281話 神様はご多忙により 破 God Is Busy — Development 【波打際編】波打際スケッチ Sketches of the Shoreline ~AIと創る青春物語~
が……
時折、ちゃんとした祈願をされる方がいて……
神が困るのは、
こういう時なのである。
昨日も、町内会長の老人がふらりとやってきて、
「よ、また来たよ」と、
昔からの友達に声をかけるように社に向かって笑った。

小銭を入れ、手を合わせる。
その仕草は、祈りというより挨拶だろう。
だが、そのあとで老人は、少しだけ声を落として言った。

「どうか、笹林さんの仏壇に、誰か一人でも手を合わせてくれますように」

神様は、こういう祈願がいちばん困る。
その家の息子たちは、遠くの都市へ移り住み、
ずっと戻ってきていない。
仏壇は静かに時を重ねている。
老人は、その家の人の生を知っている。
笹林さんはいつも祭りの準備を手伝ってくれていた
雨の日に傘を貸してくれたこともある
町内会が終わった後、一緒に焼き鳥屋にも行った・・・
孫が生まれたときに嬉しそうに酒を持ってきてくれた。

「誰か一人だけでいいんだ」
老人はそう言った。
神様は、こういうまっとうな願いを聞くと、
うっかり心が動いてしまうのだ。

この小さな祈願は
波打際の向こう側を、ほんのわずかに揺らしたりする。

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