1-3-① 砕けぬダイヤ①
*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません。
おもいっきりネタバレしています!!!
目次 前書き&注意点 前の話(1-2 典明お兄ちゃんの記憶)
──貴方の目は綺麗ね。空の碧だわ。
──なら、オメーの目は、海の蒼じゃあねえか。あの地中海の色だ。
──よくそんなすぐ返せるわね。そうやって女の子をくどき回ってるの?
──ちげーよ、本当にそう思ったんだ。深く美しい青だ……似合ってるぜ。
──ふふっ。ありがとう、ホル・ホース。お世辞でも嬉しいわ。
エジプトカイロから東京へ直行便で14時間。1泊しさらに北へ新幹線で2時間。
やっと目的地に到着し、鸚鵡を探し始めようという時に、ホル・ホースは1人空を見ていた。
いや、現実逃避をしていたという方が正しかった。
一緒に来たボインゴとはぐれてしまったのである。
寒い国の生まれのホル・ホースと異なり、赤道近くのアフリカ生まれのボインゴは、寒さが苦手だ。寒い寒いいうので、昨日東京でダウンとセーターを買ってやったのだ。目立つように派手なオレンジ色のダウンを。
小柄とはいえ、モジャモジャのそびえ立つ黒髪に季節外れのサンバイザーをつけ、褐色の肌にでかい漫画本を抱えた派手なダウンの外国人と、どうしてはぐれてしまうのか、ホル・ホースは首を捻った。
右を見ても左を見ても、黒い髪に茶色い目、黄色っぽい肌、低い背に華奢な体型の日本人ばかりの中、自分のような金髪碧眼190超えの筋肉質長身の外国人は目立つはずだ。
現に自分の左右を通り過ぎる日本人に目をやると、こっちを見ていたのにさっと視線を逸らせて一定距離空けて通りすぎていく。
ボインゴを見なかったか聞こうと話しかけようとするが、皆話を始める前に、さっと逃げていってしまう。
「ちっ、ワタシ、エイゴわかりませーん、ってか。全くシマグニってやつはよお」
日常会話ぐらいならホル・ホースの日本語は問題ないレベルのはずだ。流石に漢字は読めないし難しい言葉はわからないが、道や人を尋ねるぐらいなら支障はない。世界中に彼女がいるこの男は、恋愛がてら外国語をマスターし、10ヶ国語以上話すことができる。日本語は、カリンちゃんのおかげである。
ボインゴの方はというと、実は、あらゆる言語の聞き取り発語、読み書きすることができるという特殊能力を持っていた。兄貴によると奴のスタンド能力のおかげなんだそうだ。
漫画本のスタンド・トト神の表示の文字も、同じページを見てもその人の理解できる言語に写って見えているらしく、印刷というよりも映写や幻覚に近い能力なのかもしれない。
こんなすごいスタンド能力を持っているにも関わらず、本体のボインゴは壊滅的に会話ができない。言語の問題ではなく、性格や社交性やコミュニケーションの問題で、だ。人前に出ると汗をかいて視線をそらして黙ってしまう。やっと少し話し始めても吃りまくりで何をいっているのか伝わらない。
10年前は内気すぎて兄貴としかまともに話せず、兄がいなくて1人で外に出すと、木箱の下に潜ってしまうという、内気のレベルを超えた引きこもりだった。SPW財団に学校に行かせてもらえるようになったが、3日で不登校になり引きこもってしまってそのあとは行かなかったらしい。
10年経ってやっとテーブルに座ってコーヒーが飲めるようにはなったが、何かあると机の下に潜って逃げるのは変わらなかった。
ボインゴが、ホル・ホースを探して日本人に聞いて回って合流してくる……というのは考えにくかった。
(……ったく、どこへ潜り込みやがった)
元々ボインゴのトト神の予言でやってきた。
だが、そこから先の予言はまだ出ていない。
なんとかボインゴを見つけて合流しないと先に進まない。
しかし、声をかける日本人は、日本語でフレンドリーに話しかけているにも関わらず、老若男女逃げられてしまう。
自分の見慣れないカウボーイ姿が相手を警戒させている、という考えにホル・ホースは思い至らなかった。
──杜王町。
日本のトーホク地方の中核都市・S市のベッドタウン。
人口は58713人。
牛タンのみそづけが名物、らしい。
エジプトのカイロの鸚鵡との接点は全く見当たらなかった。
トト神の予言は100%当たる──ただし、将来の”一点”の事実だった。
だから、杜王町にホル・ホースが来るのは確定でも、鸚鵡が見つかるかどうかまでは保証されない。
ある意味使い勝手の悪いスタンドだった。
(日本人といえば……)
ふと思い起こして、打ち消した。
依頼人のカミラからは、SPW財団には絶対に気づかれないように、と念を推されている。
*
空気はまだ冷たいがホル・ホースには問題のない気温で、いつもの半袖姿だ。
もう時期4月を迎えようとする3月の空は、天高く続きながらもどこか春の霞が漂い始めている。
杜王駅の東口は半円形に広場になっている。
舗装レンガが下に埋め込まれ、バス停にタクシー乗り場がロータリーにあり、車道を時折車が行き交っていた。小さな池もつくられて濁った水が張られていた。地下道への入り口もあり、地下から線路を潜って西口に渡れるようだった。
広場からは、放射状に道路が遠くへ真っ直ぐ整然と伸びており、この杜王町がそう遠くない昔に区画整理された街だと示していた。
道の間にはパン屋にカフェ、花屋に本屋が並んでいて、駅から出てきた人々が寄っていった。亀のマークのデパートやホル・ホースたちが泊まっているホテルが建っているが、背の高いビル状の建物はほとんどなく、見開き良く空が広がり、遠くに山頂に雪を残した山々が見える。
人通りは東京駅のようにごちゃごちゃ混雑しているわけではないが、かといって閑散としている
わけでもなく、バスから降りて駅に入っていく人、駅前の店で買い物をする人、駅から出てきて
歩き出す人、などがそれぞれ行き交っていた。
総じて、地方の住宅地の最寄駅ののどかな光景が広がっていた。
そんな東口広場に立ったまま空を見上げて現実逃避をしていたホル・ホースは、気を取り直して、再度周囲の人間の間から、話しかけて答えてくれそうな人物を探し始めた。
その時。
──「歩道が広いではないか……」
聞こえた瞬間、背中にゾワっと鳥肌がたった。
冷酷で圧倒的な迫力を持ちながら、妖艶な魅力を持ち、聞かずにはいられない、声。
10年ぶりなのに聴き間違えるはずがなかった。
(バカな……あいつは死んだはず……チリになって消えたはず……いるはずない……こんなところに……)
頭で打ち消そうとしても、震える体が、記憶が、蘇る恐怖が、ホル・ホースの耳に間違いないと告げていた。
──「関係ない。行け」
続いた声に確信した。
(DIO!!!)
声の方を振り返ると、車道から歩道に1台の車が速度を上げて侵入してくるところだった。
運転席の男は、「は……はいいいいィィィ~~~」と英語で声を上げてハンドルを握ったまま、ホル・ホースに向かって突っ込んできた。
広場にいた人間を、次々に弾き飛ばした。血が撒き散らされ、叫び声が上がる。
……それでも車は止まらなかった。
「何だとお?!」
ホル・ホースは、右手に自分の銃型のスタンド・エンペラーを出現させ、車を狙った。
だが、その手は震えていた。
(そうだ……オレは……オレは今もなおDIOが恐ろしいッ 心の底から)
暴走車は自分に一直線に向かってきた。人々を薙ぎ倒しながら。
左手で震える右手を押さえた。
「くそおおッ」
発砲!
スタンドの弾丸は、暴走車の右前輪に当たった。
すると、急なパンクに対応できない車が右前輪を基軸に浮き上がって空中を舞った。
ホル・ホースに上から車体が降ってくる。
逃げきれない。
ホル・ホースは次の衝撃を予想して、目をつぶった。
が、
「ドラアッ!!」
という声がして、予想していた衝撃はこなかった。
ホル・ホースが目を開けると、暴走車は横に吹き飛んでいた。
車の代わりに目の前には、奇妙なデザインの紺色の服の男が立っていた。
男は、がっしりしまった筋肉質の180cm近い長身で、日本では珍しい体格の部類に入るだろう。
膨らんだ紺の制服ズボンに、詰襟──胸元が大きくハート型に開き、黄色いインナーを覗かせている。めくれた襟にはピースマークとハートマークの飾りがついていた。
つり気味の眉に目、両耳に小さなピアス。どこかあどけなさの残る顔立ちからは、無鉄砲な若さの勢いを感じ、大人になる前の少年と思われた。
問題は彼の髪型だった。髪をまとめて頭の前の方に丸く突き出させていた。
この少し前の時代の不良学生のする髪型の一種でリーゼントと呼ばれる髪型だったが、ホル・ホースは知らなかったので、ハンバーグが頭の上に載っているようだと思った。
そして傍らには、守護霊のような悪霊のような人型の亡霊が、握りしめた右の拳を示して浮かんでいた。
本体と同じぐらいの大きさで、筋肉がそのまま剥き出しになったピンク色の、筋肉質な男の肉体に、水色の胸当てや肩当てのような防具が付いて、同じ色のマスクを被り、人間の目と口が見えていた。
マスクのてっぺんや肩当てはハート型になり、肩当てからは棘が2本生えている。さらに首から背中にかけてパイプのようなものが数本弧を描いて設置されていた。
(こいつ……スタンド使いか!!)
ホル・ホースはエンペラーを握り直し、帽子を左手で押さえ、少年の方を向いた。
少年も立ったままホル・ホースを見て話しかけてきた。
「あんたのそれ、銃だよな。さっき撃って、車のタイヤにタマが当たった。でも、誰も銃に弾にも気づいてなかったぜ。銃声がしたのに、車しか見てなかった。」
少年が一歩、ホル・ホースに近づく。
「もしかして、あんた……おれと同類ってことになんのかよ?」
やはりエンペラーが見えて聞こえている、スタンド使いに間違いない、とホル・ホースは確信した。
黙ったまま銃を向けるホル・ホースの前で少年は続けた。
「けどよお、同類っつっても、いきなり車を暴走させるやつと『ハイッ仲良くしましょッ』ってな訳にはいかねえからよお。
じっくり聞かせてもらうぜえ、あんたが何者なのかをよおお~~」
ゆっくり近づいてくる少年から距離をとりつつ、ホル・ホースは分析を続けた。
(車を一撃で吹っ飛ばすパワーにこれ見よがしに本体を晒すスタイル。
こいつは近距離パワー型のスタンドだ、間違いねえ。
この土地のスタンド使いか。敵か味方か……)
ホル・ホースが黙ったままなので、少年は少し焦れてきたようだった。
「何者なのかって聞いてんすよ カウボーイっつうの? そんなナリで銃ぶっ放して人を跳ね飛ばすなんてのは、どう考えてもまともじゃあねえからよ」
どうにも誤解があるらしい。
ホル・ホースはエンペラーを構えながら口を開いた。
「おいッ 今のお前の言い草には2つ納得がいかねえぜ。
まずひとつ、車が人をはねたのはオレのせいじゃあねえ。オレは轢かれそうになった側だ。
そしてふたつめ、お前は人を気にしててめえのスタイル決めるタマかよ。
そのイカした髪を見るにそうは見えねぇぜ!?」
「……あんた今……何つった!!」
少年の目の色が変わった。
ホル・ホースは舌打ちして、エンペラーを身構えた。
──の瞬間、上から人影が、降ってきた。
先ほどの暴走車の運転手が、傷だらけで車から放り出されたようだった。
少年のピンクのスタンドが、男の顔面を殴りつけ、腕で掴んでぶら下げる。
運転手の目を見ると、白目も黒目もなく、スクリーンに映った映画のフィルムのように白黒が上から下にぐるぐると回っていた。
「なんだあ、随分ぶっ飛んだオヤジだな」
ホル・ホースが見ると、吹っ飛ばされたはずの車は花屋の店先にあり、暴走した形跡も、吹っ飛ばされた痕跡も見られなかった。
ただし、マフラーはぐるぐると捻じ曲がり、バンパーの形が変わって、明らかに車の形が変わっていた。
突っ込んで行った先の店のガラスも割れていない。
少年のスタンドにぶら下げられた運転手の傷も、見る間に治っていって、地面に下ろされた。
地面に這いつくばった運転手は、通常の茶色い眼球に戻っていたが、「わ……私は……あの黄色い男は……」と混乱しているようで、「黄色い男?」と少年は首を捻りながら周りを見渡した。
ホル・ホースもつられて周りを見ると、暴走車にはねられた人たちが地面から起き上がるところだった。
「車に撥ねられたと思ったのに?」「どこも痛くない?」と、飛んだ血も傷も曲がった手足も元通りになって、怪我はないようだった。
しかし、一部の人間は、「な……なんだあ、こりゃあ?」と右手が大きくなったり鼻の形が変わったりしたようだった。
「轢かれた奴らがピンピンしてる……どういうこった?」
驚いたホル・ホースの横で少年が付け足すようにいった。
「なんかよお、みんな元通りってわけにはいかねえんだよなあ。
けど、傷は治してやったんだからよ~文句言われてもねえっつー感じすかねえ」
(こいつのスタンドの本来の能力は、壊れたものを修復する能力!!?)
徐々に正気を取り戻し始めた広場に人が集まってきた。
倒れた人を助け起こし、一部の人はあの車に撥ねられたと指差した。
運転手は「違う、私は、私じゃあない!あの……黄色い男が現れて、いけと言われて……」と悲痛な声で訴え始めた。
周囲の人々から警察を呼ぶ声がして、
人混みをぬって、ホル・ホースはその場から逃げ出した。
*
「あんな奴の相手はしてられんぜッ! オレはタイマンはるタイプじゃあねえんだぞ!!」
ホル・ホースは、グチをこぼしながら裏道に入って走った。
ホル・ホースのスタンド、皇帝<エンペラー>は、銃から弾丸を打ち出すもので、弾丸もスタンドのため軌道を自由に操ることができる。
一般人にスタンドは見えないため、暗殺にはもってこいだった。
この能力で、ホル・ホースは多くの人を殺して金を稼いで生きてきた。
しかし、10年前の戦いに負け、SPW財団に──正確には銀髪のフランス人と──約束してからは人を殺さず、モノを打つだけになっていた。
このエンペラー、一般人相手なら無敵だが、スタンド相手となると話が異なる。
スタンドと戦った場合、エンペラーはそれほど強い方ではなかった。
近距離パワータイプのスタンドが相手となると、弾をはじかれて距離を詰められ本体を叩かれたら終わりだ。
なので、ホル・ホースは他のスタンド使いと組んで戦う道を選択した。自分の能力に自信を持っているため協調性に欠けるものが多いスタンド使いの中で、ホル・ホースは人と交わるのが上手い方だった。他人や他のスタンドの長所と短所を見抜き、それを補う作戦を立てて実行してきた。
結果、彼の人生哲学は『1番よりNo.2』になった。
そのホル・ホースの分析力は、少年のモノを直すスタンドより、「もう一人の」スタンド使いの方がやばいと告げていた。
(暴走車の運転手。あいつは明らかになんらかのスタンド攻撃を受けていた。おそらく他人を操作する遠隔操作型のスタンド……
つまりおかしな頭の男とは別のスタンド使いがいるってことだ。
さっきの無差別攻撃からは怨念とか快楽みてえな感情を一切感じなかった。
無機質な殺意……経験上あの手の奴が一番タチが悪い!
それに……あの声……)
「とにかく今はまだ状況がうまく呑み込めねえ!
ここは一旦距離を置いて、様子をみさせてもらうぜ!」
と足を踏み込んだホル・ホースの横で、
「……そうすか?
おれはむしろスルッと呑み込めたんすけどねえ」
と声がして、先ほどの少年が現れた。
「なんでついてきてんだオノレはーーーッ!」
「いやあ、騒ぎが大きくなっちまったんで、身内が出てくる前にずらかろうかと」
少年を振り払おうと必死で走るホル・ホースだが、少年は横から動かない。
「なぜだああああああーーッ!」
胸元から櫛を取り出して髪型を整えながら、「ついていってんじゃあねえんすよ、あんたが動いてないんすよ」と少年は答えて地面を顎で示した。
「アスファルトを固まる前の状態まで”治した”」
ホル・ホースはドロドロのアスファルトの沼の中で足をジャバジャバと動かしていた。足がとられてまったく進んでいかない。
「げっ!!」
アスファルトに塗れたブーツを見ながら「な、なんてことしやがんだ!」と悪態をついた。
少年のスタンドのモノを”治す”範囲はだいぶ広いらしい。
少年はホル・ホースの前に立って彼を見上げた。
「あんたのさっきの言葉。
『お前は人を気にしててめえのスタイル決めるタマかよ』っての。
大したこと言ってねえけど、そんなナリしたあんたがいうことに意味があるっつーか、とにかくおれの中にストンと入って来たんすよ。」
ホル・ホースに顔をずいっと近づけると「あんた名前は?」と聞いた。
「ホ……ホル・ホース」
「グレート」
少年はニヤリと笑って右腕をホル・ホースの肩に回し、
「おれは東方仗助。
よろしく、ホル・ホースの兄貴」
と名乗った。
