天気でよみとく名画 フェルメールのち浮世絵、ときどきマンガ

著者
長谷部愛
出版社
中央公論新社
発行
2024年2月10日
感想
この本も「暗殺」同様、音訳ボランティアの音訳マガジンの「新刊と話題の本」のコーナーで紹介されていたことで知って手にした一冊。
著者は気象予報士で主にラジオでお天気キャスターとして活動されている一方で、東京造形大学特任教授の肩書も持たれている方である。一度、お声を聴いてみようと思う。(TBSというのが気に入らないが(笑))
この本は天気とアートという視点で絵画(漫画を含む)を解説するというものだが、実は私は絵画というものに興味は無かった。ゴッホやピカソと言われても「ひまわりという絵がン十億円で日本の損保会社が買った」とか「幾何学的なよく分からない絵を描いた人」という程度のレベルであった。
そんな私が絵画を鑑賞するようになったのは、十数年前、奥さんに(半ば無理やり)京都の美術館で行われていたボストン美術館展(だったと思う。)に連れていかれたのがきっかけ。それ以来、必ずとは言わないがたまに展覧会などがあると足を運ぶようになった。(今でも奥さんに誘われていくという所からは脱却できていないが。)
この程度のレベルの私なので絵画を鑑賞するときも、描かれている景色や人物に注目することはあっても空や雲、天候に気を配って見たことは無かった。しかしこの本を読んでもしかしたら私は今までもったいないことをしてきたのかも知れないと思った。
例えば最初に解説される、表紙にもなっているフェルメールの「デルフト眺望」という作品。デルフトというのはオランダの町らしい。画面を覆っている雲が積雲。このことからこの絵の季節は初夏から夏。オランダの初夏から夏は午後ににわか雨が降ることが多いということで降水確率は30%程度と。更に絵の中の時計が7時頃を指しているが、オランダの冬は日の出が7時頃と遅いが、この絵では明るく、日の光が強く建物の影がしっかりと映っていることからも描かれているのは初夏から夏の日の出後2時間から3時間の景色を描いているということがわかるという。
有名なムンクの「叫び」。私はこれを単なる夕暮れ時を描いていると思っていたが、火山噴火時を描写したものである可能性があるという説があるそうだ。実は火山噴火は空の見え方に大きく影響するらしく火山性粒子が大気中に増えると太陽光が拡散され朝焼けや夕焼けの見える範囲が広がり持続時間が長くなり、色目も鮮やかになるという。そう言われるとあの夕焼けにしては濃い赤色はそんな事情もあるかなと妙に納得が行く。確かに単に日が暮れるからと言ってあのような絶叫?をすることは無いかなと思った。
日本の絵画でも例えば北斎の赤富士。赤富士は別名で「冨嶽三十六景 凱風快晴」というのが正式名称というのも初めて知った。凱風というのは南風のことで、富士山の頂上に雪が少ないのは7~9月頃まで。江戸時代は今より寒かったのでも少し限られた時期かもしれない。この時期に富士山が赤く見えることがあるという。更に画面に描かれた雲が巻積雲(うろこ雲とかいわし雲と呼ばれる雲)なので晩夏から初秋の情景だと推測される。あの浮世絵からそこまで読み取れるとは驚きである。
漫画の解説も面白い。取り上げられているのはやはり「鬼滅の刃」が多いが、私の大好きな「鋼の錬金術師」も取り上げられていた。筆者に言わせるとこれは気象的なスパイスがふんだんに盛り込まれているという。
例えば主人公エドの手足の一部は金属製だが雨が続くと動きが鈍くなるとか、暑さ、寒さによって弱いとかの描写がある。更にホムンクルスとの戦いで皆既日食が重要な意味を持つなど、そのシーンを思い出しながら読むことができた。更に「凍傷を避けるためにピアスを外す」描写から筆者は作者の荒川弘さんはスキーをされるか、北海道出身かと推測。その結果は?
とまあ、ここで感想を述べた作品以外の多くの作品でも気象と関連付けて解説されており面白く読めた。一つの絵画から多くの情報を得ることができる(推測できる)ということが分かり、今後絵画を鑑賞する際は空や雲、天候にも着目してみようと思った。また気象用語の解説も付いており、聞き慣れない言葉の説明も書かれているので、理解しやすかった。
一点だけ難点を挙げるとすれば口絵の九点を除き、解説されている絵画の写真が全てモノクロであること。「〇〇の△色の部分が…」と言われてもどこやねん!となってしまう。とは言え、オールカラーで出版しようとすると恐らくこの価格(1000円+税)では発行できないだろう。やはりこの本を片手に実物を見に行きたいと思った。
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