誰かの光に ショートショート
あるところに、結菜という小学生の女の子がいた。彼女は不登校だった。入学した頃は元気に行っていたのに、学年が上がるにつれ、行けなくなる。
初めは父親か母親が一緒に行ったが、それでも家を出ることができなくなった。
別にいじめられている訳でもないし、勉強も難しくなっていたが、分からない訳でもない。夕方は元気なのに、朝になると体が動かないようだ。
彼女の両親は心配した。何度か病院で診てもらったが
「体は問題ないですね」
と医者は言う。
「精神的なものかもしれません。しばらく様子を見てみたら」
それで、気がかりだったが2人は何も言わずに娘を見守ることにする。
彼女は苦しかった。明日こそは学校へ行こうと思うのに、次の日になるとどうしても体が言う事を聞かない。用意をしていても、全身が鉛のように重くなってしまう。
仕方がないので、パソコンをずっと眺めたり本を読んだりしていた。
ある日ネットサーフィンをしていると、小説サイトを見つけた。そこではいろんな人がお話を書いている。エッセイや日記、詩を書いている人もいた。
幼稚園へ通っていた頃、母親から読んでもらったお話を思い出す。それで、自分も何か書いてみようと思った。それは、こんな話だった。
***
そこは現実とは別の世界。エミという女の子が、お母さんと仲よく小さな家で暮らしていた。
ある日、お母さんが悪い魔法使いにさらわれてしまう。女の子は悲しみにくれた。けれど、泣いていてもどうにもならない。お母さんを助けに行こうと、彼女は旅に出る。
いろんな人と会ったり、いろいろな村へ行った。村人の手伝いをして、お礼に魔法を教えてもらったり、何日か同じところで働いてお金を稼ぎ、魔法の本を買ってそれで学んだりする。
そうして、魔法使いと戦えるように力をつけていった。
何年か経って、エミは魔法使いが住んでいる大きな森にたどり着く。そこは、尖った葉がついている、もみの木のような針葉樹がたくさん生えている暗い所だった。
その中をずっと歩いていくと、切り立った高い崖があった。その上に黒い家が建っている。
「魔法使い、お母さんを返して」
と大声で叫んだ。
しばらくして、ドーン!と勢いよく何かが落ちてくる。その衝撃で土煙がもうもうと上がった。彼女はケホケホと咳をする。目を開けると、煙の向こうに黒い人影が見えた。それは黒いフードをかぶっている。
「魔女…!」
目を凝らすと、それは母親の顔をしていた。
「えっ?!」
彼女は驚く。
「うるさい…この森から出て行け」
黒いフードの女はそう言った。その声は、低くしわがれた声だ。
お母さんの声じゃない、とエミは思う。
「誰なの…?」
「早く――出ていけ」
女はそう言うだけで、問いには答えない。もしかしたら魔女に取り憑かれたのかもしれない、と思う。
黒フードの女が持っていた杖の先が赤く光り出す。それが丸い形になると、いくつにも分かれて次々に勢いよく彼女の方へ放たれた。
「!!」
エミはすばやく身をかわす。けれど、その攻撃は何度も繰り返された。光が後ろの木々に当たると、ぽっかりと大きな穴が開いている。それを見てぞっとした。こう立て続けに攻撃されては、いつか当たってしまう――
防御の魔法で避けながら逃げ回るが、黒フードの攻撃は容赦がない。
「やめて!お母さん、目を覚まして!」
「お前なんか…知らない」
「お母さん!」
彼女は母親が正気に戻る呪文を唱えるが、効いていないようだ。逃げるだけで、攻撃できない彼女に分はなかった。
「……あっ!!」
攻撃の玉の1つが、その肩に当たる。思わずバランスを崩して倒れた。息が上がってしまって、起き上がれない。
「ちょこまかと、うるさい奴…」
黒フードはそう言いながら、ゆっくり近づいてくる。そして、目の前で片方の手の平をこちらに向けた。その中心にバチバチと火花が散り、エネルギーが集まっていく。
このままじゃ……、もうどうにもならない――
彼女は絶望して、涙を零した。
するとその涙が光りだし、まぶしくて目を開けられないほどになる。
まぶたを閉じても痛いくらいの強さになった時、
「ううう……っ!ギャアアアア……!!」
と絶叫が森中に響きわたった。
気がつくと、黒フードは倒れている。駆け寄って息を確かめた。口元に耳を近づけると、かすかに呼吸をしている。どうやら、気絶しているようだ。
「お母さん…?」
おそるおそる、声をかけた。
するとゆっくりと目を開ける。
「えみ…?」
彼女は女の子の名前をつぶやいた。どうやら正気に戻ったらしい。
「ああ、よかった…!!」
エミはお母さんに、ぎゅっと抱きつく。
そして、2人で久しぶりにわが家へと帰っていったという。
***
そんな話を、少しずつ投稿していった。初めは、読む人はほんの少ししかいなかった。
けれど、次第にその人数は増えていき、話が終わる頃にはたくさんの人達が読んでくれるようになる。
結菜は、自分の事を認めてもらえた気がして嬉しかった。それで他にも色々な話を考えて、定期的に投稿する。竜の話、猫の話、妖怪の話……
毎日が楽しくなった。
ある日、その小説サイトで知り合った同い年位の子が
「そんなにいろいろ書けるなら、同人誌のイベントに出てみたら?」
と言う。
イベントというものがよく分からなかったが、面白そうな気がしたのでその子に聞いたりネットで調べて、出てみようと思った。
見よう見まねでコピー本を作り、何とか申し込みをした。当日はお母さんに頼んで、会場へ付き添ってもらう。
そこは、プロ野球の試合ができそうなほど大きな場所で、今まで見た事がないほどたくさんの人達が、自分の作った本を頒布していた。
本はあまり売れなかったけれど、自分と同じようにお話を作る人々と出会い、話ができて嬉しかった。
今まで居場所がないような気がしていたけれど、ここにいてもいいんだ、という気がした。
それで何度かイベントに出るようになり、お客さんも少しずつ増えていく。相変わらずほとんど学校へ行ってなかったけれど、お母さんも前より嬉しそうだ。
気がつくと、周りにはたくさんの友達や仲間がいた。結菜は前よりいくらか勇気が持てるようになった。
けれど、自分以外の人たちはだいたい中学や高校へ行ったり仕事をしたりしている。
それで彼女も、学校へ行ってみようという気になった。
ある日、彼女は思いきってお母さんに切り出す。
「あのね…
私、もう一度学校へ行きたい」
それから親子3人で話し合い、フリースクールへ行く事にした。彼女はそこで勉強して、大学に行くための資格を取る事にする。
いずれ彼女は資格を取り、大学へ進学するかもしれない。けれど、それはまた別のお話。
了 (2717字)
毒食らわば皿まで←前の話 次の話→imprinting
『いつか君と遠く離れても』ショートショート集 1話から↓
