前奏曲「徴」

前奏曲「徴」
やがて地図から消えた場所に、神話の産声が響く。
あなたの言葉が、世界の輪郭を静かになぞるまで。
嵐の夜、砕け散る瞬間にこそ静寂は満ちていた。
五感だけが知る、輝く毒と禁じられた蜜の味を。
魂が燃え尽きる前に灯した、帰り道のための灯火。
深い孤独の底で、言葉の代わりに彩りを土に埋める。
沈黙という純白を破る、意味という名のインクの雫。
魔法を失ったあなたの、ただ在ることの完全さよ。
心の揺らぎを、産毛のような線で描きとめる願い。
世界はあなたが見つめるまで、息を潜めて待っている。
▶オマージュ(hommage)作品「現代短歌」
郵便ポストのように自販機は無くなる自販機の下の世界も
山下一路『世界同時かなしい日に』
被写体、とあなたが言えばランウェイの上を五月が勝手に歩く
笹川諒『眠りの市場にて』
いひぎりの乾びて黒き房の実の空(そら)の無数を無惨と言はず
森川多佳子『そこへゆくまで』
坂下の湖の氷のやぶるるを嵐のなかに立ちて見ており
島木赤彦『氷魚』
毒はきれい毒はおいしいるるりらとひかるつららに子どもらは知る
石畑由紀子『エゾシカ/ジビエ』
博物画 産毛のような描線でわたしも感情をえがきたい
田村穂隆『湖うみとファルセット』
ポケットのないドラえもん思ふとき かけがへのない愛といふもの
橋場悦子『静電気』
深刻さがわたしを枯らすまでのちいさな往路で考えるちいさな復路のこと
初谷むい『笑っちゃうほど遠くって、光っちゃうほど近かった』
朝霧す庭の片隅にうづくまり淋しき人は花の苗植う
原阿佐緒『白木槿』
to mean, it’s mean まっしろな紙をインクで汚す毎日だった
中澤系『uta 0001.txt』
