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新規開業か、承継か。若手矯正歯科医が直面する開業の現実と、これからの選択肢。


著者プロフィール

吉住 淳|医療法人社団生美会 理事長 / 株式会社Brace 代表取締役歯科医師
日本矯正歯科学会認定医。2016年に父の医院を事業承継し、2018年にSMILE ACCESS矯正歯科渋谷を開業。テクノロジーを活用し、適切な矯正治療をより身近にすることをテーマに、診療と事業の両面から業界に向き合っている。

若手矯正医にとって「開業」はどこまで現実的なのか

私は2016年に父の医院を承継し、2018年にはSMILE ACCESS矯正歯科渋谷を開業しました。「承継」と「新規開業」の両方を経験した立場から見ると、いまの若手矯正医にとって、ゼロから医院を立ち上げるハードルは、以前にも増して高くなっていると感じます。

矯正歯科医として専門性を身につけるには、ご存知の通り長い時間がかかります。大学病院での研修、認定医取得に向けた臨床経験、勤務医としての研鑽…その過程を経て、ようやく「自分の医院を持ちたい」と考えたとき、次に立ちはだかるのが開業資金の問題です。

日本政策金融公庫の「2025年度新規開業実態調査」では、全業種における開業費用の平均値は975万円、中央値は600万円とされています。一方で、2,000万円以上をかけて開業した事業者も10.0%存在しており、業種によって必要資金には大きな差があります。

矯正歯科医院は、まさにその差が表れやすい業種のひとつです。
一般的な小規模事業とは異なり、診療ユニット、レントゲン・セファロ、口腔内スキャナー、滅菌設備、予約・会計・カルテシステム、内装、広告費…そして開業後しばらくの運転資金まで、初期段階から一定規模の投資が必要になります。

矯正歯科における開業費用の一例


実際、矯正歯科医院を新規で開業する場合、規模や立地にもよりますが、1億円以上の資金が必要になることも珍しくありません。私の周りにも、「いつかは開業したい」と考えながら、資金面への不安から一歩を踏み出せずにいる若い先生がいます。

この課題は、海外ではさらに明確なものとなっています。米国矯正歯科学会(AAO)は、矯正歯科レジデントが卒業時に抱える学生ローンの平均額56.7万ドル日本円で約9,029万5,884円(1ドル159.25円の場合)と公表。教育費や借入負担が、若手矯正医の開業や勤務先の選択にも影響していることがうかがえます。つまり、米国では多くの矯正歯科医が、社会に出る時点で1億円近い借金を背負ってキャリアをスタートしているのです。

Today, orthodontic residents graduate with an average of $567,000 in student loan debt, among the highest levels in healthcare.
(現在、矯正歯科レジデントが卒業時に抱える学生ローンの平均額は56万7,000ドルにのぼり、医療分野の中でも特に高い負債水準となっています。)

American Association of Orthodontists “AAO Leading on Student Loan Debt Challenges and Opportunities”

https://www2.aaoinfo.org/aao-leading-on-student-loan-debt-challenges-and-opportunities/


もちろん、日本とアメリカでは教育制度も融資環境も異なります。それでも、専門性を身につけるまでに長い時間を要し、その先に高額な開業投資が待っているという構造は、日本の若手矯正医にとっても決して他人事ではありません。

「ゼロから開業する」という前提を見直す

開業というと、物件を探し、内装を整え、スタッフを採用し、患者さんを一から集めていく姿を思い浮かべる先生も多いかもしれません。もちろん、それもひとつの選択肢です。

ただ、開業には資金だけでなく、人材採用や教育、日々の診療体制づくりなど、多くの負担が伴います。とくに若手矯正医にとって、専門性を磨きながら経営者としての基盤をゼロから築いていくことは、決して簡単ではありません。

だからこそ私は、既存の医院を引き継ぐことも、これからの時代における現実的な開業のかたちだと考えています。
承継には、すでに通っている患者さんがいます。地域で積み重ねてきた信頼があり、スタッフや診療の流れ、紹介元との関係もあります。それらを受け継いだうえで、自分の診療方針や時代に合った仕組みを少しずつ加え、医院を次のかたちへ育てていく。

これまでの医院の価値を守りながら、新しい診療のあり方をつくっていくことは、患者さんへの責任と経営の現実を両立させる、若手矯正医にとって現実的で前向きな選択肢のひとつになり得るはずです。


「引き継ぎたい若手がいない」は本当か

一方で、50代〜60代の院長先生方とお話ししていると、後継者について不安を抱えている先生も多く、「継いでくれる人がいない」「閉院するしかないのかもしれない」そのように感じている先生もいらっしゃいます。

しかし実際、開業を真剣に考えている若手矯正医の中には、資金面や地域性といった現実的な条件も踏まえ、ゼロから新規開業するだけでなく、既存の医院を引き継ぐことに関心を持つ先生もいます。
問題は、若手矯正医に承継ニーズがないことではなく、引き継ぎたい若手と、次を託したい院長先生が出会う機会を持てていないこと。
私たちが関わるネットワークにも、開業やキャリアの次のステップを考える若手矯正医がいます。
良い医院があれば引き継ぎたい」「ゼロから開業するのではなく、患者さんやスタッフのいる環境で挑戦したい」そうした声は、決して少なくありません。


医院を未来につなぐという選択

承継は、引退を考える院長先生だけの話ではありません。これから開業を考える若手矯正医にとっても、現実的で前向きなキャリアの選択肢です。

若手にとっては過度な初期投資を抑えながら、すでに地域に根づいた医院で診療を始められる可能性があり、一方で院長先生にとっては、長年通ってくださった患者さん、支えてくれたスタッフ、地域の中で築いてきた信頼を、次の世代につなぐことができます。

もちろん、矯正歯科における承継は簡単な話ではありません。診療方針、患者さんへの説明、スタッフとの関係、設備や経営状況の整理…向き合うべきことは多くあります。
だからこそ、早い段階から準備を始めることが何よりも大切です。単に買い手と売り手をつなぐのではなく、矯正歯科という専門性を理解したうえで、双方にとって無理のないかたちを築いていく必要があります。

医院は、建物や設備だけで成り立っているものではありません。患者さんとの関係、スタッフの経験、地域からの信頼、そして院長先生が積み重ねてきた診療の姿勢があります。
それを閉院というかたちで終わらせるのではなく、次の世代につないでいく。承継は、若手矯正医にとっての開業機会であり、院長先生にとっては医院の価値を未来に残すための選択肢でもあるのです。

そして私たちは、この承継を、単なる「M&A」として扱いたいとは考えていません。短期的な利益を目的とした仲介や、大型医療法人による一方的な拡大とは異なり、同じ矯正歯科医という当事者だからこそ分かる「診療の想い」や「地域との関係性」を大切にしたいと考えています。
誰が、どのように引き継ぐのか。その医院らしさをどう未来へ残していくのか。 数字だけでは測れない価値に向き合いながら、次の世代へ橋渡しをしていくこと。それが、私たちが承継に関わる意味だと思っています。

なお、承継を考える背景には、後継者不足や閉院によって地域の矯正歯科医療が途切れてしまうリスクもあります。
この点については、以下の記事でも詳しく解説しています。

「自分の医院を引き継ぎたい先生はいるのか」「承継と新規開業では、何がどれくらい違うのか」「まず何から整理すればよいのか」
そんな段階からでも構いません。無料・秘密厳守で承りますので、まずはお気軽にご相談ください。

お問い合わせは下記より承っております。※お問い合わせの際は、項目欄にて『承継・事業譲渡について』をご選択ください。

【引用・参考文献】
日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査
・American Association of Orthodontists “AAO Leading on Student Loan Debt Challenges and Opportunities


※本記事に記載している開業費用・設備費用は、一般的な目安です。実際の費用は立地、物件条件、医院規模、導入設備、内装仕様等によって大きく異なります。
※本記事は、承継・事業譲渡を一つの選択肢として紹介するものであり、特定の契約や投資判断を推奨するものではありません。

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