『嵐の船乗り、ブラックユーモア版』
「以前投稿した『嵐の中の船乗り』という作品を、多くの方に読んでいただき感謝しています。
実は、あの作品を書き終えた後、現代社会で戦う自分自身の姿が重なり、お酒の勢いもあって『もう一つの物語』が生まれてしまいました。
あまりにも報われない内容で、元の作品のイメージを壊してしまう恐れがあるため、ここから先は『それでもいいよ』と笑ってくださる方だけ、のぞいてみてください。
はじめに『嵐の中の船乗り』をお読みいただく事で『もう一つの物語』をより楽しむ事が出来ると思います。
もう一つの物語は下記に記載しております。
『嵐の中の船乗り』をお読みいただいた事のある方はもう一つの物語までスクロールしていただきお楽しみ下さい。
『Excel船乗り』
船乗り(SRM)は、Excelを知っていました。
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穏やかなKPI達成日も、上司の急なトラブル対応日も。
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でも、その日のトラブルは、違いました。
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社長メールが、突然入りました。
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「全社プロジェクト中止。方向転換します。」
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船乗り(課長)は、Excelを握りました。
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手に、マウスの感触。
足に、オフィスチェアのキャスター。
顔に、エアコンの冷風。
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「来るぞ」
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削除ボタンが、セルを持ち上げました。
高く、高く。
3年分の売上計画が、消えました。
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船乗りの胃が、浮きました。
でも、手は、Ctrl+Zを押しませんでした。
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「戻せん」
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船乗りは、自分に言いました。
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また上司メールが来ました。
「新方針です。全員残業。」
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船乗りの心は、叫んでいました。
「このまま、リストラかもしれない」
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でも、手は、マウスを握っていました。
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「方針は、止められない」
船乗りは、そう思いました。
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「でも、Excelは、更新できる」
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徹夜で、何度もセルを塗り替えました。
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目が、痛くなり
腰が、しびれ
心が、砕けそうになりました。
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でも、
離しませんでした。
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どれくらい経ったでしょうか。
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新しい社長メールが来ました。
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「また方針転換。全社プロジェクト中止。」
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船乗りは、まだマウスを握っていました。
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手は、もう動きませんでした。
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でも、握っていました。
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やがて、
次の朝、上司から電話。
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「お前も明日から別部署だ」
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船乗りは、ゆっくりと、マウスを離しました。
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マウスパッドに、汗の跡が残っていました。
深く。
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船乗りは、その跡を見ました。
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「方針は、止められなかった」
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「でも、Excelは、更新できた」
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船乗りは、それから、何度も方針転換に遭いました。
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転換が来たら、
Excelを更新する。
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マウスパッドの汗跡は、消えませんでした。
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でも、船乗りは、それを見るたびに、
思い出しました。
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「方針は、止められない。でも、Excelは、更新できる」
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オフィスは、今日も、そこにあります。
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KPI達成日も、リストラ危機日も。
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船乗りは、今日も、Excelを更新しています。
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静かに。
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(給与明細に、残業代ゼロと記されて)
(終)
『リモート船乗り』
船乗りは、リモートワークを知っていました。
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穏やかなZoom定例日も、上司の突然の通話日も。
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でも、その日のトラブルは、違いました。
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Slackの通知が、100件以上来ました。
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「社長方針変更」「全プロジェクト即中止」「新KPI即適用」「緊急全社MTG」
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船乗りは、キーボードを握りました。
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手に、プラスチックの感触。
足に、スリッパの感触。
顔に、パソコンの青白い光。
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「来るぞ」
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Teamsのチャットが、船(メンタル)を持ち上げました。
「全社で新ビジョン策定」「3年計画やり直し」「全員でアイデア出し」
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船乗りの腰が、浮きました。(座りっぱなし)
でも、手は、タイピングを止めませんでした。
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「返信せねば…」
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船乗りは、胃に言いました。
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また通知が来ました。
「上司リプ:もっと具体的に」「同僚リプ:私も同感」「部長リプ:質問」
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船(PC)が、フリーズしそうになりました。
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船乗りの心は、叫んでいました。
「このまま、全員ブロックしたい」
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でも、
手は、返信を打ち続けていました。
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「方針変更は止められない」
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「でも、既読はつけられる」
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通知が、何度も来ました。
「新規タスク付与」「緊急アンケート」「至急ご確認を」
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船乗りは、何度もスクロールしました。
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目が、痛くなり
首が、こり
肩が、死にました。
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でも、
ログアウトしませんでした。
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どれくらい経ったでしょうか。
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新しい通知。
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「本日のMTGは中止。新たな方針発表します」
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船乗りは、まだキーボードを握っていました。
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指は、もう痙攣していました。
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でも、握っていました。
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やがて、
バッテリーが切れました。
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画面が、真っ暗になりました。
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船乗りは、ゆっくりと、キーボードを離しました。
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指に、絆創膏の跡が残っていました。
深く。
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船乗りは、その跡を見ました。
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「通知は、止められなかった」
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「でも、既読は、つけられた」
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船乗りは、それから、何度も通知の嵐に遭いました。
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嵐が来たら、
既読をつける。
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指の絆創膏の跡は、消えませんでした。
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でも、船乗りは、それを見るたびに、
思い出しました。
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「通知は、止められない。でも、既読は、つけられる」
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リモートオフィスは、今日も、そこにあります。
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穏やかな残業ゼロの日も、徹夜デッドラインの日も。
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船乗りは、今日も、通知を既読にしています。
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静かに。
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(画面の向こうで、全てリセットされて)
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(終)
