笹生実久 meets BINL(from 韓国)SPECIAL JAZZ BAND SET ライブレポート
2026年6月7日(日)@三軒茶屋グレープフルーツムーン
韓国からJAZZバンド「BINL(ビヌル)」が来日。笹生実久スペシャルバンドとして、この日限りの特別なクロスオーバーライブが実現した。時に大胆に、時に繊細にアレンジされた笹生実久の楽曲とシティポップカバー。笹生実久とBINLの真骨頂が存分に発揮されたライブの様子をレポートする。
今回来日した「BINL」は、今この瞬間しか出せない音を出す即興性を魅力とするバンド。「音がその場で完成するまでのプロセスを楽しんでもらいたい」事前にそんなメッセージを届けつつ、彼らはこの日のステージに立った。ギター、ベース、ドラム、そしてトランペットの4人からなるバンド構成は至ってシンプル。そんな彼らが果たしてどんな音を紡ぎ出してくれるのだろうか。高まる期待とともにライブが始まった。

スタンダードジャズとは違う「今」を音にするバンドサウンド。
まずはBINLがステージに立ち、6月19日にリリースされたアルバムの中からオリジナル楽曲を4曲ほど披露。彼らの出す音は、一体どんなものなのか。まったく知らずに興味津々の観客を前にライブセッションが始まる。そっと流れるトランペットの音色にドラムが重なり、BPMの整いに合わせてベースとギターが溶け合うように寄り添って音が積み重なる。
時にエフェクターで歪ませつつ、リズムで遊ぶように紡がれていく音。会場は至極のインストサウンドで満たされていく。「BINL」とは韓国語で魚の鱗(うろこ)を意味する。一つひとつの音は魚の鱗のように小さくても、それがまとまると特有の個性を持った色と動きになる。彼らのサウンドは、まさにそんなイメージを具現化しているかのようだった。
JAZZコラボならではの厚みのある音の世界。

そしていよいよ笹生実久がステージに立った。1曲目は『水の中』。ギターを抱えた笹生の紡ぐイントロに、1音ずつベースの音が乗っていく。いつものアコースティックギターの弾き語りとは違う厚みが生まれ、かつリズミカルに曲が彩られる。
間奏でトランペットの音色が響くと、まるで夜明けに太陽が差し込み新しい1日が始まるかのような感覚に陥った。心地よく音が重なり合った瞬間、笹生も演奏しながらそっと笑みを浮かべていた。

「今日はもう本当にすごく楽しみにしていました。1月後半くらいからずっと、この日のために準備していたので。やっと今日が来たんだなという感じでとってもうれしいです」最初のMCで笹生は素直な思いを口にした。
セッションという名の魔法で生まれ変わる楽曲。
2曲目はBINLのトランペットとドラムによるイントロからスタート。これから始まるのが何の曲だかわからず、戸惑いつつも始まったのは『나의연인』(ぼくの恋人 Korean ver.)。幻想的なエコーの掛かった音に包まれると、まるでソウルのライブステージにワープしたかのような錯覚に惑わされた。
ここで笹生は抱えていたギターを降ろし、スタンドマイクに手を添える。彼女の初期の楽曲『ハロー』が、JAZZセッションならではのスタイリッシュかつ勢いのあるイントロで始まった。歌い出しの直前で変調を入れることで、曲の緊迫感が洗練された見事なアレンジに生まれ変わっている。リハーサルの音源が気に入って笹生が何度も聴いていたというのも納得だ。

アウトロでもたっぷりとBINLならではのアレンジを効かせ、笹生がスタイリッシュなポーズを決めて曲を締め括った。「いつもに増して、とってもかっこよくなっております」得意顔を見せる笹生。
JAZZアレンジによる魅惑のシティポップ。
続いてはシティポップカバーとなる『Candy』。カッティングギター、ベースとBINLの音が折り重なっていく。少し速めのテンポかつ滑らかなリズムが、曲の新たな世界観を構築する。笹生が「ありがとう」と囁くと、同じくカバー曲の『フライディ・チャイナタウン』へ。リズミカルでありつつ跳ね過ぎず、自然に身体を揺らしたくなるような見事なアレンジ。ラストは印象的なギターのアウトロで締めくくられた。

笹生実久が初めて韓国でライブを実現したのが2年前。その時のステージで一緒に出演した女性シンガーのサポートギターをしていたのが、BINLのギタリスト、ジェワンだった。これが縁となりこの日のセッションが実現したという。「私もあの時、まさかこんな日が来るとは思ってなかった。音楽や曲作りで悩むことはたくさんあるけど、こういう日があると苦労も消え去るし、それだけで楽しくて。音楽のマジックがあるんだなって思います」BINLの面々も満たされた表情で笹生の話に耳を傾けていた。
意外性のあるドラマチックなサウンドメイク。
ここでもう1曲、韓国語で披露されたのが『Don't worry, Be happy』。笹生のギターソロから始まり、BINLの音が重なることで曲の世界にどんどんと奥行きが生まれていく。いつもは彼女がささやくようにカウントする「ワン・ツー・スリー」をシンバルで置き換えるという粋な計らいからのドラムサウンドがこの曲のエンディングをドラマチックにまとめ上げていた。

続く『君がぼくを知ってる』では、笹生の弾くギターとベースが絡み合う中に、静かに少しずつスネアの音が混ざり合う。そんな曲の世界観に寄り添うように囁くトランペット。この曲も意外性のあるドラムのビートで華やかに彩られ、世界観を壊すことなく大胆に音を積み上げていっているのが印象的だった。
ラストに披露されたのはPOP感満載の『new sky』。オリジナル音源でも印象的なベースの音が新たなアレンジで際立ち、トランペットの音色がやさしく追いかけていく。文字通り新しい空が開けた瞬間となった。
フレーズと融合する曲の世界観。
アンコールの楽曲は『She was girl』。通常は音源とともに演奏する曲だが、生演奏だけのレアなVer.を楽しむことができた。曲中の「波に揺られながら」のフレーズと、BINLの生み出すグルーヴ感が見事にマッチ。まさに波に揺られているような心地よさだった。

BINLは6/19にリリースされた新譜とともに、首都圏を中心にこの日を含め4箇所でライブを実施。この日のライブを観た笹生実久ファンも足を運ぶなど、念願の日本ツアーを成功させて帰国した。一方、笹生実久はこのライブを始まりとして『笹生実久 meets ⚫︎⚫︎』と称したプロジェクトを展開していくという。また、次は韓国でもこのセッションを実現したいという話も持ち上がっており、笹生実久とBINLのこれからの活動からも目が離せない。
笹生実久 meets BINL(from 韓国)
“SPECIAL JAZZ BAND SET”
2026年6月7日(日)@三軒茶屋グレープフルーツムーン
1.水の中
2.나의연인(ぼくの恋人 Korean ver.)
3.ハロー
4.Candy(cover)
5.フライディ・チャイナタウン(cover)
6.Don't worry, Be happy(Korean ver.)
7.君がぼくを知ってる
8.new sky
en.She was girl


all photos : 増田賢一 written by Backy☆OSAKA
