第8話 風をさがして 【前編】
僕はバイクで湾岸道路を西に向かっていた。
なぜそうしたのか自分でもよくわからない…。
*
「ごめん、これ以上君を好きでいることが辛いんだ。」
あの時、電話ボックスからそう言って僕は彼女に別れを告げた。
心が壊れそうだった。
初めて二人で見た隅田川の花火や
プールサイドの笑顔が頭から離れなかった。
自分でも信じられないくらい泣いた。
友達にもだいぶ助けてもらった。
高校1年の秋だった。
その日からしばらく、何をしていたのかあまり覚えていない。
ただ、バイトとバンド生活に明け暮れていた。
もちろん、他の女の子と出会うこともあった。
それはそれで楽しかった。
そんな高校生活も終わる頃、
僕は一冊の小説と出会った。
僕も『風をさがして』みたいと思った。
「あんた、まさか、バイクでも買うつもり?」
「なんで?」
「わかるよ、机の上がカタログでいっぱいだもの。」
「そうか。」
「で、免許は?」
「もう取った。」
「え? バイクは」
「来週くらいに来る。」
「はぁ、まったく。」
全て事後報告だった。
というより、結果そうなってしまった。
ただ、自分は内緒にしているつもりもなかった。
それしか頭になくて、動いていただけだった。
本当は本の中に出てくるバイクと同じものがよかった。
でもそれは僕が取った免許では乗れない大型バイクだった。
だから、せめてメーカーだけでも同じものをと、
カワサキのバイクにした。
そのバイクはドラッグレーサーと、
アメリカンの中間のようなデザインだった。
バイクが届いてから数日後、
あんなに反対していた母親が後ろに乗りたいと言った。
こういうところが母親の良いところだと、息子ながら思った。
僕はバイクに乗って、
あの小説の世界をそのままに追いかけていた。
信州はもちろん、
他にも箱根ターンパイクや、第三京浜。
それは小説を読んだ時に浮かんだ情景の
答え合わせをしている感覚だった。
*「人生はごちゃ混ぜのスープ」は、毎週火曜日・金曜日に新しい一話を公開しています。
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