プロジェクト・ヘイル・メアリー(映画)を原作既読勢はどう観た 質問?
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』については、原作を読んだ、そして映画予告編を観た段階で一度投稿しています。この時に、映画化については色々懸念を表明しました。
(以下、BLACKHOLEの特集への私の投稿をベースにしつつ、色々補足しています。)
私が原作に感じた主な魅力は2つ。1つめは、観測や実験を通して真相に到達するという、科学者が感じる興奮や発見の喜び。例えば、冒頭で記憶を失っているグレースが、テーブルから落下する物のスピードの違いに気付き、20回実験して平均値をとって、「ここは地球じゃない!」と気付くところなんかシビれました。
魅力のもう1つは、異星人と組んで問題解決するというバディ物。で、原作読んだ後に映画の予告編を見たら、「こんなにネタバレして大丈夫?」という疑念と同時に、これはどうも、バディ物の要素しか映画にはないんじゃないかという危惧を抱きました。(ここ、前の投稿を見てください)
そして、その危惧は現実となりました。前述の実験を含め、科学の醍醐味的なものは、カールと一緒にアストロファージを封じこめる暗室を作るくだり以外はあまりなかった印象です。この辺は大筋のプロットから外れた瑣末な部分だし、限られた時間で他に拾わないといけないエピソードが山ほどあるので、いたしかたなくはあります。細かいといえば、グレースが記憶を失っているので、自分の名前を答えられず先に勧めないスラップスティックなどもカットされていたのは残念。
なんで私がこの科学要素を出してほしかったかというと、データや科学的な手法に基づかない陰謀論や印象論がはびこっているじゃないですか。それに対するいいカウンターの作品になることを期待していたのですよ。
が、しかしそれでも、私はこの映画化には及第点をあげたい。本作は大長編のストーリーの主要部分はすべて押えた、それでただのダイジェスト物なんて言われていたりもします。が、私は、テンポが早すぎることもなく、主要要素を全部拾ってくれたのは、原作の長さを考慮すると上出来だと思います。ダイジェストであるがゆえに、説明を省略しなければならない部分もあったのですが、そこはむしろ、画だけで分かるようになっていたのは感心しました(例えば、ロッキーが最初にプレゼントした星の関係の模型とか、ロッキーに救われ、失神していたグレースが目覚めて、ロッキーの血痕らしきものを辿るところとか)。
また名前の件はなくても、他にちゃんと笑いどころもふんだんに入れてくれたのもよかったし、バディ物でも、相手の名前を絶叫するとか(リポDみたいな?)、変に友情アピールすることも愁嘆場になりすぎることもない、おさえめの演出。これで、予告編を見た時の不安は消しとびました。
という訳で、総合すると、原作の醍醐味は拾いきれていないが、映画化としてはベストを尽くした、という評価をしたいです。
活字の表現、映像表現の特性がそれぞれあるので、活字で面白いところをむりに映像にしても、活かせなかったり、その逆もある。だから、相互補完をすればいいんじゃないかという結論。もちろん、ロッキーのサプライズは一度きりなので、どっちか先に読んだ方だけのチャンスということにはなりますが。
あと、キャストではザンドラ・ヒュラーさんがよかった。原作のストラットは表面上は冷血の人というイメージですが、実は中身は人間的なところあるんじゃないかと、読んだ時は思っていたので、これはまさにはまり役という感じ。
と、ここまでがBLACKHOLEを観るまでの感想。その後、町山智浩さんがこの作品に対して宗教的な観点から、Dr.マクガイヤー(マクガイヤー龍太郎)が科学的な観点からそれぞれ解説を加えているのを観ました。
町山さんによれば、本作は聖書(新約)をベースにしており、グレースはキリストなのだ、と。詳細は動画を見ていただきたいですが、本作から科学的なことしか読みとれなかった私には目からうろこの解説でした。
マクガイヤーチャンネル(上記は無料部分のみ)の方では、原作も含めた様々なディテールについて科学の面から解説を加えております。こちらも、他の配信などではない、我々の知的欲求を満たしてくれる優れものでした。これこれこういうのが欲しかったんだよ。
5/28追記。この記事は初出が3/30でした。その後(4/2)、ライムスター宇多丸氏のラジオ『アフター6ジャンクション2』の中の『週刊映画時評ムービーウォッチメン』にて、本映画の評論が展開されましたが、原作既読勢(そのままの言葉を使っていた)として、私とほぼ同じ意見であることが確認できました。これは、「私が宇多丸さんをパクった訳じゃないよ、既読勢はこういう感想になるよね!」という言い訳でございます。
