Epilogue,またはPrologue ショートショート

 男が草原の中に横たわっていた。その表情は安らかだ。胸が規則的に上下しているので、息はあるらしい。
 そよ、と風が吹く。子どもが彼をじっと見下ろしていた。

「カナちゃーん」
 遠くから子どもを呼ぶ声がする。

「ママー! 人が死んでるー」
と言いながら、その子はけていった。

「おい、」
 誰かがそばで彼を呼んでいる。
「起きろ」
 肩を揺さぶられた。ゆっくりと目を開ける。
 まぶしそうにぱちぱちと瞳をまたたかせた。上半身を起こし、ぼんやりと声のする方を向く。

「──ここは?」
「公園の中だ」

 男は彼に言う。
「おまえ、今までどこに居たんだ」
「?」
「ずっと姿を消していただろう」
「オレは……」

 何かを言いかけようとした。けれど、とまどった顔をして頭を振る。片手をひたいにやった。

「オレは誰だ?」

「おまえは川野かわのだろう」
 男が躊躇ためらいもなく、そう答える。

「──そうだ、そんな名前だった」
「どういう事だ。また何もかも忘れているのか?」
「アンタは誰だ。なんでオレの事を知っている」
 川野は混乱しながら質問する。
「以前一緒に仕事をしたのも覚えてないのか」
と男は言った。

 彼はあごに手を当て、思案する。
 だが、何も記憶がない。何故だろう。
 首をかしげている様子を、男はじっと見ている。

「とりあえず立ったらどうだ。春先で暖かいと言っても、こんな所で寝ていたら風邪を引くぞ」
 そう言って片手を差し出した。
 その手を取って立ち上がる。服や頭についていた草や葉などを払った。
 なぜだか花も数輪落ちていて、ふっと笑みがこぼれる。

「行く当てがないなら、ひとまず家に来るか。
茶でも飲んで行け」

 男はそう声をかけると、先に歩いて行った。

                了(750字)


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ショートショート集『いつか君と遠く離れても』 1話から↓


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