やけて死んだ、さそりの火
フィンは目を丸くした。この世界にそういう存在がいるらしいことは知っていたが、実物と出会うことになるとは。
少し相対しただけでわかる。彼の人間の深さと、底知れぬ認識が。
彼はフィンが気づいていない多くのことに気づいていて、それが悠然とした穏やかさとして表に現れている。
魔法使い、という冗談ともつかない自己紹介に、よくわからない説得力を与えてしまう程度には、超然としたものを感じさせる人物だった。
「そ、それで、その、『原因』って……?」
「うん、それなんだけどね――」
彼は少し困ったように微笑んだ。
「僕は友達を探しているんだ。友達は十二人必要で、それより多くても少なくてもいけない。現在はすでに僕を含めて十一人の友達がいる。フィンくん、君には最後のひとりになってくれないかなと思っているんだ」
「え……」
「ことは非常に入り組んでいて、しかも深刻だ。『原因』とはとても重大な秘密なんだよ。だから、本当に信頼できる友達にしか教えてあげられないんだ。僕は構わないけど、他の友達の中には難色を示す人もいるだろうからね」
ローブの少年は、フィンに手を差し伸べた。
微笑みを止め、真剣な面持ちだ。
「フィンくん、どうだろう。僕と友達にならないか? そうしたら僕は、君のために『最善』以上のことをするつもりだ」
――小官はソーチャンどのと出会えてとってもうれしいでありますっ!
――良かった。では我らはすでに友達であるな。
ソーチャンどのと友達になったときのことを思い出す。
あの時とは、違う。
「……その、ごめんなさい」
「理由を聞いても?」
「えっと、ともだちって、なんというか、必要に迫られてなるものじゃないと思うであります。だから、その、ごめんなさい……」
「ふむ。なるほどなるほど。道理だね。確かにその通り」
「で、でも、別にあなたのことがキライだとか、そんなんじゃないでありますよっ!」
「あぁ、いいんだよ。わかってるから。僕もちょっと焦り過ぎたみたいだ。考えてみれば、僕たちはお互いのことを何も知らないね」
ローブの少年は、自らのフードを外した。
露わになったのは、銀髪の端正な少年の顔だった。
だが、整った造形よりも印象に残るのは、深く穏やかな瞳である。人間の美しいところも、醜いところも、なにもかも見透かし、そしてすべてを許す。そんな超越的な包容力を内部に孕んだ眼であった。
だが、その瞳の底には、どこか透明な哀しみがあった。
「きっと君とは、また会うことになると思う。初対面で急に変なことを言いだしてすまなかったね。お詫びついでに、ひとつ忠告をしておこう」
「忠告……?」
ローブの少年は、決然とこちらを見つめてきた。
「仮面の男と出会ったら、一目散に逃げるんだ。戦おうなんて考えちゃいけない」
「かめん……? ソーチャンどのが言っていた、〈鉄仮面〉のことでありますか?」
「あぁ、聞いていたのかい。ならば話は早い。〈鉄仮面〉は恐ろしく危険な存在だ。他の二人と比べても頭抜けている。あれ以上の強者は世界に数えるほどしかいないだろう」
「だ、大丈夫でありますよ! ソーチャンどのやレッカどのがいれば怖いものなんてないでありますっ!」
「ふうん、レッカどの、ねえ。つまり君たちは三人なわけか」
「え?」
「いや、なんでもないよ。こっちの話さ。まぁ、君の判断は尊重するけど、僕が君を心配する気持ちは誓って本当だ。〈鉄仮面〉には最大の警戒を払うといい」
「了解であります。肝に銘じておくであります」
ローブの少年は、フードをもとに戻した。
「それじゃあ、僕は行くよ。話ができて嬉しかった。君の前途に救いがあることを、心から祈っているよ」
緩やかに微笑み、踵を返して歩み去ってゆく。
「あ、あのっ!」
フィンが声を上げると、彼はかすかに振り向いた。
「お名前を、まだうかがっていないでありますっ!」
「ああ……」
少し困ったように笑む。
「本当は秘密なんだけど、そうだね、信頼の証として、君にだけは教えておこうかな。僕の名前は――」
振り向き、唇が音を刻んだ。
どこか不思議な響きのするその名前を、フィンはしっかりと聞き届けた。
「――だよ。覚えていてくれると、嬉しいな」
「了解であります!」
「あぁ、だけど、魔法使いの名前はみだりに口に出さない方がいい。名前には強い力が宿るんだ。どんな影響があるかわからないよ」
「そう、なのでありますか?」
「そうさ。というかもう、僕と会ったこと自体、誰にも言わない方がいい。君のためにも、相手のためにもね」
魔法について、まだまったくわからないので、フィンは素直に信じることにした。
ローブの少年が両腕を広げると、白い裾がはらりと持ち上がり、体の周囲に譜面のような魔法陣が現れた。蛍光色に発光しながらゆるやかに回転し、少年を宙に浮かび上がらせる。
フィンは目を丸くしてその奇跡に見入った。
「では、また会える日を楽しみにしているよ、フィンくん。忘れないでほしい。本当の意味で君の味方になってあげられるのは、僕たちだけなんだということを――」
謎めいた囁きを残し、魔法使いは上昇してゆく。
ほどなく、木々に紛れてその姿は見えなくなった。
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