過去の恋愛が教えてくれた、もう一度自分を好きになるまでの物語丨#01 名前を呼ばれた日
恋は、突然始まるものじゃない。
あとから振り返ったとき、「あの日だったんだ」と気づくものなのかもしれない。
5月の風が心地よく吹いていた。
暑すぎるわけでもなく、肌寒いわけでもない。
大学の近くにある洗車場で、私は赤い車を洗っていた。
勢いよく飛び出す水しぶきが太陽の光を受けて、きらきらと光る。
「あと少しで終わるかな。」
そんなことを考えながら車を拭いていると、不意に後ろから声がした。
「メルル」
驚いて振り返る。
そこに立っていたのは、知り合いの友達。
話したことはほとんどない。
でも、お互い名前くらいは知っている。
そんな距離感の人だった。
「なんで私の名前を知ってるんだろう。」
少し驚いて、少しだけうれしかった。
その日は短い会話をしただけだった。
でも、その日をきっかけに、少しずつ話すようになった。
彼は、少し不器用な人だった。
いつもはラフな格好なのに、初めてのデートの日だけ少しだけおしゃれをしてきた。
頑張って服を選んだんだろうな。
そう思うと、なんだか可愛くて笑ってしまった。
照れ屋で、不器用。
そんなところに惹かれていった。
ある夜、蛍を探しに出かけた。
「今日は見られるかな。」
そう話しながら車を走らせたけれど、結局一匹も見つけられなかった。
「せっかくだし、海ほたるに行こうか。」
予定変更。
でも、その予定外がなんだか楽しかった。
海ほたるからの帰り道。
車の中には奥華子の曲が静かに流れていた。
窓の外には、吸い込まれそうなくらいの満天の星空。
少しだけ静かな時間が流れたあと、彼が口を開いた。
「一生忘れない。」
そして、
「付き合ってほしい。」
と言った。
うれしくて、胸がいっぱいになった。
「こんなに幸せでいいのかな。」
思わずそう言うと、彼は少し照れたように笑って、
「よかった。その余韻のまま、おやすみ。」
そう言った。
その日の夜は、なかなか眠れなかった。
何度も何度も、さっきまでの出来事を思い返していた。
未来のことなんて何も分からない。
結婚すると確信していたわけでもない。
でも、不思議と心のどこかで思っていた。
この人は、私の人生の中で、とても大切な人になる。
そんな予感がしていた。
次回へ続く。
あの恋を、10年忘れられなかった理由
恋の始まりが鮮やかだったからこそ、終わったあとも「あの日」を何度も思い返しました。
どうして一人の人を、こんなにも長く忘れられなかったのか。
有料note 『10年忘れられなかった私が気づいた、元彼を忘れられない本当の理由』では、忘れられない気持ちの奥にあったものと、自分を少しずつ取り戻した過程を書いています。
