明日が来なければ ショートショート (お題:夜明け)
「明日が来なければいいのに」
暗い部屋の中、光るモニターを見つめて少年はつぶやいた。
「……生きていたい」
借金を抱え、どうしようもなくなった彼女は、ビルの屋上で涙を流しながらつぶやいた。
「逃げちゃだめだ」
後ろにいる同僚達の冷たい視線や嘲笑を背に、うるさく鳴り続ける踏切の中で彼は震えながらそう繰り返した。
「どうしたらいいんだろう」
彼女は絶望を抱えながら、美しい朝焼けを見つめていた。
「もう生きていたくない」
彼女は準備室でクラスメイト達から蹴られながらそう思った。
「生きてるんだな、私」
彼女はシャワーを浴びながら、手首から滲む血をぼんやりと眺めていた。
「神様なんていないんだ」
飼っていた猫が轢かれ、その遺体を母親が庭に埋めているのを見て、少女は思った。
世界のどこかで、誰かが絶望している。
『明けない夜はない』という。けれど、本当にそうなんだろうか。いつまで朝を待てばいいのだろう。北極圏には白夜はあるが、その代わり冬は一日中暗い日が続くという。
それはどのくらい長いのだろう。検索しようとスマホを開いたが、途中で調べるのを止めた。そんな事を知って一体何になるのか。
明けない夜はないかもしれないが、夜明け前の闇が一番深いのだ。その深淵に、魅入られてしまったら──
何も無い、というのはいい。何も考えなくて済む。楽しい事は無いけれど、悲しい事もつらい事も無い。それならいっそ、その方が楽じゃないのか…?
深淵に取り込まれた人々は、みな言葉を失くしてしまう。
あるのはただ、無だけ。
私たちはその先を憶測や妄想で推し測るが、それは真実ではない。
もういいかげんに止めてしまいたい。けれど、自分で断ち切る事もできない。ただじっと息をひそめ、この時をやり過ごす。
いつまで待てばいいのだろう。いつまでこの時は続くのか。
ただ、息も絶え絶えにかすかな呼吸を繰り返している。
もう生きていたくない。けれど、死にたくはない。
その狭間で、息をしている。
了
(800字)
過去作ですが、iさんの企画に参加させていただきました。許可してくださってありがとうございます。
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ショートショート集『いつか君と遠く離れても』 1話から↓
