3-10-② 別れ②
*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません。
おもいっきりネタバレしています!!!
東方良平は、派出所の入り口に立って、
「んーーーーーーー」
あくびをしつつのびをして外を見た。
夜勤明けはやはり眠く、体はだるい。
一昨日にとらえた犯人3人がその夜留置所で死亡し、確保されていた仮頼宿一樹が逃走するという事件が発生した。そのため昨日は1日中署内は大混乱だった。
仮頼宿一樹の足取りは全くつかめていない。今日も捜索が続けられるだろう。
昨夜の夜勤ではどんな事件が起こるのか警戒していたが、幸い平穏な夜が過ぎ、良平は交番の2階の窓から満月を眺めていた。
昨夜は特別な満月で、満月になるとしばらくの間桜色に変化した。桜色の月の光を浴びて、杜王町も桜色に染まっていた。
スーパーピンクムーン──”超春満月”という、千年に一度の現象なのだという。
次は絶対に見ることはできない。
千年に一度の現象をみることができて幸運だった、と気分良く夜勤を過ごすことができた。
月見で一杯と行きたいところだったが勤務中のため、薄いお茶で我慢した。夜勤が明けたら家でブランデーが待っている。
通勤時間帯の杜王町は幸い平穏に見えた。
派出所の机に戻った良平は、日誌を記入し始めた。
そこへ、ホル・ホースとボインゴがやってきた。
ホル・ホースは背に、目を閉じた仗助をおんぶしている。
「いやー、良平さんすまねえなあー」
「……おはようです……すみませんです……」
驚いて駆け寄った良平は、手を貸して仗助を交番の椅子に座らせた。
ぐっすり寝てしまっているようだ。
「どうしたんだ。何かまたあったのか?」
良平が尋ねると、ホル・ホースとボインゴたちが昨日仗助にS市を案内してもらい、日本のカラオケボックスで盛り上がってしまい、そのまま寝てしまったのだという。
2人ともしきりに謝っていたし、外国人に風営法や条例がわかるわけもないと、良平も謝罪と礼を述べた。
「こちらこそ迷惑かけて、すまなかったね。わざわざ連れてきてくれてありがとう」
「すまねえが、そいつが起きたらよろしく言ってくれや」
「国に帰るのかい?」
良平が聞き返すと、カウボーイのような帽子をかぶり直して、ホル・ホースが答えた。
「ああ。おかげさんで鸚鵡も見つかったしな」
「そうかい。気をつけてな。」
ホル・ホースはボインゴの肩を叩くと、良平に片手をあげて出て行った。
残されたボインゴは、背中にしょったナップザックから大きな本を取り出してみせた。
「……あの……良平さん……これ……」
「うん、どうしたボインゴ君?」
「ボ……ボクの漫画本……」
「おお、それが探していた漫画本か! 見つかったんだね。よかったじゃあないか」
「うん……ありがとう……」
見せたボインゴの手から大きな漫画本がバサリと地面に落ちた。
大型の辞書のような装丁の漫画本は、表紙を下にして、パラパラパラとページがめくれ、真ん中の部分が開かれた。
「え、ええ?!」
ボインゴは驚いて目を見開き、自分の手と、落ちていった漫画本を交互に見つめた。
まるで、漫画本が意思を持って、ボインゴの手から逃げ出したような顔つきだった。
良平が、大丈夫かい、としゃがんで漫画本を拾い上げると、開いている白紙の真ん中部分のページに、漫画のコマが数コマ浮かび上がった。
《ボインゴはお世話になったおじいちゃんにお礼を言いましたーーッ!》
文字の下にイラストが描かれている。
ひん曲がった交番のような建物の前で、あちこち見回した姿勢の警官の制服をきた人物が立っている。やたら大きな顎をした男性だが、どことなく良平に似ているように見える。
そこへ BOINGOと名前の書かれた顔よりボリュームのある髪をまとめた人物が片手に本を持って飛んできた。これはボインゴに似ているようだ。
《今まで他の人にお礼を言うなんてできなかったから、成長したね、ボインゴ!
バラ色の未来へ、一歩前進だ!》
次のコマでは、ボインゴの人物が何個も縦に重ねられて、ボインゴがだんだん大きくなるようなイラストになった。成長を意味しているのだろう。
《また会う機会があったらもっとちゃんとお礼を言いたいけど……》
良平に似た警察官の姿の人物と、ボインゴに似たもじゃもじゃ頭の人物が、笑顔で向かい合っている。
が、次のコマでは、
《でも、そのおじいちゃんは死んじゃうんだ》
良平に似た人物が、倒れたイラストになった。
横に転がった瓶が落ちていて、中から液体が出ている。
《だからもうお礼は言えないんだ》
倒れた人物のアップは、白目をむいて口から血を流している。
《ガーンだね。
でも、挫けちゃダメだよ、ボインゴ!
人生とはそういうものだから!》
涙をこぼすボインゴのイラストが下に添えられていた。
「あ……なんで……トト神……どうして……予言……預言が……こんな……」
一緒に漫画本を見下ろしたボインゴは、真っ青になり汗を流してガタガタと震え始めた。
良平は漫画本を手に取ってまじまじと眺めた。
漫画に描かれたイラストの人物は、良平とボインゴを描いたように見えるし、さっきは白紙だったところに漫画のコマが浮かび上がったように見えた。
見れば見るほど不思議な漫画本だ。
ボインゴは、予言、といった。
するとこの漫画本は未来を表しているのだろうか。
良平は近々死ぬ──のだろうか。
ボインゴは震えたまま固まっている。
良平は手にした開きっぱなしの漫画本を閉じて、ボインゴの方に差し出した。
「はい、ボインゴ君。今度はなくさんようにしっかり持ってなさい。大事なものだろう。」
「あ……でも、良平……さん……あの……」
「この漫画本は不思議な本だね。まるで君や儂のことを描いているようだ。」
ボインゴは漫画本を受け取らず俯いた。目に涙を浮かべている。
しゃがんだままの良平は、じっとボインゴを見つめて続けた。
「なあ、ボインゴ君。この漫画本がどういう意味のものか儂にはわからんが……」
ビクッとしたボインゴが、恐る恐る良平に目を向けた。
「人間なんて、いつ死ねかなんてわからんもんじゃよ。
それに仮に、仮にその本に書かれた通りわしが死ぬとしても、
わしはその日まで、この交番でこの杜王町を見守るよ。
今まで通り、今日と変わらずな。」
そっと笑って、再び漫画本をボインゴに差し出すと、「うん……」とボインゴは受け取った。
「エジプトは遠いだろう。気をつけて帰りなさい。ああ、君の日本語はとても上手だったよ。」
ボインゴは良平をじっと見ると、
「……さよなら……良平さん……」
と漫画本を大事そうに抱えた。
漫画本の表紙には、ボインゴに似た人物のイラストに、
”BOINGO’S ADVENTURE”
の題名が入っていた。
「はい、さようなら」
トボトボと派出所から立ち去るボインゴを、良平は手を振って見送った。
時々振り返りながら、ゆっくりゆっくり歩いていったボインゴは、角を曲がって見えなくなった。
良平はボインゴを見送った後、派出所に入り口に立ったまま物思いに耽った。
不思議な本だった。
あの通りなら自分はじきに死ぬらしい。
胸元から手帳を取り出した。
挟んである写真は2枚。
朋子と仗助と3人で撮った写真と、妻の写真だった。
「母さん。そう遠くないうちにまた会えるようだぞ」
恐れはなかった。
すでに父の亡くなった年を超え、戦地に向かった兄が叶えられなかった家庭を持ち、娘を育て、孫まで抱いた。
警察官としての半生はやりがいのあるもので、多くの人々に会って多くの事件を追い、いくつかの事件を解決して感謝もされた。
後悔はない。
先ほどボインゴにいったことは本心だった。
きっと明日死ぬことになっても、自分はいつものように街を見守り、娘と孫息子と食卓を囲み、ウイスキーを嗜んで寝るのだろう。
ただ。
チラリと派出所内を振り返ると、仗助が椅子で眠りこけている。
心残りは一つ。
手帳を取り出すと、
”ジョセフ・ジョースターに連絡を取る”
と書き込んだ。
直後、東方良平は首をひねった。
(なんで、こんなメモを書いたんだったか、儂は?)
