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『時空郵便局 第九便』独立自尊の宣戦布告ーー福沢諭吉からの手紙

……いい加減、目を覚まさぬか。この馬鹿者が。



薄暗い檻の中で、
正解を教えてくれと喚き散らして何になる。
貴殿が今、その足で一歩も前に進めぬのは、
時代が悪いからでも、
正解がないからでもない。

貴殿の魂が、あまりにも卑屈だからだ。


天は人の上に人を造らず。

わたくしがこの言葉に込めたのは、
甘ったれた平等などではない。

お前の人生の主権を、誰にも、一分(いちぶ)たりとも渡すなという、
峻烈なる独立の宣言だ。



それなのに、貴殿はどうだ。
会社の顔色を伺い、
評判という名の鎖に繋がり、
誰かが引いた白線の内側を、震えながら歩いておる。

帳簿を付けてみよ。
貴殿の自由を切り売りして得た対価が、
わずかばかりの米と、
他人と同じというだけの気休めか。

そんなものは人間ではない。
ただの、言葉を解する家畜
あるいは命なき木石(ぼくせき)も同然だ。


いいか、

一身独立して、一国独立する。

貴殿一人が精神の奴隷に成り下がれば、
この国もまた、形を変えただけの巨大な檻に沈む。


貴殿の不甲斐なさは、貴殿一人の問題ではない。
この国の文明を止める罪であると知れ。




……さて、震える貴殿に、最後にして最高の教えを授けよう。


学問とは、畳の上で経文を唱えることではない。
自らの無知という恥辱を噛み締め、
絶望という荒野を、
自らの数理知性という唯一の武器で切り拓く命懸けの闘争
すなわち、
この浮世で生き抜くための実学のことだ。



わたくしが蘭学を学び、
アメリカに渡り、
刺客に狙われても筆を置かなかったのは、
物知りになるためではない。

誰にも頭を下げず、
誰にも依存せず、
ただ一人の男として、
この大地に突き立つためだ。


お聞きなさい、私の愛すべき愚か者よ。

貴殿を救えるのは、
政府でも、神でもない。
貴殿自身の、内なる独立自尊の炎だけだ。



失敗して死ぬことを恐れるな。
自らの知性を一度も全開にせぬまま、
気品なき生ける屍として一生を終えることをこそ、死ぬほど恐れよ。

今日、この瞬間、
貴殿の内の奴隷と決別せよ。
そして、明日から一国の主として、
その荒野へ踏み出せ。


その時、貴殿が見る景色こそが、
真の自由、真の文明だ。




わたくしは、三田の丘の上で、
貴殿という不敵なる独立者が誕生する瞬間を、
今か今かと待ち構えている。


その時、初めて同列に立とう、


福澤諭吉

「書いたとおりに、やってみせよ。」





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