第53話 地域密着型サービスって、普通のサービスと何が違うん?〜住み慣れた地域で暮らし続けるための仕組み〜
第52話で、特養、老健、介護医療院の違いを学んだ翌日。
あやさんは、職員室の窓から外を見ていた。
施設の向こうには、昔からある住宅地が広がっている。細い道、古い商店、畑、集会所、神社。朝にはシルバーカーを押して歩く人もいる。
「地域密着型サービス……」
あやさんは、テキストの見出しを読み上げた。
言葉としては、なんとなく分かる。
地域に密着しているサービス。
でも、試験で問われたら、どう説明すればいいのか少し不安だった。
みさきさんが湯飲みを持って近づいてきた。
「あやさん、今日のテーマそれですか?」
「うん。地域密着型サービスって、名前はやさしそうなんやけど、中身はいろいろあって混乱する」
「分かります。小規模多機能とか、看護小規模多機能とか、認知症対応型とか、地域密着型通所介護とか……名前が長いです」
そこへ、りさ副主任が資料を持って入ってきた。
「名前が長いからこそ、意味で整理しなさい」
「りさ副主任、今日も早いですね」
「早くない。あなたたちが遅いだけ」
その言い方に、みさきさんは苦笑した。
かおり主任がホワイトボードに大きく書いた。
地域密着型サービス
=住み慣れた地域で暮らし続けるためのサービス
「今日はここからやね」
あやさんは、その一文をノートに写した。
かおり主任は続けた。
「地域密着型サービスは、できるだけ住み慣れた地域で生活を続けられるように、市区町村が指定や監督を行うサービスやね。基本的には、その市区町村に住んでいる人が、その地域の事業所を利用する」
みさきさんが首をかしげた。
「普通のデイサービスとか訪問介護とは、そこが違うんですか?」
まゆさんがパソコンを開きながら答えた。
「大きな違いの一つは、地域との結びつきです。地域密着型サービスは、全国どこでも自由に使うというより、その地域の高齢者をその地域で支える仕組みです。市区町村が地域の実情を見ながら整備するイメージですね」
りさ副主任がペンを持った。
「試験では、『市町村が指定権者』という点も大事よ。都道府県ではなく、市町村が指定する。ここは混同しないこと」
「市町村が指定……」
あやさんは赤ペンで線を引いた。
そのとき、相談室から内線が鳴った。
かおり主任が受話器を取り、短く返事をしてから言った。
「ちょうどいいケースが来たわ。佐伯春江さん、八十四歳。軽い認知症があって、一人暮らし。息子さんは同じ市内だけど仕事が忙しい。最近、朝市に行った帰り道で迷いかけたらしい」
あやさんの表情が引き締まった。
「一人暮らしで認知症……在宅生活を続けるには、支援の組み合わせが必要ですね」
「そう。今日は佐伯さんのケースで、地域密着型サービスを考えてみよう」
相談室に入ると、佐伯春江さんは息子さんと一緒に座っていた。
小柄で、背筋の伸びた女性だった。白髪をきれいにまとめ、薄い紫色のカーディガンを着ている。
「私はね、この町でずっと暮らしてきたんです」
佐伯さんは、あやさんを見るなりそう言った。
「朝市も、神社の掃除も、近所の奥さんとのお茶も、全部ここなんです。よその町の施設に行くくらいなら、家におりたい」
息子さんは困ったように言った。
「母の気持ちは分かるんです。でも、最近少し道を間違えることがあって。デイサービスも考えたんですが、知らない人ばかりのところへ行くのを嫌がってしまって」
佐伯さんは少しむっとした顔をした。
「知らんところに行ったら、私は何をしたらええか分からん。ここなら、だいたい分かるんです」
あやさんは、その言葉を静かに受け止めた。
「ここなら分かる」
その一言に、地域密着型サービスの意味が詰まっている気がした。
かおり主任が、佐伯さんにやさしく尋ねた。
「佐伯さん、家で暮らし続けたい気持ちは強いですか?」
「もちろんです。仏壇もあるし、庭の花もあるし、近所の人もいるし」
「では、家を中心にしながら、必要なときに通ったり、来てもらったり、泊まったりできるサービスを考えてみましょう」
息子さんが顔を上げた。
「そんな使い方ができるんですか?」
かおり主任はうなずいた。
「小規模多機能型居宅介護というサービスがあります。これは、ひとつの事業所に登録して、『通い』を中心に、必要に応じて『訪問』や『宿泊』を組み合わせるサービスです」
みさきさんがメモを取りながら、小さく言った。
「通い、訪問、宿泊……三つがセットみたいな感じですね」
りさ副主任がすぐに補足した。
「ただし、バラバラに契約するのではなく、登録した事業所が柔軟に支えるのが特徴。顔なじみの職員が関わりやすい。そこがポイント」
佐伯さんは、少し興味を持ったようだった。
「同じ人が来てくれるんですか?」
「はい。もちろん勤務の都合はありますが、同じ事業所の職員が関わるので、佐伯さんの暮らしを分かってもらいやすいです。今日は通い、明日は家に少し来てもらう、息子さんが出張のときは短く泊まる、というような使い方ができます」
息子さんは、少し安心した表情になった。
「母は知らない場所や知らない人が苦手なので、顔なじみができるのは助かります」
あやさんはノートに書いた。
小規模多機能型居宅介護
通いを中心に、訪問・宿泊を柔軟に組み合わせる
顔なじみの関係が作りやすい
相談のあと、あやさんたちは近くの小規模多機能型居宅介護事業所を見学することになった。
そこは大きな施設ではなかった。住宅地の中にあり、玄関先には季節の花が植えられている。中へ入ると、食卓のようなテーブルがあり、数人の利用者さんが職員と一緒に昼食の準備をしていた。
「ここ、施設というより家みたいですね」
みさきさんが言った。
事業所の管理者、村上さんが笑った。
「そう言っていただけると嬉しいです。ここでは、利用者さんが通って来られる日もあれば、職員がご自宅へ伺う日もあります。ご家族の都合や本人の状態によって、宿泊を使うこともあります」
あやさんは、台所のそばで野菜の皮むきをしている女性利用者を見た。
職員がすぐ隣で見守りながら、無理のない範囲で役割を作っている。
「できることを残す場所でもあるんですね」
村上さんはうなずいた。
「はい。地域で暮らす力を支えるには、介護だけではなく、その人らしい役割やなじみの関係も大事です」
その言葉を聞いて、あやさんは佐伯さんの庭の花や朝市の話を思い出した。
暮らしは、サービスだけでできているわけではない。
道、店、人、習慣、思い出。
その全部が、その人の生活を支えている。
次に、かおり主任は別の建物の前で足を止めた。
「ここは認知症対応型共同生活介護。いわゆる認知症グループホームやね」
みさきさんが言った。
「グループホームも地域密着型サービスなんですね」
「そう。認知症の人が少人数で共同生活を送りながら、食事、入浴、排泄などの日常生活の支援や機能訓練を受けるサービス。家庭的な環境と地域との交流が大切にされる」
中では、数人の利用者さんがリビングで洗濯物をたたんでいた。
台所からは味噌汁のにおいがする。
壁には地域の祭りの写真が飾られていた。
あやさんは、ここにも「生活」があると感じた。
認知症があっても、ただ守られるだけではない。
一緒に食卓を囲む。洗濯物をたたむ。近所の人と挨拶をする。
できる範囲で暮らしの一員であり続ける。
りさ副主任が言った。
「認知症グループホームは、認知症の人が対象。共同生活住居で、少人数で暮らす。ここも試験で問われやすい。要支援の場合は要支援2から、という点も注意」
みさきさんが慌ててメモした。
「要支援1はダメで、要支援2から……」
「そう。細かいけど大事」
施設へ戻る車の中で、みさきさんが言った。
「地域密着型サービスって、小さいサービスの集まりかと思ってました。でも、それだけじゃないんですね」
かおり主任がうなずいた。
「小規模な事業所が多いけど、本質はそこだけやない。住み慣れた地域で、なじみの関係を作りながら暮らし続けること。地域の実情に合わせて、市区町村が整備すること。そこが大事」
まゆさんが資料を見ながら言った。
「地域密着型通所介護も整理しておきたいですね。これは比較的小規模なデイサービスとして、自宅での自立した日常生活を続けられるよう、日常生活上の支援や機能訓練を行うサービスです。普通の通所介護と名前が似ているので、地域密着型という枠組みで押さえる必要があります」
りさ副主任が続けた。
「それから、看護小規模多機能型居宅介護。小規模多機能に訪問看護の機能が加わったもの。医療的な支援が必要な人にとって重要なサービスよ」
「また長い名前が……」
みさきさんがつぶやくと、あやさんは笑った。
「でも、考え方は少し分かってきたよ。地域で暮らすために、通い、訪問、宿泊、看護、認知症ケアを、その人に合わせて近い場所で組み合わせるんやね」
職員室に戻ると、かおり主任がホワイトボードにまとめた。
地域密着型サービスのポイント
一、住み慣れた地域で暮らし続ける
二、市区町村が指定・監督する
三、原則としてその市区町村の住民が利用する
四、小規模で柔軟な支援が多い
五、顔なじみの関係を作りやすい
あやさんは、その五つをノートに書き写した。
その夜、佐伯さんの息子さんから電話があった。
「母と話しました。小規模多機能なら、見学してみてもいいと言っています。『この町の中なら行ってみてもええ』って」
あやさんは、少し安心した。
「よかったです。まずは見学から始めましょう。佐伯さんが安心できる場所かどうか、一緒に確認していきましょう」
電話を切ったあと、あやさんはノートの最後に今日の一文を書いた。
地域密着型サービスは、ただ近所にあるサービスではない。
その人が、知っている道、知っている人、知っている暮らしの中で、できるだけ自分らしく暮らし続けるための仕組み。
「地域」という言葉は、地図の線だけではない。
佐伯さんにとっては、朝市であり、神社であり、庭の花であり、近所の奥さんとのお茶だった。
その暮らしを切り離さずに支えること。
それが地域密着型サービスの本当の意味なのだと、あやさんは感じていた。
【今日の学び】
・地域密着型サービスは、住み慣れた地域で生活を続けられるように支援する介護保険サービスの枠組み。
・地域密着型サービスは、市区町村が指定・監督する。都道府県ではなく市区町村が関わる点が重要。
・原則として、事業所や施設がある市区町村の住民が利用する。
・小規模多機能型居宅介護は、登録した事業所で「通い」を中心に、「訪問」「宿泊」を柔軟に組み合わせるサービス。
・看護小規模多機能型居宅介護は、小規模多機能型居宅介護に訪問看護の機能が加わったサービス。医療的支援が必要な人に向いている場合がある。
・認知症対応型共同生活介護は、認知症グループホームとも呼ばれ、認知症の人が少人数で共同生活を送りながら支援を受けるサービス。
・地域密着型通所介護は、比較的小規模な通所介護として、日常生活上の支援や機能訓練を行う。
・地域密着型サービスは、単に「小さいサービス」ではなく、地域とのつながり、顔なじみの関係、柔軟な支援が大切。
【学習進捗】
第53話では、「地域密着型サービス」の基本を学びました。
重要なのは、住み慣れた地域で暮らし続けるための仕組みであること、市区町村が指定・監督すること、原則としてその市区町村の住民が利用することです。
小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護、地域密着型通所介護など、名前が長いサービスが多いですが、目的で整理すると理解しやすくなります。
試験では、サービス名だけでなく、「通い・訪問・宿泊の組み合わせ」「認知症の人の共同生活」「市町村指定」「地域との結びつき」を押さえることが大切です。
【あやさんの一言】
地域密着型サービスは、ただ近くにあるサービスだと思っていました。
でも佐伯さんの話を聞いて、少し見方が変わりました。
その人にとっての地域は、住所だけではなく、朝市、神社、近所の人、庭の花、いつもの道なんですね。
介護サービスは、その暮らしから切り離すためではなく、できるだけ続けるためにある。
地域密着型サービスは、その人らしい暮らしを、地域の中で支える仕組みなんだと感じました。
【次回予告】
第54話 小規模多機能って、結局なにが便利なん?
〜通い・訪問・宿泊を組み合わせる柔軟な支援〜
佐伯さんが見学することになった小規模多機能型居宅介護。
けれど、息子さんはまだ不安そうです。
「デイサービス、ヘルパー、ショートステイを別々に使うのと何が違うんですか?」
次回は、小規模多機能型居宅介護をさらに深掘りし、通い・訪問・宿泊を一体的に使う意味を学びます。
