安っぽい信念を売りさばくのだ。
 そんな世界に生きていて、価値のあるモノは少ない・・・・・・そしてそんな世界で「民主主義」などという夢物語は当然のように利用される。
 安っぽい信念しかない社会構造で、なんというか、「平等」だの「平和」だのという綺麗事を実現しようとなど思うからだ。そんなモノを実現しようとする前に、本の一つでも書け。
 でなければこのクロウリーのような人間を否定する権利はない。あったところで、勝つことなど出来はしないだろうが。
 まぁ私はこの男を否定する気もないし、そんな人間でもない。大体がこの資本主義社会で「作家」などという不可解な仕事をしている人間が、「そんなことは非人道的だ、よくない」などと正論を述べる方がどうかしている。鏡を見るべきだろう。
「成る程な。大体分かった。典型的な「先進国」と言うわけか」
「その通りだ。俺からすれば生きやすい世界さ。連中はこの世界に正しい指針があると思いこんでいるからな、それをちょっと変えてやればいい」 正しさの指針を変える。
 さながら神の真似事だな。政治家というのはそう言うものであり、クロウリーは本当にその人外の何かだというのだから、皮肉でしかないが。
「例えば、どういうものだ?」
「労働だよ。連中は資本主義社会ができあがるまでは、宗教、神に祈ることを「正しい」と信じてきた。資本主義社会になってからは「立派な社会人」だとかを指針にしてやった。金があることが豊かであり金があるからこそ人として立派であり金があるからこそ幸せになれると刷り込んだ。結果できあがったのが、今の「労働教」だ」
「酷い例えだな」
「そう思うか? 事実だ。宗教を変えただけさ。自分たちが洗脳されているとすら思わない内にな・・・・・・どちらにせよ、宗教でも労働でも、俺のような先導して支配する側が、得をするわけだが」「労働は宗教なのか? 言い過ぎの気もするが」 気になると言えば気になる話だ。
 私の場合、ある程度金が役に立たないことを知って金を求めているので、ただひねくれているだけなのだが、しかし確かに、拝金主義が横行したのは資本主義が栄えてからだ。
 それまでは商人というのは、「金に意地汚く、生き汚い人種」とさげすまれていたものだ。
 その時代に生きていた私が言うのだから、まず間違いない。酷いモノだった。
 それが現代では酒を浴びるようにのみ、女を侍らせ、まるで「立派で素晴らしい人間」であるかのように、金を持っているだけでなれるというのだから、意味不明ではある。
「言い過ぎではないな。その内、また別の宗教を流すことのなるんだろうな。資本主義社会ほど支配しやすい形はないが、だとすれば応用するんだろうが・・・・・・やることは変わらん」
「その割には浮かない顔だな」
 きょとん、として私を酒の入ったグラスを揺らしながら、「俺の顔と金の量は関係ない」と言うのだった。
「あいつら、使い物にならん」
「またそれか。しかし、資本主義とお前の部下が使えないことには関係あるまい」
「あるさ」
 と意外なことを言うのだった。言に乗っ取れば資本主義社会が加速するほど、部下は使えなくなると言うことだろうか?
「そもそもだ。資本主義は個々人の自我を抑制するために作られたものだ。だから連中は立派になれば成る程自分が無くなる。ロボットみたいなもんだ。自分で考えないから、いちいち命令せにゃならん」
「おいおい、お前達がそうしたんだろう」
「俺の責任じゃない。大体だな、肩書きが立派になるほど使えなくなるとはどういうことだ? 連中はバッチをつけてりゃ満足なのか?」
 ストレスがたまっているようで、かなり人材育成問題に疲れているようだった。追い打ちをかけるのもなんなので、とりあえずフォローしてやることにした。
「まぁ、大統領のお前が言うのも変だと思うが、そいつらのことなら、私にも分かる」
「何が分かる」
「私はそいつらはきっと、なれているんだと思うぞ。命令される喜びになれているんだ。いっそのことジャングルにでも放り込んでやれ。生き残ってれば、役に立つ奴が育つかもな」
 腕を組んで考え込み、「考えておく」とクロウリーは答えた。
「お前はどうなんだ?」
「どう、とは?」
「作家なんだろう? 何かそう言う問題を抱えていたりはしないのか?」
「そりゃ勿論あるさ」
 無いわけがない。
 作家というのは編集部に搾取されるために存在していると言っても、過言ではない。
「仕事そのものは、私はやり遂げれば後悔はないからな・・・・・・お前と同じで人間関係は最近の音楽くらい酷いが」
 そこまで言うと、クロウリーは顔をしかめてこう言った。
「ブーディーズを知らないのか?」
「何だ? それは」
「最近はやっているロックバンドだ。近い内に俺の国にも星賓としてやってくる」
「面白いのか?」
「全盛期のエルビスより凄い」
 自信満々に、お前が歌っているわけでもないだろうに、そういうのだった。まぁ、ファンとはそういうものだから、気持ちは分かる。
「本当に?」
「本当だ。あれを知らないのか? 今まで何十年も息吸って吐いてただけ?」
 私は息を潜めて、
「本当に凄いんだろうな?」
 と聞いた。
 まるで何かの取引だ。
「俺のを貸してやる」
「いや、壊したりしたら嫌だから」
「そういうな、ならくれてやる」
「いいのか?」
「予備だからな」
 何の予備なのかはとにかく、この長ったらしい旅路に意味があるのだとすれば、クロウリーから新作アルバムを手に入れたことだろう。
 実る一日だ。
 私は慎重に持ってきていたダレスバッグの中に保護シートの中に入れて仕舞った。これで爆撃があっても大丈夫だろう。指さし確認もしたのでセキュリティ面でも問題はない。
 ふと、思うのは世の中バランスが取れているのかということだ。権力者故の苦悩。
 ならば私はどうだろう?
 心無い非人間であるからこそ傑作が書けるとすれば皮肉である。幸福にならない限り傑作を書き続けられるが、幸福になったとたん邪道作家はそこで死ぬ。なんという矛盾。唾棄きすべき摂理だ。心の有り無しなど神の視点から見れば身長の多寡と変わらず、私が人並み以上に容姿が整って高身長であることと(自分で言うのもなんだが、何の努力もしていないのにそれなりである)さして変わらず、身長が低くて容姿の悪いチビ作家が私のような人間を羨むことと、大して変わらない気もする。
 だが、往々にして何か不遇な環境で育った人間はそれに見合った才能だとか、人脈だとか、仲間意識だとかがあるにも関わらず、私には何一つとして存在しない。ただの不条理とも捉えられるだろう。
 絶世の美女に生まれたという点だけでは、到底納得行かない。いや、性格の悪そうな悪人面の太った中年かもしれない。
 意味もなく読者を混乱させてみたりしてな。
 私は実は女なのだ。意外かもしれないが・・・・・・・・・・・・と言うのも嘘かもしれないし、もしかしたら筋モノかも、あるいは身長が高いだけのただの男かもしれないし、やはり女で、メガネをかけていてタワーマンションに住んでおり、孤児だったりするかもしれないぞ。
 もしかしたら老女かもしれない。
 嘘はこれくらいにして、高校三年生の私からすれば、そう、高身長というのは嘘であり、実はしがない低身長の堅苦しいメガネ高校生である私からすれば、そんな正体などと言う大層なモノは無いのだが。
 まぁ、私のような天狗、アヤカシの類からしても、物事の見方は一定一律ではないと言うことだ・・・・・・割にあわないとしか、私は思わなかったが・・・・・・・・・・・・。
 作家などと言う生き方しか選ばざるを得ず、それでいて何か特別そういう優れた何かもなく、人並みですらなく、最低限のモノ、心すらない。
 どう考えても、大金を賠償請求して良いレベルだ・・・・・・別に不遇でなくとも金は請求する気はするが。
 などと、小学二年生が言うことではないか。
 読者を煙に巻くのはこのくらいにして、さて、この男は分かりやすい「成功者のなれの果て」と言うことらしい。幸福と言うものを真剣に考える暇と手間があるからこそこの男は悩んでいるのだろう。
 幸福とは何か?
 人と人とのつながりが無くても生きていける資本主義の無機質な社会体制 金はその最たるモノであり、愛情などの感情は無くてもいい。それが合理性を重視した結果だ。しかし私や、この男クロウリーに関して言えば、答えは既に出ている。 無いものは無い
 心がないなら、尚更だ。
 幸福は育むものであり、何もない故に最初から不可能であると言うのが私の持論だ。そんな人間が「鐘さえ有れば幸せ」だと唱えるのは、心がないのは良しとしても、だからといってそれに見合うモノを手にしなければ嘘だからだろう。
 自身のような人間がいることそのものが、神も救いもない証拠である。と、私は常日頃から考えている。もしいるとしたらお笑い草だ。人間一人に心を付け忘れたところを見る限り、工場のライン生産のように、人任せで作っているのかもしれない。
 今は何でもそうだ。
 人工知能が台頭してからというもの、人間は何でもかんでも機械に任せるようになった。昔は手動で運転したり(大昔の話だ。今そんなことをするのは法律に違反する。管理しやすいように政府が管理しているからだ)したらしいが、運転どころか、子育ても人間づきあいもアンドロイド任せときている。まぁ元々社会が発展してからと言うもの、教育は教育機関の仕事になっていることを考えると、「子育ての業務請負」を行って育てた気になってきたというのだから、あまり今も昔も人を育てることに手を抜くところは、あまり変わってないと言えるだろう。
 クロウリーも何か察したのか、音楽の入ったレコーダーディスク(ロストテクノロジーと言えるだろう、これは)を私に手渡すと、問うた。
「お前はこの世界に不満を感じないのか?」
「妙なことを聞くな、無い人間はいないだろう。何事もすべてに満足するということがないならば人間は、必ず何かに不満を持ち、現状を変えようとするモノだ。・・・・・・もっとも、最近はお前の言う「自分の意志のない」人間があふれ出してきているのだから、何の不満も考えずに生きる人間はいるだろうがね」
 とはいえ、私には不満など無い。
 不満を持つ心がないのだから、持ちようが無いというのが本心だ・・・・・・金が有れば便利だとは思うので、とりあえず金を手に入れて満足することには、否定的ではないが。
「・・・・・・なら、お前ならどう対処するんだ?
「不敵に笑え 摂理の理不尽に対抗できるは人間に強がりが唯一の力である。というのが私が経験から得た唯一の方法だ」
 いぶかしみながら、クロウリーは追求した。
「それは、酒をあおって諦めてるのと、どう違うんだ?」
「素面でも出来る点だな」
 悪魔がいるというのならば私は最初からそうだった。人間など、最初からどこにもいなかったのだ
 だが、同時に思うのは「人間の魂」、そ心の強さ、本当の意味での強さというモノは、私には持ち得ないと感じるのだ。
 高潔であり、
 大切なモノのために犠牲になり、
 それでも前に進む本当の強さとやら。
 私は心を持っていたところで、そんな大層なモノを扱えるとは思えない。
 私が弱いのだとしても、それはどうでも良い。 強い弱いに興味はない。
 全く、鬱陶しい限りだ。
 心ある人間の、暖かさとやらは。
 眺めるだけで満足しろと言うことなのだろうがしかし、私は物わかりの良い方ではない。
 必ずだ。
 心だの愛情だのを「越えるもの」
 それを手にするまでは死んでたまるか。
 そんなモノは有りもしないと言うだろうが、そうでもないのだ。
 この世は所詮自己満足。
 果てない景色をもし見られたならば・・・・・・・・・・・・私は「満足」出来るだろう。
 願わくば、見果てぬ夢を、見たいモノだ。
 我々二人という人間は、どうしてここまで屈折したのかというと、つまり手に入らないモノを求めようとしたけれどもそれは無い物ねだりであることに気づき、金という分かりやすいモノで妥協して、それなりに満足しようとした結果なのだろう。
「私もお前も、種族を言い訳に出来ないほどに外れてしまっているのさ。我々から見れば世界は理不尽であり、心とやらを作り損ねた神々に抗議すべきモノでしかないが、しかし同時に世界からすれば、我々のような人間は存在そのものが「悪」であり、自分たちが負の側面を押しつけたことは無視してでも我々を糾弾しようとする」
「何が言いたい?」
 酒を飲んで・・・・・・しかし、本当に大丈夫だろうか? まぁ、素面で話すような内容でもないのだろうし、私のように酒が飲めないのでもなければ飲む気分も頷ける。
 羨ましい話だ。
 作家は等しく酒が苦手なのかもしれない。
「嘆くだけ無駄と言うことだ。我々の声はどこに届くこともない・・・・・・神も悪魔も我々のような人間は眼中にないだろう。それでも我々二人が「幸せのようなもの」を掴むときがあるとすれば、それはきっと自己満足の類だろうからな。くよくよしたところで仕方がないと言うことだ」
「お前がそれを言うのか?」
「私だからこそ言えるな」
 生きるということは即ち、答えを得ることだ。 だがしかし、我々は生まれたときから答えを手にしてしまっていた。曰く、「幸せにはなれない」曰く「人並みには混じれない」曰く「それこそがお前達の人生だ」と。
 語りかけられているかのように。
 まぁ、幸せ云々はどうでも良いかもしれない。 私にとって重要なのはそれなりに本が売れ、ある程度贅沢が出来、それでいて世間の喧噪とは無縁な場所で本を読みながらコーヒーを楽しむ位のモノなのだ。
 金があれば文句ないが。
 有ったからどうというわけではないのだが、しかしまぁその辺りは私の趣味嗜好だ。
 だから問題ない。
「ふん、まぁ良いさ。そういえばお前にお客さんが来ているぞ」
 そう言うクロウリーの言葉を聞いて、私ははて誰だろうと思った。
 あまり人間関係はないのだが。
 屈強そうな部下に連れてこられたのはかつて私に依頼をした主人公、フカユキとかいう女が、さながら捉えられたエイリアンみたいに連行され、私の前に姿を現したのであった。

   13

 私は主人公ではない。
 故に知ったことではなかった。
 帰り際、能力を奪われた小娘は捨て置かれ、私の持つ「賢者の骨」に興味を持ち付いてくるのだった。
 私のいるホテルにまで押し掛けられて、正直迷惑だったので仕方なく口を開いた。
「こんなモノを手にしてどうするつもりだ?」
「何でも願いが叶えられるってお墨付きらしいじゃないか。その骨」
 物欲しそうに言うのだった。
 ランプの魔神はこんな気持ちだったのだろうか・・・・・・正直こういう人間ばかりでは、彼らがうんざりするのも分かる気がした。
 いきなり私を襲って脅迫し、
 それでいて裏切ったと吠え、
 大儀のためだと、いや誰かのため、涙を流す女を見過ごせないだとかと言った理由のために、彼女は私の持つ「賢者の骨」を欲しがった。
 主人公とは、端から見ればここまで醜悪なのか・・・・・・別に苦しんでいる人間のために動くことは悪人を倒す理由にはならないだろうに。いや、なったとして「倒す」という言葉を使って、暴力で事を済ませようとするのだから、正直都合の良い頭だなぁと思わざるを得なかった。
 その主人公は言った。
「それが有れば多くの人を救えるんだ」
 だから何だというのだろう。私から言えばそんなモノはその「多くの人々」の都合でしかなく、私にはあまり関係ないし、「多くの人々」の代表者面をする理由にも、ならないのだが。
 願いではなく、欲望であることにも、気づいてはいなさそうだしな。
 誰かのため、誰かの涙を止めるためだのというのも、所詮倫理観に従って動いているだけの欲望に過ぎないものだ。
 欲望。
 正義という言葉ほど、正しさを主張する輩ほどその欲望に囚われている。
 何のためであろうが人を殺し、死体の上で「どうだ参ったか、ここに悪は滅びた」と叫ぶ狂人の気持ちなど分かりたくもないのだが、しかしまぁ彼ら彼女らは自分たちの「正しさのようなもの」を盲信しているので、話は聞かないだろう。
 労働でも人間関係でも盲信している人間にはロク奴はいない。つまりそういうことだ。
 物語があったとして主人公がいるとすれば、それはこの女のことだろう。だからこそ私の視点でこうやって物語を眺めると、負暖気が付かないところに気が付くというか、視点を変えて物事を楽しめるので、正直面白くはあった。
人間は英傑を殺し英傑は怪物を殺し怪物は人間を殺し、そして、三竦みの輪にも混ざれず、抜け出すことも許されないのが化け物だ。
 化け物は生きてはいない。死んでいないが、死んでいるようなものだ。確固たる意志を持って叶わない願いを望み続け、怪物に混ざることも出来ず英傑には槍を向けられ人間は理解できない。
 我々は間違っている。
 ああそうだとも、私という人間は存在そのものが間違っている。だが、だからといって金と豊かさのない人生はまっぴら御免だ。
 私は怪物が羨ましい。
 彼らは人間より人間らしく、悲劇に満ち、心の有り様を追い求める。それは美しいものだろう。 私は英雄が羨ましい。
 彼らは華々しくも悲劇に満ち、仲間に恵まれ幸も不幸も乗り越えていく。それは素晴らしいことだろう。
 私は人間が羨ましい。
 下らないことでも満足できて、数が多く、退屈な平和の中で充実し、心だのなんだので愛を育むフリをして生きている。すぐに裏切り、内情は自己満足で、クズばかりだが、そんな中でも輝く魂を持つ存在は確かにいる。人間の強い意志は滅多に見れるものではないが、私にはないものだろうと感じざるを得ない。
 私には何もない。
 比喩でも冗談でもなく、何も。
 人間の、英雄の、怪物の、フリをして、あるいは真似て、ここまで来た。
 ここまで来て、尚何もなかった。
 心も誇りも信念も、怪物の持つ「幸せになりたい」という願いすら私には真実無い。
 ともすれば孤独に憤り、友を求めるのが筋なのだろうがそれもない。友情など感じられない。どんなに満たされたところで、あるいは私を散々邪魔してくれたこの世界、神だの悪魔だのからこの世界の摂理まで味方に付けたところで・・・・・・・・・・・・・・・叶うはずもないのだ。
 執念と言うより妄執だろうか?
 まぁ、呼び方は何でも良い。
 憧れることすら出来ないので、ただの虚言も良いところだが、しかし作家とはそういうものだ。 他の作家など私は良く知らないが。
 せいぜい「羨ましい」とはこういう事なのだろうと納得するだけだ。
 そんな化け物と比べると、願いを叶えたいと願う彼女は、誰よりも人間の性を体現していた。
 自身のことしか考えてはいないくせに、まるで「誰かのため」に動いているかのように振る舞いそして、押しつけがましい自己満足を押しつけ、「人々のために」動こうとする。
 私から言わせれば英雄だろうが人間だろうが、そもそも助けてくれと聞かれたわけでも無いのに勝手に彼ら彼女らのためだとか言って人を殺し回り悪を倒すとか言って殺す姿は、自己満足の極みでしかない。
 自己満足するのは勝手だが、押しつけないで欲しいものだ。
 今もそうだ。この目の前の女は「私のような正しい人間を助けるのは、道徳的に当然である」といった表情をしている。
 賢者の骨は願いを叶える効能があるらしい、しかし骨そのものはあの山の主の元へ届けた方がいいだろう。
「貸すだけなら良いぞ」
 と言ってやった。
 実を言うとこの骨がやばいものであることは重々承知の上での言葉だ。願いを叶えるというのなら、当然願い以外は叶わない結果になるだろうしな。
 報われたいこと、それがすべてに共通する願いだろう。しかしこの世は残酷だ。酷い目にあうだけあって「勝利者の椅子」に座れなければ、どんな覚悟も信念も色をなくしてゴミになる。
 だから私はこの世界が大嫌いだ。
 それでいて、面白くもある。
 だが、世界を楽しむには金はいらないが、不愉快な思いをして不条理に敗北しないために、我々は金を求めるのだろう。
 私は作家業を生き甲斐、ということにしているが、当然金にならなければ馬鹿馬鹿しくてやってられない。やってられなくても魂に染み着いた生き方だから途中退場も出来ず、金にならなければそれが原因で苛つくことになるからな。
 この女も似たようなものだろう。
 恭しく宝を手に入れた盗賊のように、彼女は賢者の骨を手にした。願いは頭の中で祈るだけでいいのか知らないが、あっさりと終わった。
 そう。
 現実世界での噺では、だったが。

  幕間

 そこは暗い海だった。
 何故か私には、ここが「精神の世界」だと、本能的に分かった。理解した。あの賢者の骨の正体・・・・・・やばい一品だとは思っていたが、そういうことだったのか?
 ここは、おそらくあの女の精神の中の世界だ・・・・・・・・・・・・ランプの魔神でも出てくるかと思ったが、これはその逆なのだ。我々個々人の精神を経由して、この世界の「真理みたいなもの」にアクセスする鍵とでも言えばいいのか。
 人間の願いを叶える以上、それがどれほど強い力であれ、願う人間を経由して、その力を使わなければなるまい。理屈は知らないが(そも、私にオカルトな現象を解明する気はない。私は学者ではなく作家である)いずれにせよ 人間に願いを叶えることは出来ない以上、それ以外の力を借りるのは当然だろう。
 おそらく、詳しい仕組みは分からないが、絶対にこれは危ない力だ。古今東西願いを叶える類には、ロクな逸話がないからな。
 人体実験をあの女で済ませて良かった。
 私は痛くも痒くもないからな。
「何でお前がいるんだ?」
 当然だろう。女は不愉快そうに言った。私でも自分の「精神の中」に他人が居たら同じ反応をすると思う。
「どうでもいい噺だ。それより、お前には叶えたい願いがあるのではなかったか?」
「どうしてお前がそれを聞く?」
「どうも、不本意なことにこの「賢者の骨」には役割がある。本来ならここにいるのはお前の「無意識下の自分」とかだったのだろうが、近くに私がいたことで、私がその役割を背負わされたようだ」
「ええと、つまり」
「そうだ、私はランプの魔神の真似事をしなければならないようだ。さっさと願いを言え」
 おそらく、だがこの女が「願いを形にする」役割で、私は「その願いをどう実現するか」決める手段の法を担うのだろう。
「争いのない平和な世界だ。俺のいる故郷を、平和で争いのない楽園にしてくれ」
 と、女は願った。
 馬鹿な願いだ。
 人間に願いは叶わない。それは人間は無能であり弱く、弱いが故に限界があるからだ。物質的な願いはまさにそれだろう。対して、人間の感情、内面的な考えから発生する願いは、「争いのない世界」だとか「意中のあの子をモノにしたい」だとか、まぁそういった類のモノだ。人間は殺すために生きている生き物故に争いは無くならず、欲しいと思うモノは、この世界は絶対に与えない。 持つ側と持たざる側。
 どちらに産まれるかで、決まっているからだ。 だから望むことに意味は無い。
 願うことに力は無い。
 それでも願うというのならば、まぁ私個人には何の関係もない以上、叶えてやるとしよう。
「いいだろう、その願いを叶えよう」
 願い「は」叶える。
 望むモノを与えてやる以上、文句を言われる覚えもない、とそこまで考えて、ふと思った。
 神がいるとすれば、こんな気持ちなのか?
 だとすれば、世界が絶望で満ち満ちていることにも得心が言った。願いだけ無駄であり、祈るだけ意味はなく、人間という生き物は改めて、絶望するためだけに生きているのだなぁ、と、強く感じるのだった。

 欲の張った方のフカユキ、とでもこいつのことは呼べばいいのだろうか? は目が覚めるとすぐに、
「これでみんなが救われる」
 などというのだった。
 こんな効力も不確かな、ぶっそうな骨の為に、この女は私を殺そうとしたのだろうか?
 だとしたら迷惑な話だった。
 こいつらが何人いるのか知らないが、同じ個体でも選択しだいでこうも「違う」答えをだすものなのか。作家シェリーとして動いている方のあいつなら、そんな非合理性は鼻で笑いそうだ。
 女は帰ったが、私は考える。
 生きるということについて。
 満たされたいというのが願いであり、満たされることが、あるいはそれを共有することが「生きる」と言うことならば、私は死んでいる。
 望む答えを求めることも、有る意味生きるということだが、英雄などはそれを生きると言うことにしているが、私には欲しい答えなんて無い。
 人間でない自分が人間に混ざりたいというのが願いであり、生きる意義で有れば、私はやはり生きてはいない。私は混ざりたいという願いすらないのだから。
 仮に、仮にだが、もし私が単純に「人間の失敗作」だったとして、私のような存在が有ること事態、世界から見れば認めたくもない間違いだとすれば、単純に人数が多い彼らの都合で、私は葬り去られるだろう。その場合、結論としては「運が悪かった」以外の言葉が見つからない。
 運不運がすべてなのだろうか?
 だとしたら、作家ほど意味の分からない仕事もないだろう。所詮運不運でしかないのに、あたかも人間の意志は運命に打ち勝てるかのように演出して、ありもしない夢を見せているだけなのだから・・・・・・とはいえ、それも人それぞれだろう。
 良しと笑うか悪しと嘆くかは、捉え方の違う読者次第でしかない。
 私の幸福は案外、私とは何の関係も無い存在の都合で決められていたりしてな・・・・・・もしそうならどうあがいたところで結局は、結果的に私の行動のそのすべてが無意味に終わるのだから、やりがいのない話ではある。
 私は荷物をまとめ、宇宙船の予約をし、眠る準備を済ませた。
 願わくば、そうだな。
 何か良いこと有りますように。

    14

 宇宙船の中で私は考えにふけっていた。
 今を生きる人間からすれば道徳的な正しさとか倫理観とか魂の善し悪し、得のようなモノほどどうでもいいモノはない。
 あの女、出発する前だから、およそ二ヶ月前に骨の力で願いを叶えたあの女も、恐らくはそうだったのだろう。
「全員死んだらしいぜ」
 と言うのは、私の携帯端末に住み着いている遊び人だった。名前はジャック。人工知能のくせに私よりも人間らしい男である。
 そのジャックが言った。
 あの惑星の顛末についてだ。
「先生の言う女が、丁度、願いを叶えた瞬間だろうな・・・・・・願った本人は罪の重さに耐えきれずに壊れたらしいが」
「全員、とはどの話だ? 惑星の支配者達か?」「いや、全員さ。願いを叶えた女と、その国外逃亡したクロウリーって男以外、全滅さ」
「・・・・・・星ごと死んだってことか? あの女の願いは平和とか、そういう当たり障りない願いだったのだろう?」
「だからだよ」
 人間がすべて消えれば平和じゃないか、と皮肉って彼は言うのだった。
 確かにそうだ。
 すべて消えれば平和かもしれない。
 座席のシートに身体を預けながら考える。
 私は作家だ。
 主人公でも、まして人助けが好きな正義の味方でもない。物語を書くことが仕事だ。
 だから今回の件が何か今後の参考にならないかと思っていたのだが、つまり、今回の件は「願いも望みも叶わない」ということなのだろうか。
「現実には、何故救いというものがないのだろうな・・・・・・」
「先生らしくもない」
 私らしさは不明だが、しかし世の中の不条理、そのくせ「持っている人間」には甘い社会構造も含めて、疑問に思わない方が不思議だろう。
「結局、持つか持たないか、得られるか得れないか、その程度が世界の限界なのか」
「ああ、世界なんてそんなものさ。少ない現状でも満足できればいいのだろうが、そんな考えは破綻しているし、持っている人間がほざいたところで説得力はない。そういう考え方も含めて「持つ側」が決めているわけだからな」
「クロウリーも言っていたな、搾取する側される側。私が物語で描く「人間の意志の強さみたいなもの」ほど、現実に役に立たないモノも、事実ないのだろうしな」
「そうでもない」
 リアリストかと思っていたが、この男もそういうモノに価値を見いだしたりするのだろうか、と思ったが違った。
「そこに人間の執念、意志があり、その上で運良く評価されたものこそが、価値があるともてはやされる。事実と先生は言ったが、現実には「事実ほどどうでも良いもの」はないのさ」
「事実よりも、装飾された真実の方が、確かに金にはなるからな」
「そういうことだ。見たいモノを見るのが人間ならば、事実はどうでもいい。問題なのは彼ら彼女らが心地よく感じる都合の良い真実こそが、この現実には光り輝くのさ」
「嫌な話だ」
「だが、「事実」だぜ先生」
 嫌な話だ。
 こんな話をするつもりはなかったのだが。
 私は気分転換の意味合いも含めて、機内サービスで食事を頼むことにした。激辛麻婆豆腐を単品で頼み、はふはふと食べる。
「先生、それ、美味しいか?」
 おいしい。
 顔から汗が吹き出て止まらないが。
「辛さなんてのはただの痛みなんだぜ。よく食べられるなぁ」
 私は無言で食い終わると、コーヒーを頼んで流し込んだ。やはり食事はこうでなければな。
 私は死んでいるからこのような目に合っているのではと思うときがある。まぁ死体みたいなものではあるのかもしれないが・・・・・・少し疲れているのかもしれない。
 亡霊のようにただただ幸福を追い求めていたがしかし、労力の割には何一つとして私の手のひらに何かを掴めるときはなかった。この両腕には血が通わず、手を伸ばせばただただ空しさだけが残るのだ。
 歩き続けてきた。
 だが、何もなかった。
 この果てのない世界では意志が有ろうとなかろうと、報われなければそんなもの、持つ側でなければ初めから何も手に入らないことが約束されているのだとすれば、願いを叶えるなど、願いを叶えることが出来る人間でなければ、無駄なのかもしれない。
 物語を書いてきた。
 才能もない私は時間をかけて、何年も何年も年月を掛けてきたが、それすらも、結果が伴わなければ空しく、つまらないものだ。
 運不運、どうも作家という生き物は運命に翻弄される宿命なのか・・・・・・運命が悪しと言えば、我々にあらがう方法はないのか。
 そんなことを考える。やはり疲れているのだろう。もしそうならば、どのみち私の苦労も執念も意思も関係ない。運不運で決着が付くならば、焦ったところで無駄だろう。
 運不運。
 私ほどそれらに左右されている人間も珍しいのか、それとも大したことはないのか知らないが、しかし作家という生き物に関して言えば、大概がロクな顛末でないのは確かな事実だ。
 作家。
 一生童貞だったり銃で自殺したり(これが以外と多い)思い悩んだ末に廃人になったり・・・・・・・・・・・・そうだ、先に明言しておきたいが、作家になるのには才能は必要ない。
 この私が言うのだから間違い有るまい。
 才能なんてひとかけらもなくとも、それこそ鍛冶職人みたいに毎日毎日本を読み、本を書き、それを十年、十五年と繰り返していれば嫌でも上手くなるだろう。努力で成り上がりましたみたいな天才様の言葉(僕がここまで成功したのは誰よりも努力したおかげ、だのと抜かす輩がいたのだ。たかが努力程度でそこまで勝てるか馬鹿馬鹿しい)が食わなかったから続いたと言って良いくらいだった。しかし現実に続けてみれば作家など己の魂を綴るだけなのだから、基本を押さえて半生の経験を形にすれば良いだけだ。
 言葉にすると難しいが、簡単に言えばどんな馬鹿でも国外に住めば言語が話せるようになるのと同じだろう。
 しかし作家などになった時点で人生は棒に振れていると言っていい。そも、凡俗の退屈な平穏を愛せるからこその凡俗であって、作家になるということはそれらすべてを捨てると言うことだ。
 そうでなければ人の魂は動かせまい。
 動かせるようになった時点で、人間を捨てているといって良い。そこまで成功していれば、だが・・・・・・しかし、成功したところで、それだけ非凡な世界を描ける人間が、まともな心をしているはずがないというのは偏見だろうか?
 まぁ、私は邪道の作家だ。
 だから知ったことではないが。
 愛すべき妻、守るべき家族に囲まれ、そこそこ豊かで週に一度バーベキューをし、週に一度家族でハイキングに出かけ、幸せに暮らすのだ・・・・・・・・・・・・などと、私が言うと空しく響くな。
 作家の成功など知らないが、私の場合先天的に人間らしさはなかったので、今更どうでも良い話ではあるが。
 書くべきを書き綴るべきを綴り、伝えるべき物語を語り聞かせるが作家の役目。まぁ、私は邪道の作家なので、描きたい物語を好き勝手に語るのだが。つまりは既存の作家どもの枠に縛られるつもりはないと言うことだ。
 私は幸福になってみせるぞ。
 その過程で何人邪魔者が人生を台無しにしようが知ったことではない。私は聖者ではないのだ。 どんな方法を使っても。
 などと思っているこの方法論がいけないのかもしれない。
 
 私は人間らしく無いことを悔いてはいない。

 そもそも人間らしいって何だ? 喜怒哀楽こそが人間か? 否・・・・・・価値は己が決めることだ。 その他大勢の価値基準など知ったことか。
 私は私らしくあれればそれでいい。
 他でもない己自身があらゆる行いを「善し」と笑えればそれが全てだ。
 どのくらい狂ったのか分からなくなってからが本番だ。作家なんてそういう生き方だ。狂え狂え欲望に押しつぶされて食い荒らしてしまえ。
 それが人生だ。
 幸福とは人間関係から得られる。当然だ。虚無の中で得られる幸福など有ろうはずがない。
 しかしそれでも、もし、物語を綴ることで金を得られるので有れば、平穏を得られるので有れば「幸福」かもしれないと、勘違いしただけのことでしか、無いのかもしれない。
 わからない。
 それは幸福なのだろうか。 
 夢を叶える、私にとっては夢と言うほど大仰ではないが、何かを叶え、勝利し、自己満足に浸ることは、人間の、いや、そんな大仰な話でもないのか。
 羨んだ、そして追い求めた。
 それがないならその代わりを。
 有りもしないものでも、代わりなど無いと分かっている上で。これはただそれだけの物語だ。
 悪いとはちっとも思わないし、その在り方に負い目もない。ただ、願わくば作家としても個人としても、少しばかりの幸福な結末が控えていれば面白いものだ。期待もせずに心の隅へとおいておくとしよう。
 ああ、そうか。
 私は、人に関わって、満たされたかったのだ。
 星の光を眺めながら、そんなことを、ふと祈った。

   14

 存在が間違っている。
 そう自覚した上で開き直り、かつ周りのことも全く考えずに己の幸福のみを追求した結果が、私という人間の在り方であり、存在理由だ。
 故に倫理的な正しさなど関知しない。
 悪人かどうかなど、時代によって変わる基準でしかないのだ・・・・・・ただの殺人がもてはやされ英雄を産む時代もあれば、社会構造を盾に人々から搾取することが正義の時代もある。
 銀行などその良い例だろう。
 一昔前までは、といっても大昔のことではあるが、正気の沙汰ではないことに一部の財閥が運営していた時代もあったらしい。その上、貸している金を返す義務はなく、国単位で積立金を着服し続けても、権力が有れば許された時代があったというのだから、あやかりたいモノである。
 政府の形態が自治形式に変わりつつある今となっては、それもまた「過去の正しさ」なのだろう・・・・・・どうでもいいがな。
 私は時代も思想も考えたことはない・・・・・・そんなコロコロ変わるモノをアテにしていられるはずもない。
 正しさなど当人たちの都合だ。
 神も悪魔も人間も、等しく都合良く生きているのだから。
 それらを覆すモノがあるとするなら「愛」とやらだろう。「誰かのために何かをしたい」無償の信念で見返りを求めず、ただ尽くすことを良しとする、らしい。私は人間の心をほぼ完全な形で「理解」する事は出来るが、同時に「心を感じること」もほぼ完璧に出来ないので、推測のようなものだと考えてくれてかまわないが。しかし、見返りを求める「愛」など、私のような非人間からしても醜悪だ。私が言っても、私のような世界よりも自身を重く捉える人間が言っても、逆に説得力はないかもしれないが。
 考えながら、階段を上る。
 この階段は山を伝わり、上へ上へと、点の国まで続いているのかもしれない。出会う女が、今更だが私のような人間からすれば寿命を延ばすという奇跡を起こす理解の外の存在だ。そうであっても不思議はあるまい。
 ただ、天国があったとして、そこに到達したとして、私は何を得られるだろう?
 どこよりも安穏としており平和であったところで、そんなものは現世の豊かな生活と変わりはない。
「お前のような人間はあの世でもお断りだ」
 そう言われたとしても、まぁ私が傷ついたりするわけもないし、しかし納得はするかもしれないと思う。納得したところで、図太く居座るかもしれないが。
 しかし、なら、
 私の求めるもの、目指すモノはあの世の果てにもないのだろうか・・・・・・・・・・・・
「馬鹿なことを考えていますね」
 そう言うのは女だった。以前と同じ、妖艶であり美しい和風美人の姿がそこにはあった。
 階段を上がった先、鳥居の下の少し奥にその姿は見えた。また掃き掃除をしている。暇なのだろうか? もしそうだとしたら聞いたら怒るだろうし、やってみたい気持ちはあるが、少し疲れていたのでやめておいた。
 我ながら珍しい行動だ。
 邪道の作家なのだから、たまには善人ぶって、人の話を聞くのも良いだろう。
 女は言った。
「あなたたち人間の悩みなんて、所詮100年200年、あなたは長生きしていますが、それでもせいぜい数十万年程度でしょう? そんな短い時間しか生きていないというのに、悩んでどうします?」
「人間の悩みは分かるまい」
 私はその人間からも外れているので、「人間」というカテゴリに収まるのかどうかは、はなはだ疑問ではあるが。
「人間は結局のところ長い年月を経て、魂を磨くことこそが目指すべき地点になります。どの晴天でも描かれるように、まずは聖者になり、そして神を目指す。魂にはサイクルがあり、あなたたちは巨大なピラミッドの下の部分で己を磨き、上を目指しているだけなのですから」
 なら、いずれは全人類が得の高そうな魂をひっさげて聖者になり神になる、のだろうか?
 人間の悪性から考えれば、信じ難い未来だ。
 まぁ、あくまでも目指すべき地点であって、たどり着けない人間は最後の審判であっさり切り捨てられるのだろう事を考えると、我々は神々にとって畑になる稲穂であり、良さそうなモノだけを天国という箱の中に押し入れて積められる、栽培される商品のような存在なのだろう。
 作家の神、なんてモノにいずれはなるのだろうか? 馬鹿馬鹿しい。作家は物語の神であり、それは全ての創作者に許された権利だ。まぁ、現実の神々も同じように我々を捉えているのだとすればそれは、逆らうだけ無駄、創作者の良いように使われる駒以外の選択肢は、無いのだろう。
 私は懐から「賢者の骨」を取り出して彼女に渡した。
「結局、それは何だったんだ? あの女はそれを使って願いを叶えたらしいが、私もその骨にお祈りでもすれば、願いが叶ったりするのか?」
「あなたに願いなど無いでしょう」
 断言されてしまい、まぁその通りだとは思ったが、気に障ったので何か適当な願いを叶えることにした。
「平穏な家庭、有り余る金、住み心地の良いログハウスに・・・・・・」
「言っていて、空しくありませんか?」
 大きなお世話だ。
 女の差し出す札束をひったくるように受け取って、私は思案した。
 結局、今回の件でも私は良いようにこき使われるだけだったが、しかし作家としてならば得るものは多かった。
 人間の欲望は、様々な名前が付くと言うことだ・・・・・・それは正義であったり、政府であったり、法律であったり、世間体であったり、あるいは愛や希望や優しさという名前で呼ばれる。
 全て当人の都合でしかない。
 何かを人に押しつけている時点で正しさなどどこにもないのだ。自殺したとか言う女、名前は忘れたが、その女も理解できないまま死んだ。
 世の中そんなものだ。
 だが、そんな腐った世の中でも輝きを持つモノがあるとするならば、それは何だろう?
 物語か?
 まさかな。
 人々の心を活気づけることは間違いなさそうだが、しかし、いや、私が考えても仕方がないか。 人間は悪であり、ろくでもない生き物たちだ。産まれたそのときから踏みにじって生態系を貪り尽くして世界に嫌われることは目に見えている生き物でしかないものだ。
 もし、もし仮にだが、そんな人間が輝きを持つのだとすれば、それはやはり、人間が人間に見せる夢だろう。なんでもいい。夢を魅させるという事は現実を直視させないと言うことでもあるが、しかしそれでも、人間に輝くモノがあるとすればその程度のモノだろう。
「あなたは人間をどう思いますか?」
 などと、女は問う。私も人間なのだが。
 そのはずだ、多分な。
「どうもこうもない、生きているだけで邪魔な有害生命体だろう。しかし、まぁ希に、良いモノを作る時もある」
 語り聞かせることに、物語を綴ることにどれほどの意味や価値があるのかはしらないが、案外難の意味もないのかもしれない。
 しかし、大昔から人間は物語を愛してきた。それは事実だ。本なんて媒体、とっくに廃れても良いはずなのに、彼ら彼女らは物語を読む。
 物語の中に夢を見る。正直、夢なんて覚めてしまえばそれでお終いだとしか思わない。
 しかしそれでも夢を見る。
 物語の中に果てない世界を想像する。
 ともすれば案外人間にとっての天国とやらは、各の望む物語の中にあるのかもしれない。
 なんて、戯れ言かもしれないが。
「それに」
 と私は階段を下りる足を止めて、
「私は作家だからな。人間がそう言う生き物でなければ困る」
 そうでなければ、商売上がったりだ、と私の都合と利益を口にして、「お気をつけて」と見送る女の言葉に、背中を押されて歩くのだった。
 今日もまた。
 さらなる傑作を書くために。



あとがき

金を払わない、訳がない。
そう思っていたが違うらしい。読者が読むだけ読んで何も払わないなら、こちらも適当にあとがきを書くとしよう。思うに、強盗犯に気配りなどするだけ愚かだ。
二冊目でも30万文字近い筈だ。決済登録が面倒だとか理由を付けて盗む奴など知らん。
大体、そんなもの読者ではあるまい。
さて、本作について何か言及するなら「どれだけ高い志を掲げようが、金を超えなければ意味が無い」だ。
何であれ、金を超える「何か」が無ければ、とどのつまり金で品性を売るだろう。金は、あくまで金だ。
戦争が起これば意味を無くし、征服されれば金自体変わる。であれば、振り回されずに、独自判断で無ければならない。
金、金、金だ。ただし、あくまで物語だ。
下に付く筈の下っ端が、きキチンと仕事しなければ怒るだろう? そういう噺だ。
もう10年近く前なので覚えていないが、大雑把な指針は忘れていない。違っても知らん。
以上だ。思うに、引き寄せだの何だの現実逃避に金を出す奴等が、邪道作家におひねりを投げるかは謎だ。
読者が現実逃避したり遊び呆けている間に、このように未来へ向けた「何か」を綴る。

嫌な噺だ!! 忌々しい!!!

誰か変わってくれないか? 無論、金の力では無理だろうが───なに、数十年書いて読んでを繰り返し、するべきで無い失敗や敗北の渦の中で、心無き非人間として世界を呪うだけでいい。
簡単だろう? さあ、やってみろ!!


いいなと思ったら応援しよう!

邪道作家 例の記事通り「悪運」だけは天下一だ!! サポートした分、非人間の強さが手に入ると思っておけ!! 差別も迫害も孤立も生死も、全て瑣末な「些事」と知れ!!!

この記事が参加している募集