ひとつの命が生まれ、ひとつの命が消えた──出産の喜びと死別の悲しみが交差した日|ことり日記|第三話
出産に立ち会ってくれた夫。
「生まれてきたよ」
母になる喜びと、
愛する人を失う悲しみが交差した、あの瞬間。
命の誕生と、奇跡の時間
夫の闘病と、私の妊娠生活は、
まるで並走するように進んでいました。
私自身も妊娠中に熱や痛みが続き、
決して順調な経過ではありませんでした。
───
自分の通院と、夫の看病。
祈ることしか、できない日々。
───
それでも我が子は、
不思議とすべてをわかっているかのように──
早産になることなく、
夫が一時退院しているタイミングで、
生まれてきてくれました。
病室で、夫と一緒に迎えた出産の瞬間
泣き声が聞こえた時、
「生まれてきてくれてありがとう」
心から、そう思いました。
───
夫は、やせ細った手で、
赤ちゃんの小さな手を握っていました。
「会えたね」
「生まれてきたね」
その姿は、今も目に焼き付いています。

最期のとき
しかし、喜びは束の間でした。
私は退院と同時に、
再び夫の看病、入退院に付き添う日々に戻りました。
───
赤ちゃんを抱えての看病は、
想像を超えるものでした。
引っ越しも重なり、
慣れない土地で赤ん坊を連れての生活。
───
夫の病院に行く途中でのこと──
運転中、相手の不注意で接触事故に巻き込まれたり、
バス専用通行帯の通行で交番で止められたり。
泣いている赤ちゃんと一緒に、
私も泣きたくなったことが何度もありました。
───
それでも──
赤ちゃんの笑顔だけは、私の光でした。
疲れ果てた日々の中、
我が子の笑みだけが、私を支えてくれたのです。
───
やがて──
夫は、静かに息を引き取りました。
喜びと別れの、交差点
ひとつの命が生まれ、
ひとつの命が消えていく。
その両方を同じ年に経験した私は、
涙を流す時間もなく、
赤ん坊の泣き声に追い立てられるように毎日を過ごしました。 ───
この子だけは、絶対に私が守る」
その決意だけが、 私を前へと進ませていました。
振り返って
夫婦ともに病気を抱え、
支え合うしかなかったあの日々。
新婚生活で思い描いていた幸せとはほど遠く、
過酷な毎日でした。
でも──
「無事に今日を終えること」
それだけを目標に、必死に生き抜きました。
───
あの一年は、無我夢中の連続でした。
けれど今振り返ると、
我が子の存在と、夫の「ありがとう」の言葉が、
今も私を生かす力になっています。
───
私は、一人ではありませんでした。
この子がいたからこそ、
頑張れたのです。
→ 第四話「母子相談員との出会い──死別直後の私にかけられた言葉」へ続くhttps://editor.note.com/notes/n6471951a022c/edit/
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