1-3-② 砕けぬダイヤ②
*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません。
おもいっきりネタバレしています!!!
「そんなに固くならなくていいんだよ、ボインゴ君。ゆっくり思い出して教えてくれ」
ボインゴは、杜王駅西口のぶどうヶ丘派出所のデスクの下にうずくまって座り込んでいた。
目の前に白髪の男性が、ボインゴに合わせて体を地面につけるようにかがめている。
制帽を被り警察官の制服にがっしりした体型で、顔も顎が伸びて面長だが、口調や優しげで時折にこやかな笑顔も見せた。
怖がらせないように怖がらせないように気を使ってくれているのが、ボインゴにもわかった。
「わしは東方良平というんだ。」
と自己紹介をして、「どうして駅前にいたのかな」と尋ねた。
その警察官は、主観と客観が入り乱れて回りくどい上に辿々しく、どもりまくるボインゴの説明を、「うん、うん……」と時間をかけてゆっくり聞き、時折質問を挟んだ後、
「鸚鵡を探して、ホル・ホースという男と、杜王町にやってきたところで、君の漫画本を紛失して探しているうちに迷子になってしまった……そういうことだね、ボインゴ君」とまとめた。
「いつもながらよく分かりましたね、良平さんがいてよかったです」と同じ制服をきた別の警察官が安心したようにいった。
「いや、富沢、ボインゴ君の日本語は本当にペラペラで分かりやすかった。今まであった外人さんの誰より上手だった。協力ありがとうな、ボインゴ君」
良平さんと呼ばれた老警察官は、富沢という中年の警察官に答えつつ、最後はボインゴに声をかけた。
杜王駅近くにいたボインゴは、気づいたら目の前に制服の警察官が来ていて、派出所に連れて行かれてしまった。見知らぬ外国人が不審な行動をとっていると思われたようで、誰かに通報されてしまったらしかった。
警察官に聞かれても、ああとかううとか言わないボインゴに、日本語が通じないのかと思われたが、見回りから戻ってきた良平が根気強くボインゴに接して、事件性がないただの迷子だと証明された。
ボインゴはトト神を持っていなかった。
自分のスタンドであるトト神を一旦手放さなければならないという予言が出たのだ。
《いつもご愛読ありがとう、ボインゴ!
君こそこのマンガの一番の愛読者だよ!!》
《でもねボインゴ 運命は変えられないんだ
君はいったんこの本を手放さなきゃならない!
勇気を持ってポイしよう!》
《やった!
これで君の未来はバラ色だーーッ!》
読み終わった少し後には、漫画本は手元から消えていた。しっかり手元に抱えていたにも関わらず。
一般的なスタンドの法則からすれば、自分の意思に反してスタンドが行方不明になるなど考え難いことだが、ボインゴのスタンド・トト神は、一般的なスタンドではなかった。
「ぼ……ボクは決してポイなんてしていない……でも絶対に予言は変えられない……
あ……あの本はきっと、ボクのものだけどボクのものじゃあないんだ……
ボクはただ預言を預かっているだけなんだ……」
誰にいうともわからないボインゴの発言を真面目に聞いていた良平は、
「ふうむ、なら拾得物として報告があるか調べてみよう。
とりあえず君は予約しているホテルに行った方がいい。
その相棒も戻っているかもしれんからね」
と話した。
その時に派出所の電話がなり、富沢が電話に出た。
もう一人派出所にいたまだ若そうな警察官が良平に、
「良平さん、ぼくボインゴ君をホテルまで送って行きましょうか?」
と声をかけ、
「ああ、そうだな、頼むよ仮頼宿」と良平が応じ、「はっ」と仮頼宿は軽く敬礼した。
しばらく電話応対していた富沢が、電話を切った。
「どうした通報か?」と良平が確認すると、
「それが……駅前で平岡警部の運転する車が大勢撥ねて店舗に突っ込んだらしんですが……」
と言い淀んだ。
「平岡警部が?」
「とにかく今からこっちに警部がいらっしゃるそうです。怪我人が誰もいないとかどうとか……状況もよくわからなくて……」
困惑した様子で富沢はなおも続けた。
「あと……どうやら現場に仗助君らしい学生の目撃情報があるようです」
それを聞いた良平は、オイオイオイオイと言いながら制帽を被り直すと、派出所から出て自転車に乗って、行ってしまった。
富沢は良平の後ろ姿を見ながら呟いた。
「……良平さん仕事熱心なんだけどな。捜査も優秀で、地域住民にも優しくて、面倒見もいいし。なのに55歳で出世しないで交番勤務なんて……気の毒だよな」
その独り言を聞いた、仮頼宿が尋ねた。
「それぼくも不思議だったんですよね。あの連続殺人犯片桐安十郎も逮捕したんですよね。なんで昇進しなかったんですか? 本人に聞いても『わしは出世はいいよ』って笑ってましたけど」
ため息をつきながら富沢が答えた。
「やっぱり娘さんが学生時代にどこぞの外国人と不倫関係になって、私生児を作っちまったのが原因だろうな」
「ああ、仗助君、お父さんわからないらしいですもんね。」
警察庁の懲戒処分の対象範囲には、”不適切な異性交際”が含まれており、不倫も場合によっては処分の対象となる。
身内の場合は本人は対象とはならないが、我が子の監督不行届を問われたということだろう。
「いい人なんだけどね。良平さん……仗助君だってさ、あんな格好だけど礼儀正しくって根はいい子だしさ……いつか報われてほしいよ、あの人には」
そうですね、と仮頼宿は同意して、ボインゴの方を向き直ってにっこりと微笑むと、
「じゃあ、ホテルに行こうかボインゴ君」
と手を差し出した。
ボインゴは、仮頼宿の顔を見上げた。
細身の彼は、色白のつるりとした顔にやや釣り上がった細い切長の目をして、耳の隠れたおかっぱのような髪型をしていた。笑うと優しげで中性的な印象を与える男に似合う髪型ではあった。
(あの髪型は監督不行届を問われないんだろうか)とボインゴは不思議に思いつつも声には出さず、彼の手を取ってデスクの下からのそのそと出て行った。
*
花京院涼子は霊園そばのベンチに腰をかけて、先ほど拾った漫画本を取り出した。
10年前に亡くなった従兄弟・花京院典明の墓参りにきていた涼子は、墓地の上を飛んで行った白い鳥を追って道に出た。すると漫画本が落ちているのに気づいた。
漫画本の開いたページの
《DIO》
という言葉を見て、漫画を拾ってカバンにしまい、このベンチまでやってきた。
カバンから出した本は、一般的な漫画本よりだいぶ大きく分厚い。辞書や図鑑といった印象だ。
表紙には、
”OINGO BOINGO BROTHERS ADVENTURE”
と英語のタイトルが書かれ、その下に2人の人物が描かれている。右に帽子を被った背の高いおそらく男性の姿で、左側にはその半分ぐらいの身長のボリュームのある髪型の人物の姿だ。左上には顔のついた太陽のようなイラストも添えられており、いずれも輪郭から飛び出しそうな口にどこを見ているのかわからない目でシュールな描写をされていた。
「DIOって書かれていたからつい拾って持ってきてしまったけど、立派な装丁だし大切なものかもしれない。ちゃんと交番に届けるべきよね。」
と見ながら独り言を呟いた。
しかし、シュールなイラストの割に奇妙な迫力と存在感のある本で、手放せなかった。
膝の上に本を乗せて、パラパラとページをめくると、前半は漫画だったが後半は白紙になっていた。
落丁本かと最後の印刷の少し前を読んでみると、なぜか言葉は日本語で書かれていた。エジプトにいたボインゴというボリュームのある髪の小柄な男が、ホル・ホースという男と鸚鵡を探しに、ここ杜王町にやってきたという話になっていた。
自伝なのか?と不思議に思いながらページを捲ると、この本はボインゴに自分を”ポイ”するように勧めていて、ボインゴがその本を手放した様子が描かれていた。
次は場面が変わって、ボインゴとはぐれたホル・ホースが、DIOという男の声を聞いた後、暴走する車に襲われ、銃を発砲した。そこへ、不思議な髪型をした改造制服の高校生と思われる男の子・東方仗助が現れて、車を吹き飛ばして怪我や壊れた建物を治した。東方仗助はホル・ホースに協力し、ボインゴと鸚鵡を探す手伝いをするという。
そこで漫画は終わって白紙になっていた。
(銃? 杜王駅の前で? しかも怪我を治す? やっぱりフィクションとか比喩なのかしら?)
DIOという男についてもそれ以上詳しい記述はなく、やっぱり同じ名前の違う人物のことなのか、と諦めてページを閉じようとした。
「え……」
見る間に、白紙だった次のページに、スーッと新しいコマが印刷表示のように浮かび上がった。
《ポイされた本が拾われたぞ!
花京院涼子に拾われた!》
文字の下には、両目が異様に離れてほとんど白目を向かんばかりになった不気味な女の子の絵が描かれている。涼子と同じ髪型に同じさくらんぼのイヤリングを片耳に下げている。
「こ……これ……私……?何……この本……」
《ハーイ!花京院涼子! リョンリョンて呼ぶね!》
《リョンリョンはみんなに落ち着いているとか冷静とか言われているよね。
でも知ってるんだ。
中身は7歳の時から変わってない》
涼子に似た女の子の頭が割れて、さらに似たような子供が出てくるイラストが添えられている。
《あの時からズーーーーーっと、アコガレの典明お兄ちゃんのことで頭が一杯!》
花京院典明に似た男が涼子の頭からでくるイラストが現れた。
《典明お兄ちゃんが死んじゃった理由。どうしてエジプトに行ってしまったのか。この10年ズーーーーっとそればっかり考えてるの!》
花京院典明が血を流して死んでいるイラストが添えられている。
「こ……これは……この漫画は……」
次から次へ現れる漫画のコマに、シュールなイラスト、そして文章は、紛れもなく涼子のことを綴っていた。
「普通じゃあない!この本、この本……」
(本物だ!)
《リョンリョンは、典明お兄ちゃんの”真実”がどうしても知りたいんだよね》
(知りたい……
典明お兄ちゃんがどうしてエジプトに行ってしまったのか。なぜ死んでしまったのか。
ずっと考えていたの。誰にも言えなかったけど。
PSW財団は暴走車の事故に巻き込まれて亡くなったっていってたけど、やっぱり本当はそうじゃなかったんじゃあないかって。
あのDIOっていう男こそが、典明お兄ちゃんがエジプトにいったのに関係しているんじゃあないかって。)
震える手でページをめくると次のコマが現れ、
《典明お兄ちゃんの”真実”を知る。
そのための1つ目の”鍵”になるのが──》
文字の横に頭の上に黒いまんじゅうを5つ並べておいたような、男の子の横顔が載っていた。
